Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
制服を泥んこにして帰ってきたすみれとそれを是とした千束にぷりぷり怒りながらも、一日のリコリコで店員業務を終えたたきなは、閉店後のゲーム大会への参加を断り、休ませるためとは言え、一人だけにしたノバラが心配で帰り道を急いだ。
道すがら、食料品を買っていくか尋ねると、さすがに部屋でじっとしていたわけではないらしい。散歩がてらに買い物を済ませているようであった。お腹を空かせて帰ってきてね、とメッセージに可愛いスタンプを添えた返信が返ってきた。
たきなは顔を綻ばせながら、帰り路を急ぐ。
「ただいまー」
玄関を潜り、そう中に声を掛けたたきなの鼻は、何とも香しい匂いを感じていた。
これは随分と気合を入れていそうだな、と思わず苦笑して、リビングダイニングの扉を開ける。
「・・・作り過ぎちった。・・・てへ?」
可愛く笑うノバラの後。ダイニングテーブルの上に所狭しと並べられた料理の数々。そして、それでは足りないとばかりにリビングテーブルの上も料理で溢れ返っている。
たきなは呆気にとられったようにバッグをドサッと落とすと、次の瞬間、スマホに飛びついた。
『至急援軍求む!お腹は空かせてくること!なお、着替は忘れずに!!』
たきなは祈るような気持ちでメッセージを送信する。相手は千束とすみれである。
「・・・どったの、たきな?」
ノバラは怪訝そうな顔をしてたきなを見る。
たきなとて、ノバラに悪気がないのは承知している。
ただただ持て余した時間を料理につぎ込んだらこうなった、ということも。
何せ、あの疲労振りだ。体を激しく動かすような運動は禁止、と言い渡したのはたきなである。
そうなると、ノバラに残された選択肢はそう多くない。だらだら映画を見るか、料理でもするか、それとも各種武器の点検装備をするか、くらいであろう。
この中で、自分の時間が潰せてかつたきなを喜ばせることができるものを選ぶとしたら、料理なのである。
なるべくしてこうなった、ということは、今更ながらたきなも認識する。しかし。
「・・・ノバラ。加減してください」
手の込んだ料理をするくらいだったら、たきなも手放しで喜んだのだろうが、如何せん量が多すぎる。
それはノバラも自覚があるのか、たきなと目線を合わせず、明後日の方向を見たまま、ぽりぽり頬を掻いている。
「あ~・・・やっぱ多すぎ?」
「向こう二週間くらいでやっと食べ終わるくらいですよ?」
何なら二人で一か月暮らせるかもしれない。・・・痛まなければ、の話だが。
「だよね~・・・どうしよ?」
「とりあえず、千束とすみれに援軍は要請しました」
困った顔をするノバラにたきながキリッと答える。
それに対して、ノバラは、ほほう、と意味深な笑みを浮かべる。
「・・・と言うことは?」
「二人には明日の朝もしくは昼まで付き合ってもらいます!」
グッと拳を握るたきなに、ノバラが拍手をする。
「皆でお泊りだ~!!」
ひゃっは~、とノバラが笑いながらクルクル回る。ここまでテンションの高いノバラも珍しく、たきなは微笑ましく思って、口角を上げる。
「・・・しかし、これでは四人でも多いので、日持ちのするものは冷蔵庫に」
「あ、ゴメン、たきな。冷蔵庫、ケーキ作ってしまってあるんだよね」
「だから、作りすぎなんです!?」
たきなは頭を抱えた。
「ノバラが夕飯作り過ぎたと聞いて!」
「ノバラちゃんのご飯が食べれると聞いて!」
両足を軽く開き、重心を左足に乗せて、軽く腰を曲げ、左手で顔面を覆うようにして、右手は扉を開けたたきなを指さしている千束。
両足を揃えて立った状態から、右足の膝だけ少し外側に向けて曲げ、爪先立ちにし、両手は肘を押さえるようにしながら、頭の上辺りで組み、妙に豊満な胸部が協調されているすみれ(ただし、恥ずかしいのか顔は真っ赤)。
玄関先で構えを取る二人を見て、たきなは無言で扉を閉めた。
ガチャ、ガチ。
鍵を締めて、ドアロックもする。不審者対策は万全だ。
『おぉい!無言で閉めるなよ!』
『私だって、恥ずかしかったんだよ~!千束ちゃんがやれって言うから~!』
千束はともかく、すみれは可哀そうだったので、はぁ、とため息をついて、たきなは扉を開ける。
瞬間、すみれがたきなに圧し掛かるようにして抱き着いてくる。
「たきなちゃーん!ありがと~!」
たきなの顔を挟み込むようにすみれの胸部が押し付けられる。ふわふわ、というよりもゴムまりのような弾力のある感触と柑橘系のすっきりとした香りがたきなを襲う。
「・・・くっ・・・く、苦しいですよ、すみれ!?」
「あ、ごめ~ん」
パッと離れたすみれから、たきなは少し距離を取り、ふぅ、と息をつく。
「・・・二人とも、よく来てくださいました」
たきなが右手を胸に当てるようにしながら、一礼をする。
いつもと違う様子にすみれはともかく、千束は怪訝そうな顔をする。
(・・・たきな、一体、何を考えてるの?)
