Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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千束ちゃんとたきなちゃんはこれでおーけー。


83 Happy breakfast

 翌朝、全く気まずさを見せない千束とノバラはさすがと言ったところだが、今度は千束とたきながぎくしゃくしていた。

 

 原因に気付いているノバラはにやにやと二人を見るに留まるが、訳の分からないすみれはあわあわしている。

 

「・・・ノバラちゃん、私じゃあの間に入るの、荷が重い~~!」

 

 たまらず、すみれは、キッチンで朝食を作っているノバラのところへ退避してきた。

 

「ほっとけばいいのよ」

「え~・・・でもでも、千束ちゃんは何だか、ムスッとしてるし、たきなちゃんは刺々しい感じだし~・・・」

 

 すみれにはこれまで見たことがないほど、険悪に見えた。

 だが、無論、ノバラはそれは表面のことだけだと気づいている。

 何故なら、ばっちり、千束のうなじの辺りにキスマークが残っているのを発見したからだ。思いっきりからかい散らしたいのを我慢しているのは、それを付けたのがたきなだと分かっているからだ。

 

 現在のイニシアチブはたきなが持っているハズなのに、千束が不機嫌そうにしているから、見当違いなことを考えてピリッとしているんだろうな、と想像すると。

 

「うぷぷ。おもろ」

 

 思わず噴き出す。

 心配しているすみれから見れば、不謹慎極まりなかった。

 

「笑いごとじゃないよ、ノバラちゃん!」

 

 すみれは抗議するが、ノバラはけらけらと笑うばかりだ。

 

「いーの、いーの。らぶらぶしてんだから。馬に蹴られるよ?」

 

 その言葉を聞いて、すみれはぽかんとした。

 

 昨日、自分がお風呂に入ってから一体何があったというのか。肝心なところを見ることができなかったではないか。

 

 そんなことを考えるが、それを言えば、ノバラも同じハズなことに気付いて、ノバラがどうしてそんなことに気付いているのか、全く分からないすみれは混乱する。

 

「え、え!?何で何で!?何で急にそんなことになってるの!?」

「そりゃ、大人のお泊りだもの。ちょっとくらい何かあってもおかしくないでしょ?」

 

 大人のお泊りだったのか、とすみれはショックを受ける。

 

「え~!?だって、すみれには何もないじゃん!!」

 

 しかし、だとすれば、何故自分には何もないのか、納得いかない。

 

「すみれはお子様でしょ?」

 

 にべもないノバラの言葉に、すみれは頬を膨らませる。

 

「もう、大人だもん!」

「はいはい。そういうこと言ううちはまだ子供で~す」

 

 軽くノバラにあしらわれたすみれは一層頬を膨らませる。

 

「むぅ!」

「ほら、むくれてないで手伝いなさい」

「・・・は~い」

 

 どんなに不貞腐れていようが、ご飯を作るお手伝いは大事、とすみれは学んで(調教されて)いた。

 

「私、出汁巻き作っちゃうから、すみれは大根ろしといて。優しくね?」

「は~い」

 

 すみれは用意されていたおろし金で大根をすりおろす傍ら、フライパンを操るノバラを見ていた。

 ボウルには溶き卵と出汁汁が合わさったものが既に入っていて、ノバラはそれを適量フライパンに入れると、焼け具合を見ながら、くるくると魔法のように巻いていく。継ぎ足し継ぎ足しで見事に層を作っていく様子なすみれが何度見ても真似できない完成度であった。

 

「相変わらず、すごいね」

 

 すみれの賞賛の声にもノバラは特に特別なことはやっていない、という感じである。

 

「そう?慣れよ、こんなの。あなたは力加減が難しいでしょうけど、それでもずっとやってれば、覚えられるもの。手順と味付けさえ間違えなければ、大体何とかなるし」

「ノバラちゃん。それは、ちゃんとできる人の理屈だと思うんだよね」

 

 ノバラの言葉にすみれは、たはは、と笑う。

 

 世の中、才能とかセンスとかいうものは確かにある。

 その意味で言えば、ノバラは才能とかセンスとかはないのだろう。あるのは努力と工夫で積み上げた後付けだ。極めて普通の人間が、あり得ない努力と練習で天才に挑み続ける、というのがノバラの基本スタンスである。だが、もし、センスがないのではなく、完全に欠損しているとすれば、どうだろう。どれだけ努力を積み重ねてもその穴を埋めることはできないのだろうか。ノバラなら埋められないじゃなく、四の五の言わず埋めるまでやれとか言いそうではある。

 

「余程の味音痴じゃなければ、練習が足りないのよ、練習が。センス云々を言う前に、嫌というほど、練習してから言え、ってね」

 

