とある、薄暗く静かな部屋。
男は、自分の目の前にあるコンピューターを起動させていた。
そのモニターには、ある選手達のデータと、プロジェクトZという文字が表示されている。
「ふっ…」
いよいよ自分の作品の、お披露目の時が来る。
以前、逮捕されて行ったはずの男は一人、サングラスの下から不気味に薄笑いを浮かべる。
これから起こるであろう事に期待を膨らませながら。
『全国中学サッカーファンの皆様!遂にこの日を迎えました!』
フットボールフロンティア地区予選が終わった後、全国大会が開催され、今はその開会式が行われていた。
巨大なスタジアムに全国から地区予選を勝ち上がってきた強豪校達が次々と入場してくる。
それにこれから参加する円堂達、雷門中。
「とうとう来たぞ!今日まで色んな事があったけど、ここまで来たら思いっ切り暴れてやろうぜっ!!」
「おうっ!」
全国大会。ここまで来たら、もう進んで行くしかない。
全員が奮い立っていた。
「あの…キャプテン。私はまだ雷門中として試合に出た事はないのですが、私も行進に参加して大丈夫なんですか?」
自分も参加して大丈夫なのだろうか。アドニスは不安そうに円堂に聞いた。
「何言ってんだよっ、アドニス!お前も雷門の一員だろ!当り前じゃないか。もちろんこれから試合にはどんどん出て貰うぞ!!」
「そうだぞ。アドニス。前にいた学校の事は知らないが…これからは雷門の一員として、しっかりな。それじゃ皆、行ってこいっ!」
円堂も響木監督も、心強くそう言ってくれた。
アドニスは嬉しさと同時に、身の引き締まる思いも感じた。
これからが私にとっての本番だ。頑張らなくては!
『続いて関東ブロック代表、雷門中学!』
そうアナウンスが掛かり、入場行進へ向かう雷門中。
雷門中と書かれたプラカードを持った少女に先導されながら入場していく。観客や他の学校から注目を浴びる。
アドニスはもちろんの事、円堂を始め他の部員も緊張と高揚でドキドキしていた。
『雷門中は地区予選決勝において、あの王者帝国を下した恐るべきチームだ!!全国大会でもその力が発揮されるのかあぁーー?!』
他校の者達が、入場してきた雷門中に視線を向ける。
「あれがあの帝国を倒したっていう学校……」
「全然聞いた事も無かったな……」
「あのオレンジ色のバンダナのヤツがキャプテンか……」
40年間無敗の帝国を破ったという事で、雷門中は高い注目を集めていた。弱小だった頃とは全く違う、他の強豪達からの熱い視線に雷門メンバーは奮い立った。
そして、雷門中の入場が終わり、次は帝国学園が入場して来る。
『更に昨年の優勝校…帝国学園の特別出場!!地区予選決勝で雷門中との死闘を繰り広げ惜しくも惜敗した超名門校!特別枠で王者復活を狙います!』
キャプテンの鬼道に続き、帝国メンバーは雷門メンバーの隣に並んだ。彼らが緊張している様子は全くなく、さすが大会常連校である。
「足の怪我はもう良いのか?」
円堂は隣へ並んだ鬼道に声を掛ける。
「人の心配より自分の心配をしたらどうだ。全国は今までと違うんだぞ。」
嫌味っぽい物言いではあるが、鬼道の顔には笑顔が見えた。
それに満面の笑みを浮かべる円堂。これから更に、色々な強豪達と戦える事が、嬉しいと共に楽しみなのだ。
「だから燃えるんじゃないか!」
「俺達に勝っておきながら、このスタジアムで無様に負けたら許さんからな。」
「おう!もちろんだ。帝国こそ負けんなよ!」
これで全ての参加校が出揃ったと思いきや、アナウンスが掛かる。
『そして残る最後の一校は推薦招待校として、世宇子中学の参戦が承認されています!!』
「…!!」
その名を聞いた瞬間、アドニスの心臓は大きく脈打ち、その顔は青ざめてゆく。
ゼウス中学………世宇子って………
その学校名は間違いなく、アドニスがついこの前まで在籍していた学校だ。
どうして。フットボールフロンティアには参加などしないと言っていた筈なのに。
「本当に存在してた学校だったんだ…。」
観客席から見ていた春奈も、前にアドニスからその名前を聞いた事があるのを覚えていた。
その時はなぜか、彼女なりの冗談だと思って笑ってしまったのだが。人の学校を笑うなんて…悪い事をしてしまった。と反省する。
「世宇子って確か…アドニスさんが前にいた学校……よね。」
その学校名を聞いていた夏未も、ぼそりと呟いた。アドニスの転校手続きの際に色々と調べていたものの、サッカー部の情報が全く無かった為、ただの弱小だと思い、特に気に留めていなかったのだった。
推薦校としてその名が出た世宇子中学。
その彼らの姿がどんなものなのか、アドニスを除くそこにいる全員が目を向ける。
だが、プラカードを掲げた少女が一人、恥ずかしさにその頬を赤く染めながら出てきただけである。
その後に続くはずの選手達はいつまで経っても出て来る事はなかった。
『えー…本日、世宇子中学は調整中につき開会式は欠場との事です!!』
そうアナウンスが入る。
「ゼウス…聞いた事ない名前だな。」
「神気取りな学校名だな。出場しないなんて、どうせ大した事ないんだろうよ。」
「どんな奴らでも関係ない。俺達の必殺技で一捻りにしてやる!」
姿を見せない世宇子に、ひそひそと勝手な思いのままを言い合う参加校の選手達。
違う、違う…!
