アドニスイナズマ転生物語   作:かんりにん

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28話 世宇子戦 返り咲く狩人

 

 

 

静まり返った世宇子の廊下。

神のアクア…もといドーピング捜査の為に建物内に忍び込んでいた鬼瓦刑事は、遠くの方に何かを見つけ立ち止まる。

 

「…あれは?」

 

廊下の奥にいるものに目を向ける。

それは人の形をしているが、うっすらと金色に光を放っており、何なのかは分からないが何故か…美しいものだと分かる。

よく目を凝らしてみていると、美しい女性の姿に見えた。どことなく世宇子のキャプテンの子に似ているような…

 

いや、そんな事よりなぜこんな所に女性が?

 

そう不思議に思った鬼瓦刑事は、その人物に近付こうと歩き出す。

 

「あの、あなたは一体?」

 

しかしその人物は何も言葉を発する事なく、奥へと進んで行く。

足を使って歩いているのではなく、まるで幽霊のようにスーッと滑って行ったのだ。

 

「!!」

 

あれは明らかに人間ではない。

まさかここ世宇子には、本当に神が実在するとでもいうのだろうか。

しかし、その人物の美しさに惹かれ考える間もなく鬼瓦刑事は無意識のまま後に続く。

 

少し進むと、ある扉の前で人物は止まり、そこで消えてしまった。

鬼瓦刑事は我に返る。

 

「何だ?この部屋に何かあるのか…?」

 

扉を開けようとするものの、鍵が掛かっている。

警備室から奪っていた鍵の束を取り出し、一つ一つ試していく。

すると、いくつか試していたうちの一つが合い、鍵が開いた。そのまま扉を開ける。

部屋へ入った鬼瓦刑事は、中にいた人物に驚愕する。

 

「君は……雷門の?!」

 

「…!」

 

部屋で1人うずくまっていた人物___アドニスは顔を上げた。

 

「なぜこんなところにいるんだ?!試合はとっくに始まっているぞ!……まさか。」

 

「私にも何が何だか分かりません。今朝、家を出たら黒い服の人達にここに連れて来られて……」

 

安堵したからなのか、アドニスは泣きそうになる。

 

「よしよし。もう大丈夫だ。無事で良かった。恐らく影山の仕業だろう。君は世宇子の生徒だったから秘密を知っていると見たんだろうな。」

 

「…秘密?」

 

「ああ。試合中、世宇子の選手達はある飲み物を飲んでいるんだ。しかも全員いっぺんに。どうやらそれで彼らは強化されているらしい。まるで神になったかのように。今それを調べている最中だったんだ。」

 

「神になったかのように…?…それは……」

 

アドニスには思い当たる節があった。

そういえば彼らは途端に実力以上の力を付け始めた。アフロディは自らを神と称していた。

もしかしてそれが……だとしたら雷門の皆は…………

アドニスの中に嫌な予感がよぎる。

 

「と、話し込んでいる場合じゃない!危険過ぎるから正直、君はこのまま試合に出ない方が良い、と言いたいところだが………それでも強化された彼らと戦う覚悟はあるか?」

 

鬼瓦刑事の問いに、迷いを見せる事無くアドニスは答える。

 

「はい!!」

 

「…よし!外へ案内するから付いて来るんだ!」

 

そのまま、見つからないように慎重にグラウンドへと案内される。

アドニスが閉じ込められていた部屋は、何と世宇子スタジアムの内部にあったのだ。

入り組んだ廊下を抜け無事にアドニスを外に送り届けると、鬼瓦刑事はそのまま再び捜査を続ける為、内部へと戻って行った。

 

アドニスは目を見開く。

既に後半戦が始まっているのだが___

試合が行われているグラウンドを見た途端、そこに広がっている悲惨な光景。

 

「皆!!」

 

雷門イレブンは全員傷だらけで負傷が激しい。ついに染岡も怪我を負ってしまい試合が出来なくなってしまった。控えの選手も、あとは___

 

「こ、交代です!僕も戦います……僕だって…雷門の一員だ!」

 

