Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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ノバラちゃんの以下略


72 As a Commander

 サクラは悩んでいた。

 

 ブリーフィングルームには幼さの残る(と言っても、サクラの一つ二つ下くらいなのだが)サードの制服を着たリコリス達がいる。

 

 どれもサクラが見かけたことはなかった。いや、一部はノバラと司令室に行く前に見た顔もいるようだ。ほぼ初対面という意味では変わらないが。

 

(ノバラは子守りって言ってたが・・・なるほどな)

 

 作戦終わりの者たちは何となく暗い顔をして、俯いている者が多いが、それ以外の者はぺちゃくちゃとお喋りに興じている。

 緊張感がまるでない。

 

 自分が戦うならまだしも、彼女たちを使ってノバラを倒すことは不可能に思えた。

 

 今回ノバラと戦うに当たって、楠木がサクラに言い渡した条件は、

①サクラ自身は戦闘に参加しないこと。

②招集されたサードから一度に十人まで模擬戦への参加を認めること。

③事前にサクラの立てた作戦のとおり戦わせること。

④リコリスとして不適格と認めた者のリストを作ること。

⑤ノバラとサードリコリスの体力の続く限り、回数制限はしないこと。

といったものだった。

 

 つまりは、サクラ自身の指揮官としての適性を見せることと、公正公平な評価ができるか、サクラが人を見る目があるかを試されるということだ。

 

 ・・・が、既に心が折れそうになっていた。

 

 パッと見た感じでサクラのお眼鏡に適うのは三十人はいる内の数人だけだった。

 

 ガシガシとサクラは頭を掻いた。

 

 リコリスとして最低限の学はあるが、サクラは戦略・戦術といったものには苦手意識があった。それが少しずつ変わってきたのは、フキとともに作戦に従事してきたからだ。

 無論、大まかなな作戦指示は司令官やオペレーターが決めていたものであろうが、現場で指揮を執るフキの姿には憧れたし、何よりも戦い易かった。

 これまでは小細工と思っていたそれが、より仲間を安全に効率よく戦わせることだと気づけば、見方も変わってきた。

 だが、翻って自分が作戦を立案できるかと言われれば首を傾げざるを得ない。模倣はできるかもしれないが、それが実効性があるとは思えなかった。

 

 だがしかし。

 やるしかないのだ、と腹を括る。

 

(どちらにせよ、ノバラとまともにやり合っても勝てる訳がない。まともじゃない方法を考えないとな・・・)

 

 そう思って、思案を巡らせる。

 

『基本的に千束とかノバラとか、ああいった手合いの連中は敵に回すもんじゃない』

『千束は運動能力こそ高いし、心臓も特別製だが、スタミナという点では私達に確実に劣る。元々、あまり運動していないからだろうな。一方のノバラに関しては、スタミナ切れを狙うのは不可能だ。アレは練習バカだからな。放っておけば一日中だって平然と走っているだろう』

『スタミナが切れることと疲労が溜まるのは別の問題だ。ノバラと戦うのであれば後者を意識することだ』

『肉体的な疲労もそうだが、精神的疲労を与える方が易い。大人びているようで、まだまだ子供だからな。訓練レベルであれば、煽れば乗ってくるだろう。実戦では期待できなだろうが。いずれしろ、疲労というのはバカにならない。肉体的にしろ精神的にしろ疲労が溜まれば、ミスも増えるし、パフォーマンスも悪くなる』

『映像を見れば分かるだろうが、ノバラは巧いが身体能力が高いわけじゃない。一瞬一瞬や初動は極めて速いが、それを持続させるには向いていない。単純なスピード勝負、パワー勝負に持って行けたなら勝ち目はある』

『後はアイツを見失わないようにすることだな。本気で気配を消して来たら、私でさえ捉えられない』

 

 模擬戦の後、フキと対ノバラの戦術を練っていたことを思い出す。自分が戦うときのことばかりを考えていたが、これ自体は、自分以外でも応用できることだ。

 パシンと右拳を左手の掌に打ち付けて、注目を集めると、サクラは獰猛な笑みを浮かべる。

 

