アドニスイナズマ転生物語   作:かんりにん

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30話 アネモネに込めた想い

 

 

 

あれから、落ち着きを取り戻したアフロディだったが、そのままアドニスが寝ているベッドに突っ伏したまま眠ってしまっていた。

 

彼も体力増強ドリンクの神のアクアを飲んでいたとはいえ…いや飲んでいたからこそ、試合の疲労がどっと押し寄せていた事、そしてアドニスが目覚めて安堵した事により急激に眠気が襲って来てしまったのだろう。

 

彼ら世宇子中の選手達は試合終了後に無事に保護され、神のアクアの副作用が無いか一時的に検査入院していたのだった。

神のアクアには体力筋力増強の他、飲んだ者の心に取り憑き狂暴化させるという効果もあった。

普通の者が飲めば、無事では済まない。

 

影山も今度こそ、神のアクアと言う決定的な証拠が出た為、逮捕されていった。

 

 

「アフロディさん、アフロディさん!駄目ですよ。ここで寝たら…自分のベッドに戻ってきちんと……」

 

アドニスは何度もアフロディをゆさゆさと揺らしたが、彼は一向に起きる気配が無い。

そんな体勢で眠ってしまったら身体が痛くなってしまう。それに重い。

 

そうだ。看護師さんを呼ぼう。

そう思いつきナースコールへ手を伸ばすが、その時コンコンとドアがノックされた。

 

「はーい。」

 

誰だろう、看護師さんかな。丁度良かったと思いながら返事を返す。

ドアが開き、そこに入って来たのは世宇子のヘラとデメテルだった。2人ともパジャマ姿である。

かつて、アドニスに必殺技を教えてくれた先輩2人だった。

 

「ヘラ先輩!デメテル先輩!」

 

「アドニス。久しぶり…でも無いよな。……目が覚めていたのか!良かった。」

 

きまりが悪そうに、でも安心した様にヘラが言った。

 

「うん。本当に良かったよ。ってアフロディどうしたの?!」

 

続いてデメテルも安堵の言葉を掛けると同時に突っ伏して寝てるアフロディに突っ込みを入れる。

それに対しアドニスは困った顔で返答する。

 

「それがここで寝てしまって…何度起こしても起きないんです。お二人とも後で連れて行って貰えませんか?」

 

「姿が見当たらないと思ってたらここにいたのか…分かった。俺達が連れて行くよ。」

 

「お願いします。」

 

「そんな事よりアドニス。…本当に申し訳なかった。」

 

ヘラがアドニスに向かって頭を下げる。それにデメテルも続いた。

 

「…!そんな、ヘラ先輩、デメテル先輩!嫌だなあ、そんな事しないで下さい。どうして、先輩方は何も悪くないじゃないですか。」

 

「いや、俺もコイツの先輩として…止めさせる事が出来たはずなんだ。それが、君にこんなに怪我をさせてしまって……いや、俺達も神のアクアに……」

 

こういう空気は苦手だ。それにアドニスは怪我をさせられた事など特に気にしてはいなかった。

 

「はいはい、謝るの禁止!です。そんな事より他の皆さんは大丈夫なんですか?」

 

アドニスはパンパンと手の平を叩いて謝り禁止令を出した。

他の部員達の事も気になるので、その事で話を逸らす。

それを見た2人は目を見開いた後、笑顔を見せる。

 

「うん。皆、異常は無いから大丈夫だよ。もう少しだけ入院するけど。」

 

デメテルがそう答える。

 

良かった。と内心安堵するアドニス。

正直、あまり他の部員達とは会話した事が無かったが、彼らの事は気になっていた。

 

影山によって彼らの選手生命が無くなる事がありませんように。

…でもサッカーが本当に好きならきっと大丈夫。

 

それからは少しの間、決勝戦の試合の時の事について色々と雑談をした。

 

「アルテミスが、君の弓の技を褒めていたぞ。」

 