彼らはそんなものじゃない。彼らは……
ただ一人、不安を巡らせるアドニス。
『以上の強豪達によって、中学サッカー界日本一が決められるのです!!』
そして開会式は終了し、その帰り道。
「アドニス。どうした。何かあったのか?さっきまでの元気が見られないが。」
響木監督から、そう声を掛けられる。
それを聞いた雷門メンバーは、アドニスをじっと見つめる。
確かに顔色が良くないような感じがした。
「アドニスちゃん、大丈夫…?」
春奈はアドニスの隣へと行き背中をさすった。夏未も心配な顔つきで彼女を見つめる。
「何だ、調子が悪いのか?」
春奈に続いて染岡が気遣う。
「…いえ、あの……」
だが、まだアドニスは気分が悪そうだった。
「もしかして最後に出て来た推薦校の……世宇子の事…?」
春奈は恐る恐るアドニスに耳打ちする。
すると彼女の顔はますます青ざめていった。
「どうしたんだ?何か不安があるなら何でも話してみろ。」
円堂がアドニスに向かって優しく声を掛ける。
これから試合も始まってくる。彼女には早速次の試合に出て貰おうと思っている為、ここで離脱されては困る。
「…あの、さっき推薦校として世宇子中学が出てきましたよね…?」
アドニスの代わりに春奈が口を開いた。
「ああ、姿は見えなかったけど…それがどうかしたのか?」
「そこなんです。…アドニスちゃんが前にいた学校。」
「え…ええ~!?」
夏未を除き、驚きの声を上げる一同。
「という事は…お前は奴らがどんな姿なのか、知ってるんだな?」
染岡の質問に、アドニスは頷いた。
「すごいぞ!だったら心強いじゃないか!!」
円堂が目をキラキラと輝かせる。
「…え?」
その思いもしない反応に、アドニスは驚いた。
もっとこう…怪しまれたりするかと思ったのに。
「だってさっ、他の誰もが知らない事をお前は知っているなんてすごいじゃないか!もしもの時は頼んだぞ!」
「そうだな。もしその世宇子と当たっても、お前が知っている事を話せばいいんだ。」
円堂に続き、豪炎寺が静かに言った。
「あ、でももし当たったら気まずい…よね。俺も帝国の時、何となくそうだったし……でも、もう君は雷門の仲間だろ。頑張って行こう!」
元は帝国から来た土門が、励ますようにウィンクをする。
「皆さん…そうですね。その時は力になります!……でも本当に彼らは………」
アドニスは皆からの激励に元気を取り戻し始める。だがこの頃の世宇子は、サッカー校としては全くの無名。
皆はまだ、その恐ろしさを分かってない。不安を完全に消す事は出来なかった。
「強いからこそ、燃えるんだろ!強ければ強い程、戦い甲斐があるってもんだ!」
円堂はますます燃え、その目には炎が映る。
その様子にアドニスは少しクスっと来る。
そうだ。円堂キャプテンは、雷門の皆はこういう人達だ。
変に人を疑う事をせず、ただ真っ直ぐに、大好きなサッカーと向き合う。そしてその気持ちだけで、不思議と強くなっていくのだ。
例え世宇子と戦う事になっても、その時も___
アドニスの中には、きっと大丈夫だという…安堵感と希望が湧いていた。