Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
『改めましてDA仙台支部から出向してきました「最上ノバラ」です』
『同じく「伊達すみれ」でーす』
たきなは湯舟につかりながら、今日、リコリコにやってきた二人を思い出す。
同い年、というにはちょっと無理があるようなコンビであった。
ノバラはある一線を超えなければ、喋り方も仕草も大人っぽさを感じるが、小学生と見紛うばかりには育っていなかった。千束は三つ下だ、と言っていたが、初見であれば、もっと下に見てしまうだろう。
一方ですみれの方は、色々育っている割には、言葉の端々が幼かった。少しだけ話した感じから、悪い人間ではないだろうが、良くも悪くも普通に思えた。
何ともちぐはぐな二人組である。
(……察するに、訳あり、でしょうね)
触れた感じ、ノバラの身体能力はさほど高くない。得意分野からすれば、徹底的に身を潜めてのヒット・アンド・アウェイが彼女のスタイルだろう。体力勝負であれば、自分に分がありそうだとは思うが、千束の妙な信頼感からすれば不気味に映る。
(千束の同類でしょうか)
弾丸を避ける、というのは、千束の動体視力、観察力、身体能力が合わさって初めてできる技だ。だが、千束曰く、それらが足りなくても、再現は可能だと言う。そう言うからには、実例がある訳で……。
(『妹』と呼ぶからには彼女がそうなんでしょうね)
いくら何でも千束と同様にとは行かないまでも、一定程度は再現してくるだろう。だが、思うに、彼女の戦闘スタイルは千束は真逆と言ってもいい。
弾丸を避け、前に進む、派手な戦闘スタイルな千束。
弾丸を避け、陰に潜む、地味な戦闘スタイルなノバラ。
頭の中で考えて見ると、不思議と相性の良い組み合わせのように思えてしまう。
自分の前に、千束とペアを組んでいた者はいなかった。
それは千束が、DAの外に出てしまったからでもあるが。
並び立つ者がいなかった、ということもあるだろう。
だが、言葉遊びの上では、ノバラは千束の死角を埋めることのできる稀有な人材のはずなのだ。
「たきなー、髪洗ってやるからきなー」
たきなはもやもやとしたものを抱えたまま、千束のセーフハウスに泊まりに来ていた。ちなみに、元々の予定であり、ノバラに対する対抗心ではない。
「自分で洗えますよ」
などと言いながらも、ちゃっかりと椅子に座ってスタンバイするたきな。
「いいじゃん、せっかくなんだし」
にひひ、と笑う千束の笑顔にたきなは顔を赤くした。
ついでに、千束の裸体は、暴力的である。ぽよんぽよんしているのに、締まるところは締まっていて、非常にメリハリの効いた体型をしている。
『ぱーふぇくとです。でぃもーるとべねです』
あの子はこれと比べて、自分の何をそう評したのだろうか、などと頭の隅で考える。戦力は圧倒的に不足している。
千束はたきなの髪を軽くブラッシングすると、シャワーを出して、千束がたきなの頭を洗い始める。普段の雑さ加減とは異なり、千束の手は優しくたきなの髪をすくい上げている。
「千束はノバラさんと付き合い長いんですよね?」
「おほ~!たきなの髪すべすべ、きれー……ってうん?ノバラかぁ……まぁ、私の初めてのルームメイトではある」
丁寧に水で流した後は、泡立てたシャンプーで頭皮の辺りをマッサージしながら洗ってくる。
(……高そうなシャンプーですね。そして、何だか、他人の髪を洗うのが手馴れているような……)
「へぇ。フキさんじゃなかったんですね」
「フキはDA出てくる直前までだからね。電波塔事件よりももっと前。私がサードにもなっていない頃のことだよ」
十分にシャンプーを洗い流しつつスーッと髪を手で梳かれていく。今度はトリートメントが付けられ、同じように髪を梳かれながら馴染まされていく。
「……それって、すごい子どものときじゃないですか?」
「まぁ、私でも5、6歳くらいかな……とするとノバラは3歳くらい? あんときは今よりもっと小っちゃくて、素直でめちゃめちゃ可愛かったな」
「……そんなに前なんですね」
千束は思い出すようにふふっと笑いながら、トリートメントを洗い流していく。
(そういや、ノバラの髪もきれーな黒髪だったなー。長いのを面倒臭そうにしてたから、結局髪は今でも長くはしないみたいだし。もったいない! 具体的には髪型で遊べない!)
千束は優しくたきなの髪を拭いていく。
う~ん、たきなの髪、いじりたい!けどいじったら! 絶対怒るだろうしなー! また、今度頼んでやらせてもらおう!
