Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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新キャラ せりちゃん 


73 grim determination

 『せり』にとって、作戦は失敗だった。

 

 人を撃って動揺してしまい、気持ち悪さで思わず涙ぐんたところに、インカム越しに聞こえたのは、自分を下げるという指揮官の言葉だった。

 まだやれる、と強がったものの、せりの精神はすでに折れかけていた。

 そこに遠くからでも分かるほどの殺気を受け、恐怖に怯えてびくびくとしながらも、何とか何事もなく作戦の終わりに至ることはできた。

 下がれと言われた後は、作戦には何ら貢献できなかったせりが、最後に見たのは、ノバラと名乗った少女圧倒的なまでの蹂躙劇だった。

 

 ある種、乱戦の場というのに、構わず味方に撃たせて、相手から外れた弾にさえも敵を誘導し、あるいは強引に的中させ、しかし、自らにはかすることすらない。

 

 せりと身長は同じくらいだというのに、実に堂々として、真っ赤なファーストの制服が輝いているようにすら見えた。

 

 どうして、私はああなれないんだろう、とせりは考える。それと同時に、そう思うということは、そうなりたいと思っていることだと気づく。帰り道の道中、セリは悔しさに涙が零れていた・・・ハズだが、途中から記憶がなかった。本部についたら、作戦に参加した皆で肩を寄せ合って、よろよろとシャワールームに急ぐ。

 

 作戦に従事していた者のほとんどが、悔しさのあまり、この後は訓練したいと思っていたからだ。そんなせりたちを楠木司令がブリーフィングルームに呼んだ。そこには作戦に参加していない者もいた。

 そして、そこで楠木は言った。

 

『最上ノバラと戦ってみたくはないか?』

 

 幾人かはその言葉で、戦うことなく辞退した。怖がっているのだろう。

 だが、セリは恐怖を感じつつも逃げることはしなかった。

 

 本当に戦うのか、と頭の中で自問自動を繰り返していると、せりの顔は次第に暗くなる。勝てる訳はない、だが、あのまま、見放されたくなはい、と強く思った。

 

 パシンと拳の音が鳴ると、いつの間にか正面には背の高いセカンドの少女が立っていた。

 

「おしっ!ひよっこども!あたしの話を聞けぃ!」

 

 乙女サクラと名乗った、この模擬戦の指揮官はせりにとって、良く分からない人だった。

 

「お前ら、ノバラと戦うってのによく残ったな!その勇気は褒めてやる!アイツはバケモンみたいに強ぇーけど、バケモンじゃねえ・・・人間だ。なら、やりようはあるとは思わねぇか?それにこれは訓練だ、死ぬほど恐ろしいかもしれないが、死ぬことないから安心していいぞ!(・・・たぶんな)」

 

(何か、すっごい小っちゃい声で、「たぶんな」ってつけ足したよ!?)

 

 途端、ぷるぷるとせりは体を震わせた。ノバラの殺気、もっと言えば、喰われてしまうような気配を思い出す。

 

 怖い、恐い・・・でも、足を一歩でも踏み出さなければ、ノバラのようにはなれない。だからどれだけ怖くてもせりは一歩進もうと思った。

 

「あ、じゃあ、アンタ一番手な」

 

 サクラにポンと肩を叩かれる。せりとしては、本当に一歩踏み出すつもりではなかったのだが、精神的一歩に肉体の一歩が引っ張られたらしい。見事志願したような形になっていた。

 その他にサクラが肩を叩いて、とりあえず、せりを含めた五人を選出した。

 

「いいか?わりぃが、あたしはお前らをよく知らねー。だけど、これは訓練だし、回数制限もねぇ。だから最初の、そうだな・・・二回くらいは、作戦だの何だの細けぇことは言わねぇことにする。自分の強みを見せてみろ!」

 

 特別な言葉は何も言っていないのに、何だか心が軽くなった。

 

 だから演習場(キルハウスブース)に降りることができたのだが、いざノバラを目にするとせりは恐怖で体が竦みそうだった。ジロリと見られて、思わず、悲鳴を出してしまい、次の瞬間には、自分の胸をじっと見られて、それから好色そうな笑みを向けられたので、そこはかとなく、身の危険を感じた。

 

