Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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ノバラちゃんがへろへろな原因2


71 Her next step

 ノバラはDA本部の廊下を司令室に向かって歩いていた。

 

 本当は帰ってさっさと風呂に入って眠りたいというのが本音だが、他の有象無象ならばともかく、呼び出したのは楠木だ。恩もあれば義理もある。無視する訳にはいかなかったし、文句の一つでも言ってやりたい気分でもあったので、初戦を終えて精神的にズタボロになったサードリコリスたちの乗るマイクロバスに同乗して、本部までやってきた。

 

 

『何故か』すすり泣いているものもいたし、明らかにノバラに怯えている者もいて、はっきり言ってお通夜状態だった(なお、泣いている者はノバラの気に障ったので、睨み付けると、周りの者が物理的に黙らせた。より一層雰囲気は悪くなった)。

 

 真夜中でも職員が常駐しているのは、いつものことではあったが、珍しくこんな時間に幾人かのリコリスとすれ違ったので、ノバラは意外に思っていた。

 

(・・・何かあったか、それとも今から何かある?)

 

 夜間の作戦はリコリスの本旨ではないが、当然、必要性があれば夜でも作戦は決行される。稀にだが、抜き打ちの夜間非常訓練などもあるので、その類かと考えつつ、先を急ぐ。

 

「・・・あれ?ノバラじゃん」

「・・・サクラ?」

 

 ノバラの後から声を掛けてきたのは、サクラだった。

 

「この間は、ご馳走さん・・・って、うわ!」

 

 ノバラはむぎゅぅ、とサクラに抱き着いた。

 すんすんすりすりむにむに、と一頻りサクラを堪能する。

 

(そういや、フキ先輩が、ノバラは抱き着き癖がすごいから、次に会うときは覚悟しておけって言ってたっけ?・・・まぁ、ノバラは小っこ可愛いから、小動物みたいなモンだから別にいいけどさぁ・・・遠慮なく触りすぎじゃね?)

 

 サクラは手持ち無沙汰になった手でノバラの頭を軽く撫でると、ノバラは機嫌を良くしたのか、さらに甘えるように抱き着いて、すぅぅ、と息を吸っている。それで満足したのかサクラのお腹の辺りから顔を上げると、ノバラはにこりと微笑んだ。

 

「・・・久し振り、サクラ」

 

 サクラは不覚にもドキッとして、少しだけ顔を赤らめた。

 そして、思い出されたのは、模擬戦慰労会の際に、すっかりノバラにある意味メロメロにされていたたきなの様子だった。

 

(・・・『ああ』はなるまい。油断するな、サクラ!)

 

「おぅ、久し振り・・・どうしたんだ、こんな時間に?」

「・・・こんな時間に、って言いたいのは私の方なんだけど?フキの歯ぎしり聞きながら寝てる時間じゃないの?」

「ハハッ、お前も先輩の被害者か。・・・何か知らんけど、夜中だってぇのに楠木司令から呼び出された」

 

 フキたち先輩がいないからか、サクラの喋り方は、言い方は悪いが、普段の三下口調ではなく、気さくな感じだった。

 

「・・・あなたも?」

「アンタもぉ?」

 

 互いに怪訝そうな顔をする。

 

(私とサクラを同時に呼んだとすると・・・理由は・・・)

 

 フキがこの間話していたことと無関係ではあるまい。

 フキは自分の次のファーストにサクラを推している。それはつまり、フキ自身は既にリコリスの引退を視野に入れているということだ。

 人のことを言えた義理ではないが、あの容姿なら、まだまだ中学生で通用するだろうに。

 

 ノバラはちらりとサクラを見るが、サクラはきょとんとしていて、自分が呼ばれた意味を理解していない様子だった。エリカやヒバナですら、あの模擬戦を、恒例のアレ、と思っていた様子であったから、フキは引退のことをチームの誰にも相談していないのだろうな、と察する。

 

「・・・まぁ、行けば分かるでしょ?」

「そうだな・・・ところで、アンタ、わざわざ、ここまで来たのか?」

「作戦の帰りよ」

「あぁ、そういや、さっき、わちゃわちゃと見かけないサードがいたな」

 

 ボロボロで泣きべそ掻いてて、酷い有様だったな、とサクラが語る。

 それを聞いて、ノバラはうんざりとしたような顔をした。

 

「・・・それの子守り」

 

 心底嫌そうな顔をしているノバラの様子に、サクラは苦笑いを浮かべる。

 

「そいつはご苦労さん」

「他人事みたいに言わないでね?あなたもやるのよ?」

 

 サクラがファーストになるなら避けられない事態。

 それは自分が現場指揮官となって、部下のサード・セカンドを指揮するということ。

 

 ノバラは高い確率でそういった話がなされるであろうことを確信していた。

 

「あ?そりゃ、どういう意味・・・」

 

 意味が分からない、と言った顔をしたサクラに、ノバラはクスリと笑みを浮かべると、司令室の扉を指さした。

 

「答え合わせは楠木司令にしてもらいましょ?」

 

 

 

「最上ノバラ、出頭しました」

「乙女サクラ、出頭しました!」

 

 ノックをして、楠木から入室を促された二人は入り口のところで声を上げた。

 

「ご苦労。こちらに来て掛けなさい」

 

 真夜中だと言うのに、楠木はいつもと同じ白衣姿でデスクに座っていたが、二人を認めると、応接用のソファに座るよう促して、自分が先に座る。

 それを見てノバラはスッと座ったが、サクラは緊張しているのか、ソファの横で直立不動のまま動かない。

 