あの時の弓のシュートを凄かったと褒めて貰い、アドニスは照れくさくなった。

無我夢中で、なぜ発動できたのかは分からなかったが。

 

「さて、俺達はそろそろ行こう。おい、アフロディ。起きろ。」

 

ヘラがずっと寝ているアフロディの腕を引っ張る。

少しだけ身じろぎするものの、起きない。

 

「アフロディ!もう、行くぞ!」

 

デメテルも、もう片方の腕を引っ張る。

すると少しだけ意識を取り戻したが、寝惚けているのか。

 

「……ん、やだ………アドニ、スと一緒に……いる」

 

「そのアドニスが困ってるんだよ、重いってさ。」

 

「そうですよ。アフロディさん。自分の所へ戻って下さい。」

 

アドニスがそう言うと、彼はガバッと起き出し、悲しそうな目で彼女を見つめる。

 

「…アドニス、やっぱりボクの事嫌いになっちゃった?そうだよね。あんな事をして……」

 

「いえ、全然そういう事ではなく自分のベッドできちんと寝て下さい。ヘラ先輩、デメテル先輩、連れて行ってください!」

 

そう言われた2人は、アフロディを引きずっていく。

その光景は少し面白く、アドニスはその姿を見送る。

 

これでやっとゆっくり眠れる。

1人になったアドニスは布団をかぶり直し、目を閉じる。すると。

 

 

__アドニス。どうか彼を許してあげてね。

 

それは決勝戦の時に聞こえた美しい声。再びアドニスの中へと響き渡る。

 

__そして。出来るのなら……彼の………

 

「………」

 

その声はまだ続いていたのだが、全て聞き取る前にアドニスは眠りに落ちてしまっていた。

 

 

「…やっぱり嫌われてしまったんだ。」

 

ヘラとデメテルの間に挟まれ引きずられながら、アフロディは不安を拭いきれず呟く。

それを静かに聞く2人。

 

「あんな事をしたから、ボールを何度も何度も当てて怪我させて……でも、自分でも制御する事が出来なかったんだ……」

 

「………」

 

「よく分からない…悔しいような熱い気持ちがして…どうしても……!」

 

「それは神のアクアの作用もあったんじゃないか?」

 

デメテルが口を挟む。

そう言われれば、その通りなのかもしれない。

でも、絶対にそれだけではない事は確か。

 

「それと明らかに嫉妬だったな。あれは。」

 

続いてヘラに断言される。

 

「雷門の円堂を庇ってばかりいたからな。それでムッときたんじゃないか?」

 

「…!」

 

ヘラ自身も嫉妬深い性質がある為、あの時のアフロディの気持ちは理解していた。

 

嫉妬……。熱く悔しい、苦しい感情。確かにそうかもしれない。いや、絶対にその通りだ。

元々は自分の世宇子にいたアドニスを奪った雷門中。そして離れて行ったアドニスに何としても制裁を加えたかった。

あれは神のアクアだけの作用ではなかった。自分自身の感情の問題。それは痛感していた。

 

「大丈夫。アドニスはお前を怒ってもいないし嫌ってもいない。とりあえず今は休むんだ。行くぞ。」

 

ヘラはそれだけ言うとそのままデメテルと共に、アフロディを引きずるのを再開し病室へと連れて行った。

 

 

 

そして、それから数日間。

入院中、アフロディは出来る限りアドニスの傍に居た。

今しか彼女とこうしてゆっくりと会える機会はないのだ。

あんなひどい仕打ちをした自分を、彼女は嫌な顔せずに受け入れてくれた。

 

だが、彼ら世宇子の選手達は短期入院の為、もう退院する時が来ていた。

 

 

__ああ、アドニス。出来る事ならまた…………もう一度一緒に……

 

いや、どの口でそんな願望が言えるのか。

彼女が離れて行った時は裏切られたと思っていた。実際裏切ったのは自分の方なのに。

 

別れを言う為、アドニスの病室のドアをノックする。

しかし返事が返って来ない。いつもなら一言、返事が聞こえるのだが。

もう一度ノックをするが、やはり何も聞こえない。

 

