Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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モブのはずなのにかやちゃんのキャラがどんどん濃くなっていく…


89 consideration

 かやたちは南側の部屋を一つ一つ攻略していった。

 索敵能力が高いのか、勘が鋭いのか、エリカが慎重に扉を開けるように指示したところは、そのことごとくが()()()の部屋であった。

 

「思ったより少ないでありますな?」

「それは人の方か、それとも例の機械化した連中のことか?」

「両方であります。最上階は部屋数が少ないとは言え、要人警護の要でありましょう? もう少し戦力が集中していてもいいような?」

 

 手応えの無さにかやは首を捻る。

 

 先輩二人が慎重かつ丁寧に仕事をしているせいかもしれないが、これなら、ノバラと出ていた作戦の方が緊張感があった。

 

「廊下とエレベーターホール以外のは、休憩中か交代要員でしょう? 人数的にはこんなもんじゃないかな? 私としては、機械化兵が少ないのが気になるけど、これも要人側にくっついているとしたら、そんなに違和感はないと思う」

「……すると、下はもっと少ないのでありましょうか?」

 

 エリカの分析を聞いたかやは、他のチームはどうなんだろうと考える。突入開始時には、他の階の銃声も聞こえていたが、それなりに進んでしまった今となっては、あまり分からない。

 作戦指揮官のノバラであれば、全体の進捗を見ることはできたかもしれないし、もしかしたら、エリカには伝わるようになっているのかもしれないが、当のエリカは、今時点では他の階を気にしてはいないようである。

 

「どうかな? 私だったら、バカ正直にロイヤルスイートになんか泊まらないから、そっちを厚くしてる可能性もあるけど……ここまで入念に調査されて、全室虱潰しとなると、そんなことをしてもあんまり意味ないだろうし」

「だが、武装と機械化兵の護衛を見ると、自分が狙われる可能性があるのは理解しているだろう? もっとも、私たちを警戒していたとも限らないわけだが」

 

 今回の作戦規模は延空木事件以降で最大だと言ってもいいだろう。リコリス投入数はともかく、他の人員動員数は、余程警戒していることを匂わせる。

 ヒバナの感覚としては、やや大げさな感じがしているが、それだけ失敗の許されない案件なのだろうな、とも感じていた。

 国内でのテロの画策ないしその幇助を目的としているのが今回の敵勢力だ。自分たちが直接的に行うのであれば、人員を集める必要があり、幇助、つまりは武器や情報、あるいは技術の提供などをすることになる。その場合、問題となるのは金だ。低コストでできるだけ質が良いものをと考えるのは誰でも同じだが、後ろ暗い仕事であれば、余計な金は踏み倒す、という考えが罷り通る可能性はある。つまりは、通常警戒するであろう警察などの他に、身内にも目を配る必要があるという点で、自己防衛は必須なのである。

 

「……第三勢力の可能性でありますか」

 

 ははぁ、とかやは納得するように頷く。エリカも同意見のようで、ヒバナの言葉に軽く頷いている。

 

「ああ……それはあるかも? と言うよりも、この大がかりな作戦はむしろそちらを警戒したのかもしれないね。取引先や敵の敵に先を越されないように」

「いやはや、悪人たちも中々厳しい商売でありますなぁ」

 

 信用できる相手がいないとは、何とも世知辛いなぁ、とかやは考えていたのだが。

 

「かやちゃん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のが、私たちのお仕事よ」

 

 かやの同情めいた心を感じ取ったのが、エリカがにっこりと笑って釘を刺す。

 

「はい! エリカお姉さま!」

 

 殺気こそ感じないものの、蛇に睨まれた蛙のような気分で、背筋をブルっと震わせたかやは、背筋を伸ばしてエリカに敬礼する。

 

「……その『お姉さま』って何なの? くすぐったいんだけど」

 

 エリカは苦笑気味にかやに問うと、かやはきょとんとしていた。

 

「小生、何分、世事には疎いもので。導き手となる諸先輩方には『姉貴分』として敬意を払いたく考えている次第でありまして」

 

 これはかやの紛うことなき本心である。

 

