Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
パジャマに着替えさせられたすみれが、何故か憔悴した様子でお風呂から戻ってくる様子に、千束とノバラは怪訝そうな顔をしながら互いを見つめ合った。
一見のぼせているように顔を真っ赤にしているようにも見えるし、苦難を耐え忍んで疲れ果てた漢の顔にも見える。一方でぽわっとした雰囲気は望外の幸せなことがあったようにも見える。
(・・・たきなのヤツ、すみれも全身洗いまくったか?でも、それですみれがあんなになるわけないしな・・・私もやったし。う~ん?)
自分と洗いっこしているときのすみれは正しく幼い子供の様相で、楽しそうにすることはあれど、そんな感じにはならなかった、と千束は心当たりもなく、首を傾げる。
(はて?すみれのあの感じ・・・半分くらい、興奮であっちの方向へ意識を飛ばした感じかな?何故、たきなに?)
いけない妄想が捗っているときのすみれの様子を感じ取ったノバラは、その相手が何故たきななのか、と首を捻った。本人はあまりたきなと自分が似ているという認識がないからであろう。
「千束、ノバラ。空いたので、どうぞ?」
少し遅れてやってきたたきなの言葉に、ソファに座っていたすみれがビクンと体を震わせる。口をあわあわさせているのを隠すかのようにソファの上で体育座りになって、顔を膝に押し当てて隠すようにしている。頭から湯気が出るほど顔を真っ赤にしている様子は、少なくとも、すみれ本人には何かあったな、と容易に想像ができる。
「・・・まっ、いっか。千束、一緒に入ろ?」
「お?おう・・・まぁ、ノバラがそう言うならいいか」
(良くないよ!?今、たきなちゃんと二人っきりにしないで~!?)
色々と気まずいところのあるすみれは視線で二人に訴えるも、二人は特に気にした様子もなく、お風呂場に行ってしまった。
「すみれ?まだ、調子があまり良くないんですか?」
(たきなちゃん、お願いだから、今、優しくしないで~!?・・・あぅ、一緒に入ってたか同じ匂いのハズなのに、すっごいいい香りがするよ~・・・!)
すみれの我慢の時間は続く。
何の躊躇もなく、ノバラは素っ裸になった。
「千束と入るのって実は凄い久しぶりじゃない?」
何の恥じらいもなく堂々としている妹の姿に、千束は若干頭が痛くなった。
「・・・アンタ、恥じらいは何処に行ったのよ?」
「え?私と千束の間で今更恥じらうようなところってあるの?」
ノバラは本人は身の回りのこと全部やってもらっていた自覚があるので、千束に見られるのは、これっぽっちも恥ずかしくない。
そもそも、女性同士であまり恥じらうべきところもない。たまにすみれが送ってくるようなねちっこい視線でもなければ。
「そらそうだろうけども・・・最低限、隠すぐらいしなさいよ」
などと千束も宣うものの、たきなに対するものと比べ、ノバラに対するガードは薄い。同じく素っ裸で両手を腰に手を当てていれば、丸見えだ。勢いで胸がぶるんと震える。
反射的にノバラはその胸を鷲掴む。
「乳を揉むな!乳を!」
「それは、そこにおっぱいがあったら揉むよ!」
ノバラは言い切る。こちらは至って平常運転である。
「それは私もそうだけど」
千束も言い切る。こちらも以下略。
むにむにとノバラが千束の胸を揉むことしばし。さすがにくすぐったさで我慢の限界を迎えた千束が、ノバラの頭をチョップする。
「そろそろ離せ!型が崩れるだろうが!?」
「う~ん・・・服の上からでも思ってたけど、千束、また大きくなったよね?カップサイズ上がった?」
「上がったけどさぁ・・・」
人の胸を揉むだけでサイズ感が分かる我が妹は割と末期なのではないか、と千束はどうでもいい心配をする。
「何それ、ずるくない?」