「…アドニス?いないのかい?……入るよ。」

 

一方的にではあるが許可を取り、ゆっくりとドアを開け、恐る恐る部屋へ入って行く。

ベッドに目を向けると、アドニスは静かに寝息を立て眠っていた。その寝顔を見ると、溢れ出る愛しさで胸がいっぱいになり切ない気持ちが込み上げてきた。

 

「何だ……眠っていたのか。」

 

最後の挨拶が出来ない事を残念に思いながらも、彼女の寝顔に見惚れる。その頬に思わず手を出し、しばらくの間そっと撫でる。

ここで時間を止める事が出来ないのが残念だ。

 

「もう行かなくちゃ。アドニス。どうか元気で、ね。」

 

アフロディはアドニスの手をぎゅっと握りながら静かに囁いた。

そして、音を立てないようにベッド脇のテーブルへ彼女への花束を置き、そっと部屋を出る。

 

その直後、アドニスは目を覚ました。

 

「……ん?今…誰かがいたような……?」

 

 

 

「…う……ううっ…。」

 

もっと彼女の傍に居たかった。でももう、会う事は無い。

病室を出た途端、感情が抑えきれなくなる。涙が頬を伝っていき顔を俯かせながら歩き出す。

溢れ出る彼女への想いを何とか無理矢理押さえつけながら病院の廊下を歩いて行く。

 

 

「あれっ、お兄ちゃん、あの人って……」

 

「………。」

 

鬼道と春奈がすれ違った事にアフロディが気が付く事はなかった。

 

 

アドニスの病室のドアをノックし返事が聞こえると、春奈はドアから顔を覗かせ部屋に入って行き、その後に鬼道が続く。

 

「アドニスちゃん、調子はどう?」

 

「あ!春奈ちゃん、鬼道さん、来てくれたんですね。まだ少し入院してないといけないけど…ここの食事も美味しいし中々楽しいです。」

 

「もう、アドニスちゃんたら…でも元気そうで良かった。これお見舞い。」

 

「わあ、ありがとう!」

 

春奈から、お見舞いのお菓子を喜びながら受け取るアドニス。

それを見た鬼道はフッと微笑みを浮かべる。

 

「それだけ元気ならもう大丈夫だろう。…そういえばさっきアフロディとすれ違ったぞ。あっちは俺達に気がつかなかったようだったが。」

 

「なんか泣いてたよね?」

 

アフロディなら、つい先程この部屋を出て行ったところだ。アドニスはその事を知らないが。

 

鬼道はふと、ベッド脇のテーブルに目を向けた。

そこには中心部の白い、鮮やかな赤色の花びらと優しいピンク色の花びらの2種類の色が入った可愛らしい花束が置かれていた。

鬼道はその花束を手に取り、じっと眺める。

 

「これはアネモネの花か…」

 

「わあ、可愛い。春奈ちゃん達が今、持って来てくれたんじゃないの?」

 

「ううん、これは私達じゃないよ。ねえ、お兄ちゃん。」

 

これは恐らく____

思えばアドニスが倒れた時、真っ先に彼女へ駆け寄ったのはヤツだった。

他の世宇子の面々も彼女を心配そうに眺めていた。

意外とアドニスは大事にされていたという事が分かったのだった。

それに思い返してみれば彼は以前、何度も雷門へと来ては彼女を取り返そうとしてきた。

 

___成程。そういう事か。

 

「アドニス。怪我が全快したら、世宇子に戻ってやってはどうだ。」

 

鬼道の突然の発言に驚くアドニスと春奈。

 

「もう、いきなりどうしたの、お兄ちゃん!」

 

「どうやらあいつには、お前が必要なようだぞ。」

 

そう言いながら、アドニスにアネモネの花束を渡す。

 

「……!?あれ。」

 

その花を間近で見た途端、なぜかアドニスの目から涙が溢れる。

どうしてだろう。この花を見るとなぜか悲しくなる。それと同時に誰かに__とても強く想われているような。そんな気がした。

 

