アドニスイナズマ転生物語   作:かんりにん

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25話 みんなで合宿

 

 

 

夕方5時の放課後の雷門中。

もう生徒達は残っていなかったが、サッカー部員だけが集められていた。

体育館にはきっちりと布団も用意されており、枕投げをしている者、談笑している者、それぞれが楽しそうに過ごしている。

 

「はあー、こんな事している場合じゃないと思うんだけどなあ」

 

その光景を見ている円堂が呆れた様子でぶつぶつとぼやく。

 

それは遡る事、数時間前。

アフロディのシュートを止める事が出来なかった円堂は、その悔しさと焦りから、必殺技マジン・ザ・ハンドを習得したいが為に修練場で無理な練習を繰り返していた。

 

「何が、神と人間が戦っても勝敗は見えている、だ…!」

 

マシンが円堂に向かって何発も強いボールを繰り出す。

それら全てを受け止める事が出来ず、円堂は転倒した。

 

「うがあっ!……もう一度だ!!」

 

何度も何度も倒れても、次こそは!と立ち上がる円堂。その目は殺気立っており、

風丸も染岡も…誰も彼を止める事は出来なかった。

 

「マジン・ザ・ハンド……何が何でも完成させるんだ!!」

 

「円堂くん…」

 

木野が、心配そうな目で円堂を見つめていた。

彼を心配しているのは木野だけではない。

 

いつも朗らかなキャプテンが、あんなに荒ぶるなんて……

 

円堂のその姿を見ているアドニスも、動揺を隠せずにいた。もちろん彼の気持ちも痛い程よく分かる。あんな見下された態度を取られては気分が良くない。

そう思うものの、自身もどこか心が暗く沈んでいくのを感じた。

世宇子に戻って来させようとするのを諦めてもらう為とは言え、自分の以前のキャプテンに弓を向けてしまったのだ。平常心を保ってはいられなかった。

 

これで決勝戦は戦えるのだろうか、という不安が大きくなってゆく。

 

「アドニスさんも元気が無くなっちゃった…もう、円堂くんたら……!」

 

落ち込むアドニスを見た木野は、円堂に一言言ってやろうと彼に近付こうとした。

そこに響木監督と夏未がやって来て、微笑みを浮かべながら木野の肩を優しく叩いた。そして声を張り上げ全員を集めた。

 

「今日は学校で合宿をするぞ!皆でメシでも作ってな。」

 

響木監督の突然の提案に驚くと同時に嬉しそうな反応を見せる部員達。

 

「合宿かあ~!」

 

「そういえば俺達、合宿ってした事なかったもんな。」

 

「何だか楽しそうでやんす!」

 

「待ってください。監督。」

 

静かな、しかしどこか怒りを含んだ口調で円堂が口を挟む。

 

「メシでも作るって…そんな呑気な事してる場合じゃないですよ。それに世宇子との試合は明後日なんですよ?それまでにマジン・ザ・ハンドを完成させないと………」

 

「出来るのか?…今の練習で必殺技を完成させる事が。」

 

「だから!それはやってみないと…」

 

「無理だ!」

 

響木監督にきっぱりと断言されてしまい、円堂は動揺を隠せない。

 

「マジン・ザ・ハンドは、お前のじいさんが血の滲む努力をして作り上げた幻の必殺技だ。闇雲に練習して完成するほど甘い技じゃないぞ!」

 

「……」

 

「それに今のお前は必殺技の事で頭が凝り固まっている。そんな状態で完成させる事は不可能だ!」

 

「確かに。一度マジン・ザ・ハンドの事は忘れてみてもいいかもしれないな。」

 

鬼道は響木監督の意見に賛成した。他の者達も続いて賛成の意思を示した。

夏未がパンパンと自分の手を叩く。

 

「それじゃあ、合宿という事で決まりね。」

 

「用意をして、5時に集合だ。」

 

「「はーいっ!」」

 

円堂を除く全員が元気に返事をする。

そうして突如、合宿が決まったのだが円堂は内心、納得出来ないままでいたのだ。

 

話は冒頭に戻る。

 

アドニスは春奈と壁山、栗松、少林寺達と一緒に枕投げを楽しんでいた。これでは、まるで小さな子供である。

 

「みんな、やめなさいったら!枕投げに来たんじゃないのよ!?」

 

木野が注意するが、それを素直に聞く彼らではなかった。

投げた枕は、よりにもよって染岡の頭に見事命中し、激怒した彼に追い回される事になったアドニス達。だがそれでも楽しそうに走り回っていた。

つい先程までは落ち込んでいた彼女だったが、こうして皆と集まり騒ぐ事で、その気持ちも大分紛れたようだ。

 

「もう、だから言ったのに…。でもアドニスさん、元気になって良かった。」

 

「ふふ、合宿して良かったでしょう?息抜きも大事よ。」

 

