試合終了後。各々自分の鞄を持ちグラウンドを去って行く帝国イレブン達。
そこに春奈が駆け寄る。彼女に一緒に来てと引っ張られ、何故か付き添わされるアドニス。
「待って!お兄ちゃん!」
自分を呼び止める妹の声に鬼道は立ち止まり、振り返る。
「お兄ちゃん、聞いたよ。全部……私を鬼道家に引き取る為だったって……」
「春奈…すまない。結局負けてしまったが。」
「ううん、良いの!私は今でも十分幸せよ。音無のままで…音無春奈が良いの!ありがとう、お兄ちゃん!」
笑顔を見せながら鬼道に抱き付く春奈。
厳しい冬が明け、花が咲き誇り温暖な春が訪れたかのような可愛らしい笑顔。鬼道の心も解けていき、その顔には微笑みが浮かぶ。
「あ、それから紹介するね!友達のアドニスちゃんだよ。」
なぜか一緒に連れて来たアドニスを引っ張り出した春奈。兄に心配させまいと、仲良しになった友達を紹介する事に決めたのだった。
「…え?」
アドニスは、いきなり鬼道の目の前に突き出されて緊張してしまう。目の前にいるのは帝国キャプテン…天才ゲームメイカー……
まるで雲の上の存在の人物に、何の言葉を発せば良いと言うのか。
色々と考えていると、鬼道が先に声を掛けてきた。
「君は雷門の…試合には出なかったようだが。」
「は、はい!あ、あのその、お宅の春奈さ……いえ、お嬢さんは大変素敵なお嬢さんで…その、花が咲き誇るような……?春の…?」
アドニスは緊張がピークになり、自分でも何を言っているのか分からなかった。ただ、春奈の事を見ていると、花や春といった単語が浮かび上がってくる。そして何かを、誰かを思い出すような感じがするのだが、今はそんな事を考えている心境ではない。
ちぐはぐなアドニスの言葉に、春奈も鬼道もつい、笑いだしてしまった。2人の兄妹の笑い声が、その場に響く。
「ははは、面白い友達が出来たんだな。良かったな。春奈。アドニスさん、これからも春奈と仲良くしてやってくれ。」
そのゴーグルの上からでも彼の表情は綻んでいるという事が伝わってくる。試合前の張りつめた顔は、もうそこには無かった。
『地区予選優勝は…雷門中だー!!』
そして、地区予選の優勝トロフィーを手にして、帰り支度をし雷門メンバーは帝国学園を後にした。
「帝国とは、またフットボールフロンティアで戦えるぞ!!その時にはあいつらももっと強くなっているはずだ!オレ達も特訓、頑張るぞ!」
帝国学園は前年度に優勝した学校だった為、特別枠としてフットボールフロンティア全国大会の出場が許されているのだ。
試合を見ていたアドニスも今度こそ、自分も彼らと戦いたいと思っていた。
そして。響木監督が経営しているラーメン店。雷雷軒。
そこで、雷門が帝国学園との決勝に無事に勝利した事の打ち上げが始まった。
「やったぞおーっ!!」
「「やったぞおーっ!!」」
「オレ達は優勝したぞぉーー!!」
「「優勝したぞぉーー!!」」
円堂が音頭を取り、それを全員が唱和する。
「お前達、よくやったな!沢山食べて行けよ。」
「はい!!」
響木監督の言葉に、全員が嬉しそうに返事をする。
彼が作るスタミナたっぷりのラーメンは円堂達雷門メンバーの大好物だ。いつも彼らに力をくれたその味は、今日は何とも格別だった。
「アドニスも転校初日で帝国との試合が見れて良かったな!」
厨房で響木監督の手伝いをしている円堂がカウンター越しに笑顔を向ける。
それに対し、目を輝かせながら熱い返しをするアドニス。
「はい。雷門の皆さんももちろんですが、帝国学園も迫力のある必殺技しかなくて圧倒されました!まるで軍隊みたいで、あれはサッカーと言うよりは戦いですね。」