「おしっ!ひよっこども!あたしの話を聞けぃ!」

 

 そして、未だ囀っているひよこどもを黙らせるため、サクラは一喝した。

 

 

 

「どうして、私がこんなことを・・・」

 

 理不尽、とノバラは頭を抱えていた。

 ただでさえ疲れているのに、残業の上に似合いもしない教導をすることとなった。

 

 楠木の狙いは分からないでもない。

 

 DA本部の戦力不足の解消をしようとすれば、本来まだ訓練中の者をサードに繰り上げることになるのは当然で、そうした結果、全体の質が落ちるのも当然だ。

 本来であれば、手ごろな作戦をいくつかやらせて、少しずつ自信と実力を付けさせていくものだ。そのときに多少の失敗をしてもいい。許される失敗ができるうちに痛い目を見ておくのも良い経験である。

 

 だが、一部の迂闊な者のせいで、そういったことすら難しくなっているのが現状だ。

 

 そんな中でノバラが現場に送り込まれているのは、究極的にはノバラ一人がいればどうとでもなる案件だからだろう。

 相手の戦力や規模に対してやや過剰とも思える戦力で襲撃を掛けている点がその証拠だ。一人でも多く実戦の経験を、といったところか。

 だが、戦力がギリギリ過ぎては欠員が出るおそれもあるし、多過ぎれば今度は『作戦なんて楽勝』と勘違いをする可能性もある。

 

 ・・・そこでのノバラの投入である。

 

 これは作戦自体が失敗することがないようにするための安全装置という意味もあるが、ノバラを作戦指揮官とした場合、部隊員には甘えも油断も許さないため、隊員全員を引き締めるという意味も持っている。

 

 部隊指揮官として見たとき、上層部からのノバラの評価は高い方だ。

 

 完全に部下を数字としてみなし、適切な戦力分析で必要十分な戦力を割り振る。いざとなれば、「死ね」ということも厭わない。冷静かつ冷淡に、効率的に狩りを行う。もっとも部下からすれば、絶対に楽をさせてくれないので、たまったものではないのだが。

 良くも悪くも事前の数値どおりの結果を残させる、と言うのが、ノバラの指揮官としての特徴である。

 

 一方のサクラと言えば、指揮官としての実績は皆無だ。

 

 そういう意味では、今回のこれはサクラの試金石となるだろう。

 

(・・・いいように使われてるな、私)

 

 疲れている体に鞭打って、自分が得られるものはごく小さい。

 

 サクラのためになると思えば、間接的にフキに恩を返しているとも思えるが、それはそれで若干癪に障る。サクラのことは嫌いではないし、ノバラの中では身内扱いだが、お姉ちゃんを取られているような感じがして面白くはない。

 サクラはこれが終われば、すぐにでもフキに会えるのだろうけど、自分は少なくとも1時間以上は車の旅だ。

 

 ・・・ノバラは、たきなの体温が恋しくなって、切ない吐息を吐いた。

 

 

 

 いつもの演習場(キルハウスブース)にノバラが立つと、相手は見たことのあるサードが五人立っていた。

 いずれも先の作戦に従事していた者だ。

 

 ・・・その中の一人は、人を撃ったことに動揺して涙ぐんでいた少女だった。

 

 ふわふわ髪でやや丸顔なその少女は、ノバラと同じ位の背丈ながら、ノバラよりも体の一部分がふくよかだった。

 

 ジロリ、とノバラが睨むと、「ひぅ!」と言いながら既に涙目だった。

 

(・・・ぁー・・・何か、揉みたおしたくなってきたなぁ・・・)

 

 きっと、いい悲鳴を聞かせてくれるだろう、と頭の端で考えながら、ノバラがにたりとした笑みを浮かべると、少女は「あわわっ!」と頬を紅潮させている。邪なオーラが漏れたのだろうか。

 

『・・・双方始めてもいいか?』

 

『あーっ、こっちはいつでもいいんで』

「・・・いつでもど~ぞ」

 

 楠木の言葉にサクラが先に反応し、それを受けて、ノバラがやややる気なく答えると。

 

 ビーッと、ブザーが鳴った。

 

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