 まぁ、それでも味音痴というか味覚が欠如していれば、確かにレシピ通りに作れば何とかなりはするだろうが、自分では分からないので、それはそれで無駄な努力になってしまうだろう。

 努力は正しい方向に努力しなければ意味がない。

 それはすみれもノバラから口を酸っぱくして言われ続けていることだ。

 

「大根おろしできたよ」

 

 ノバラは出来上がった大きな出汁巻きたまごをカットしていた。

 

「あ、お皿出して」

「はいは~い」

 

 ノバラがお皿に出汁巻きたまごと大根おろしを乗せる。皿の上にはさらに昆布の佃煮、明太子、梅干しが乗せられている。昨日の残りのシチューも温められているようだ。

 

 料理を運ぼうとしたノバラは、千束とたきなが未だにリビングの方でうだうだとしているのを見て、イラっとした。

 

(うーん。我が姉ながら面倒臭い!!)

 

「ほら、二人とも、イチャイチャしてたのは分かったから、早くご飯食べる用意して!」

 

 ノバラが二人に向けてそう言うと、まず千束がボンッと顔を真っ赤にした。

 

「イ、イチャイチャなんてしてない!?」

「じゃあ、らぶらぶ」

「らぶっ!?」

 

 普段の千束であれば、もう少しノバラの言葉を封じるようなことが言えたのであろうが、今日に限っては姉パワーは振るっていなかった。完全にノバラのペースである。

 

「たきなも言いたいことあるならさっさと言って!どうせ、千束は照れてるか、肩透かしされて不貞腐れてるだけで怒ってるわけじゃないから」

 

 ノバラの言葉にたきなも体をぴくりと反応させる。

 

「そう・・・なんですか、千束?」

「え、いや、怒ってない、怒ってない!?怒る要素なんてあった!?」

 

 自分の態度がたきなにそんな風に捉えられているとは、思っていなかった千束は思わず慌てる。

 

「私、てっきり、千束を不快にさせてしまったのかと・・・」

「不快になんてなるわけないでしょ!?嬉しいくらいなんだから!」

 

 千束の言葉を聞いて、たきなはぱぁっと輝やくような笑顔を見せる。

 

(うわ、浄化される!?)

(はぅ!?たきなちゃん、可愛すぎ!)

 

 全く関係のないところで、ノバラとすみれがたきなの笑顔に当てられた。

 

 関係のない二人でこれだ。

 真正面からそれを浴びた千束は完全に頭が真っ白になった。

 

「千束っ!」

 

 そして、そこに不意打ち気味にたきなが抱き着く。

 千束の脳は完全にショートした。

 

 それでも条件反射的に抱き返しているのは愛故にだろうか。

 

 その様子をノバラはにまにまと眺めている一方、すみれは両手で顔を覆うようにしていた。しかし、指の間は完全に開いているので、顔を真っ赤にしながら、涎を流しそうな勢いでガン見している状態であった。

 

 たきなを抱きしめて、その体温に触れてしばし。

 ようやっと千束の脳は再起動を終える。

 

 正面には抱き着いているたきな。

 見えないが、背後からはノバラとすみれの視線をひしひしと感じている。

 

 そして、何か凄い期待されていることも。

 

(・・・こ、ここから先、一体、何をどうすればいいの!?)

 

 だが、如何せん経験値の少ない千束はここから先の展開へ考えが巡らない。

 大した時間が過ぎたわけでもないのに、千束の中で数分、数時間にすら思えていた。

 

(あ・・・たきな、いい匂い・・・)

 

 抱き着かれている千束には、自然とたきなの全身の匂いが飛び込んでくる。

 

 シャンプーの匂い。トリートメントの匂い。寝る前に付けていた化粧水の匂い。ボディソープの匂い。一緒に寝ていたからか、自分の匂いも混ざっている。しかし、それよりも圧倒的に感じるたきなの匂い。

 

 眩暈さえするような気がした、無意識の中で。

 

 千束は柔らかそうに見えたたきなの頬に、ちゅ、と口づけをする。

 

「・・・たきな」

 

 その千束の口づけと声に気づいたたきなが一瞬離れて、微笑んで千束を見つめると、そのまま近づく。

 

 ああ、キスをするんだな、と思った千束が軽く目を瞑る。

 

 そして、訪れるぷにゅっとした柔らかな感触・・・。

 

「△□×〇※!?」

 

 と同時に予想していなかった口の中へ侵入してくるヌルっとした感触。千束は思わず呻き声を発する。

 

「うっわ・・・」

「ひゃあ~・・・」

 

 ノバラは、マジか、と慄き、すみれは顔を真っ赤にさせて、どきどきしていた。

 

 しかし、千束はそれどころではなかった。

 

(知らない!?こんなの、私、知らない!?ディープキスってやつ!?何これ!?やばいんだけど!?)

