Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
ノバラはそうは見えないが、意外に人見知りだ。
親しい者やそれに近しい者にはべたべたするのは大好きだが、そうでない者には何の愛着もない。興味もない。どう思われようがどうでもいい。だから、基本愛想がない。無論、相手によっては、猫を被って接するときもあるが。
しかし、ほとんど初めて会ったに等しいリコリス達を預けられても、ノバラには愛想良くする理由もないので、彼女たちには、優しい対応も甘い対応もしない。
・・・そこには喫茶リコリコではまったく見せない冷たい表情をしたノバラがいた。
ノバラは、山の中腹にあるかつて工場だったものを目の前にしている。ここを再稼働させ、違法薬物の製造が行われているとの情報があり、DAが出動することとなった。
ファーストの制服に身を包んだノバラは、現在、サードとセカンドの混成チーム十六名の指揮官をしていた。
AからDの四チーム。Aは正面からの陽動を、B・Cは側面からの強行突入し、そして残りのDチームで炙り出された敵を鏖殺するというのが今回の大まかな作戦指示だった。
作戦どおりにAチームが正面から攻撃を開始すると、それなりの装備で整えられた相手方が反撃を開始する。相手の練度は素人に毛が生えたようなもので、ノバラから見れば、お粗末極まりないが、Aチームも攻めきれずにいる。まぁ、彼女たちはそもそも陽動であるから、あまり前に出られすぎても困るが、この程度に苦戦される様子は頭が痛い。
次いで、B・Cチームが横撃を開始する。ノバラの手元にあるタブレットには、隊員や相手方の監視カメラの映像が表示されていた。初任務のサードも多く、手こずっている様子もあるが、何よりもノバラをイラつかせたのは、自分の撃った弾が当たった瞬間、露骨に動揺して涙目になったり、あろうことか吐いて隊列を乱した者がいたことだ。
「・・・五番、六番は下がらせて」
睡眠不足も重なっているノバラはイライラしている。だが、それでも怒気は抑えている方だった。
(これで訓練してきたっての?一人、二人撃ったところで、吐くとか涙ぐむとかあり得ないし。覚悟もなくこの場に立つんじゃないよ、まったく!)
『・・・
言外のノバラの考えを理解したのか、それともノバラの同意見だったのか、Bチームを率いているリーダーは即座に、後退の指示を出す。
『まだやれます!』
『そ、そうです!私たち、ちゃんとできます!』
本件作戦において、チーム全体での通話は許可されている。が、それは基本的に作戦指揮官であるノバラと各チームリーダー、あるいは不測の事態にあった各員に限り、許されていることで、命令に対する反論を許したものではない。言うまでもなく当然のことであり、作戦前にも厳命した。
どうにもそれを理解していないらしい。前の指揮官がお友達感覚なのか、彼女たちがおバカなのか、あるいはその両方か。
「・・・『下がれ』と言ったよ?」
ノバラを知っている者であれば、相当イラつかせているのを一瞬で理解させる声色だったが、彼女たちは、そんな付き合いもない。
『でも!』
今なお言い募ろうとする少女の声に、ノバラは頭の中でブチリと線が切れるような音を聞いた。
「・・・何度言わせないで。下がるの?・・・それとも今、私に殺されたいの?」
本当に殺しちゃおうかな、とも、どうせ使えないだろうし、ともノバラは頭の奥で考えていた。
少女達はそこでようやく、ノバラが激怒していることに気づき、息を飲む。
『ひっ!すみません!』
『し、失礼しました・・・後退します』
通信でそんなことを言うことすらノバラをイライラさせた。
(何なの、この状況?嫌がらせ?初出動のサードをたくさん引率して、悪い大人たちへの襲撃ってさー。大体、これでサード?訓練生でもまだましでしょうよ・・・レベルが下がったのかなー)
自分の訓練生時代を思い出す。正式に訓練生になる前ですら、目の前のこれらよりマシだったのでないかと思うほどであった。
「Cチームの十番と十一番が一番マシね。フロントに上げて。埒を明ける。Bチームは後退しつつ、前面に出るCチームのカバー。Aチームはそのまま正面で陽動。やれるよね?」
『Aチーム了解』
『Cチーム了解!』
『Bチーム了解しました・・・』
「さて・・・じゃあ、Dチーム諸君、狩りの時間だ」
「「「「Yes, ma'am」」」」
ノバラの直轄、Dチームの人員は、ノバラの殺気を察知しているのか、極めて従順だった。これで実力が伴っていれば、言うことはないが、まぁ、サードとしては、例年の並以下の実力なのは確実だろう。
(この程度の『温い殺気』で畏まっているようじゃねぇ・・・)
それも味方のものである。
手強い敵から、不退の覚悟で発せられる『本物の殺気』を受けて、冷静でいられるとは思えない。
殻の取れていない雛をノバラに預けるというのも、この甘さ加減を抜くための一種のショック療法か。
(スマートじゃないのは、嫌いなんだけど・・・憧れの世界じゃない、血みどろで、血なまぐさい現場を見せてやるのが今回の作戦の趣旨なのだろうし?
「・・・いい?出てきた敵は全て皆殺し。一切の容赦なく確実に殺し尽くす。私は前に出るけど、気にせず撃ちなさい」
ノバラはそう言い残すと、裏口というべき出入口に足を向ける。
慌てたようにそこから出てきた人影を確認すると、ノバラの後ろに陣取った三人は命令通りに射撃を開始する。
バタバタと何人かが倒れていく様子を確認するも、何人かはやはり難を逃れて逃走を始めようとする。
気配を消したノバラは、それにスルリと近寄ると、相手の腕を取り、軽く足をかける。
急にバランスを崩したと思った男は、傍らにノバラが立っていることに気づくとギョッとする。触れる瞬間にすら気づけなかったからだろう。
しかし、ノバラは相手が困惑していようと関係ない。前に転びそうになっている男の体勢を利用して、そのまま一本背負いの要領で投げ、脳天から地面に叩きつけると、ぐしゃりと血の華が咲いた。
次の相手を見定めると、一足飛びに突進する。迎撃の姿勢を見せた相手に、ノバラは薄く笑うと、すれ違い様に相手の右手首を小手捻りで極める。体勢を後ろに崩した相手の首元左手で押さえ、体重の乗った右足の踵付近に自分の足を置きながら、そのまま相手を後方に引き倒すように投げる。そこにタイミングを計ったように飛んできた銃弾がこめかみを射抜いた。
・・・相手はどれほどいたのだろうか。
『気にせず撃ちなさい』とそう言ったノバラの命令通りに銃を撃っていたリコリスたちは奇妙な感覚を受けていた。
狙って撃っていても、初の実戦でうまく当たらないと思っていたのに、外したと思った弾が相手に当たる。誤ってノバラに当たってしまったと思った弾が相手に吸い寄せられる。牽制で撃った弾すら、何かに導かれるように相手の体に届いた。
それがノバラの手によるものだ、ということは彼女たちにも理解できていた。
ノバラの周りでは死が吹き荒れている。
素手であるにも関わらず、相手を投げ、蹴り、叩きつけ、地面は血で染め上げられている。そのついでとばかりに、相手を射線に誘導し、あるいは崩し、投げ、自らの盾として、確実にその数を減らしていく。
間合いに入った時点で逃げる術はなく、無惨にその命はすり潰されていく。
ノバラ以外に動く者がなくなった頃、彼女たちは知らず震えていた。
『敵は全て皆殺し。一切の容赦なく確実に殺し尽くす』
それを完遂
ファーストの制服に身を包んだ少女の悍ましい気配に。