Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
帰宅ラッシュにはまだ早い時刻。
上野駅には、浅草口から中央改札口に向かって歩いている三人のリコリスの姿があった。
「ももちゃん先輩、どこで待ち合わせなんですか?」
「なんで、すずな嬢まで、あたしのこと『ももちゃん先輩』って呼ぶんでしょうねぇ……改札の辺りのはずですが」
すらりと長い手足にボーイッシュな髪、切れ長のキツめの目に似合いもしない銀色のハーフリムの眼鏡の少女、『相馬すもも』はそうぼやいた。
名前の可愛らしさと容貌が釣り合っておらず、『すももちゃん』と呼ぶと爆笑ものだからと、『す』を抜いて『ももちゃん』呼びを始めたのは、彼女のお目付け役となっているノバラが最初だ。
別段、後輩たちに舐められている訳ではない。ノバラが『ももちゃん』と呼ぶから、多くの者がそう呼ぶのだが、一部の後輩それに先輩を付け始めた。
すももとしては敬称が二つ付くのは、どうにも気持ち悪いのだが。
「すももさん! あの人! あの人じゃないですか? 制服着てますし、たいちょーさんからもらった写真のとおりです!」
「ははぁ……確かに、あれはすみれ嬢。しかし、
女子にしては背の高いすみれは、その容姿と巨乳も手伝って、人混みの中でも目立っていた。
こちらを探しているのか、それとも不安なのか、きょろきょろそわそわとしている様子がまた不審者のようで目立つ。
普通の場所で遠目に見る分には、年相応からそれ以下にしか見えない(身長と胸部を除く)少女が、いざ戦闘となれば、重機の如き膂力を持っているとは誰も想像がつかないだろう。
「……待たせても可哀そうだ。行きやしょうか。せり嬢、すずな嬢」
すももは二人を連れて、すみれに歩み寄る。
「すみれ嬢!」
「はひ!? ……あれ? ……あなた、確か模擬戦の?」
名前を呼ばれて、びくりと体を震わせたすみれは、相手がリコリス制服を着ていることに、気づいて、無事合流できたことに安堵する。次いで、すももの顔を見て、模擬戦で最後まで残っていたセカンドの人だ、と気づく。
「その節はお世話になりやした。あたしぁ、『相馬すもも』ってモンです。楠木司令に後ろのちっこいのの随伴を命じられてましてね」
「ももちゃん先輩、ちっこいって酷くないですかー? あ、すみれさん、ウチは、すずなです。よろしくお願いします」
「……また、ちっちゃいって言われた……私は、せりです! たいちょーさんの相棒にお会いできて嬉しいです! よろしくお願いしますね、すみれさん」
「あー、じゃあ、二人がノバラちゃんの言ってた子たちだ! 伊達すみれです。よろしくお願いしまぁす」
四人がそれぞれ挨拶を済ませると、すももはDAに届けられていた切符を取り出し、それぞれに配り始める。
それを受け取ったすずなは、おっ、と目を見張った。
「うわ、グランクラスじゃないですか。リッチぃ……」
「……え、何かすごいの?」
きょとんとしているせりに、すずなは、ふふん、と笑う。
「せりは世間知らずだねー。グランクラスはお金持ちが乗る車両だよ」
(偏見に満ち溢れてますねぇ。サービスを楽しんだりする人もいるでしょうに)
おそらく乗ったこともないのに、グランクラスの素晴らしさをせりに語って聞かせているすずなにすももは苦笑気味だ。
「んー? でも、私たちが乗るのはアテンドさんがいないヤツだから、ちょっと席がいいくらいだよ?」
「えぇ!? じゃあ、何でわざわざグランクラスを!?」
グランクラスに乗ると先ほど聞いたばかりなのに、すでに、オシャレな軽食などを楽しみにしていたすずなは、ガーン、とショックを受けた表情だった。なお、すずなに色々聞かされたせりも隣で密かにしょんぼりしている。
「空いててゆっくり寝れるから、だって。これ、終点は仙台駅だし」
すみれは予めノバラに聞かされていたため、特に動揺もない。
東京に来る際は、楓の車で来たので、すみれ自身、新幹線に乗るのは初めてだが、旅慣れているノバラからは、移動は意外に疲れるから、さっさと寝てしまえ、と聞かされているため、すみれはそれに従うつもりである。
「そ、そのためだけに、グランクラスを!?」
「いやいや。これは、空いてるってところと、終点が仙台ってぇことで、あたしらへの配慮でしょう。乗ってしまえば、間違えようもありませんし、寝落ちしても目的地に着きますからねぇ。知識としてはあっても、実際新幹線に載ったことある方おりやすか?」
全員がふるふると首を振っている。
「なら、世間知らずは世間知らずらしく、姐さんの配慮に甘えましょうや」
「いや、まぁ、ウチらはお金払ってるわけじゃないから、いいんですけど。……あれ? これ、DA持ち?」
「お三方の分は、ノバラの姐さんが。あたしの分は楠木司令の自腹ですよ」
(あれ? それってマズいんじゃね? ノバラ先輩のことだから、裏がありそうな……)
すずなは少しだけ冷や汗を掻く。すみれ以外では、すずなが一番ノバラとの付き合いが長い。知らない間に大きな貸しにされて、後から無茶振りされそうでちょっと怖いのだ。
「はぇ~。たいちょーさんは、随分気を使ってくれたんですねー」
