Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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エリカちゃんは優秀だと思います。


88 Snake Eyes

「さ~て。ちょっと本気出しちゃおうかな!」

 

 一人目の男の首にナイフを突き立てたノバラは、相手が次の行動に移るよりも早く駆け出した。

 

 それはノバラの後から見ていたたきなでさえ見失ってしまうような動きだった。

 

 五メートルほどの距離にいた三人を、ほぼ一瞬の内に刺し貫いた。

 

 顎下から一突き。

 後頭部から一突き。

 眼窩に一突き。

 

 相手に反応すら許さない。

 

「ふーむ・・・()()()()()()

 

 つまらん、とノバラはナイフを振って、血を払う。

 

 もっと、機械化したものが多いと思っていたが、ごく普通の人間だった。武装はしているが。

 

 ため息をつきながら、ノバラは一歩踏み出し、次の瞬間に、元いた場所を銃弾が塗り潰す。

 ドアを蹴り破り、そこから出てきた男の姿をノバラは確認して・・・。

 

 ・・・そして、無視した。

 

 パシュパシュ、と軽い音がする。

 

 ドサリ、と倒れた男を見れば、事前に説明されたセオリーどおりに、心臓部と頭部のど真ん中が撃ち抜かれている。

 

「さすが」

 

 ぷひゅ~、と下手くそな口笛をするノバラにサプレッサーのついたM&Pを構えるたきなは呆れ顔だ。

 

「『さすが』、じゃありません!警戒してください」

「だって、たきなが後にいるんだから、そんな無駄なことをしないよ。愛してるよー、たきな」

 

 ノバラの口調こそふざけているが、その視線は油断なく四方に巡らされている。

 

「はぁ・・・すみれにもそんな調子なんですか?」

 

 たきなは軽口だと分かっているから特段気にもしなかったが、これがすみれだったらどうだろうか、と考える。十中八九、わたわたと慌てるから仕事にならんだろうな、と思う。残りの可能性は、興奮し過ぎて気付かないのが一番可能性が高い。

 

「えー?あの子に言ったら、本気にしそうだから言わないよ・・・あれ、言ったことあるかも?」

 

 自分の言動にあんまり自信のないノバラは、首を傾げて、難しい顔をしている。

 

「ふふっ。じゃあ、ハネムーンの二番手はノバラということになりますね?」

 

 お返しとばかりにたきなが揶揄い返すと、ノバラはにやり、と笑みを浮かべる。

 

 こちらの騒ぎに気付いた護衛が銃を抜いて、狙いを付けようとしている。

 

「一番手は?」

「譲ってあげません!」

 

 ノバラがナイフを構えて走り出すより早く、たきなが銃撃を開始する。

 

 そして、その射線の下を前傾姿勢で身を低くしたノバラが疾駆する。

 

 ノバラは当然たきなを視界に入れていないから、その弾道を予測しているわけではない。信じているだけだ。

 

(たきなの腕で私に当たることなんてあり得ない!)

 

 一方のたきなもノバラの動きを当然として受け入れる。弾道は読まれていなくても、射撃のタイミングは読まれている。だから、信じるだけだ。

 

(ノバラがこの程度で当たることなんてあり得ません!)

 

 即席でも十分以上の呼吸の合わせ方である。

 

 北側廊下とエレベーターホールまでの制圧はすぐであった。

 

 

 作戦開始の少し前、かやは先輩二人の顔をこっそり覗いていた。

 

 移動中に車の中で自己紹介程度に話をしたが、話題もないかやは基本的にエリカとヒバナの会話を聞いていた形で、たまに話を振られて談笑したくらいだ。

 二人の性格はまだ掴み切れていない。

 ノバラが動員可能なセカンドの中(ただし、たきなは任意参加なので例外である)で、直接指名したセカンドである。なお、本来、かやの役割を担うはずであったセカンド、『相馬すもも』は、任務の都合上外れているので、実質、この二人だけがノバラの眼鏡に適ったということになる。

 現在、臨時ではあるものの、ノバラが直轄している『性根更生会ノバラ組』構成員のかやとしてはその実力が気になるところである。

 ちなみに『性根更生会ノバラ組』は構成員自らが自嘲と自重を込めて呼んでいるので特にイジメとかではない。アホほど訓練するので、イジメとか何とか言っている余裕すらないのだ。

 

「かやは練習疲れとかないのか?」

 

 見た目怖そうなヒバナは意外にも色々気を使ってくれて結構優しい。

 

「小生、意外に頑丈でありまして。ベストかと言われると疑問はありますが、作戦行動には支障ないと考える次第」

 

 苦笑気味にぽんぽんと肩を叩いて、大変だな、と言ってくれるヒバナは実際良い人なのだろう、とかやは考える。

 おそらく、ノバラが課しているであろう訓練内容もある程度承知しているのだろう。

 

 正直、『性根更生会ノバラ組』の結成秘話はあんまりよろしいものではない。

 

 急遽地方からファーストとセカンドに繰り上げされたリコリスを中心に、先の延空木事件に対する一方的な評価が野火のように広がった。公式的な見解ですらないのに、ファーストに抜擢されたリコリスの言うことだから、と。