安堵する木野に夏未が微笑んだ。

 

「うん、本当に!あとは円堂くんよね…」

 

肝心の円堂は1人で祖父の必殺技ノートを読みふけっていた。

だが響木監督の言っていた通り、闇雲に練習して簡単に出来るような技ではない。何度見てもやってみても全く理解が出来ず、焦りだけが募っていく。

 

「ここがポイント……ああ、もうどうすりゃ出来んだよ!?」

 

普段の彼なら、皆の輪に入り思いきり楽しんでいた事だろう。しかし今はどうしてもマジン・ザ・ハンドの事しか考えられない。

間もなく迎える決勝戦。絶対にあのシュートを止められる技を取得しなければならないのに。

 

 

夜は校庭で全員でカレーを作りながら、わいわいと賑やかな雰囲気の中で夕食を済ませる。皆でこうして外で食事をする機会はあまり無かった為、普通のカレーでもいつもの倍以上に美味しく感じた。

 

そして食後の落ち着いた頃。アドニスは持参していた弓を見つめる。

必殺技が欲しいのはキャプテンだけじゃない。自分だってそうだ。

 

グラウンドにあるサッカーゴールのネットの真ん中の部分に弓道で使う的を括り付け人が誰もいない事を確認し、そこで弓の練習を始める。

 

神さえも射貫(いぬ)く矢。

イメージをし集中力を高め、的に向かって弓を引く。が、外してしまった。

もう一度弓を引くが、これも的に当たらず地面に落ちてしまった。それから何度も何度も弓を引いた。

しかし全部、的を外してしまう。

 

「…どうして」

 

確かに一度、気分が沈んだ。

でも、さっき皆と遊んでいた時はとても楽しかった。これで気分は完全に晴れたと思っていた。

 

『…キミには幻滅したよ。せいぜい後悔するといい。』

 

それでも、あの時どうしても弓を向けた時のアフロディの顔が頭から離れないのだ。

 

やっぱりもう自分は決勝戦は戦えないかもしれない。

再び気分が沈んでしまったアドニスは、散らかしてしまったその場所を片付ける事にした。

 

 

「………。」

 

その様子を遠くから見ていた鬼道。

そして、ずっとノートから目を離さない円堂に近付いていき声を掛ける。

 

「円堂。焦るのは分かる。だが今、一番辛いのは誰だと思っている?」

 

鬼道の言葉に、顔を上げハッとする円堂。

 

「そうか、鬼道も辛いんだよな…帝国のみんながあんな目に……」

 

「違う、そうじゃない!…ちょっとこっちに来い。向こうを見てみろ。」

 

腕を引っ張られ、言われた方向に目を向けるとアドニスが落ちている矢を拾い片付けている様子が見えた。

何本も落ちている矢は一本も的には刺さっておらず、全て地面に落ちていた。

 

「あ、アドニス…!!」

 

円堂は目を見開く。

 

「元々は世宇子出身という事は覚えているだろう。さっきはアフロディに弓を向けてはいたが、辛いだろうな。前のキャプテンへ弓を向けるなんて。」

 

「……。」

 

「それでも戦おうとしている。雷門の…今の仲間の為に!」

 

「っ!!」

 

鬼道に言い立てられ、ようやく気付いた円堂は自分の頬を両手で叩いた。

 

わざわざ世宇子から転入してきてくれて、野生中戦ではすごく力になってくれたアドニス。その後は怪我で試合に出る事は出来なかったけど、決勝戦こそは出て貰いたい。そう思っていた。

これから前の学校と戦う事になる彼女にとって、今は不安定になってしまう時なのに。それなのに。

 

__オレ、今まで何してたんだ!

必殺技の事だけで頭が一杯で、ノートばっかり見て…仲間の事さえ目に入っていなかった!

 

円堂は、アドニスの所へと駆け寄る。

 

「アドニス!…ゴメン!!」

 

「キャプテン…?」

 

突然のキャプテンからの謝罪にアドニスは驚き、彼を見つめる。

 

「オレ、必殺技を完成させたいばかりに1人で突っ走って、周りを見ていなかった!キャプテン失格だ!!」

 

「そんな、キャプテン……」

 

「アドニス、オレに向かって……矢を打ってくれ!!」

 

唐突で奇妙なその申し入れに、アドニスは戸惑う。

 

「ええ!?危ないですよ?」

 

「これは罰だ!!それにさっきはアイツに向かって打ってたじゃないか。頼む!」

 

厳密にいえば矢までは放っていないのだが。

円堂は頭を下げて引き下がらない。そこに鬼道が歩いて来た。

 

「さすがに人に向けて矢を射るのは危険だ。アドニス。これを使え。」

 

そう言いアドニスに、先端が吸盤になっている玩具の弓矢を手渡した。

 

「でも、これでも人に向けるのは危ないんじゃ……」

 

