アドニスイナズマ転生物語   作:かんりにん

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9話 雷門転入の前日

 

 

アドニスは緊張を隠せない様子で、世宇子中サッカー部の扉の前にいた。どうしても変な汗が出てきてしまう。

 

あれから随分と早く、夏未のお陰で転校の手続きが無事終わり、いよいよ明日からは晴れて雷門中の生徒になる。

 

同級生達との別れは済ませ、後は____

 

サッカー部の皆と……キャプテンへお別れをしなければならなかった。

 

夏未は、私からサッカー部のみなさんへ話をしましょうか。と言ってくれたが、さすがにそこまでしてもらうのは厚かまし過ぎる。

それに、自分を見てくれたヘラ先輩やデメテル先輩。そして皆には自分から挨拶をするべきだと思い、今は扉の前にいるのだが…やはり緊張する。

恐らく皆は自分なんかいなくなっても何とも思わないだろう。

でも、キャプテンは………

 

深呼吸をし、意を決して、いつもより重く感じる扉を開く。

 

 

あのゴールが壊れた日以来、もの凄い気迫で練習を続けている部員達。

見慣れたこの光景も、今日で最後。

ただ、なぜ彼らがここまで変わってしまったのかは、未だに分からないままだった。

 

 

「やあ、アドニス。今日は少し遅かったようだね。」

 

アドニスが来た事に気が付き、彼女の前へと移動してきたアフロディ。

今こそ言わなければ。アドニスは重い口を開く。

 

「あ、あの…!」

 

「どうしたんだい?」

 

いつもと違い、どこか緊張気味なアドニスに気付き、ただ事では無いと察するアフロディ。

彼の中に嫌な予感がよぎる。まるで彼女が自分から離れて行ってしまうような…そんな気がした。

 

 

「私…世宇子を転校する事になりました。明日から…それで……」

 

「!!?」

 

当たって欲しくない予感は的中してしまった。

それを聞いた瞬間アフロディは愕然とし、見開かれた目はアドニスを凝視する。そして彼女が言おうとした言葉を遮り、少し強い口調で言い返す。

 

「え?!どういう事なんだ?!急に転校って…」

 

「私、やっぱりサッカーがやりたいんです!マネージャーじゃなくて……」

 

アドニスは自分の思いを伝える。が。

 

「マネージャーとしてやっていくと約束したじゃないか!認めないよ。キミがサッカーをやるなんて。キミにサッカーは危険すぎると忠告しただろう!」

 

そう否定の言葉を喚き立てられ、両肩をぐっと強く掴まれてしまい動く事が出来なくなってしまう。アドニスは痛みを感じ顔を歪ませる。引き離そうと彼の腕を掴むが、それを解ける訳が無かった。

 

「で、でも!」

 

何か言い返そうとするも赤い目で睨みつけて来るアフロディの、その気迫にアドニスはたじろいでしまう。

 

 

「やめろ。アフロディ。」

 

いつの間にかアフロディの後ろからヘラが彼の肩を掴んでいた。

言い争っているような声が聞こえ、仲裁に来たのだった。

 

「アドニスにはアドニスの考えがある。彼女がどこに行こうとどうしようと自由だ。それをお前が止める権限はないだろう。それに今は、こんな事をしている場合ではないんじゃないか?」

 

「………っ」

 

さすがのアフロディも先輩である彼から淡々とそう言われてしまうと何も言い返す事が出来ずに、そのまま俯いて黙ってしまう。

いつもは先輩であろうと上下関係など気にしていないのだが。

 

「アドニス。今までありがとう。次の所でも元気で。もうこのまま行った方が良い。みんなには伝えておくよ。」

 

ヘラは少しだけ微笑みながら、しかしどこか素っ気なくアドニスに別れを言った。

そのまま、アフロディを引きずり連れて行ってしまう。

 

「…あ。」

 

口に出そうとした言葉も、もう伝えられない。お礼を言わなくてはならないのは、こっちの方なのに。

 

___ありがとうございました。どうかお元気で。

 

アドニスは小さく礼を言い、複雑な気持ちを抱えたまま言われた通りその場を去った。

結局、何も伝えられなかった。これで良かったのだろうか。

 

 

とぼとぼと広い廊下を歩いている途中。

前から男が一人、歩いてきた。

背が高く、全身黒い服。後ろで髪を結っており丸い遮光性のサングラスを掛けている。

 

今まで会った事など無いはずなのだが…なぜかアドニスは、その男を見た途端に背筋が凍るのを感じた。

一方、男はサングラスの下の瞳からアドニスを一瞥するが、そのまますれ違っていき、サッカー部のある方向へ進んで行った。

 

あの人は何か良からぬ事をしでかすような……

どうしてだろう。なぜかそんな感じがする。

 

どことなく嫌な予感を感じながらも、待っている夏未の元へ向かう。

 

 

「話は無事に済んだのかしら?…どうしたの?何か元気が無い様子だけど。」

 

リムジンの前で待っていた夏未はアドニスを見つけ、声を掛けた。

 

「はい。少しだけいざこざがありましたが…何とか!」

 

少し…では無かったが一応そういう事にしておく。

それを聞いた夏未は心配そうにした。

 

「いざこざって…大丈夫だったの?やっぱり私が話した方が良かったのではなくて?」

 

「最後は自分で言いたかったですから。結局全員には挨拶する事は出来ませんでしたが…。」

 

例え夏未が言ってくれたとしても、きっと争い事に巻き込んでしまっていたに違いない。

さっきのアフロディはとても怖かった。ヘラ先輩が来てくれなければどうなっていた事か。

 

「そう。まあ練習中となると言いづらい事もあるわね。でもこれで晴れてあなたは私達雷門中の生徒よ。」

 

「はい!」

 

 

やっと雷門中に……皆の仲間になれるんだ。気を取り直そう。

その事が嬉しく、先程までのいざこざと複雑な気持ち、どこか不吉な予感のする男の事などは、今は忘れかけていた。

夏未はリムジンのドアを開け、アドニスに乗るように促す。

 

「さあ、今日は帰りましょう。送っていくわ。」

 

「すみません、ありがとうございます。」

 

そうして車に乗り込むアドニスと夏未。

運転手に車を発進させてもらいながら、会話を続ける。

 

「ちなみに早速なのだけど…明日は地区予選決勝の帝国戦よ。あなたはまだ戦った事は無いかもしれないけど、帝国学園の強さは分かっているわね?」

 

「はい。40年間無敗の学校として有名ですから。」

 

「恐らく最初からあなたを試合に出さないとは思うのだけど……いざという時は出て貰う事になるかもしれないわ。心しておいてね。」

 

「もちろんです。」

 

夏未から念を押すように言われるが、アドニスは内心わくわくしていた。世宇子では他校との試合を見た事が無かった為、とても楽しみだ。

どんな迫力のある試合になるのだろう。40年間の無敗を誇る彼らはきっと恐ろしい程の技を多用してくるんだろうな。

 

私も活躍してみたいけど…まだ必殺技は完成していない。それに初日だから皆の足を引っ張るわけにはいかない。

 

明日はベンチから皆の活躍を見ている事にした。

 

 

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