一方のノバラは千束の胸を揉んでいた手をそのまま、わきわきさせて、納得いかねぇ、とばかりに不貞腐れた表情をしている。
「アンタは変わらずぺたんこだね~」
お返しにとばかりに千束もノバラの胸に手をやるが、最初にくにゅっとした感触があって、次はすぐに骨の感触がする。手に重さも感じない。
やれやれ、と言った表情をすると、ノバラが更に頬を膨らませた。
「ちょっとは成長してるよ、ちょっとは!」
「それって、何ミリだよ?」
「四捨五入すればセンチは大きくなってるんだってば!?」
むきーっ、とノバラが手を上げて主張をするが、その言葉の裏を千束は正確に読み取る。
「ああ・・・ギリ、五ミリくらいね」
からかうように千束がそう言うと、当たらずとも遠からず、あえて四捨五入と言った意味を正確に読み取られた、ノバラは悔しそうにしながら、なおも言い募る。
「九とは言わないけど、八ミリくらいは・・・っ!」
なんと言うか、その必死さが逆にそこまで行ってない感が著しい。妹の必死さ加減を、千束は鼻で笑い飛ばす。
「そんなもん、誤差でしょ。誤差」
ぐぬぬ、と反論できずに、目を潤ませるノバラは一度俯くと、一歩足を踏み出すと、千束にぎゅっと抱き着く。
「・・・せて」
「ん?なに?」
小さいノバラは丁度、顔が千束の胸の谷間に挟まるようになっているが、空気の震えで何か言っているのは分かる。
千束は耳を寄せるようにしてその言葉を聞き取ろうとする。
「・・・吸わせて」
「・・・何て?」
聞き間違いか、と思って、再度聞き返す。千束は若干の身の危険を感じていた。
「おっぱい吸わせて!!」
キリっと己の胸の谷間から顔を上げて、真剣にそんなことを言ってくる妹を千束は力の限り引きはがした。
「何で、そうなんの!?バカなの!?」
実際に吸い付いてこそこないが、離すまいとしがみついてくるノバラは手強かった。
「何かおっきくなるエキスが詰まってるよね!?私にもちょうだい!!」
「何もねぇよ!?よしんばあっても吸わせねぇよ!?」
何とか引きはがしに成功した千束は脱衣場からお風呂場へ退避する。扉を締めようとするも、ノバラが中に入る方が早かった。
「千束ばっかり、ず~る~い~!」
「仕方ねぇだろ!?勝手にでかくなるんだから!?」
その言葉を聞いて、ノバラはあまりの絶望感に膝を折った。
「・・・これが、これこそが、持てる者と持たざる者の差だというのか・・・っ!」
悔しそうにノバラが床を拳で叩く。
千束はそんなノバラの様子に苦笑しながら、慣れた手つきでノバラの両脇を持って抱えると椅子に座らせる。
「ほれ。落ち込んでても洗うからな~」
「・・・うへ~い」
未だご機嫌斜めの様子であったが、幾分大人しくなるのは、習慣のせいだろうか。いつまで経っても変わらないノバラの様子に、千束はおかしくなって、くすりと笑みを零した。
「大体、何でそんなに気にするのさ?」
「え~?無いよりあった方がいいでしょ?」
千束はノバラの髪と体を洗いつつ他愛もない話をする。
「ノバラ、色を知る
「へ?」
「ん?オトコの目が気になるんじゃないの?」
てっきり気になる男子でもできたのかと思えば。
「・・・全然?」
と丸っきり興味ななさそうなノバラ。
「そんじゃ、女子か?」
「う~ん・・・お姉さま方がそういう目で見てくるのは正直勘弁してほしい」
「・・・え、アンタ、もしかして、言い寄られてる?」
ウチの可愛い妹にコナぁかけんなら、ケジメつけさすぞ、と千束は緩く殺気を漂わせる。
「たまぁに、かな?私って、ほら、基本目立たないようにしてるし」
(・・・そうか?)
「朝の自主練が終わった頃って、他のリコリスでも練習好きな真面目ちゃんたちは同じくらいにシャワー浴びたり、お風呂に入ったりするでしょ?まぁ、私は断然お風呂派なんだけどさ。そんときによく一緒になってた年上のお姉さま方とちょっと、ね」
(一人じゃないんかい!?)