そんな不審を抱くも、たきなはそんな様子の千束を見て、より一層笑みを深める。
「さぁ、二人とも、こちらへどうぞ」
先導するように歩くたきなの後ろを千束とすみれは歩いていく。
何だか良くないものを感じ、知らず、千束はごくりと喉を鳴らした。
そして、リビングダイニングに続くドアを開ける。
入ってから、千束は眩暈がした。
一方、すみれは目をキラキラさせた。
「作り過ぎぃ!?」
思わず千束は叫ぶ。ですよね、とばかりその隣でたきなが額に手をやっていた。
たきなが応援を呼んだ時点で何となく察してはいたが、その想像を軽く超えてきた。せいぜい五人から六人くらいで腹パン状態になるくらいだろうと思っていたが、たぶんその倍以上ある。
「ノバラちゃん!これ、全部食べていいの!?」
食べ放題、きゃっほ~、と喜べるのはすみれがすみれだからであろう。
元より食欲過剰な大食い少女だから、今の光景は天国だろう。食べ続ける途中で地獄に変わるであろうが。
「・・・アンタ、何でまた、こんなに作ったの?」
「時間があったからかな?普段時間がかかるから作らないものも多いし」
千束は呆れた様子でキッチンやテーブルにある料理を見ていく。
「鴨の丸焼き、油淋鶏、角煮、シチュー、唐揚げ、串揚げ、パエリア、ピザ、ポテトサラダ、アクアパッツァ、アヒージョ、ローストビーフ、ミートローフ、ロールキャベツが三種、ギョーザ、生春巻きって、まだあんのかよ!?」
少し離れたリビングテーブルにも料理があるのを見て、千束は更にあきれ顔になった。
「冷蔵庫にはさらにサラダゼリーとケーキが」
そう言い募ったノバラの頭に千束はチョップする。
「ばかちん!四人でも食いきれんわ!?」
ノバラもそんな気はしている。気はしているが。
「すみれがいるんでワンチャン・・・」
「・・・さすがのすみれでも、これは無理だろ」
千束の言葉にノバラの最後の望みも絶たれる。
「・・・明日、リコリコに持ってって、何なら本部からフキとか呼び出すかな」
思案顔のノバラがそう言うと、千束もコクコクと頷く。
「ヤツラに今から、ここに来いって言うのは無理筋だからな。処理しきれんかったら選択肢に入れよう。・・・だが、今は!!」
「ここにいる四人の力を合わせて、食すべし!」
二人して拳を突き上げる。それを見ていた、すみれも加わるので、何となくたきなも付き合った。
数多のパーティ料理の横で四人の少女が拳を掲げる、という非常にシュールな光景になった。
「あ~・・・さすがに、もう食えん」
「そ、そうですね・・・」
「んぬぬぅ・・・もっと食べたいのにぃ」
千束はげんなりした様子で、たきなは若干苦しそうに、すみれは悔しそうにしながら、椅子の上でぐったりしていた。
ノバラはキッチンで片付けをしつつ、明日持っていけそうなものを重箱に詰めたりしながら、そんな三人を見ていた。
「でも、ケーキは食べるんでしょ?」
「当たり前だろ、何言ってんだ」
「そうですよ」
「やったー!ケーキ!」
もう食べることができない、という雰囲気を出していたのに、甘い物が出るとなると、復旧する三人。
リコリスと言えど、甘い物は別腹。きっとそういうことなのである。