震えながら目金は手を上げていた。この状況でフィールド入りするのは、いつもベンチにいる彼には荷が重過ぎる。

アドニスは急いで走り出し彼らの前へと姿を見せる。

 

「その必要はありません!私が戦います!」

 

アドニスの姿を確認した雷門メンバーは、驚くと同時に安堵の表情を見せた。

 

「アドニスちゃん!!どこにいたの!?心配したんだよ!!」

 

「良かった、無事だったのね!」

 

春奈と木野が、アドニスに駆け寄る。その後ろから夏未と響木監督も続いた。

 

「駄目よ、アドニスさん。危険過ぎるわ。彼らは…世宇子は神のアクアと言うドーピングを使って……あなたが出れば……」

 

夏未が慌てた様子でそう言い、響木監督も苦渋の表情を浮かべ首を横に振った。しかしアドニスは微笑んだ。

 

「大丈夫です。私が彼らに伝えに行きます。神では無いという事を!」

 

 

そして準備を済ませ、ようやく決勝戦のフィールド入りを果たした。

 

「…アドニス、遅いぞ、お前……」

 

彼女の姿を見た円堂はボロボロだったが、笑顔を浮かべた。

 

「…………」

 

豪炎寺は立ち上がり、無言のまま笑みを浮かべた。

やっと来たな、と言うように。

 

世宇子イレブンも途中で入って来たアドニスに目を向ける。

かつての自分達の仲間だった彼女。それが今は敵として目の前に立ち塞がっている。

 

「…アドニス。来てしまったか。」

 

アフロディはアドニスを見て苦い表情を浮かべる。その姿を見る事が出来たのは嬉しい。でも。

このまま彼女が来ないままだったら傷つけずに済んだ。

 

だが仕方がない。もう後には引けないのだから。

 

アフロディは構わず続けて円堂にボールを蹴り出す。

それはゴールを決める為ではない。

 

「…く!」

 

アドニスは円堂の前へと走り、代わりにそのボールを受けた。

円堂を庇うアドニス。強力なシュートが彼女に容赦なく激突する。

 

「アドニス!!邪魔をするな!そこをどけ!!」

 

強い口調でアフロディは叫んだ。

キミを傷つけたくなどない!いや、他の男を庇うキミなんて……

彼の中に何なのか分からない……熱く悔しいような、どうしようもない感情が込み上げてくる。

 

その感情に任せボールを何度も蹴り出す。

その都度、アドニスに強力なシュートがぶつかる。

あくまで得点を狙いゴールにシュートしているように見える為、ファウルの判定は下されなかった。

 

「アドニス、もうやめるんだ!オレは大丈夫だから…」

 

見兼ねた円堂が、そう言った。

 

円堂キャプテン。サッカーをさせてくれた人。雷門中へと導いてくれた人。

そしてようやくこの決勝戦まで来る事が出来た。自分は2回とも試合に出る事は出来なかったが今こそ、ここで活躍を見せたい。

 

「なあ、アフロディ。もういいんじゃないのか?何もそこまでは…」

 

そこまでするのかと若干、アフロディに引いたヘラが彼を止めさせようとするが、それを素直に聞く彼ではない。

デメテルも白けた目で、その光景を見ていた。

だが今のアフロディにその言葉は届かない。

 

「彼女はボクを裏切った。神として制裁を加えなくてはいけないんだ!」

 

アフロディは円堂の前から離れないアドニスに容赦なく何度もボールを打ち込む。

 

「アドニス。ボクから離れたりしなければ、そんな痛い思いをせずに済んだんだ。」

 

一見、毅然とした態度でそう言いながらも彼の目には動揺が見られた。

お願いだ。アドニス。もうこれ以上は___

 

「うっ……く。」

 

ノーマルシュートだが、強力な攻撃が彼女を襲い続ける。その度、痛みが走り傷が増えていき遂に倒れてしまう。

でも、そんなものはアドニスにとって大した事では無い。

 

__こんなもの。

前世で自分を殺したイノシシに比べれば…!

