Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
夕食を終えた四人は楓の運転で郊外へと向かっている。
「……あれ? しれーさん、街中じゃないんですか?」
先入観からか、支部は街中にあると思っていたせりは、首を傾げる。
「君らの本部は何処にあるんだ?」
そう言って笑った答えた楓にせりは顔を赤くした。
そもそも本部自体が二十三区内からは大きく外れまくった山の中である。
支部も推して知るべし、と言ったところか。
「うん? ここってもしかして温泉街じゃあ……」
周りの景色を見ていたすずなは車が進むにつれ、ホテルや旅館の看板、そして温泉の文字がちらほらと目につくことに気づいた。
「そう! 仙台支部は温泉街にあるホテルを買い取って改装したものだ! サード以上のリコリスはそこで生活している」
「へぇ……温泉宿をまるごと買い取っちまったんですか。豪気ですねぇ」
「廃業するホテルやら何やらは結構多い。仙台支部はここの他にも拠点として別荘などを買っている。温泉の近くや湖畔、海岸付近だな。サード以上は結構利用する」
ほえー、とせりが関心したような声を出すが、すももが言葉尻を掴む。
「……サード以上『は』?」
「残念ながら、訓練生は寮から出すことはない。その寮なども廃校になった校舎を買い上げたものだ。端的に言って、山の中だな」
「どこも同じですねぇ……札幌支部も山の中でしたよ」
札幌支部とは名ばかりの別のところにある山の中だ。活動の中心地は札幌で間違いないのだが。
「機密保持の観点からはどうしてもな。君らくらいなら自分でどうとでもできるだろうが、訓練生くらいの子どもはなぁ……」
「こっちの訓練生はどれくらいいるんですか?」
「五歳以上十三歳未満で二十名ほどだな」
「あれ? ……もしかして、卒業、早いんですか?」
人数も少ないが、訓練生が十三歳以上がいないのがせりには不思議だった。
これは、サードに上がる、所謂、訓練生の卒業が早いということを意味する。
余程、損耗速度が著しく数で補っている結果なのか、それとも……。
「ふふ。こわ~い、鬼教官がいるからな。早く抜け出したくて必死なのさ」
意地の悪い笑顔を向けてくる楓にせりとすずなは原因に気づいた。
「「ああ……」」
まぁ、ノバラの歩くところ、こういう変なことがあるのは大体彼女のせいである。
「ウチもノバラ先輩から卒業したい……」
でも、現状離してくれないよね、と遠い目になるすずな。
「たいちょーさんのあの訓練に捧げる情熱は一体何なんですかね……」
最近ノバラから渡されたせり専用カスタマイズ訓練メニューの内容の濃さに気が遠くなる思いだったせり。常人なら逃げ出す。せりはやるが。
「おやおや。ノバラの姐さんらしいと言えばらしいですが……お子様方にはきついのでは?」
「地獄の訓練の強制は十歳からだ」
「任意はその限りではない……と」
確認の意味で聞いたすももの言葉を聞いて、すずなが愕然とする。
「そ、そんな……!」
ふらり、と頭を揺らした後、すずなは項垂れるようにしながら、頭を抱えた。
「……任意だなんて知らなかった!!」
物知らずで、体力のあるすずなは、何だかんだ言いながら、ノバラの訓練に付き合えてしまった。そして、ノバラに訓練を付けられた彼女は、すでに訓練なしでは物足りない体になってしまった。
「……なんと言うか、その~……ごしゅーしょーさまでした?」
「ふふふ……せりもどうせ、ウチと同じ体質になるんだよ……訓練をしないと何故かノバラ先輩のにっこり笑顔が脳裏に浮かぶんだ。おかげ様で、ノバラ先輩と同じく、ウチもすっかり練習キチだよ……」
えへ、えへへ、と引き攣った笑いを浮かべるすずな。
「……ああ、そうか。君は、
ふと、楓はすずなの話を聞いて思い至る。
(確かに、ノバラは札幌時代に、目を掛けていたヤツがいたな)
「……はい?」
一方のすずなは何のことか分からず、きょとんという顔をした。