一方のせりはただただ関心している。せりの場合は、貸しだの借りだの言う前に、たいちょーさんの言うことだから、と無条件に何でもやりそうな感じだ。
「それじゃあ、もうすぐ新幹線くると思うし、飲み物とか、お菓子とか、買っておいた方がいいと思うよ。車内販売もないしね」
「あぁ……また、ウチの楽しみが消えていくぅ……」
車内販売であれこれ買って食べたかった、とすずなが落ち込む。
「それと、夕ご飯はウチのしれぇが牛タン奢ってくれるっていうから、食べ過ぎないでね」
「くぅ……すみれさん、尽く、ウチの楽しみを潰してきますね! 駅弁も食べられないじゃないですか!?」
「え、食べてもいいよ? その分、牛タンが食べられるか心配なだけで」
「駅弁と牛タンなら牛タンとるに決まってるじゃないですか!」
くそぅ、などと言いながらも、すでに牛タンに思いを馳せるすずな。
意外な食い意地を見せるすずなにせりとすももは苦笑している。
結局、すみれとすももはペットボトルのコーヒーを、せりとすずなはお高いアイスクリームとペットボトルのホットココアを買って、時間通りにやってきた新幹線に乗った。
「……って、誰もいない。貸し切りじゃん!」
「ま、平日のこの時間なら、こんなモンでしょうよ」
入口の近く、二人掛けのシートの前方に、すみれとすもも、その後ろにせりとすずなが座る。
座ったせりが落ちつかない様子でキョロキョロしているが、すみれは落ち着いたもので、ブランケットを取って、椅子を倒している。
「じゃあ、私は寝てるので!」
「あぁ、あたしもそうしやすかねぇ」
前の席二人が完全に寝るモードになっていることにすずなはショックを受ける。
「えぇ!? 二人とも、マジですか!?」
すずなは、アテンドがついていないとはいえ、せっかくのグランクラスをただ寝て過ごすとは、と信じられない気持ちだった。
「? ノバラちゃんが、景色見て楽しむとかないなら、寝てた方が疲れないって」
すみれは、電車の移動が楽しくないという訳ではないが、ノバラのアドバイスに従わないという選択肢はない。
「あぁ……ノバラ先輩くらいになると、もう目的地にどれだけ疲れないで到着するかしか考えてないんですね」
「すずな嬢、せり嬢も。あまりはしゃがないようにねぇ。疲れちまいますよ」
「はーい、りょーかいしました。すももさん」
答えながら、せりはアイスクリームを食べ始める。
「あれ? せりは何味?」
せりの隣で自らもアイスクリームの蓋を取った、すずなは、せりの方をのぞき込む。
「ストロベリーです! やっぱり、イチゴが至高だと思います! すずなさんは?」
「ウチは、ラムレーズン」
「あぁ……確かに、ラムレーズンも捨てがたいですね」
「ふふふ、甘いなせり。ウチはちゃんとココアとの飲み合わせも考えたのだ! こう、アイスをパクっと……ん~! うま~! そんで、ここにココアを飲むと……ラムレーズンの香りとココアの味がマッチして、ちょーウマい!」
「な、なるほど。すずなさんは、食に掛ける熱量が凄いですね!」
「ウチらの一番の娯楽は食べることでしょ? 仙台行ったら、牛タンでしょ、ずんだでしょ、かまぼこ、ひょうたん揚げ、芋煮、マーボー焼きそば。海鮮もいいよね、カキ、ホヤ。そのほかは……せり鍋?」
名物を上げていったすずなは、最後にせり鍋に思いいたり、同じ名を持つ同僚の少女をじーっと見る。
「私がお鍋に!?」
「はっぱの方だよ! まぁ、せりはぷくぷくしておいしそうだけどね」
「た、食べちゃだめですよ……?」
「にひひ。別の意味で食べちゃうかもよ?」
すずなが冗談のように、少しだけ頬を赤くして言うが、せりはきょとんとしていた。
「……別の意味?」
しまった、純粋培養過ぎて、分からなかったか、とすずなは反省する。
「いや、ごめん。せりにはちょっと早かったわ……」
素直にそう謝るも、せりは少しだけ頬を含ませている。
「私には早いってなんですか。いちおー、私はたいちょーさんと同い年なんですよ?」
せりの言葉に、すずなは、あれ、と思う。
「……せりって年上だったの?」
胸は強烈に大きいが、幼げな容貌で、背も小さいせりは絶対年下だと思っていたすずなは、疑いの目でせりを見る。
「え? すずなさんって年下だったんですか?」
一方のせりは、すずなはたぶん同じ年くらいだろうと思って、接していたのだが。
「あ! あー!? だから、妙に私を子供扱いしてたんですね!?」
「いやぁ、めんごめんご!」
「先輩に対する敬愛が足りないです! ちゃんと、せり先輩って呼んでくださいよ!」
「うーん。ムリ! ウチにとって、せりはせりだわ。むしろ、せりが私を呼び捨てにすればいいんじゃない?」
「んーっと、すずな?」
「うん。いいじゃん。それで行こう、相棒!」
「相棒……えへへ。そうか。相棒だもんね!」
にっこにっこしているせりを見て、すずなも心の中で安堵した。この辺の礼儀関係しっかりしていなかったことばバレるとノバラが説教代わりにヤバそうな訓練を申し付けられそうだったからだ。
「じゃあ、すずな……先輩たちを起こさないように、小さくお喋りしながら、行きましょう?」
「そうだね!」
せりとすずなはそんなことを言っていたが、あまりの快適さにあっとう言う間に寝落ちするのだった。
暫定ノバラちゃんとすみれちゃんがAIで作成されたので、目次ページから見てね。