Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「あ~・・・空からまともな子が落ちてこないかな~・・・」
ノバラがそんなことをブツブツと口しながら、昏い目をして、遠くを見つめるようになってしばし。
カーナビとヘッドレストモニターの画面が切り替わる。
そこに映された顔を見て、たきなはぎょっとした。
『・・・作戦司令官の楠木だ。移動中の者はそのまま聞け』
楠木が音声のみではなく、直接リコリスに作戦を伝達している。
それは、即ち、相当な規模の作戦であるということである。
たきなは思わず隣にいるノバラを見る。
気軽に連れ出しておきながら、そんなに重要な任務とはまるで思わなかったからだ。
ノバラを問い質そうして、たきなはハッとする。
そこには、これまでたきなが見たことのないノバラの姿があった。
先ほどまでだれている様子であったのに、口元はきりりと結ばれている。
いつものとおり長めの前髪に隠されていた瞳は、その髪の間からのぞく瞳がギラギラと獲物を狙っているようであった。
無意識の内にたきなはごくりと喉を鳴らした。
『作戦目標を説明する。今回の作戦は、国内でテロを画策ないし幇助している武装戦力の殲滅となる。××ホテル最上階、その2階下までが、敵勢力が潜伏している。装備は、拳銃、自動小銃のほか、爆発物があるものと想定すること。なお、機械化された人員を確認している。止めを刺す場合は、頭部と心臓部、この二つを確実に潰せ』
ホテルの見取り図、武装データなどが次々表示されていく。
そして、注釈で出された『機械化された人員』は大柄な男性が表示されたが、たきなには心当たりがあった。
軽度の者では腕だけを。重度の者では、脳と内臓の一部以外のほとんどを機械に置換しているという狂気の沙汰。そんなものを用意できる組織がいくつもあるとは思えない。
(これって、まさか
ノバラにとっては因縁深い相手であろう。
たきなが思い至ったのであるからノバラが気付かない訳もない。だと言うのに、ノバラは顔色一つ変えていないことから、その相手も承知済、ということだろう。
『作戦の詳細を説明する。最も警戒が厚い最上階は、作戦指揮官を含むアタックチームで強襲する。そこ以外は、通常作戦チームを四チームに分けて攻撃を掛ける。北側階下をA、階上をB、南側階下をC、階上をDとして、全ての部屋を虱潰しだ。お残しはするなよ?』
その説明を聞いて、たきなはまさかとノバラを横目で見ると、当たり、とばかりにふふん、と笑っていた。
つまりは、ここにいる五人はアタックチームということだ。
エリカ、ヒバナも承知しているのか、若干苦笑気味だが、分かっていなさそうなかやだけが、小首を傾げている。
『作戦開始と同時、一時的に該当階の電源を全て落とす。きっかり十秒後には再起動させ、その際に全ての電子錠を解除する手はずとなっている。念のため、各チームのリーダーのセカンドには、マスターキーデータを送付する。忘れずにアクティブにしておくこと』
(スマホがキー代わりなのは、珍しくないとは言え、マスターキーデータなんてどうやって?)
たきなが疑問に思っていると、楠木から、種明かしがされる。
『なお、ホテルの従業員、客全てが
あまりの規模にたきなは、口をぽかんと開けた。
今日の作戦だけのために、そこまでするということは、DA上層部が。いや、政府が本腰を上げているのだと、たきなは認識した。
作戦説明を聞くまでもなく、たきなも知っているかなり大きいホテルである。このホテルに、不自然にならない程度には客を入れ、かつ、従業員を入れ替える。準備期間を考えれば、延空木事件直後に動いても間に合うかどうか。下手をすれば、事件以前から段取りが組まれていたということもあり得る。
(まさか、ノバラはこれのために派遣された?いや、でもそれはどうにも『変』ですね?
DA本部は現在戦力が不足していると言っても、ここまで準備できているのだ。あえてノバラを投入する必要がどの程度あるのか、と問われれば、微妙である。強襲という点ではノバラ向きではあるが、その余は割とガチンコだ。損害を考慮に入れないのであれば、人数で押し切るのは不可能ではない。
(やはり、これは違う。だとすれば、これ以上のものが、ノバラの『本命』ということに・・・!?)
たきなは、ノバラの『引き』の強さに思わず、うわぁ、と声が出そうになるところを、もにょもにょと口を動かして誤魔化した。
そんなたきなの様子を画面越しの楠木が笑ったような気がした。
『最後に現場作戦指揮官から挨拶を』
その言葉にたきが驚いて横を見れば、ノバラが微笑を浮かべている。
そして、画面の映像もノバラのものに切り替わった。
普段の悪戯っぽい表情を引っ込めて、心なしか顔を引き締めたノバラの淡い笑みが表示されている。
「本作戦の指揮を執ります、DA仙台支部特殊作戦群所属、DA本部臨時特別選抜部隊隊長の最上ノバラです。まずは、本作戦には志願して参加した者が多くいると伺っています。あなたたちの勇気と忠心に感謝を。さて、楠木司令から予め説明のあったとおり、本作戦は内憂を取り除くものです。これこそ、我らリコリスの使命!リコリスの本懐!
(う~ん・・・ノバラ、可愛いですね・・・って、違います!?)
妹分の言葉にへにゃり、と顔を緩めそうになったたきなは頬のあたりを押さえて表情を取り繕った。
ノバラに鼻を伸ばしているのを知ったら、千束が焼きもち焼きそうという思いと若干の後ろめたさがあった。
浮気しているわけでもないけど、他の女の子に目移りしていてバツが悪くなる的ななにかだ。ノバラは妹枠なので、セーフだと思うが。
(それにしても、ノバラの言葉は熱くなるよりも、どちらかと言うとピリッとします。フキさんも確かにピリッとする感じの言葉を掛けていましたが、心の奥が熱くなる感じでした。ノバラの場合、任務に徹しろ、という冷たい圧がありますね)
チラリと社内の他の面子に目を向けてみれば、エリカとヒバナは楽しそうにしているが、かやは顔を引き締めなおしていた。
『・・・以上だ。作戦開始は一二〇〇。一一五五に突入開始場所待機とする。時計合わせ』
画面に時計が表示されるので、運転中のエリカ以外が時計を手にして時間を合わせる。
カチリ、という音とともにたきなはりゅうずを押し込んだ。
現在時刻、一一三四。
ホテルのエントランスにエリカが車を横付けした。
ノバラが車から降りると、先に止まっていたバスからリコリスたちが降車を始める。統制されたものではなく、互いに笑いあったり、話たりしながら。
外から見れば、修学旅行の女子学生に見えるだろう。
比較的大規模に動員しようが、多くの者が日常の風景として捉えてくれる。
正にリコリスのリコリスによるリコリスらしい、仕事の一幕と言えるだろう。
ごく自然にリコリスたちは現地入りした。