円堂達とサッカーをした、次の日の朝。
今日は休日だが、朝早くアドニスは清々しい気持ちでベッドから起き上がる。
『すっげー楽しかったよ!また一緒にサッカーやろうぜ!』
別れ際に円堂が言ってくれた言葉を思い出す。
『良かったらまたさ、ここに来てくれよ。あっ、無理じゃなかったら、雷門中のサッカー部にも来てくれないか?』
そう自分を誘ってくれた事、誉めてくれた事が嬉しくて何度も思い出す。今、こんなに清々しい気持ちなのも彼のお陰だ。
是非、また一緒にサッカーをやりたい。
もしかして、今日も行けばいるかもしれない。そう直感したアドニスは河川敷へ行く事にした。
「おおー!アドニス!今日も来てくれたのか!!」
着いたと同時に昨日のバンダナの少年……円堂に声を掛けられた。
まさか、今日も本当にいるとは。
と、その隣には何やら強面の…ピンク色の坊主頭の背の高い男子がいた。
「円堂。まさかこいつがお前の言ってた凄いヤツ…なのか?」
強面の男子はアドニスをまじまじと見て言う。明らかに小柄なアドニスを信じていない様子だ。
「そうだよ!あ、この人は俺と同じ雷門中の染岡。…こっちは昨日会ったばかりのアドニスって言うんだ。」
円堂が二人の間に入り、それぞれの紹介をする。
「は、はじめまして…アドニス…です。」
「おう、俺は染岡竜吾だ。お前もサッカー好きだと聞いてるぞ。よろしくな。」
意外と良い人そうだ。
「でもな、今は必殺技の練習中なんだ。あいつに負けない…強い必殺技を編み出すためのな。悪いが今日は見学だけにしてくんねえか。」
染岡は自己紹介をした後、少し機嫌が悪そうにアドニスにそう言う。
…まるで、邪魔だとでも言いたいかのように。
「まあまあ!良いじゃないか染岡、本当にアドニスもすごいんだからさ!」
それを見た円堂が慌ててフォローする。
でも、そんな言い方をされて大人しくしてはいられない。
「…残念ながら、私は見学に来た訳ではありません。…サッカーをしに来たんです。」
そう言い、思い切りボールを蹴り出したアドニス。
「あっ!おい!!」
それを追う染岡。
だが、すぐに彼女には追い付けなかった。
「…はあ、はあ…」
ようやく追いついたと思いきや、素早く躱され、そのままゴールにシュート。
シュっと弓矢のように、ボールはゴールに突き刺さる。
「やっぱすごいなぁっ!アドニス!!」
大きな声で、またもアドニスを褒める円堂。
「クソッ!………でも円堂の言ってた通り、すごいな、お前。」
悔しながらも染岡もアドニスを認める。
本来の彼は強いのだが、今はある事情に平静さを失っており、自分の本当の力を出す事が出来ないままでいた。
「染岡。お前にはお前のサッカーがある。だから慌てないで行こうぜ。」
宥めるように円堂が、染岡の肩にポンと手を乗せた。
そういえば昨日、円堂が帝国学園に勝って部員全員が意気揚々としている。と話していた。
でもどうして彼は、こんなに焦っているんだろう。
「何かあったんですか?」
不思議に思ったアドニスは質問をした。
「…ああ。恥ずかしい話だが、俺はまだ必殺技を持っていないんだ。最近な、俺達雷門中サッカー部に、すげえ奴が入って来たんだ。そいつの必殺技が凄過ぎて………俺は今までサッカーへの熱を忘れてた癖に、そいつに…負けたくないんだ。だから今、必殺技の練習をしていたんだ。」
冷静さを取り戻しつつあるものの悔しい思いを隠さず染岡が答えた。
その彼の気持ちは何となくだが、アドニスにも突き刺さった。
「私も一緒に必殺技の練習したら駄目でしょうか?私もまだ必殺技、使えないんです。早く使えるようになりたいんですが…」
染岡は少し意外そうな目でアドニスを見る。
「何だ、お前もなのか。そういう事なら仕方ない。いいぜ!」
「じゃあ、オレがゴールの前に立つから、お前達二人はボールを蹴って来てくれ。」
ワクワクしながら、円堂はゴールの前に立ち構えた。
「行くぞっ!円堂っ!!…………おらあっ!!」
まずは染岡がゴールに向かってドリブル。ボールに気を溜めて思い切り蹴り出す。
それを受け止める円堂。
必殺技にはならなかったものの、竜が真っ直ぐに進んでいくかのような迫力のある力強いシュート。
更に練習を重ねれば、必殺技になる日も近いだろう。
「良いシュートだ!染岡!!次はアドニスだ!来いっ!!」
円堂にそう言われ、シュートの準備体勢に入るアドニス。
__あの技を使ってみたい。
そう思い、思い切りボールを蹴り上げ_____
「いたっ!!」
彼女は後ろ向きに勢いよく倒れてしまった。
「どうしたんだよ?!アドニス!」
「大丈夫か?!」
円堂と染岡が、何故か倒れてしまったアドニスに駆け寄る。
「あはは……ごめんなさい。」
彼女が使いたかった技とは世宇子サッカー部3年生部員のヘラが使う、ディバインアローという技だった。
ボールを空中へ蹴り上げながら後方倒立回転跳び(つまりバク転)をしボールに連続蹴りをし聖なる気を溜め、矢のように打ち込む____
そんな技だった。
激しい動きをしなければならず、いくら運動神経が良いと言っても、アドニスには難しい技であった。
「…やっぱり私には駄目か………」
「お前もあきらめるなよ、アドニス!!練習なら俺達が付き合うからさ。」
染岡が、やる気に満ちた表情で笑う。
「円堂さん、染岡さん………ありがとうございます!」
「さあ、練習再開するぞーっ!!」
その後も日が暮れ、へとへとになるまで3人は練習に明け暮れた。
こんなに疲れても、やっぱりサッカーは楽しい。
世宇子では絶対にこうしてサッカーの練習をさせてくれない。
新しいサッカー仲間に出会ったアドニスは嬉しい気持ちでいっぱいだった。