「アドニスちゃん?!どうしたの、大丈夫?」

 

泣き出してしまったアドニスを見て、春奈がハンカチを渡す。

 

「ごめんね…ありがとう……」

 

「春奈。行こう。アドニスも1人でゆっくりと考えればいい。お前の決めた事は誰も責めはしないさ。じゃあな。」

 

鬼道は優しい口調でそう言い病室を出て行った。心配そうにしながらも春奈もそれに続く。

 

「もう!お兄ちゃん!アドニスちゃん、泣いてたのに帰って良かったの?」

 

「だからこそ1人にしたんだ。春奈。こんな神話を知っているか?」

 

鬼道はとある神話を語り出す。

 

「美しい女神はある少年を想い続けた。その少年は趣味の狩りに多少の怪我をしようが毎日のように明け暮れていた。危ない事はするな、と女神は忠告するが少年はそれを聞かなかった。少年はそのまま、イノシシの角に突かれて命を落としたんだ。」

 

「何なの?その話……」

 

「女神は三日三晩泣き崩れ、その涙と混ざった少年の血は鮮やかな赤いアネモネの花となったんだ。…おかしいかもしれないがアフロディとアドニスを見るとなぜか、この神話を思い出すんだ。…………女神の元へ少年を返してやろうと思わないか?」

 

「…う…うん…?そう、なのかも…?でも私だって、せっかくアドニスちゃんと仲良くなったのに…」

 

「そこは許してやれ。春奈。俺は雷門に残るから。」

 

「うーん……」

 

春奈は、よく分からなかったが、なぜかアドニスに当てはまる気がするように感じた。

女神は少年を待ち続けているのだろうか。

 

 

 

 

 

それから何日かが経ち………

影山はいなくなり、残された世宇子スタジアム。

 

神のアクアの一件が終わってからも皆でサッカーの練習を続けていた。あのような紛い物に惑わされてしまっていたとしても、サッカーが大好きだからだ。

 

「キャプテン、大分元気になってきたよね。」

 

アフロディがボールを蹴り出す姿を見ながら部員の1人がそう言った。

世宇子が落ち着いてからも元気が無かった彼だったが、時が経ち、ようやく少しずつ覇気を取り戻し始めていた。

 

もちろん彼女の事を忘れた訳では無い。

またいつか…もしもではあるが彼女とサッカーをするその時の為に、今は練習に励んでいた。

 

「アフロディ。入部希望者が来たぞ。」

 

突然、先輩部員のヘラがそう伝えてくる。普段厳しそうな彼のその顔には、にこやかな笑顔が見られた。

 

「入部希望…?こんな時期に珍しいな。」

 

「ああ。1年生で転入して来たばかりだそうだ。……入って来ていいぞ。」

 

ヘラが外にいる転入生に優しく声を掛ける。

そして中に入って来たのは。

 

「……っ!」

 

嬉しさと驚きが入り交じり、胸が高鳴りを告げる。周りの景色が彩られていく。この感じは前にも感じた事がある。

幻じゃないのかと、アフロディは目を見開く。

入って来たのは彼が一番会いたかった人物。

 

「アドニス…!」

 

嬉しさのあまり、涙がにじみ溢れる。

無意識に身体が動き、アドニスへ近付く。本物なのかを確かめる為にも彼女をありったけの力で強く抱き締めていた。

 

___本物…だ。

 

「うわっ!ちょ、ちょっと!痛いです、痛いんですけど!」

 

骨が軋むような程の力。

アフロディが近付いて来た時、嫌な予感がしたアドニスは彼を避けようとしたのだが避けきれないまま、こんな状態にされてしまった。

だがそれを見ているヘラは、彼らを引き離そうとしない。

 

「アドニス。しばらくそのままでいてやれ。」

 

「そんな…」

 

 

その様子を、姿の見えない…とある美しい女神が微笑ましく見つめていた。

 

 

 

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