「う~ん、でも、アレ、私も悪いのかな~。良い乳があるな~、ってふらふらと、つい・・・ね?」
気持ちは分からなくもないが、はっきり言って、それは完全にノバラが誤解される行動を取っているとしか言いようがない。女子だけの狭い世界だ。単なるおふざけでも、真剣に捉えられれば、それは、別の感情に発展する。それ自体は、まぁ、よくある話ではあるのだ。
「そりゃ、アンタの自業自得だわ。こういう職場なんだから、勘違いさせんなよ」
「だから、最近は気を付けてるんだけどね・・・今度はすみれが」
いつものようにノバラを洗い終えたところで、千束とノバラが交代する。
「すみれ、ね。まぁ、あの馴れ初めなら、アンタが感情移入するのは分かるけど」
正直、以前のノバラだったら、深入りすることはなかっだろう。生きるという意志を持つだけで必死だったということもあるし、千束が離れ、フキが離れ、自分だけが置いて行かれる、そんな気になってがむしゃらだった時期もある。そんな日々を乗り越えて、すみれと会ったときには、気持ちにある種の余裕ができた頃だったのだろう。ノバラもすんなり受け入れる気持ちになったのも、すみれが刷り込みのようにノバラに懐いたのも正に丁度良いタイミングだったとしか言えない。
「・・・意外だった?」
「正直に言うと、ノバラが手を離れたみたいで寂しかった、かな?」
珍しく正直な気持ちを話している千束にノバラは珍しいものを見たような表情をする。
「そっか。千束お姉ちゃんは、寂しかったんだね~」
「あほ。しっかし、すみれを見てると、お前がちゃんとお姉ちゃんをやってたんだってことは良く分かるよ」
すみれは確かに子供っぽい一面はあるが、満更子供でもない。それは、ノバラの教育がしっかりとなされているということでもある。
「でも、それは全部、千束とフキがしてくれたことだよ。私はすみれにそれを返しているだけ」
「・・・それでいいよ。アンタが誰かを愛して、そして、育んでくれているのが、私は嬉しいし、誇らしい」
「そう?ありがと」
はにかんだように、ノバラが照れ臭そうな表情をして、微笑む。
千束の髪を洗い流し終わり、ノバラは体を洗い始める。
「だとすると、すみれの方はちょっと問題かもしれんなー。あの子、絶対アンタのこと好きでしょ?」
「?そりゃそうでしょ?私、お姉ちゃんだもん」
ノバラは何当たり前のこと言ってんの、とばかりにきょとんとしている。
「いや、そうじゃなくて・・・」
「?」
(コイツ・・・鈍感系主人公かっ!?)
というよりも、ノバラ自身が千束やフキに向けている「お姉ちゃん大好き光線」とすみれがノバラに向けている「ノバラちゃん好き好き光線」を同一だと思っているのだ。シチュエーションが似ているから。
外形だけが見えていて、中身が見えていないのだ。
「・・・いっそ、すみれが憐れに思えるなぁ」
「何が?」
「こっちの話だよ!」
千束とすみれが一緒に暮らしていると話題に上がるのは、基本的にノバラの話が多い。すみれはノバラの過去に興味津々だし、千束もこっちにいるとき以外のノバラが何をしているのか気にはなる。自然、そういった話題になってしまうのだが、すみれの言葉の端々から、すみれのノバラに対する想いが分かってしまうのだ。
千束が軽く茶々を入れてやれば、すみれはその素直すぎる性格故に、否定できない。言葉を濁す様子を見て、そうなんだなぁ、と千束は納得していた。
千束自身はノバラが至ってノーマルではあることは承知している。女だらけの環境で育ち、甘えるという自己防衛を働かせている結果の過剰なスキンシップはするものの、悪戯めいた思いはあっても、そこに性的な含みは一切ない。
それを考えれば、すみれの恋心がすみれの想う形で成就することはないだろうとは思っていた。すみれは精神的に子供な割に、妙に耳年増なのか、たまに口から漏れ出す妄想は妙に生々しく千束ですら顔を赤くするほどだが、こういった決着には至ることはないだろう。一番良くて、極めてプラトニックなお付き合いだろうか。
(まぁ、なるようになるだろう)
頑張るのはすみれだし、何ならノバラはすみれに甘いから押し切られる可能性もなくはない。そう考えた千束は、妹達の未来へのことはそっと心の中にしまい込んだ。