Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
今年も よろしくお付き合いください
お正月特別企画とかやりませんが
準備を終えたたきなとノバラがエントランスまで下りてくると、タイミングを見計らったようにやってきた黒のミニバンが横付けされた。ノバラが躊躇なく乗り込むので、たきなもその車に続いて乗り込んだ。
「おはよう、たきな、ノバラちゃん」
「おはよう」
中に乗ってみれば、見慣れた顔を二つ、運転手席と助手席に発見したたきなは目をぱちくりさせた。
「おはよう、エリカ、ヒバナ。今日はよろしくねー・・・あと、何でいるの、
「はぅん!隊長殿、相変わらず、辛辣でありますな!小生、隊長殿のお力になりたく志願した次第でありますぅ!」
ノバラはエリカとヒバナが来るのは知っていたみたいだが、かやと呼ばれる少女が同道しているの承知していなかったような、微妙に不審そうな顔をしている。
「おはようございます。エリカ、ヒバナ。それとかやさん?急遽で申し訳ありませんが、今回は私も参加させていただきます」
たきなも席に着いた上で、ノバラに続いて挨拶をすると、エリカは楽しそうに手を振ると、ちょっとだけ目つきを変えながら、車を発進させる。
たきなの顔を見ながら最後列に荷物と一緒に座っているかやがきらきらと瞳を輝かせていた。
「おおっ!こちら、『片翼』殿でありますか!?感激であります!」
『片翼』とは何だろう、とたきなが首を捻っていると、先にノバラが吠えた。
「かや、うっさい!・・・あなたじゃなく、ももちゃんが来る手はずだったはずなのに」
「ああ・・・ももちゃん先輩はせりとすずなに付いていくように楠木司令から申しつけられておりまして」
「くぁ!?楠木さんめ!さすがに、そっちには手を入れてきたか!?」
やられたー、とノバラが額に手をやっている。
ノバラは、是非にと引き抜きをかけた二人の人事異動があっさりと決まったことに内心拍子抜けしていたが、楠木が問題児を一人送り込んできたことに、さすが、と心の中で毒付いた。
はぁ、と深いため息をつくノバラをよそに、奥の席に座っているかやはたきなに向かって敬礼のポーズを取る。
「『片翼』殿、申し遅れました。小生、DA本部臨時特別選抜部隊、通称『ノバラ組』、構成員サードの『かや』と申す者であります!」
「私が認知していない部隊名上げるのやめてくれる?というか、あなた、会う度仰々しくなってないかしら?」
ノバラはかやの自己紹介にため息交じりで答えているが、たきなはたきなで聞き捨てならないことがあった。
「そんなことどうでもいいです!ノバラ、私の『片翼』っていうのは何なんですか!?」
「『比翼』の方がお好みでありましたか?それとも『鴛鴦』の方が?」
かやのちょっとずれた返しにたきなは若干顔を顰める。
「えー・・・たきな、ちょっと無頓着すぎない?たきなの通り名じゃん。まぁ、これって誰が付けるものでもないけど。いつの間にか定着するんだよね。私もそうだった」
経験者は語る。
こんなこっ恥ずかしい通り名なんて自ら名乗るものではない。
噂好きのリコリスがそっと耳打ちしてこっそり広がって、知った時にはもう遅いような代物なのである。
「隊長殿の『
「よくそんなマイナーなのまで知ってるね?」
「リサーチしました故に!」
うわぁ、コイツ気持ち悪い、という表情でノバラがかやを見るが、かやはむしろ嬉しそうにしていた。
「・・・ちょっと、情報を整理させてください。『片翼』、『比翼』、『鴛鴦』、これ全部私の通り名なんですか・・・?」
愕然としたたきなにノバラがきょとんという顔をした。
何を今更、という感じである。
「そうだよ?ねぇ、エリカ、ヒバナ?」
ノバラの問いかけに二人はちょっと答えにくそうにしている。
「あー・・・そうだねー」
「・・・まぁ、よく聞くのはそれだな」
二人が言葉を濁すのには訳がある。
この他に『相思』とか、『相愛』とか、『紅蒼の百合』とか・・・離れ技では『たきな神』とか訳分からんものまである。
