全国大会第二回戦を控えている雷門中サッカー部。
だが、今のサッカー部の部室は全国大会の事どころではなかった。
「ええ!!」
「うっそお?!」
「こんなの、ってアリなんですか?」
半田や松野、少林寺に続き口々に驚きの言葉を出していき、ざわつく雷門メンバー達。
なぜなら、今彼らの目の前にいるのは。
「鬼道有人だ。帝国のかたきを討つために転入した。」
帝国キャプテンであり天才ゲームメイカーの鬼道が雷門のユニフォームを着て立っているのだ。
特徴的なゴーグルとドレッドヘアは相変わらず、赤いマントを脱ぎ捨て、今は青いマントをまとっている。
「一緒に世宇子を倒したいんだ!どうかよろしく頼む!」
そう言い、雷門メンバーへと一礼する。
「何て執念だ。そういう事なら断れねえよな!!」
仲間の為に雪辱を果たしたい。その為に転校してきた鬼道の、その熱い心に、染岡が歓迎を示す。
「お兄ちゃん…。」
鬼道の妹の春奈は嬉しいやら何やら複雑な感情が絡み合う。
それはアドニスも同じであった。
「そういう事だ、みんな、よろしく!!」
円堂は嬉しそうに笑った。豪炎寺もすまし顔を決めながら薄く笑っている。
鬼道に雷門への転入を勧めたのは何を隠そう、豪炎寺だった。
「で、でも…突然の転校でチームを変えるなんて出来るのか?」
フットボールフロンティアの最中に他校へのチーム移籍なんて可能なのかと、半田が疑問をぶつける。
「それなら心配ないわ。転入手続きを済ませた後なら、転入した学校のチームに入れるのよ。これは違反ではないわ。」
その疑問に、得意気に夏未が答えた。
あの帝国の天才ゲームメイカーの転入。思いがけず強い味方を引き入れた雷門中は心強さを感じていた。
元は敵同士だったのだが、彼の転入を反対する者はいなかった。
円堂は強い敵が味方になってくれたという事ではなく、これから一緒にサッカーが出来るという事が何よりも嬉しかった。
「ところでだが、次の試合は?」
新たな仲間ムードで、すっかり次の試合の事を忘れていた雷門メンバーの代わりに鬼道が聞いた。
世宇子との再戦を果たすのなら、今は次の試合を勝ち進んでいかなくては話にならない。
「あ、ええと…次の2回戦は
それに春奈が答え、全員が目を向ける。
「戦国伊賀島は、忍者の末裔と言われていて……忍術を駆使した必殺技を使ってくるようです。でも、イマイチ彼らがどんな練習をしているのか…分からないんです。」
情報収集の得意な春奈でも、彼らの練習情報の詳細までは得る事は出来なかったようだ。
「忍術?何だそりゃあ…」
染岡が言葉を挟んできたが、春奈は話を続ける。
「それから…エースストライカーに
戦国伊賀島。忍者サッカー。エースストライカー。
そのどこか得体の知れない強敵に恐れと不安を感じるメンバー一同。
それも全国大会二回戦。鬼道が仲間になってくれたとしても簡単に勝てる相手ではないだろう。
しかし、その中で円堂はもう待ちきれないという感情を出していた。
「忍者サッカーか。何か面白そうじゃん!」
と、いつものようにキラキラと目を輝かせた。
「みんな、すまん!遅くなった。」
そこに、響木監督が部室へと入って来た。
本業はラーメン屋を営んでいる為、こうして遅くなってしまう時もあった。
監督との両立は中々に難しい。
「あ!響木監督!お疲れ様です。今、音無から次の対戦相手の事について聞いたところです。」
円堂が元気よく挨拶をする。それに他のメンバーも続いた。
「おお、そうだったか。次は戦国伊賀島だが、音無から聞いたのなら説明は大丈夫そうだな。お前達、練習に励むのも良いが、ゆっくり休む事も忘れんようにな。完璧なコンディションで試合に挑むんだ。」
「はい。響木監督。心得ます。」
そう冷静的に返事を返したのは入ったばかりの鬼道だ。