 リコリスは閉鎖的な環境で育てられているので、社会一般に疎いし、ある意味隔離して育てられ、社交性なども一定程度あればあまり問題視されない。

 だが、かやは事ここに至り自分の社交性などに問題があるのでは、と思い始めていたのだ。

 故にお手本とすべき、先輩を自分なりに観察していた結果、本日、エリカにターゲットが絞られたのである。

 

「……ノバラちゃんは?」

「隊長殿は『お姉さま』と言うよりは、隊長殿でありますからなぁ……」

 

『性根更生会ノバラ組』において、ノバラはいわゆる鬼軍曹的な存在である。『お姉さま』というより、鬼の隊長というイメージが強すぎる。

 

「……ヒバナとか、たきなは?」

「片翼殿を『お姉さま』と呼ぶのは畏れ多く。ヒバナお姉さまはヒバナお姉さまとお呼びしてもよろしいのでありますか?」

「パス」

 

 うぇー、という顔をして、ヒバナはにべもない。

 

「……というわけで、エリカお姉さまを『お姉さま』とお呼びしたく思いますが?」

「いいけどさぁ……何か変な懐かれ方されちゃったなぁ……」

 

 疲れたようにエリカは笑みを浮かべる。

 

 特に優しくしていたわけでもなく、どちらかと言えば一線を引いて対応したいたのに、どこがどういう風にかやの心に刺さったのか、エリカには良く分からなかったので、微妙に納得がいかなかった。

 

「はぁ……ヒバナ、ノバラちゃんたちは?」

「もう本命のところに行ってる」

 

 ヒバナたちが一室一室丁寧に潰しているのに対し、ノバラたちはエレベーターホールをあっさりと制圧すると、本命と目されている部屋に突入して行ってしまった。

 

「そう……全室確認してるかな?」

「いや、何室かはたきながぶっ放して行っているが、全部じゃないな」

 

 あの二人、「合理的に」とか、「論理的に」とか言う割には、勘に頼っているところがあり、几帳面に見えて、物凄く大雑把なところがある。

 

「そう……たぶん、残りに当たりはないと思うけど、南側が終わったら、そちらを潰していきましょう」

 

 後から二人に、何で全部屋確認しないのか問えば、まず間違いなくこう返ってくる。

 

『だっていないですよね?』

 

 事実そうなのだろうが、当の本人以外からすればそれは結果論でしかない。だと言うのに、それが当然と言わんばかりの反応をすることが目に見えているので、エリカはため息をつきながら、フォローすることにした。

 

「エリカお姉さまも苦労性でありますなぁ……」

「いいのよ、あの二人はあれで。それが一番強いんだから」

 

 多少大雑把であろうと、強くて問題を起こしていないなら、何の問題にもならない。言葉で説明することが大事なのではなく、行動で実証する方が重要なのだ。

 ノバラにしろ、たきなにしろ、あるいは千束にしろ、あの手の人間はごちゃごちゃ考えさせるより、取りあえず何かやらせた方が良い方に転ぶ典型例だ。そこから零れ落ちる些事はそれこそ、自分たちのような仲間が処理すればいいことだ、とエリカは考える。

 

「理論派振ってるけど、完全に本能型だからな……いや、本人たちは本人たちなりの理屈があるんだけどな?」

 

 その理屈を他の人が納得するとは限らないのだ。

 

「そう言うのも「天才」と言うのでありましょうか?」

 

 凡人のかやにはノバラもたきなも天才的に思えてしまう。

 

「どっちも違うんじゃない? ノバラちゃんは経験値から。たきなは違和感が気になってるだけだろうし」

「隊長殿の経験値は何となく分かるでありますが、違和感?」

「無意識下だろうけど、いつもと違う、他と違うということに敏感なの。それにすぐ気づいちゃって、何でも口にしちゃったり、行動しちゃったりするの。……そういうところ、かやちゃんは真似しちゃダメよ?」

 

 エリカがウィンクしながら、かやに釘を刺す。

 かやの過去の行動に鑑みれば、考えなしに口にしたり、行動したりと迂闊なところがある。ノバラとたきなのそれが許されるのは、実力と実績があるからであり、だれもが許されるものではない。

 

「はい! エリカお姉さま!」

 

 かやはエリカのウィンクに胸をキュンとさせながら畏まった。

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