Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
量はアレだったが、喋りつつ、食いつつの楽しい夜の時間の経過は早い。
ケーキを食べ終えた頃には、すみれの『おねむ』の時間が近かった。
「お?そろそろ、すみれを寝かさんと」
「そだね」
すっかりすみれの生態に慣れた千束がいち早く気づき、ノバラがそれに追従する。
「え~・・・今日くらい、いいでしょ?」
「「ちゃんと明日起きれるならね?」」
ぷぅっと頬を膨らませ、不満気なすみれに
「ふふっ。息ぴったりですね。すみれ、お風呂なら沸いてますから」
たきながそう言うと、すみれがとてとてとたきなの側に寄ってきて、たきなの手をきゅっと握った。
「じゃあ、たきなちゃん!一緒に入ろ~!」
えへ~、と笑うすみれは可愛らしいのだが、突然のご指名にたきなは戸惑った。
「ノバラでも、千束でもなく、私ですか?」
困ったたきなは、ソファの上にだらしなく横たわっている千束に目を向ける。
「お~、いいじゃん!しっかり洗ってやって、たきな!・・・すみれはな~、すっごいぞ~!」
にしし、と面白そうに千束は笑っている。今度はちらりとキッチンで片付けをしているノバラに目をやるものの、ノバラは困ったように微笑んだ。
「最近、すみれは私と一緒に入るの恥ずかしがるから・・・何故か」
そう言って、ノバラは若干寂しそうにしているが、たきなの側で実は顔を真っ赤にしているすみれを見るに、すみれ自身は入りたくないわけではなく、見られるのも、見るのも恥ずかしい、といった感じのようだ。
(・・・意識しちゃうんでしょうね)
すみれの気持ちを何となく察したたきなは、そっとすみれの手を取り直す。
「じゃあ、すみれ、一緒に入りましょう」
「うん!」
笑顔を浮かべて、たきなと歩いていくすみれ。
しかし、すみれは忘れていた。
己がたきなにノバラの未来の姿を重ねていたことを。
(なるほど。『すっごい』)
たきなはすみれの裸体を間近で見て、千束が『すっごい』と言っていた意味を理解した。
たきなからすれば、千束も『すっごい』のだが、すみれはその上をいった。同意せざるを得ない。
「た、たきなちゃん、そんなに見ないで~~!?」
「・・・?見ないと洗えません」
たきなは『すっごい』とは思ったが、それだけだ。
ノバラの脳内を侵食してくるような背徳感のあるエロさと異なり、すみれのそれは実にアーティスティックと言えよう。
普段は特殊なスーツを着ているとは聞いていたし、その質感が素肌のように見えるのも知っていた。しかし、それを一枚脱ぐだけでこうも芸術的になるものか、と感心したほどだ。
無駄な脂肪を見つけることすら難しい筋肉美。その中で唯一、胸だけがたゆんたゆんと柔らかさを予感させる。
恥ずかしがって、すみれが身を捩らせるので、そこだけ別の生き物のように見えた。
あまりの興味深さにたきなは思わずそれを鷲掴みした。
「ひゃわわわぁぁぁ!?」
すみれが悲鳴を上げるが、たきなは気にしない。
むにむに、とそれを揉んで確かめて、納得するように頷いた。
千束の胸の感触はどちらかというともちもちしていて、自分のはふかふかしている。ノバラのは小さいので表現が難しいが、何というかこりこりと言った感じだろうか。
対してすみれの場合。
掴んだ指に跳ね返ってくる感触が他と比べて段違いだった。無論、硬いわけではない。ある程度の硬さはあるが、力を入れた分押し返されてくる感じだろうか。
「あぅあぅあぅあぅあぅ!?」
混乱した様子のすみれが手をばたつかせる。そこで、たきなははっと我に返った。
「ああ、ごめんなさい、すみれ。ちょっと興味深かったので」
「ノバラちゃんといい、千束ちゃんといい!たきなちゃんまで!どうしてすみれのおっぱいをそんなに揉みたがるの!?」
「・・・?それは、そこにおっぱいがあったら揉むでしょう?」
何を当たり前のことを聞いてるんだろう、とたきなは首を傾げる。本人にあまり自覚はないが、千束とノバラに大分毒されていた。瞳からいつの間にか光が消えている。行き過ぎた思想教育で自意識を失ったように見えた。
「たきなちゃん!?正気に戻って!?」
明らかにたきならしくない言動に、すみれは慌てて、たきなの両肩を持って揺さぶる。
数瞬後、たきなの瞳に光が戻る。ぱちくりと目を瞬かせたたきなは不思議そうにすみれを見つめた。
「え?私、何か言いました?」
「う、うん・・・だけど、たきなちゃんには忘れて欲しいかな?」
「はぁ・・・まぁ、すみれがいいなら、それでいいですけど。それじゃあ、すみれ、座ってください。洗ってあげますから」