特に『たきな神』。手の届かないレベルのお姉様を射止めたその霊験に肖る為、後輩リコリス達が熱心に崇めているらしい・・・リコリスはどうしてそうなった・・・。
この辺の事情を承知している二人は、当人たちのことを知っているだけに頭が痛い。
延空木事件にしろ、模擬戦の後の打ち上げにしろ、二人がそうなってもおかしくないな、との印象は受けていたものの、周りが勝手に盛り上がるのはよろしくない、とも思っている。
たきなはあまりの恥ずかしさに顔を耳まで赤くして両手で顔を隠した。
「な、何で、そんなことになってるんですか!?」
自分の知らないところでそんな風に盛り上がっているとは露とも知らなかったたきなには恥ずかしさしかない。
これが、まだ互いに想いを打ち明ける前であれば、「ほ~ん?」くらいで済んでいたかもしれないが、今はもう無理だった。
「そりゃ、たきなが単身千束を助けに行ったのが美談にされてるからでしょ?愛する相棒を云々、ってね?」
事実、ノバラにもあの一件のリコリス内での公式見解はそういう内容の美談として知らされている。もっともノバラの場合、もう少し上の機密データを覗き見ることができるので、両方見ながら、げらげら笑っていたわけであるが。
「愛してますけど、あのときはそういうのじゃないです!?」
そして、たきなは盛大に墓穴を掘った。
当時を振り返ってみても、単純な友情でないことは明らかなのは自覚はあるが、少なくとも今のようにでろでろした重苦しい感じのものではなかったハズと思い、思わず口に出た。
全く見知らぬ者であれば、流される可能性もなきにしもあらずではあったが、エリカとヒバナは元チームメイトである。たきなの言葉の裏にあるものを正確に読み取った。
「ふーん・・・『あのときは』、ね」
「はー・・・『あのときは』、か」
『あのときは』を含み笑いで揶揄されて、たきなはハッとする。
・・・これでは、その通り名の中身を認めてしまうことになってしまうではないか!
ちらり、と目だけ手から出すものの、バックミラー越しにエリカとヒバナのニヤニヤ顔が見える。
分かってるよ、という感じであった。
「いっそ!・・・いっそ殺してくださいっ!!」
車の中でなければ、恥ずかしさのあまり逃走したい気分のたきなだった。何なら今からでもドアを開けて逃げ出したい。システム上、開く訳ないのが分かっているのでやらないが。
「はて?そんなに恥ずかしいことでありますか?お恥ずかしながら、小生、こういったことにはとんと疎く・・・もしや、小生の隊長殿に対する敬愛もあまりよろしくない?」
首を傾げて疑問を呈したかやにたきながきらきらとした笑顔を向ける。
かやさん、なんて純粋でいい子なの、といったところであろうか。
こうも真っすぐ『愛』に対する疑問を向けられると、エリカとヒバナもちょっとトーンダウンせざるを得ない。
だが、ノバラは何となくかやが気持ち悪い。
『愛』だの『恋』だの実害が無ければ、自分を相手にしようが好きにしてくれというのがノバラの正直な感想なのだが、経験上、かやのそれはよろしくないと感じていた。
「・・・ちなみに、あなたの私に対する敬愛ってどんなの?」
ノバラの質問にかやは、よくぞ聞いてくれた、とばかりにぱぁっと顔を輝かせた。
「一日中でも隊長殿の罵声を浴びていたいでありますな!この間の模擬戦も実に容赦なくて最高でありました!痛烈なボディから容赦なく、側頭部を蹴られて、綺麗に逝けましたし。好きなんですよね、あのバチバチと白い世界から暗黒に堕ちる感じが何とも。いやー・・・作戦の最中も、こう、幼いのに凛とした声で、厳しい命令を出されて。あの大変冷たいお声が何ともゾクゾクする感じで、控え目に言って、至高でありましたな!」
・・・変態だった。
「何で私の周りはこんなんばっかなのよぉぉぉぉ!?」
贅沢は言わないからもう少しまとまな子が一人くらい近くに欲しい、とノバラは涙ぐみながら祈った。
かやちゃんはドMです。
たぶん、せりちゃんも、すずなちゃんも。
更にはすみれちゃんも。
ドMに囲まれるノバラちゃんは当然ドSです。