 

 控え目に言っても気持ち良さが尋常ではなかった。たきなが支えているから、何とか立っていられるだけで、あまりの気持ちの良さに腰が抜けそうだった。実際、すでに膝はぷるぷるしている。

 

 たきなの舌が千束口の中を蹂躙する。

 息苦しくも甘美な快感を求めて、たきなの舌に千束の舌が絡む。

 

 にちゅ、にゅち、ちゅぷっ。

 

 ちゅる、とたきなが千束の舌を吸うようにしながら、顔を離した瞬間、千束はぺたっと床にへたり込んだ。

 

 ちろり、とたきなが自分の唇を舐めた瞬間に見えた、赤い舌が艶めかしい。千束はそれをぼぅっと見つめていた。

 

「千束・・・大丈夫ですか?」

 

 少しだけ顔を赤くしながら、クスっと微笑むたきなの顔を千束はまともに見ることができずに俯いた。

 

「・・・た、たきなさんや」

「はい?」

「何すんのぉぉぉ!?腰が抜けて動けないんですけどぉぉぉ!?そんでもって、ノバラとすみれにめっちゃ見られてるんですけどぉぉぉ!?」

 

 千束は嘆いた。

 

 雰囲気的にはそういう雰囲気だったけど、求めてたのはここまででは決してない。

 こういうのは、もっと、ロマンチックな雰囲気で二人きりでお願いしたいところ。

 それが、こんな、妹たちの前でとか恥ずか死ぬ。

 

「いや~、いいもん見れた。寿命が五年は伸びるわ~」

「はわわわわわわ・・・こりぇはしゅみれがみてもよかったの・・・・?」

 

 ノバラはじれじれ状態がやっとこさ解消されてすっきりした顔をしているが、すみれは完全にオーバーヒートしていた。刺激が強すぎる。

 

 たきなはノバラたちの言葉で、今気づいたように顔を真っ赤にした。

 

 起き抜けから、千束が不満そうな顔をしていたから、気が気ではなかったのだ。正直、ノバラが声を掛けてきたのも、耳にこそ入ってきていたが、都合のいいところだけ聞こえて、ノバラの存在を認識していなかった。

 

 急に恥ずかしくなったたきなは両手で顔を隠してしゃがみこんだ。

 

「えー・・・しょっく、たきな、私のこと認識してなかったんだー。それとも、そんなに、千束にむちゅうだったのかなー?」

 

 わざとらしいノバラの笑い含みの声に、たきなは頭から湯気を出すようにして恥ずかしがっている。

 

「いっそ!いっそ、殺してくださいっ・・・!!」

 

 真に迫っている声だった。

 

 ちゃんとノバラたちがいることをよりはっきり認識していれば、少なくともあそこまではやらなかった。

 

 その程度の理性は残っていたハズなのに、とたきなは嘆く。

 

「えー、そんなことしないよ。そんなことしたら、お姉ちゃんが未亡人になっちゃうでしょ?・・・大事にしてよね?私の大切なお姉ちゃん」

 

 しゃがみ込んでいるたきなの肩をノバラが優しく叩く。

 

「ノバラ・・・!」

 

 何て優しい子、とたきなが感激して顔を上げると、そこにはスマホの画面があった。

 

「・・・?」

 

 何だろう、とたきなが思っていると動画が再生される。

 

『ちゅ・・・『・・・たきな』・・・ぷにゅ、『△□×〇※!?』・・・にちゅ、にゅち、ちゅぷっ・・・ちゅる』

 

「「・・・は!?」」

 

 最初から最後までもの凄くいい角度で撮られていた。

 たきなが舌をいれる瞬間から、たきなが舌を引き抜いたとき、少しだけ、千束も舌を出していて、たきなが零れる唾液を啜っている様子まで。

 実に克明に記録されていた。

 

「いやー、いいもん撮れたわー、ミズキに送ってやろ」

 

 更に追い打ちを掛けるように、スマホを操作し始めるノバラ。

 

 千束とたきなは顔を青くした。

 

「やめっ!?やめろぉ!?」

「どうやって、撮ったんですか!?ノバラの位置じゃ、そんながっつり舌入ってるところ撮れないでしょう!?」

「さぁて、何ででしょうねー?」

「消せ!消しやがれー!・・・あ、でも、その前にデータは頂戴。記念に」

「消しなさい、ノバラ!・・・データは私も欲しいですね。ノバラ、スマホを渡しなさい!」

「やだもーん!」

「あ、あのー、三人とも、朝ご飯冷めちゃうよ?」

 

 ドタバタとした朝。

 

 それでも朝食は幸せの味がした。

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