「あ、うん。お願いしま~す」
ちょっとだけ、安心したようにすみれはイスに座って、軽くまとめていた髪を解く。
「結構、量がありますね」
たきなはすみれの髪を一房手に取ってみる。髪の毛の腰が太くしなやかで、若干クセがある。たきな自身の髪は絹糸のようにサラサラしているので、それと比べると手に引っかかるような重みを感じる。
たきなはゆっくりとすみれの髪を洗い始める。
「そうでしょ?千束ちゃんは「大変なんだぞ!?」って言いながら、楽しそうに洗ってくれるよ?」
意外に世話焼きな千束は嬉々として洗っていそうである。たきなはその様子が容易に想像できて、思わずクスリと笑みを浮かべた。
「確かに、この量は大変ですね。仙台ではノバラが洗ってくれてたんですか?」
「ノバラちゃんは、たまにかなー。むしろ、しれぇとかの方が多いかも?」
「楓さんですか?それも意外ですが」
すみれのべったり具合からすれば、いつでもノバラと一緒に入っていそうなイメージであったから、たきなには物凄く意外だった。
「そう?しれぇは結構面倒見いいよ?エクストラは変な子多いし」
「ノバラとすみれを筆頭に、ですか?」
「たきなちゃん、私たちのこと、変な子だって思ってるでしょ?こう言っちゃなんだけど、ノバラちゃんは一番常識人だからね?私は子供っぽいかもしれないけど」
「・・・ノバラが常識人?」
普段のエキセントリックな行動のせいで、たきなはノバラが常識人には見えていないが、改めて言われて考えてみる。
ノバラの人格形成のほとんどは千束とフキと言っても過言ではないだろう。そして、変な行動のほとんどは、千束(映画の影響も含む)が原因だ。それを除けば、箱入りなところはあるが、真面目で優等生なフキの人格が残るわけで。
「確かに、私が普段思っているより、ノバラは普通かもしれないですね?」
「ふふっ。普段なんて思ってるか聞いてみたいなぁ」
「それはナイショです」
「んふふっ。でも、ノバラちゃんがしれぇに頼りにされてるのは、良くも悪くも一番話が通じるからなんだよ。いちおー、私も仕事で一緒するときはあるんだけど・・・何と言うか、こう、やばい」
すみれの少ない語彙力で精いっぱいの表現なのだろうが、そのせいでよりそのやばさが伝わってくる。
すみれの髪を洗い流しながら、たきなはすみれからやばい人扱いされている他のエクストラのことを考えてみる。
(その中で、ノバラは常識人。すみれは子供っぽいけど、普通。二人とも特殊な育ち方をしていて、それとは・・・一体どんな人外魔境なんでしょうね?)
全く想像ができなかった。
「たきなちゃん、次、私が洗うよ!」
「・・・大丈夫ですか?」
「大丈夫!千束ちゃんといつも洗いっこしているから!」
えへん、と胸を張るすみれの胸がばるるんと荒ぶった。それにちょっと圧倒されつつも、たきなは、自身あり気なすみれに任せることにした。
「じゃあ、お願いしますね」
すみれと入れ替わるにイスに座ったたきなもまとめていた髪を解くと、白い肌の上を真っ黒な髪がさらりと滑る。
ちらりと少しだけ振り向いて、すみれに目線を送ったたきなにすみれはどくんと胸が鳴った。
(そうだったぁぁぁ!?たきなちゃん、ノバラちゃんに似てたんだよぉぉぉ!?何だか、急に恥ずかしくなってきたぁぁぁ!!)
たきなの横顔に想い人を重ねて、すみれは胸が高鳴るのを抑えられなかった。顔はみるみると赤くなり、じんわりと肌に汗が滲む。
「どうしたんですか、すみれ?」
(ひゃぁぁぁん!?名前呼ばないで、こっち向かないで!?あぅ・・・たきなちゃん、肌きれ~・・・鎖骨のラインがくっきりしてる・・・それでいて、出るとこは出てて、色きれ~・・・っ!?)
そこまで考えたところで、すみれは鼻の辺りを押さえた。鼻血が出そうというか、ちょっと啜ったら、口の中には若干血の味がしているので、確実に出ているだろう。
「すみれ!?大丈夫ですか!?」
「ちょっと、のぼせただけ!?のぼせただけだから~!?」
同性同士故、特にガードしていないたきなの色々な所が見えてしまい、意識してしまっていたすみれには刺激が強すぎた。
「大丈夫、大丈夫、もうすぐ落ち着くから、たきなちゃんは座ってて!」
「そう・・・ですか?病気、とかではないんですよね?」
「う、うん。大丈夫だよ?」
ある意味病気なのだが。
深呼吸をして、心を落ち着けたすみれは、再度、たきなの髪を洗い始めた。
(たきなちゃんとお風呂入るの、きっと、もう無理~!!)
お風呂から上がるまで、すみれは時折理性を失いかけながらも何とか正気を保つことができた。