アドニスが今、お邪魔している春奈の部屋。
「ごめんね。…私ったらつい真剣になっちゃって……」
「ううん、大丈夫だよ。気持ちは分かっているから。」
兄の為にも!と思い、先程はつい真剣にアドニスに世宇子の事に付いて問い詰めてしまった春奈は、両手を合わせ苦笑いをしながらアドニスへ謝っていた。
だが、強かった自分の兄弟があんな風に惨敗してしまえば、その相手__世宇子の事を知りたいのも無理はない。
それに何故か、帝国対世宇子の試合の映像を入手する事が出来なかったのだ。恐らくは影山が何か手を回したに違いないのだが。
こうなれば、分かる人に聞くしかないのである。取材という訳ではないが元新聞部の腕の見せ所だ。
アドニスはまず何から話せばいいのだろう、と考え込む。
何せ彼女も世宇子には在校していたものの、サッカー部の全貌を知っている訳では無い。
監督が影山だったという事を知ったのも、ついこの前の事。
だが真っ先に思いつくのは___
「彼らは突然、何だか分からない…すごい力を発揮するようになったの。」
「すごい力?」
「うん。例えるなら、まるで神様…のような。」
「神様……」
元々も彼らは相当の実力を持っていたが、それを更に上回る力。
その力を持って以降の彼らが狂暴に不気味に見えるようになった。上手く説明が出来ない、得体の知れない不穏な雰囲気。
それから、どことも試合をした事が無い事や、変なサングラスを掛けた研究員達が彼らの記録係だった事。
アドニスは自分が知っている限りの事を春奈へ話した。
「ふむふむっ……それって大分、怪しいね!」
「やっぱり?」
また真剣になり過ぎないように茶化しながら、でも真面目に春奈は聞いていた。
帝国を見限った影山が監督という事もあり、誰が聞いたとしても世宇子の事は怪しく思うだろう。
だがその真相に辿り着く事は、彼女達にはまだ不可能だ。
「アドニスちゃん。教えてくれてありがとう!」
「ううん。私も知っているのはこれくらいで…あ、それから。」
まだ重要な事が残っていた。
「それから?」
「…中でもキャプテンの力は桁違いってところ、かな。」
ゴールを破壊してしまう程の力の持ち主。キャプテンの事を忘れてはいけなかった。
もちろん、ヘラやデメテル。ゴールキーパーのポセイドン等、全部員が強いのだが、その中のキャプテンという事もあり、アフロディは並外れた能力を持っている。
彼がどんなに恐ろしいか、その傍にいたアドニスは知っている。きっと、どこの学校にもいないような、とてつもない強敵となるだろう。
あの王者帝国が、完膚無きまでに叩きのめされたのが、何よりの証拠。
分かる事は春奈に全て教え、この日はこれで、お邪魔しましたと音無家を後にした。
__春奈ちゃんって誰かに似ているような?どこかで見た事のあるような。何だろう?
帰り道。ふとアドニスは前々から春奈に対して感じていた……何かを思い出すような感覚がし、それが何なのか過去を思い出そうと1人黙考するものの、やはり何も思い出す事は出来なかった。
一体何なのだろう。前世の事が関係しているのだろうか。
それから。
いよいよフットボールフロンティア全国大会第二回戦が始まろうとしていた。
相手は、忍者の末裔ともいわれている戦国伊賀島中学。
忍術を模した必殺技を多用し、多くのチームを破って来た強豪。
試合会場でアップをしている雷門メンバー。
「忍術かあ。オレも使ってみたいかも。」
「そうでやんすねぇ。忍術を決められたらきっとカッコいいでやんす!」
本日の対戦校チームが忍術の使い手だという事で、円堂が呑気に忍者への憧れを口にし、それに同調する栗松。
忍者というのは、なぜか男子の心を惹きつける。
一方、アドニスは忍者がどういうものなのか、よく分かっていなかった。
そこに。
「ねえ、試合前にあたしと勝負しない?」