 そして、ブザーが鳴り、ノバラが突進してきたのは自分の方だった。

 

 せりは別に格闘術は得意じゃない。だからといって、銃が特別上手いわけでもない。だが・・・

 

「ひゃ!わわっ!」

 

 と不格好ながらも、ノバラの打撃を躱して見せた。

 

「・・・ふ~ん?じゃあ、あなたとは後で遊んであげる」

 

 そう言って、ノバラは他の四人に狙いを定めると、一人を拳で、二人を蹴りで、もう一人を投げで制した。

 

「・・・さて、と」

 

 そう言いながら、こちらを見たノバラに、せりは銃を向けて放つが、元々の腕がアレすぎて当たる様子もない。

 

「・・・ひぅ」

 

 泣きそうになり、手がプルプルと情けなくも震えるが、それでもせりは銃をノバラに向けたまま構え続ける。

 

「・・・頑張るじゃない、泣き虫ちゃん?」

 

 ノバラの言葉にせりは総毛立つ思いだった。

 

 せりは、自分という子羊に狼が大きく口を開け、今すぐにでも襲い掛かってくるような気配を感じていた。

 自分が哀れな獲物のように思えたせりは、可能であれば今すぐにでも逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

 

 それでも、涙を浮かべた瞳で、キッとノバラを睨む。

 

(・・・ここで逃げたら、きっと、もう、私は何もできなくなる!)

 

 せりには自主性が無かった。

 物心付いたときには、リコリスとしての訓練を受けていたが、周囲と違い、何らの使命感もなく、だらだらと形だけ周りに合わせてきた。

 

 せりには自信が無かった。

 何をやらせても普通にはこなせるが、それ以上には決してなれない。サードになれたのも欠員が生じていたからであり、せりだからと選ばれた訳でもない。

 

 せりには覚悟が無かった。

 訓練を訓練としてこなしてきたに過ぎないから、その先に待ち構える血みどろの現実を直視していなかった。だから、人を撃って、血が噴き出たのを見て動揺した。

 

 せりには何も無かった。

 リコリスとしての現実を突きつけられたとき、せりは自分が自分として立つことができる力すら持っていなかった。

 

 ・・・だが、無力なままで良いかと言われれば、答えはnein()だ。

 

 無いなら手に入れればいい。だが、今ここで逃げたら、手を伸ばす資格すら失う。

 

 ・・・それだけは分かっていた。

 

「ぜ、絶対に、逃げませんっ!」

 

 きゅっと口を結んでなおも銃を構えるせりに、ノバラはにこりと微笑んだ。

 

「・・・遊んであげるわ、せり(・・)

 

 ノバラの言葉を聞いた瞬間、叩きつけられたその気配に、せりは幾つもの自分の死を幻視した。

 

 首を折られる。絞め殺される。眼球を貫かれる。喉を潰される。肋骨が肺に刺さる。投げられて頭を潰される。壁で頭を叩き割られる・・・。

 

 圧倒的な死の気配とその気持ち悪さを飲み込んで、せりは奥歯を噛みしめながら、ノバラに銃を放つ。

 

「あああああああぁぁぁぁ!!」

 

 狙いも何もない。ただ、闘志だけで乱射する。

 そんなせりの必死さを嘲笑うかのように、ノバラはその銃弾をゆるりと躱した。

 

(何ソレ!?)

 

 せりには悪夢のようにさえも思えた。

 せりは確かにお世辞にも射撃が巧いとは言えないが、今の乱射はせり史上会心の射撃だった・・・ハズだ。

 だが、それでも届かないという理不尽が目の前にあった。

 

(・・・偶然じゃない。技術なんだ!あの乱戦ですら銃弾を掠めなかったのは!)

 

 ゾクリとした。

 

 おそらく元の身体能力では自分とさほど変わらないであろうこの少女は、ただ努力のみをもってその高みに上り詰めた。

 

 そう分からされる。

 

(・・・私も!・・・私だって!!)