 

「アフロディさん…例えどんな薬を飲んだとしても……」

 

アドニスはそう言い、立ち上がるとボールを奪い走り出す。

 

「本物の神様(アフロディーテ)になる事は出来ません……!」

 

「何だと…?」

 

傷だらけの身体にまだそれだけの力が!?アフロディは驚愕する。

 

 

__どうか女神アフロディーテ様。見て下さっているのでしたら私に力をお貸し下さい。

この状況を突破できる力を………!

 

アドニスは意欲を燃やし、傷だらけの痛みを乗り越えボールを前線へ運び出す。

その間、世宇子のディフェンス陣は何故か動く事が出来なかった。

 

彼女が何か強い存在に守られている___そんな気がしたからだ。

 

アドニスは更に強い気を込め、弓矢をイメージする。神をも貫いてしまうような強い弓矢を。

 

「…!」

 

驚くアドニス。なぜならその手に大きな弓矢が現れたからだ。

そしてボールを蹴り出し、その直後に手に持った具現化した弓を引き狙いを定め、それをボールへと打ち込む。

 

__これが。私の必殺技!!

 

その矢のシュートはただの獣を狩る矢ではなく。

神殺しの矢へと変貌し一直線に世宇子ゴールへと向かっていく。

 

「あ、あれは?!」

 

「すごい、アドニスちゃん…!!」

 

そのとてつもない力に雷門メンバーも思わず目を向ける。

 

ポセイドンはその巨体を更に巨大化させ、技を構える。

ふん、あんなシュートなど簡単に止められる。そう高を括る。

 

「ギガントウォー………な、何だこのパワーは!?ぐわああっ」

 

ギガントウォールでさえも防ぎきれない。

その見た事も無い威力に適わず、点を許してしまった。

 

得点を知らせるホイッスルが鳴り響く。

 

『雷門、何とっ!途中参加のアドニスが遂に1点を決めたああぁーーーっ!これはまさしく神殺しの弓!!それが鋭く世宇子ゴールへ突き刺さった!!このまま巻き返しなるかあぁっ!?』

 

スタジアム全体に歓声が響き渡る。

 

「…なっ!」

 

思わない出来事に驚愕を隠せない世宇子イレブン。

 

中でもアフロディはその驚きが大きかった。

だが、ヘラとデメテルは気付かれないように密かに感心の表情を浮かべていた。

 

「何だと…!あの小娘!」

 

指令室から試合を見ていた影山。完璧な勝利を欲していたのだが、思い掛けない人物に1点を取られてしまい、先程までの余裕は無くなりサングラスの下から驚愕の表情を見せ震える。

 

「や、やりました…よ。キャプテン、皆さん……」

 

神殺しの強力な技を使い切ったアドニスの体力はほぼ限界に近かった。呼吸も荒くなっており、今にも倒れそうなくらいにふらついているが内心は嬉しさで一杯だった。

でも、まだだ。まだこれからだ。

 

「アドニス……!よしっ、みんなぁーーー!!この勢いを無駄にしないで行こうぜっ!!オレ達は勝つぞぉーーーっ」

 

アドニスが突破口を開いてくれた。

疲労が溜まっていたはずの円堂の目が輝きを取り戻した。

と同時に、グローブの左手の平が目に入る。これは___

 

「おうっ!!」

 

円堂の声に力を振り絞り、一同となる雷門イレブン。

 

しかしそれを黙って見ているアフロディではなかった。

そんな事があるものか、アドニスがそんなに強い訳があるものか。

 

「さっきのはまぐれだ!神と人間の力の差を思い知らせてあげよう…!」

 

そう叫びボールごと宙に浮き出すアフロディ。

彼の背に神々しい6枚の翼が具現化しはじめる。ゴッドノウズの体勢だ。

 

「円堂くん!」

 

「円堂!」

 

「キャプテン!」

 

響木監督、マネージャーと雷門メンバーが円堂の身を案じる。

 

__じいちゃん。ようやく分かったよ。

左の手の平。明らかにこっちだけが焦げている。心臓のある左。右側に気を溜めて、左に送るには___こうすればいいんだ!!