顔は可愛らしいが、桃色の髪を左目が隠れるように結った独特な髪形をし、忍者の様なユニフォームを着用した少女が、どこからか突然現れた。
その少女はアドニスへと声を掛けて来たのだ。
「あなたは?」
「ええ?あたしを知らないの?あたしは
この少女が以前、春奈が調べて聞いていた戦国伊賀島のエースストライカーである。
アドニスが知る由も無かったが、この少女…小鳥遊忍こそ野生中との試合が終わった後に、雷門メンバーを影から覗いていた人物であった。
勝負とは?呆然とするアドニスに小鳥遊は、ずいっと顔を近付ける。
「で、勝負するの?しないの?」
「勝負って言われても、そんな…私は何も出来ないよ?」
「何言ってるのよっ!あんた、野生中の時に一番最初に点を入れたでしょうがっ!」
彼女はそう言いながらビシッとアドニスを指差した。
だからと言って何故勝負する事になるんだろう。
「同じ女子選手、フォワードとして、あんたに負けていられないもの!」
一方的にライバル心を燃やす、小鳥遊。
「勝ち負けなら試合で決めようじゃないか。今は勝負をする時間ではない筈だが。」
アドニスが困っていると、話を聞いていた鬼道が冷静に割って入って来た。
雷門のユニフォームを着ている鬼道を目の前にした小鳥遊は、驚くと同時に蔑みの目を雷門メンバーに向ける。
「あんたは帝国の鬼道!……ははーん、さては…あたし達が怖くてそんな手を使ってきたのね。雷門って腰抜けなのね。」
「誰が腰抜けだってえぇ!?」
雷門中を侮る小鳥遊の発言に、円堂が遠くから叫ぶ。地獄耳というものだろうか。
「やめろ。円堂。ああいうのは相手にしない方が良い。」
風丸が、まるで子供をなだめるかのようにその場を落ち着かせようとする。それに頷く豪炎寺。
「だってオレ達の事を腰抜けって……」
「いいですよ、私、勝負を受けます!!」
円堂のぼやきを遮り、アドニスは言い放った。その声は怒りが生じている。雷門を腰抜けと言った事を取り消してもらいたい。
その一心だった。
「そうこなくっちゃ。ルールは簡単。お互いのゴールに先に3点入れた方の勝ち。これでどう?」
小鳥遊が提案してきたルールは、前にいた学校の世宇子でキャプテンのアフロディと勝負した時の内容と似ていた。その時に完敗させられた事を思い出す。
絶対に負けるものか。アドニスは燃える。
1つのボールを間に挟み、対峙するアドニスと小鳥遊。
「それじゃ、行くわよ!」
小鳥遊が先手を打ち、瞬く間にボールを奪い走り出す。
「なっ!速い…!」
そのあまりのスピードに驚くアドニス。これが忍者というものなのか!?でも、こんなところで負けられない!
負けじと必死に小鳥遊のスピードに食らいつき、何とか追いつく。すぐにボールを奪ってやろうと思ったが、そう簡単にいく相手ではない。
「ふーん、中々やるじゃない。」
ボールの競り合いをしながらも余裕そうな顔を浮かべる小鳥遊。
彼女の人を見下すようなその表情は…あの時のアフロディを思い出し、アドニスは無意識のうちに頭に血が上っていた。
その時。
「あっ!」
ボールを蹴り出そうとした小鳥遊の足が、アドニスの足に直撃した。
思わず足を当ててしまい、驚いて目を見開く小鳥遊。だがアドニスは一切気にするそぶりを見せず、その隙にボールを奪いゴールへと走り出す。
それに更に驚く小鳥遊。
「ちょっと、噓でしょ…かなり強く当たっちゃったのに。」
「アドニスちゃん……」
勝負を見ている春奈や雷門中メンバーも心配そうにアドニスを見つめる。
「止めなくて良いのか…?」
半田がそう言うものの、白熱している彼女達に誰も割り込む事が出来ないでいた。
あの時の様に負けたくない、負けてはならない!という思いが、今のアドニスを突き動かしていた。
いよいよゴールへと迫った、その時。
「そこまでだ。アドニス。」
彼女の行く手を阻み、素早くボールを奪ったのは鬼道だった。
彼女達の勝負は中断、というより中止にされる。