「私も前任は札幌だ。技術開発部だったがな」
「じゃあ、たいちょーさんとは付き合い長いんですねー」
せりとしては、世間話の延長のつもりだったのだが。
「……? 長いも何も腐れ縁だ。アイツが訓練生のときに体術を仕込んだのは私だぞ?」
「「えー!?」」
(……でしょうねぇ)
驚愕の表情のせりとすずな。対照的にすももは、気配や雰囲気からノバラと似たものを感じていたので、さほど驚きはない。もちろんその先の事実についても。
「じ、じゃあ、司令は元リコリスなんですか!?」
知らんかった、とばかりのすずなの様子に対して、楓は、何で知らないんだ、と怪訝そうな顔をする。
「そうだが? ……ん? 言ってなかったか? ……いや、そもそも資料にも残っていないのか……。では、改めて。元DA本部所属ファースト、『
十年前は特に少なかった電子戦を得意としていたファーストだったこと、ノバラと同じように底意地の悪い接近戦をすることから名づけられた通り名である。
「しかもファースト!?」
あわわ、とすずなは顔を青くする。先輩も先輩。大先輩である。
にもかかわらず、「司令! 奢りですか!?」とか、「司令! 何頼んでもいいんですか!?」とか、実に失礼極まりなかった。
(やべぇ……ノバラ先輩にバレたら……!)
思い浮かべただけでぞっとする。
「た、大変失礼をばいたしました!!」
すずなが深々と頭を下げると、楓は軽く笑って、いらん、とばかりに手を振った。
「ん? ああ……気にするな。子どもは大人に甘えるのが仕事だ」
「えー、私たちそんなに子どもじゃないですよ?」
子ども扱いにせりが少しだけ頬を膨らませる。
そういった態度が子どもっぽいんだがな、と楓は苦笑する。
「私からしたら、娘みたいなものだ。すみれも、ノバラも、君たちも」
そう言いながら、楓は車のウィンカーを上げて、左折する。
ホテルを改装したから当然と言えば当然なのだが、お役所的な雰囲気も秘密組織的雰囲気も無い、大きな『元』ホテルがあった。
「ようこそ、DA仙台支部へ。君たちの来訪を歓迎する!」
せりとすずなに与えられた部屋は、ゲストルーム扱いになっている最上階のツインルームだった。なお、すももは隣のツインルームに一人きりである。
「……というか、これ。ホテルでしょ?」
ベッドの上に腰掛け、すずなはバインバインとスプリングを確かめている。
「そりゃ、ホテルだったんだし……」
「ここはゲストルームだからそれでいいとしても。他の部屋はどうなってるのかな?」
すずなはちょっと想像してみるが、この部屋の印象で固定されてしまい、どうにも、普通の部屋の想像ができなかった。
「リコリス棟に比べたら、自分の部屋感が出ない気はするね……」
同じことを思ったのか、せりも苦笑気味である。
「落ち着かなさそう……ノバラ先輩とか、すみれさんは、どこに住んでるんだろ?」
「たいちょーさんとすみれさんは離れだって聞いたよ?」
すずなが物珍しそうにエントランスをうろちょろしている間にせりは楓にそう聞いた。
「えー!? ノバラ先輩、すみれさんと同棲してんの!?」
うはー、とわくわく顔のすずなにせりも少しだけ頬を染める。
「ど、同棲って聞くと、大人な感じがするけど……私たちも部屋一緒でしょ?」
「リコリス棟と離れの一軒家じゃ全然違うでしょ?」
「そう? ……そう、かも?」
せりはちょっと想像してみるが、部屋が広いんだろうな、という貧相なことしか考えられず、寮での同部屋との違いが理解できない。
「……何でちょっと自信ないの?」
「うーん……ごめん。違いがよく分からない」
せりの言葉にすずなは、やれやれ、と肩を竦める。
すずなは面白そうに、右手を口に当ててにやにやする。
「うひひ。ちょっと大きな声を出しても、誰も気にしないってことよ」
ちょっと騒いでも大丈夫ってことかな、とせりは首を傾げる。
「え? それって、どう……い……う……っ!?」