 

円堂は右手を心臓に当てながらゴールの方向に向かって体を捩らせ、屈んでしまった。

それを見たアフロディは、とうとう円堂が怖じ気づいたのかと思い、笑みを浮かべる。

 

「諦めたか!…だが今更遅い!」

 

強力な神の白い稲妻をまとったボールが蹴り出される。

ゴッドノウズがまたもや雷門ゴールを揺らす……雷門メンバー全員がそう思い目を覆う。

 

「マジン・ザ・ハンド!」

 

しかし得点のホイッスルが鳴る事は無かった。

ボールは円堂の手の中に収まっていた。具現化した巨大な魔神と共に。

 

『何と、円堂!アフロディのシュートを見事止めたぁ!!神よりも強い…魔神が現れたぁーっ!!』

 

「神を超えた……魔神だと?」

 

そんなはずはない。人間は絶対に神には敵わない!!

アフロディは焦燥感に駆られながらも、ボールを奪い再び雷門ゴールへと攻め込む。そして左手を上げ、時止めの必殺技ヘブンズタイムの体勢に入った。

マジン・ザ・ハンドを無事決めたとは言え、円堂も既にボロボロな状態なのに、またあの技を使われてしまうと……!

 

誰もがそう思ったその時。

 

 

___アドニス。彼を魅了しなさい。

 

アドニスの中に美しい声が響く。

……この声は!

 

力を振り絞り、アドニスはその声に従った。

技を発動させる前の彼の目の前に素早く走り込み……ウィンクを決める。

 

「…なっ!?」

 

アフロディは鼓動が高鳴り、顔が熱くなってゆくのを感じアドニスに見惚れてしまう。これは初めて彼女を見た時と同じ感覚。

上げていた手を無意識に下ろし、ヘブンズタイムの使用を中止する。

その隙にボールを奪われるのを許してしまった。だが今はボールなど、どうでもいい。一秒でも長く彼女を見ていたい。

アドニスを見つめたまま、そのまま動く事が出来なくなった。

 

「あれは…ファッシハント……」

 

それをベンチから見ていた目金がそう技名を呟いた。

 

魅了する、という意味を持つファッシネイトと狩りの意味を持つハントを掛け合わせた言葉。

相手の心を自分の獲物にしてしまうかのように魅了し、その隙にボールをも獲物にする技。

前世で美の女神をも虜にした彼女、アドニスになら容易い技だった。

 

アドニスは豪炎寺へとパスを繋げる。

お願いです。そのままゴールへ……!

 

パスを受け取った豪炎寺は頷きながら走り出す。

___俺は夕香に誓った。だからこの試合にも絶対に勝つ!

 

世宇子のディフェンス陣を躱していきゴール前へたどり着く。

夕香。力を貸してくれ!!

 

「おにいちゃん……かっこいいシュート……うたなきゃだめ…だよ……」

 

豪炎寺の妹、夕香が眠っている病室に彼女自身の声が小さく響いた。

意識が無いのだとしても彼女は、しっかりと兄の試合を感じ取っている。

 

「ファイア……トルネード!!」

 

ボールに炎が纏う。

それは雷門中での、帝国との練習試合の時に1点を取った始まりの技。

全ての気迫を込め世宇子ゴールに叩き込む。

 

「ふんっ、そんなシュートごとき、この海神には適わんっ!」

 

ポセイドンは今度こそ止めると意気込み、余裕な笑みを浮かべた。

しかし。

 

「な、なにい?!」

 

先程までと全然違う、その圧倒的な力の強さ。神をも凌駕する炎の力。炎は海神を飲み込んでいく。

得点のホイッスルが、またも鳴り響いてしまった。

 

『雷門、追加点だぁー!エースストライカー豪炎寺のファイアトルネードはやはり本物だぁあああ!』

 

「やったぜえぇ!」

 

喜びに叫ぶ円堂。

 

雷門2ー3世宇子

 

 

ようやく調子を取り戻した雷門。

反撃は、ここからだ。

 

 

 

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