Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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ノバラちゃんへろへろの原因編はこれで終了です


76 Fire Works

「先輩、ウチとせりの扱いが違いすぎやしませんかね?」

 

 すずなはノバラがせりを優しくお姫様だっこして、しかも、額にキスをしている様子を見て、頬を膨らませた。

 

「だって、あなた、まだ元気でしょ?」

「え~?ウチだって、先輩にチッスされたいです~」

 

 両手を前で組み、目をキラキラさせながら、口をすぼめる。その様子を見て、ノバラは、口元を引きつらせた。

 

「・・・地面とキスさせてあげようか?」

 

 割と、マジで怒ってる、と気づいたすずなは思わず土下座する。

 

「申し訳ございませんでした!!」

 

 ぐりぐりと自ら地面に頭を擦り付ける。

 からかったすずなが悪いのだが、本気で怒ったノバラとかマジ勘弁なのである。

 

「・・・先輩、せりならウチが運びますよ?・・・限界ですよね?」

 

 一人であれだけ戦ったのだ。その疲労はせりとすずな以上であろうし、それ以前に作戦を終わらせてきた後だ。

 すずなが見ても、限界になっているのは分かる。

 

「ふふっ。後輩にカッコいいとこ見せようとしてるんだから、譲りなさい」

 

 だが、そう言って、ノバラは笑った。

 

「・・・んんっ・・・ぅん・・・あれ?たいちょーさん?」

 

 少々騒いだせいだろうか、ぽやんとした目でせりが薄っすらと目を開ける。

 寝ぼけているような様子に、ノバラはクスリと笑みを浮かべた。

 

「・・・あら?まだ寝てて良いのよ、せり?」

 

 せりは、そう言ったノバラの顔を見つめて、ぽぉっと頬を染める。そして、自分がお姫様だっこされているのに気づくと途端に慌て始めた。

 

「って、あわわわわ!すいません、たいちょーさん!あれっ!?でも体が動かないよ!?何でっ!?」

 

 口は回るのに、体はまるで重しをつけられたようにびくともしなかった。そのせいでせりは余計に混乱する。しかし、動かせるのは表情だけなので、赤くなったり青くなったり、変顔をしてみたりと忙しない表情になった。

 

「せり~、こりゃ、盛大な筋肉痛で動けないな~!うりうり~」

「やめ!?やめてください、すずなさん!?あぅん!?って痛い痛い!何これ~!?」

 

 すずなにくすぐられたせりは反射的に身じろぎしようとするも、体は全く反応しない。その代わりとばかりに全身が悲鳴を上げる。

 

「あばばばば・・・・!?」

 

 目をぐるぐるさせながら、痙攣しているような状態のせりは、最後にノバラが楽しそうに笑うのを見ながら、意識を手放した。

 

(たいちょーさんって、こんな風に笑うんだ・・・何か可愛いかも?)

 

 少なくとも上官に対する感想ではないことを思いながら、せりは再び寝息を立て始めた。

 

「あら、寝ちゃった」

「まぁ、限界でしょうからね~。早く医務室運んでやりましょ?」

「そうね」

 

 そう言って二人が歩き始めると、下に降りてきたらしい、サクラと楠木の姿があった。

 

「お疲れ、ノバラ!いや~・・・あと一歩だったんだけどなー」

 

 サクラが両手を頭の後ろに組んでにやにやと笑う様子に、ノバラは挑戦的な笑みを浮かべる。

 

「・・・そんな簡単に負けてあげないわよ、サクラ?・・・何なら、最後に私とやってく?」

 

 その言葉にぎょっとしたのはすずなだった。

 

「ちょ!?先輩!?」

 

 思わずノバラの顔を見るが、本気の顔だった。

 すずなはそこに、どんなに疲労困憊であろうとも、挑戦は受けるという、ファーストの矜持を見た気がした。

 

「・・・今のお前に勝っても嬉しくねーよ。あたしがお前とやる時は、お前もあたしも万全のときだ。そんときに決着つけようや・・・あたしもお前には絶対負けてやらねぇ!」

 

 びっとサクラがノバラを指さして、にやりと笑う。それを受けて、ノバラも獰猛な笑みを返す。

 

「上等!」

 

 そう応えたノバラとサクラは互いに視線を交わすと、吹き出すようにしながら、笑い始めた。

 

「・・・楽しそうなところすまないが、そろそろせりを運んでやってくれ。ノバラの腕は信用しているが、あれだけやられたからな。念のため精密検査に回す・・・まぁ、一週間くらいはベッドに縛り付けておくことになるだろうが」

 

 楠木の言葉に三人は顔を見合わせると、ノバラの腕の中にいる少女を見て笑いあった。

 

 

 

 シャワーを浴びたノバラは翡翠色のリコリス制服に着替えていた。

 

 ・・・なお、ファーストの真っ赤なリコリス制服は汗臭さとかがやばいことになっていたので、タグを付けて、クリーニング行きである。

 下着はフキがいつも作戦に行くときは替えを用意しておくようにと口を酸っぱくして言い聞かせていたので、ノバラは習慣的に替えの下着を持ってきていた。千束と買ったライトグリーンの可愛いヤツだ。

 

(・・・ふむ。これでいざというときも大丈夫)

 

 そんなときは来ないのだが。

 

 着替えを終えたノバラは本部で借りている自らの執務室に入ると、食堂から貰ってきたサンドイッチを口に入れる。飲み物はノバラ的には妥協の産物で缶コーヒーだ。徹夜明けにはブラックが染みる。