 かやは本部訓練生ではなく、名古屋支部訓練生だったが、同期の中でも特に使い減りしないという当たりが評価されたのか、本部へ転属の上、サードとなった。

 かやは配属先があまり良くなかった。件のファーストの管轄するチームに配属となったので、同僚達からそういった話を聞かせられては、そういうものか、と信じてしまった。

 同じチームでこそなかったが、せりとすずなも同じような環境ではあっただろう。違いがあるとすれば、せりは自分のことに精一杯で、積極的に同意する状況になかったこと、すずなの場合は、アホらしい、と適当に話を流していたことくらいだろうか。

 一方のかやと言えば、本部でサードになった、ということに有頂天になっていて、小雀のようにペラペラと話してしまっていた。今考えてみれば、思慮が足りなかったとは思う。

 

 結果、ラジアータに抹殺対象に認定されるに至る。

 

 無論、コストパフォーマンス的に単純に処理されるなんていうことはなく、ノバラと模擬戦をさせられて、鼻をポッキリ折られたわけであるが。

 なお、その模擬戦でぶん投げられた件のファーストを受け止めたのがかやである。

 件のファーストが管轄するチームに配属されたいた者については、模擬戦に参加した者、参加しなかった者関係なく、須らく精神汚染の有無とメンタルチェックを掛けられ、精神的にも行動にも問題無かった者は、実力に応じて振り分け、再訓練が必要とされた者(この代表はせり)はノバラ組に、それ以外(こちらはすずな。ただし、おってノバラに引き抜かれる)は、通常チームへと配属し直しされている。そして、精神的に問題はなくとも、行動に問題があった者は『再教育プログラム』を課され、強制的にノバラの訓練プログラムが実施されている。教官達の専門的知識が使われているわけでもないノバラのプログラムが採用されているのは、頭おかしい練習量だが、壊れないことは色んなところで実証されているからだ。札幌支部と仙台支部の訓練生には合掌するしかない。さらには、このプログラムを完遂した者は、すずなのごとく強靭なタフネスとちょっとしたことでは動じない精神性を得られることから、一部の上層部には高評価である。大半からはその練習量からドン引きされているが。

 なお、精神にも行動にも問題があった者は色んな意味で現在療養中ということになっている、とかやは承知している。

 

 これらの事情については、ヒバナも、そしてエリカも承知しているであろうし、それを承知していて、思うところはあるだろうに、それを飲み込んで気を使ってくれるヒバナを、良い人だなー、とかやは評しているのである。

 

 一方のエリカと言えば、にこにこしていて、人当たりは悪くはないのだが、ヒバナに比べれば、壁があるような気がしていた。特にエリカは、全国中継にもバシバシ映っていたので、かやが広めてしまった悪口は直接的にエリカを貶めるものであるから仕方ないと言えば、仕方ないのだが。

 

 作戦開始時刻一二〇〇。

 

 かやは電源の復旧に合わせて非常扉を開けようと待機していたが、扉の先を睨むような視線をしていたエリカに扉を開けるのを止められた。

 

(一斉突入のはずなのにどうして?)

 

 電源復旧から数秒から数十秒。

 エリカは突入を故意に遅らせた。

 

 かやにはそのとき、理由は分からなかったが、突入の後にその効果を知る。

 

 他の階では同時突入の奇襲であるからこそ、作戦の効果があるところ、最上階だけは事情が異なった。

 他の階であれば、突入と同時銃撃戦が北南同時に始まったが、最上階だけは派手な銃撃戦になることなく、北側が一瞬で沈黙することとなる。

 よって、敵南側の人員は突入のあった北側への応援を逡巡する。

 

 その迷いの間をエリカは突いた。

 

 作戦開始、北側突入から数十秒後、エリカはかやに扉を開けさせると、悠々と廊下に入って、後ろを向いている男をセオリー通りに二射。後を追うように入ったヒバナがそれに続いて、更に二射。他の気付いた者が振り向くより先に、更にエリカが二射する。

 

 結果、南側扉付近に待機していた人員を一方的に蹂躙した。

 

「さぁ、かやちゃん?『焦らずゆっくり押して行って』しまいましょう?」

 

 そう言って、ゆるっと笑ったエリカが手近な部屋を開けると、中に向けて銃を乱射する。中からはドサリと人の倒れる音がした。

 

 ゆるふわな可愛い外見をしていながら、作戦の意味を理解して、獲物の隙を逃さない。

 

(なるほど、『蛇ノ目』。名は体を表すとは言いますが)

 

 ゴクリ、とかやは唾を飲み込んだ。

 

 さすが、ノバラが指名しただけのことはある実力さと理解した。

 

「どうしたの、かやちゃん?()()()()()()()()?」

 

 普段と変わらぬニコニコ笑顔のエリカではあるが、その笑顔の圧力でかやはせっつかれるように感じた。

 

「はぃぃ!かしこまりました!エリカお姉さま!!」

 

(はぁぁぁん!?隊長殿はすんばらしいでありますが、エリカお姉さまのこれはこれで!!)

 

 人知れず興奮して、はぁはぁと息を荒げながら、部屋を一つ一つ攻略していくかやの様子を変な生き物を見る目でエリカは見ていた。




性根更生会ノバラ組 標準訓練プログラム

朝5時に起きて20キロランニング
死ぬほど朝飯を食わされて、重装備背負って延々とランニング
昼は少なめで、防具なしの体術訓練
射撃訓練は少なめで、残りの時間は基礎トレ
夜は再び死ぬほど食わされて自主練タイム
基本的に皆ランニングか基礎トレか座学
遅くとも二十四時には就寝

という感じを想定。

構成員が一番恐れているのは、たまにやってくるノバラの体術訓練である。
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