答えている最中に、せりは、「そういうこと」に思い至り、沸騰するかのように顔を真っ赤にさせた。
「え? え!? えぇ!? たいちょーさんってそうなの!? あ、だから、いつも私の胸を見たり、揉んだりするのかな!?」
何せせりは模擬戦でがっちり胸を揉まれている。
あれに、性的な意味があったとは、と、せりは頬を押さえるようにして慌てている。
「あれは、素」
だが、すずなは慌てない。断言できる。あれは、ノバラの素の行動で、そういった意図はあまりない。
単に、大きい胸が羨ましいのだろう、と思う。せりやすみれの巨乳具合であれば、自分も揉んでそのご利益に肖りたい気持ちである。
「素!? 素って、私ごときじゃ相手にされないってこと!?」
ちょっとショックを受けているせりに、すずなは苦笑する。
「いやいや。ノバラ先輩はどノーマルですよー。なんで、
力強く断言するすずなにせりも、うんうん、と頷き、そして、首を傾げた。
「……『本人は』?」
それは他は違うということになるが。
「すみれさん見てたら分かるでしょ?あれは『ほ』の字だって」
「さすがの私でもそれは分かるよ。たいちょーさんには通じていない気がひしひしとするけど」
「すみれさんも相手が悪いねー。ノバラ先輩を落とすのはちょっと難しいんじゃないかな?」
「……そう? すみれさんが無理だったら、実質攻略不可能だと思うけど」
「そう言ってんのよ? べたべたして、変に優しいところがある割には、そういうところだけ、やたらとドライなんだから」
ちょっと怒ったような顔をしているすずなを見て、せりは、珍しい、と思った。
「ほほぅ……」
感心したように、せりが吐息を漏らす。
「……え、なになに?」
「すずな、いつも嫌がってる割にはたいちょーさんのこと大好きなんだねー」
「な!?」
いつもはせりがいじられる側だが、今回ばかりはいじる側に回った。
……先の表情を見れば分かる。
先輩後輩の間柄だったという過去に照らしても、すずなはノバラに対する慕情にも似た憧れの気持ちを抱いていることに。
「ちがっ!?」
「いいのいいの。分かってる分かってる」
「分かってない分かってない!?」
全てを悟ったような顔をしているせりにすずなは慌てる。
「えー……恥ずかしがらなくてもいいじゃない。私もたいちょーさんのこと好きだよ?」
ちょっと、顔を赤くするせり。
「え!? そ、そうなの!?」
驚いたようにすずなはせりの顔を覗き込む。
りんごのように赤く染めた頬がそれを本心だと雄弁に物語る。
「うぁ……いつもそうだよ……あの人は!?」
すずなは頭を抱える。
厳しい癖に妙に優しいところがあるから、訓練に参加している後輩リコリスは徹底的に嫌いか、狂信的に好きかに二分される。
……すずなは、そして、おそらく、せりも後者だ。
「へー……やっぱり、モテてるんだ?」
「そうだよ……くぅ、ウチとしたことが不覚! せりにそこを突っ込まれるなんて!」
「こうして見ると、すずなって結構分かりやすいよね?」
くすくす、とせりはすずなを見ながら微笑む。
「んむむ……っ! あ、でも、せりはダメだからね!」
悔しがる様子をしていたすずなは、そう言いながら、せりを指さした。
「えー……何で? それってズルくない?」
一方的にそう言われたことに対して、せりは不満気な表情をする。
だが、それに対して、すずなは胸を張る。
「ズルくない!」
そして、そう言って、すずなは。
「せりはウチのだ!!」
せりに抱き着く。
すずなの体温を感じながら、せりはどきどきと胸を高鳴らせる。
「……っ! それって、本心?」
せりは知らず頬を上気させ、抱き着いてくるすずなの腕に触れる。
「当たり前でしょ? 誰にだって渡してやらない!」
ゆっくりとせりを離したすずなは断言する。
「……せりの相棒の座は!」
「……あ、あれ? そ、そっち!?」
肩透かしを食らったせりは、ちょっとだけ涙目だったという。
「本当のことなんて、言えるわけないじゃん。ばーか」