「おいおい、大丈夫かあ~?あれで怖くなってやっぱりサッカーやめます!なんてのは無しだからな。」
染岡が、からかうように言った。
それにアドニスは反論する。
「とんでもない!私も彼らと戦いたい、そう思ってましたから。次に彼らと対戦する時は、絶対に私も出たいです!」
「ああ、もちろんだ!次はお前も戦ってくれよ!」
今から帝国と戦う気に溢れている円堂とアドニスの声を聞き、夏未が問い掛ける。
「あら、それは決勝まで勝ち進むという宣言として受け取ってよろしいかしら?」
「え?」
「前年度優勝校と同じ地区の出場校は、トーナメントの組み合わせが別ブロックになるのよ。だから決勝以外での対戦はあり得ないわ。」
「そうなんですか!勝ち進んで行かないと絶対に彼らとは戦えないんですね。」
「そうよ。頑張ってね。アドニスさん。」
「もちろんだっ!勝って勝って勝ちまくって、もう一度帝国と戦うぞ!!」
「「おうっ!」」
円堂の声に、全員も奮い立つ。
ここまで来れば、後はもう進んで行くしかない。
雷門の皆の仲間になる事が出来て本当に良かった。
でも、世宇子の皆はどうしているだろうか。
フットボールフロンティアに出る事は無いと言っていたし、もう会う事はないだろうけど…
後腐れの残るような離れ方をしてしまった為、アドニスの心には僅かなくすみが残っていた。
その頃、世宇子では___
「影山総帥、逮捕されたって……」
「ついこの前、大丈夫だと言っていただろう。すぐにここに戻って来てくれるさ。」
帝国の一件で逮捕された影山の事について部員達が、ひそひそと話し合っていた。
「キャプテン…機嫌が悪くなったよな。」
アフロディを見ながら部員の一人、ヘルメスが呟く。
「ええ。あの子がいなくなったからでしょうか。」
石膏で出来たギリシャの彫刻のような白い仮面を被っており、素顔の見えないアルテミスが丁寧な口調で答える。
しかし、ヘルメスにはどういう事なのか、理解できないようだ。
「そうなのか?全く…キャプテンの考えてる事分からねえな。何で部員でもない奴が一人居なくなったくらいでああなるんだ?」
「それは……」
アルテミスは返答に困った。ただの色恋沙汰をどう説明すればいいのか。いや、彼…アフロディにとってはただの問題ではないのだろう。
お気に入りの子がいなくなってしまったから機嫌が悪い。それだけなのだが。
彼らが言う通りアフロディの表情は陰りを見せ、その紅い瞳は深く暗い色をし、淀んでいる。それはまるで、美しい女神のような恐ろしい死神のような…どちらとも取れる不気味な美しさを醸し出していた。
寝ても覚めても彼女の事が頭から離れず、胸が痛い。
アドニス。どうして離れて行ったんだ。神であるボクから。
サッカーはキミには危険な事であると忠告したのに。傍にいれば守ってあげられるのに。
許さない。
…キミを必ず連れ戻す。そしてもう逃すものか。
そう心に秘めながら今は鬱憤を晴らそうと、ボールに当たるように一人で何度も何度もシュートの練習を繰り返す。
今、彼に近付けば、どうなるか分からない。
「ひいい、怖えぇ……普段は綺麗なのに…」
「今は向こうに行きましょう。」
その場から逃げてゆくヘルメスとアルテミス。
今のアフロディの迫力は凄まじく、美の神にあるまじきその姿に、その場にいる者全員が震え上がる程だった。
音無春奈
違う学校ではあるが鬼道の妹。1年。マネージャー。とても可愛らしい。
雷門に来たアドニスといつの間にか仲良しになっていた。
笑うと花が咲き出すかのよう。かわいい。
アドニスは彼女を見ると、何かを思い出すような感じがするのだが、それが何なのかは分からない。