 

 遊底が下がったままになったのに気付いたせりはそのまま、銃底でノバラに殴り掛かる。

 当然、とばかりにそれは躱されるが、頭の辺りに強い気配を感じたせりはその勢いのまま前に飛び込むようして転がった。

 髪の毛一本ほどの距離を風が切りさくように何かが走る。

 

 それが蹴りだと分かったのは、せりが転がって起き上がったときに、ノバラが未だ残心を取ったままだったからだ。

 

「・・・ふ~む?やっぱり(・・・・)、偶然じゃないみたいだね。警戒心が強いのかしら?」

「・・・はっ・・・はっ・・・はぁ・・・。・・・な、何ですか?」

 

 酷い緊張感からか、息の上がったせりにはノバラが何を言っているのか分からなかった。

 

「じゃあ・・・」

 

 ゆるっとノバラがせりに歩み寄ろうとすると、せりは目の前にいるはずのノバラを見失う。

 

(・・・は!?)

 

 どこに、と思った瞬間、胸に違和感があった。

 揉まれてるんだ、と気づくまでには若干が間があった。

 

「は!?あ!?え、ええぇ!?」

「・・・ちっ、もげろ・・・」

「ぅん!・・・あぅ!」

 

 むにゅむにゅと遠慮なく揉みしだかれて初めてノバラが背後から自分の胸を揉んでいることに気づく。

 

 せりは混乱した。

 

 急に目の前から消え失せたこともそうだが、気づいたと思ったら背後から胸を揉まれている今現在の状況に。

 

 だが、惰性とは言え、繰り返してきた訓練は実に素直だった。半ば反射的に、右肘を引いて、背後にいるであろうノバラに放っていた。その瞬間、ノバラの体温が自分から離れていくのを感じて、せりは左足を軸にして、後方に位置するノバラに後ろ回し蹴りをする。

 

「な、な、何するんですか!?」

「・・・巨乳死すべし、慈悲はない!」

 

 くわっと目を見開いたノバラがそう言って、蹴り足を出すよりも早く、せりは何かを察して、後ろに一歩下がった。

 

「・・・なるほどね」

 

 そう言ってノバラが無造作に間合いを詰めると、せりの袖を掴む。

 その動きにせりはまったく反応できずにいた。

 袖をつかまれた瞬間、せりは猛烈に嫌な予感を感じて、ノバラから離れたい気持ちになるが、どこにそんな力があるのか、その引手を切ることができない。せりはどうにか離れようとするが、その動きすら利用され、ノバラに襟を掴まれると同時、袖釣込腰の要領で地面にたたきつけられる。

 

(あ・・・これ、死んだ・・・)

 

 受け身を取ることはできたが、せりにはその先が見えていた。そして、それはすでに眼前に迫っていた。ノバラの右足が追撃とばかりにせりの顔を踏み抜こうとしている。せりはギュッと目を瞑り、その先の痛みに備えるがしかし、ダンッと耳の横で大きな音が響く。

 

(あれ・・・?私・・・生きて?)

 

 恐々と目を開けると、ノバラが面白い生き物を見つけたような表情で楽しそうに笑っていた。

 

 ほぅ・・・と、せりは気が抜けて、息を吐いたが。

 

「あ・・・ゃっ・・・ダメェ・・・」

 

 気の緩みから、股の間からは温かい液体が漏れ始め、せりには決壊したそれを留めることができずに、じんわりと下着とスカートを濡らしていた。

 ツン、とするアンモニア臭に、事態に気づいたノバラは、ぽりぽりと頬掻くと慰めるようにこう言った。

 

「・・・まぁ、訓練中に漏らしちゃうなんてよくあることよ?」

 

 何の慰めにもなっていないそんな言葉を聞いて、せりは顔を真っ赤にすると同時、疲れを忘れたかのように飛び起きる。

 

「イヤァァァァ・・・・」

 

 そして、叫びながら、演習場(キルハウスブース)を脱兎の如く抜け出した。

 

「ちゃんと、シャワー浴びてくるのよー」

 

 ノバラとしては、フォローしてやりたいところではあるが、まだまだ先は長い。声を掛けるだけに留まった。

 

(うーん・・・気が乗らなかったけど・・・ちょっとは面白くなってきたじゃない、サクラ?)

 

 こちらを見ているであろうサクラにノバラはにやにやとした笑みを向けた。

 

 




新キャラ 紹介

せり (苗字はまだない)
身長はのばらと同じくらいだが、巨乳さん。
泣き虫だが・・・?
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