「サクラ、面接じゃないんだから、座ったら?」

「夜中に呼んだのはこちらだ。座りなさい」

「は、はい!」

 

 カチコチと固い動きを見せるサクラにノバラはくすくすと笑う。

 

「ノバラ、冷蔵庫にお茶が入っているから出してくれ」

「かしこまり!」

 

 真夜中の執務室には楠木のほか誰もいないので、気を利かせてお茶を出してくれる人はいないのだろう。楠木は緊張している様子のサクラを気にかけているようだ。

 

 ノバラは手慣れた様子で執務室に備え付けの冷蔵庫を開けると、フィルターインボトルの中に緑茶が入っているのを見つけた。ノバラは戸棚からグラスを取り出すと、冷凍庫の氷を拝借して、ボトルのキャップを外して、お茶を注いだ。

 

 お盆に乗せて運ぶと、テーブルの上にそれぞれコースターを置いて、お茶の入ったグラスを置く。

 

「ありがとう、ノバラ。・・・サクラ、少し飲んで落ち着いたらどうだ?」

「は、はいっス!」

 

 ノバラはソファに座りなおすと、お茶を一口飲む。思いのほか喉が渇いていたようで、するりと体の中に入っていった。

 サクラもノバラがお茶を飲んでいるのを確認して口をつけ始める。ごく、ごくッと喉がなり、一瞬で中を空にしてしまった。

 楠木はそんな様子にやや苦笑した様子を見せてから口を開いた。

 

「さて・・・こんな時間に二人に来てもらったわけだが。まず、ノバラ、先ほどの作戦の感想を言ってくれないか?」

「報告じゃなくて、感想なんですか?・・・本当にそれが聞きたいの?」

 

 ノバラが楠木の顔を見ると、いつもと変わらぬ表情だった。ノバラが若干苛立っているのも承知の上ということだろう。

 

「忌憚なく述べてくれて構わない」

 

 ふん、とノバラは鼻を鳴らした。

 言質はとった。なら言いたいことを言わせてもらおう、とノバラは腹に溜まっていたものをぶちまける。

 

「なら率直に言わせてもらうけど・・・DAはいつから子供の遊び場になったのかしら?サードとして及第点な子なんて何人もいなかったよ?レベルが下がった、なんてこと以上の問題よ。お遊び感覚のまま、現場に来られても迷惑なんだけど?」

 

 それがノバラの本音だった。

 正直な話、ノバラとしては、戦力として数えることができる実力ならお遊び感覚でも別に構わないのだが、彼女たちは圧倒的に実力が不足している者がほとんどだ。それにもかかわらず覚悟も出来ていなければ、意志もない。勢子程度の役はこなせたかもしれないが、狩人となるには役者が不足している。

 

「手厳しいな。だが、今の本部はその程度でも必要なくらいには、戦力が不足している」

 

 そう語った楠木の表情には疲れの色が見えた。

 

「しかし、無いなら作るか、あるいは鍛えればいい。・・・そうは思わないか?」

 

 そう言って、少し笑みを浮かべた楠木にノバラは嫌な予感を感じていた。

 

「覚悟は何度か死ぬ思いをすれば付くだろう?・・・任せたぞ(・・・・)ノバラ(・・・)?」

 

 それはつまり、ぴよぴよひよこちゃんを闘鶏に育てろ、という事実上の命令だ。ノバラは思わず頭を抱えた。

 

「何で、私にそれをさせようとするのよぉぉぉぉ!?教官達の仕事でしょ!?」

 

 ノバラの悲鳴にも似た声に、楠木は面白そうに笑みを浮かべている。

 

「お前ほど、殺さずに死ぬ思いをさせることができるヤツなんてそういない。適任者はお前だけだ。・・・さて、サクラ」

 

 Oh Gees(いやぁぁぁ)、と言いながら、泣きそうな顔をしているノバラを放置して、楠木は真剣な表情でサクラを見た。そのギャップにサクラは思わず息を飲む。

 

「戦力も不足しているが、それ以上に深刻なのが優秀な指揮官の不足だ。先の事件では、幾人かファーストも引退して、急遽、繰り上げでファーストにした者もいるが・・・質はお察しだな。・・・お前はどうだ?」

「あたし、ですか?」

 

 不意に掛けれらた言葉にサクラは戸惑ったように声を出した。

 

 自分をファーストにしようとしている、とも取れるし、それだけの資質があるのか、とも取れるような問いかけだった。

 

 そんな内心を楠木は読み取った上で、改めて口にする。

 

「・・・ファーストになる、覚悟はあるか、サクラ?」

 

 その言葉にドクンとサクラの鼓動が跳ねた。

 

(並べれる!これで、フキ先輩に!・・・そして)

 

 チラリと半泣きのままのノバラを見る。

 

 小さく可愛らしい見た目とは裏腹に、自分を圧倒して見せた実力を持つ少女。敬愛する先輩の妹分で次は負けないと誓った相手。

 

(・・・ノバラとも!!)

 

「あります!!やらせてください!!」

 

 サクラはソファから立ち上がると一歩踏み込むようにしてそう叫び・・・

 

 ・・・満足そうに頷いた楠木は、大きくにやりと笑ってみせた。

 

「結構。ならば、新人どもを率いて、ノバラを倒して見せろ」

 

「「・・・はぁ!?」」

 

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