 間借りしているだけあって、狭い執務室はデスクとパソコンがあるだけで、さながらインターネットカフェの一室のようだった。滅多に使わないが、これはこれでノバラとしては結構気に入っている。

 かたかたとキーボードを叩き、作戦報告を書いていく。特に作戦指揮官が報告書を書くのはある種の義務ではあるが、徹夜明けのテンションで書いた報告書は何だか愚痴にまみれていた。まぁ、これはこれでいいかと、メールで送信すると、ノバラは悪戯っぽい笑みを浮かべると、猛烈な勢いでキーボードを叩き始める。やる気のない報告書とは打って変わって、気合も入ると言うものだ。

 その文章のタイトルは「人事異動上申書」と記載されていた。

 

 提出すべきものを提出したノバラはエントランスでぐ~っと背を伸ばす。空を見上げると、太陽の眩しさに目がくらむ。ふぁっとノバラが口を開けて欠伸をしたところに、一台の車がやってきてクラクションを鳴らした。

 

 何故か楠木が真っ赤なクーペに乗っていた。

 

「送っていこう」

 

 そう言って意味深な笑みを浮かべる楠木を見て、そういう体の内緒話だろうな、と想像する。

 

 最初の内は他愛のない話をする。

 ノバラは楠木のことが嫌いではない・・・どころか好きな部類だった。

 冷たく人を・・・というより、リコリスを寄せ付けない雰囲気があるが、それは司令官としての心構えでもあるのだろう。

 適度な距離感が心地よい。・・・まぁ、ここ最近の任務の嵐には文句の一つでも言いたいところではあるが。

 

「・・・ノバラ」

「んー?なぁに?」

「すまなかったな。無理をさせている」

 

 ノバラと目線を合わせずに、楠木はポツリとそう言った。不器用なその様子にノバラはくすりと笑みを浮かべた。

 

「ホントは文句の一つでも言いたいところだけど・・・いーよ。必要なんでしょ?」

「・・・そうだ」

 

 ノバラの言葉に何らかの葛藤があるのか、楠木は苦虫を潰したような顔だった。

 

「サクラはどう?」

「及第点だ。まぁ、まだまだフキの後を任せるには不安はあるが・・・今回の適性検査からすれば、ファースト上がりは確実だろう」

 

 この感じ、及第点って言ってる割には、合格点をちゃんと越えてきたんだな、とノバラは考えて、軽く笑みを浮かべる。

 

「そう。良かった」

「・・・あのサード達も上手く篩にかけられた。いや、サクラとお前に押し上げられたか?作戦中の様子は頭を抱えたくなったがな、模擬戦の様子はなかなかどうして面白かった」

 

 くつくつと笑みを浮かべる楠木にノバラは意外そうな顔をしている。

 

「楠木さんがそんなに上機嫌になるのは珍しいね?」

「望外のことではあったが、これで人員不足はある程度解消の見込みは立ったからな」

「ふ~ん?じゃあ、そろそろ動き出すのかな?」

「・・・機は整いつつある」

 

 ふん、と楠木が鼻を鳴らす。

 

「・・・喜べ、ノバラ。派手な花火が上がるぞ」

 

 楽しそうにそんなことを言われても、ノバラにとっては厄介事が増えるだけで、喜ぶようなことはないのだが。

 そんな思いを表に出さず、ノバラは苦笑するに留めた。

 

 なお、意趣返しとして、おごりだと言われた遅めのランチでは、とりあえず一番高い物を食べるという地味な嫌がらせをしておいた。

 

 

 

 これは後日の話だ。

 

 真っ赤なリコリス制服を着たサクラは不貞腐れていた。

 

「ノバラのヤツめ~!」

 

 サクラは、過日、模擬戦に参加し、最後の方まで残っていた者を自分の部隊へ配属するよう要望書を出していたのだが、その結果がきた。

 そして、その結果を見るなり、明らかにわざわざ付け足すようにしながら、とある二人のサードの行き先について、記載されていた。

 

 即ち、『鬼庭せり』と『片倉すずな』の配属先である。

 サクラの手元の紙にはこうある。

 

『『鬼庭せり』及び『片倉すずな』については、DA仙台支部への異動が内定している。なお、実際の異動までの間、本部預かりとするが、その指揮権は臨時指揮官の『最上ノバラ』が優先される』

 

 何度読んでも文面は変わらない。

 やってくれたな、とサクラはふつふつと怒りを滲ませた。

 

「・・・何を怒ってるんだ、サクラ?」

「あ、先輩、聞いてくださいよ!ノバラのヤツがずりぃんスよ!」

「・・・アイツがズルをするのはいつものことだろう?」

「いやいやだって!あっしが部下にって思ってたサード引き抜きやがったんですよ!?しかも、何の断りもなく!」

 

 フキは差し出された紙を読んで、鼻で笑った。

 ツバを付けておくなら早くやらなければならない。

 ノバラのことだから、速攻で手続きをしているであろうことは想像に難くない。

 やはり、こういった老獪な手練手管にサクラが対応するのはまだ早かったな、とフキはサクラを見ながら苦笑する。

 

「それ、お前がファーストに上がる前の話だろう?ノバラはあれで、DA仙台支部では特殊作戦群司令官の実質上の右腕だ。その程度の人事権はあるだろうよ。真っ当な手続きを踏んでいるなら、お前が先に動けば蹴られることもあったんだろうに。どうせ、そういうのがよく分からないまま、たぶん自分のところに配属される『だろう』って考えてんたんだろう?考えの浅いお前が悪い」

「んぎぎぎっ!」

 

 フキのど正論にサクラは悔しそうに歯ぎしりした。




せりとすずなは無事にノバラの指揮下に入りました。
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