「鬼道。もう来ていたのか。これから雷門をよろしく頼むぞ。」
「いえ。こちらこそ。受け入れて下さり、ありがとうございます。」
響木に向かって深々とお辞儀をする鬼道。
本日は試合の時のコンディション調整の為に練習は休みと言う事になり、これで解散となった。
「アドニスちゃん。ちょっと私の家に寄らない?」
帰り道の途中。いきなり春奈から家へのお誘いを受けるアドニス。
「えっ!いきなりだけど…良いの?」
「うん!もちろん。」
でも何も手土産を用意していないと慌てるアドニスに、いいからと自分の家へと彼女の手を引き、案内する春奈。
そして歩く事数十分。
「着いたよ。お母さん、ただいまー!」
家に辿り着いた春奈は、ドアを開けながら帰った事を伝える。
すると、優しそうな女性が出迎えた。
「おかえり春奈、おやつが……ってあら、その子は?」
音無家。
確か前の帝国戦の時に、小さい頃に両親を亡くした。と聞いていた。
という事は、この人は彼女の義理のお母さん…
「は、初めまして。春奈さんの友達のアドニスです。」
緊張が解けなかったが、挨拶をする。
「えへへ、友達連れて来たの!」
春奈が可愛らしい笑顔を母親へと向ける。
「まあ、そうだったの。いらっしゃい、アドニスさん。どうぞ上がってね。」
とても優しそうなお母さんだ。
鬼道が春奈を鬼道家へ引き取ろうとしていたのだが、彼女は音無のままが良い、と断言していた。
良い両親の元へ引き取られたからこそ、彼女はまるで春を呼び起こすような…明るい性格になったのだと感じさせられる。
アドニスはそのまま家の中へと案内されていき、お茶を用意するから待っててと春奈の部屋へ1人で通される。
「春奈、あの子すごく綺麗な子ね。」
「そうでしょう!ふふ。」
「素敵なお友達が出来て良かったわね。」
「うんっ!アドニスちゃんはサッカーも上手なんだよ!」
キッチンに入った2人は、アドニスの事を話題にしながら、仲良くお茶の準備を進める。
アドニスが通された春奈の部屋は可愛らしく、いかにも女の子という感じの部屋である。その傍ら、情報収集に使うのであろうパソコンなども置かれている。雷門中の事が書かれた、手作りの新聞も置いてあった。
待っている間その新聞を読んでいると、お茶とお菓子の乗ったお盆を持った春奈が入って来た。そしてそれをテーブルに置くと、一緒にその新聞を見始める。
「お待たせっ!その新聞、私が書いたんだよ!」
「あ、ごめんね!勝手に見ちゃって。」
「いいのいいの!私、サッカー部のマネージャーになる前は新聞部だったんだ。」
雷門中の出来事は、ほとんどがサッカー部の円堂の事が書かれていた。
まだ何もない弱小チームだった頃の事。
円堂がサッカーの練習の為、校舎内に牛を連れて夏未に怒られた事。
そして、初めての練習試合の帝国戦の時の事。
すごく面白くて読みやすい。こんな新聞が書けるなんて…だから彼女は、あんなに情報収集能力が高かったんだ。
アドニスはそう思いながら、帝国戦の時の内容を見る。
「帝国20ー1雷門で……帝国の試合放棄により無事雷門の勝利?」
「うん。新しく入って来た豪炎寺さんのシュートが決まった後にね、帝国にいたお兄ちゃんが試合放棄をしたの。」
これは初めて円堂キャプテンと河川敷で出会った時に少しだけ聞いた話。これだったのか。
絶望的な点差になっても、決してあきらめる事の無かった円堂キャプテンは、やっぱりすごい!
「アドニスちゃん。お願いがあるの。」
先程までの花が咲き誇るような可愛らしい笑顔とは違い、真剣な表情になる春奈。
アドニスには大体、察しがついた。
「世宇子の事に付いて…教えてくれる?」
雷門に来た兄の為にも世宇子の情報が欲しい彼女は、普段は頭に掛けている赤い眼鏡をしっかりと目元に装着し、真剣な眼差しをアドニスへと向ける。