「頼む!アドニス!打ってくれればオレも必殺技のコツが掴めるかもしれないんだ!!」

 

「…だそうだ。怪我をしても自己責任だ。これも練習だと思ってやってやれ。アドニス。」

 

かすかに微笑みながら、鬼道もそう勧めてくる。

 

「……分かりました。そこまで言うのなら!」

 

練習の為となっては、もはや断る理由は無い。アドニスは承諾した。

円堂は位置に着き構えると、アドニスの弓を待つ。

 

「いきますよ!キャプテン!」

 

「おうっ!来い!!」

 

アドニスは円堂を目掛け、静かに弓を引く。

そして放たれる矢。玩具の弓矢と言えど、その威力は中々のものだった。

 

「おわあっ」

 

円堂は矢を思わず避けてしまった。いつもサッカーでは迫力のあるシュートを受け止めてはいるが、もちろん弓矢など受け止めた事が無い。

 

「はは……結構迫力あるな、これ。」

 

苦笑いをしながら頭を掻く円堂。だがアドニスは矢を射るのをやめず、すぐに二本目が放たれた。

 

「ととっ!うわっ!!ちょ、ちょっと待ってって……」

 

「どうした円堂。避けてばかりでは必殺技の発動は出来ないぞ。」

 

その様子を見ている鬼道は、少し面白そうにしながら口を挟む。

いつの間にかその場には雷門メンバー全員が集まっており、奇妙な特訓をしている円堂とアドニスを楽しく眺めていた。

これは円堂だけでなくアドニスにとっても重要な特訓となりそうであった。

動かない的より動く的の方が感覚が研ぎ澄まされ、これは狩りだという感じがする。

自分は狩人。今は円堂を獲物……いや、的に仕立て静かに玩具の矢を放っていく。

 

吸盤の矢が身体にくっついていき、見る見るうちに矢だらけになっていく円堂。その姿に鬼道と豪炎寺は真面目な感じを装いながらも密かに笑いを堪えていた。既に笑っている者もいるが。

 

そして何十本目かが放たれた時。

 

「今だっ!」

 

ようやく円堂は、しっかりと矢を掴み止めて見せた。

 

何だかコツが掴めてきたかもしれない。ヘソと腰に力を入れれば上手くいく。取れないボールは無い。

でもまだ、明らかに何かが足りていない。

マジン・ザ・ハンドを発動させるのに、必要な動きとは一体___

 

一方アドニスも何十発も弓を引いた事によって、何だか良い着想を得られたような気がした。

やっぱりこれはサッカーに……必殺技に使える!

 

円堂は自分の身体にくっ付いた矢を外し、アドニスに返した。

 

決勝戦は、絶対に大丈夫!!

そう思いながら円堂とアドニスは目を合わせ、お互いに笑い出す。

 

 

「そこまで!」

 

その場に、響木監督の声が響く。

 

「お前達、今日は特訓ばかりでは無くて遊んでも良いんだぞ?もっと息抜きをしたらどうだ。」

 

突然そう言われ、雷門メンバーは頭にクエスチョンマークを浮かべる。

 

「息抜き……ッスか?」

 

「遊ぶって言っても……」

 

「キャプテン達のあの特訓、面白かったけどなあ~。」

 

色々と考え始める壁山、半田、松野達。

そこで円堂は目を輝かせながら全員へ声を上げる。

 

「みんな、ここはやっぱり…………サッカーやろうぜっ!」

 

遊ぶと言ったら…最高の息抜きと言ったらやっぱりこれしか無い!

夜も既に遅い時間なのだが、今日は門限は無い。

今は練習としてではなく息抜きの遊びとして、普段はマネージャーである音無も加わり、楽しくサッカーをやり始めた雷門メンバーであった。

 

「全く……彼らにはサッカーしかないのかしら。」

 

はしゃぐ雷門メンバーを見て夏未が呆れる。

 

「あはは……でも円堂くんもいつもの調子が戻ったみたい。良かった。」

 

いつも通りの明るく朗らかな調子に戻った彼を見て安心する木野。

そこに、その彼から2人に呼び出しが掛かった。

 

「おーいっ、夏未も木野も来いよ!!一緒にやろうぜ、サッカー!!」

 

「うんっ!今行く!行きましょ、夏未さん。」

 

「わ、私はサッカーはやらないわよっ!」

 

「え~!せっかくだから、少しやってみましょうよ。」

 

夏未は参加を拒否するものの、全員がとても楽しそうにしている雰囲気の中、木野に粘られ考えを改める。

 

「……仕方ないわね、もう…………今日だけ特別よ!」

 

そして2人も加わり全員でサッカーを楽しむ雷門一同。響木監督もその様子を満足そうに見守る。

 

 

世宇子との決勝戦は、いよいよだ。

 

 

 

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