「いや~、あの頃のノバラは大人しくて全然喋んなくて、「おー……」とかしか反応しなくて大変だったよ。訓練のない日はよく映画見てたなー。普段、あんまり感情が前に出てこないのに、ガンアクションとか好きでさ。「Equilibrium」見たときは、私に「「ガン=カタ」できる?」なんて言ってきてたから、張り切って演習でやったこととかあるよ」
千束は続けて背中を洗う用意をしているので、たきなはため息をして甘んじて受けることにした。
千束は、たきなの白い背中を見て、思わず、ごくりと喉を鳴らす。
『ぱーふぇくとです。でぃもーるとべねです』
頭の中で妹の声がする。なるほど、激しく同意する。
「……できるんですか、「ガン=カタ」?」
「知ってんのかよ、たきな! だからなんちゃってだって。まぁ、シチュエーションを考えて効率的に体を動かすのと、次の展開を予想しながら、動くあるいは撃つって感じだから、空手なんかの形に通じるところがあるんだろうけど。要は、そのときのシチュエーションに合わせて最適な形をなぞるってもんでしょ。私の場合は、例えば、部屋に入った瞬間にどこに誰がいて、どう動くのが最善か、どうすれば当てられるかをその場で判断して動いている訳だから、ニュアンスはちょっと違うよね。前者は訓練、後者は五感任せ。結果は似たようなものかもしれないけど。まぁ、あの子は何故かしばらく練習してたけど」
千束はたきなの背中をゆっくり洗い始める、冷たかったのか、くすぐったいのか、んっ、とも、んぅともつかぬ声が実に艶っぽい。
「「ガン=カタ」を、ですか?」
そんんなの、真面目に練習する時間ある?とたきなを首を傾げる。
演習で『遊び』を練習するとか、顰蹙ものである。周りに示しが付かないからだが。いや、訓練時間外だったら特に何も言われないか?
「まぁ、そもそも、あの子、銃はへったくそだから形にはなってないよ。……あ~でも」
「何です?」
銃が下手くそなのは千束も同じなので、そこは強くは言えないようだが。
「『相手が次に撃ちやすいタイミングとかは理解した』って言ってたな。そんで実際、避けてた」
昔を思い出し、直近の訓練の様子も思い出す。
少なくとも一対一なら、相手が撃とうとした瞬間にはすでに避け始めていたし、最近では二発目が撃てないように移動していた。
「……やっぱり同類なんですね」
「どうかな……。あの子も確かに避けれるけど、あの子の怖いところは、そこじゃないよ」
そう、千束からしてみれば、自分は正面から避けるだけだが、ノバラの怖さは弾を避けることではないのだ。
「『怖い』……ですか」
どちらかと強気な千束らしからぬ『怖い』という言葉。
そんなことを言わせる「最上ノバラ」の戦闘方法とは何なのだろう。
「……撃たせない、当てさせない、ってところかな」
なるほど、それができれ確かに脅威だ。脅威ではあるが。
「……いったいどうやって?」
千束は、ん~っと考えた。
「実際にやれば、よく分かると思うけど。普段なら絶対に相手に悟らせない、相手にしてみれば、気づいたときには死んでいたってことになる。正面から撃ち合っても、撃つタイミングは見切られるし、射線はみすかされる。んで、たぶん一発か二発、避けられたら、もうあの子を捉えられない」
「……『捉えられない』?」
「あの子の得意分野は隠密。一度見失ったら、再度の補足はかなり難しい。探している間に後ろからブスリ」
つまりはその隠密性がそもそも規格外という言うべきなのだろう。
「それはまた……千束とは正反対な……」
「おっもしろいだろ」
言いながら、千束はたきなの背中にシャワーを浴びせる。
「無茶苦茶だってことはよく分かりました。……次は私が千束を洗います」
「え、私がたきなを洗いたかっただけだから、別にいいよ」
遠慮するような千束にたきなは妖艶にほほ笑むと。
「いえ……洗ってあげますよ、千束。すみずみまで……」
千束を抱きしめると、耳元、そう優しくささやいた。
一方の千束は何やらぞくぞくと悪寒を感じて、たきなを見る。
先ほどの妖艶さが嘘だったように微笑んでいる。
「な、なに? たきな、ふつ~に洗うんだよね」
「そうですけど……」
きょとんとしたたきなの顔に千束は毒気を抜かれた。だが、歴戦の勘が、何かやばいと叫んでいるので、念には念を入れる。
「あ、あ~……そ、そうだよね~……く、くれぐれもふつ~に、ふつ~にね」
若干の不安を抱えながら、千束はたきなに背を向けた。
たきなはくすりと笑みを浮かべ……
「はい。(ふつ~にすみずみまで洗います)」
その日、千束のセーフハウスには、少女の嬌声が響いたそうな。
ちなみに Equilibrium は リベリオン の原題だそうです。
リコリスは言語が堪能そうなので、原版を見ていた、という設定です。