世宇子中サッカー部。
アドニスは前回、無断で休んでしまった事を部員達に謝罪し、マネージャーの仕事を再開していた。
休んでしまった理由は体調不良だったから、という事にしておいた。
「この前の事は、あんまり気にするなよ。」
「そうそう、キャプテン相手に君もよくやった方だと思うよ。」
部員達は特に咎めて来る事は無く、以前のキャプテンとの勝負のせいで逆に気を使われてしまった。
これは大分、気恥ずかしかった。
「アドニス。何だかご機嫌だね。…何か良い事でもあったのかい?」
この前と違い、どことなく表情が明るくなったアドニスを見て、アフロディがそう質問を投げかけた。
彼女が部活に来なかった時は、もうここには来なくなってしまうのではないかと気掛かりで、何とか戻ってもらえる方法を考えていたくらいなのだが。
「キャプテン!…いいえ、何でもありません。」
アドニスは雷門中の事は内緒にしておこうと思った。サッカーをしている、なんて伝えたら止められてしまうだろう。それに、ここには関係のない事だと思ったからだ。
「…そうかい。無理をしないようにね。具合が悪くなったらすぐに誰かに言うんだよ。ボクは少し用があるから、ここを離れるよ。」
彼女が自分に理由を教えてくれない事を残念に思うが、とりあえず部活に来てくれて良かったと思う事にし、今は深入りする事をやめた。
そして、この世宇子のキャプテンとして__ある人物の場所へと歩いて行く。
「ディバインアロー!!」
向こうでは3年部員のヘラが必殺技の練習を始めていた。
「やっぱりすごいな、あの技。」
アドニスは必殺技ディバインアローをしっかりと横目で観察する。
弓矢の様に射る動作が、かっこいい技だった。これは前世で狩りが好きだった影響なのだろうか。
是非、使えるようになりたい。
また、円堂さんや染岡さんに練習に付き合って貰おう。
そう考えていると先程まで練習していたはずのヘラとデメテルがこちらへ近付いて来た。
「…!!」
見ていた事がバレてしまったのか!?マネージャーの仕事をきちんとしろ、と怒りにでも来たのだろうか。
アドニスはそう思いながら心の中で身構え、覚悟を決める。
「なあ、間違っていたら悪いんだが君はもしかして………ディバインアローを使ってみたいのか?」
そう怪訝そうな口調でヘラが尋ねる。
背が高く、嫉妬深く厳しい女神の名を持つ彼の目は、アドニスをより緊張させる。
それにその隣には特徴的な古代ギリシャのコリント式兜を被っているデメテルもいる。なぜ豊穣の女神の名を持つ彼は兜を被っているのか。
とにかく、こちらはそんなに厳しい人ではなさそうだが。
「えと、その………」
ああ、怒られる!
二人の先輩に詰め寄られ緊張がピークになる。
「大丈夫。今はアイツはいないから。」
そういえば、キャプテンは用があるから少しここを離れると言って、どこかへ行ってしまった。
アドニスは緊張を押し殺し、返答する。
「……はい。弓みたいな技がかっこいいと思ってまして…その、私も使えるようになったらいいな、と……」
そう聞いたヘラは先程とは違う、嬉しそうな柔らかい表情に変わった。
「なんだ、そうだったのか!必殺技を使う時こっちをじっと見てくるから、もしかしたらと思っていたんだよ。良ければ今、練習してみないか?」
アドニスは思いもしなかった提案に安堵しながらも驚く。
「え!?良いんですか?でもキャプテンが戻って来たら……」
「それなら大丈夫だよ。今は総帥と話をしているだろうから、しばらくは戻って来ないよ。」
デメテルがそう言った。総帥とは何だろうと一瞬思ったが今はとりあえず。
「それでは……ヘラ先輩、デメテル先輩、お願いします!」
そうして二人に練習を見て貰う。
「そんなんじゃ駄目だ!もっと勢いを付けないと!」
「こうですか?」
「もっとバク転の時にこう……バッ!ガッー!!てやった方が良いんじゃない?大地を味方にするみたいにさ。」
「…は、はい……?」
ときおりデメテルから変なアドバイスも貰いつつ、練習を重ねていく。
必殺技はとにかく勢いと練習が大事だ。
今は先輩二人が見てくれている。やはり同じ学校の人と、必殺技の持ち主と一緒に練習出来ればより心強い。
思い上がる訳ではないが自分にも出来るようになりそうで安心する。
____その頃、雷門中では尾刈斗中との練習試合が行われていた。
尾刈斗中は不気味な戦術で相手チームを動けなくしてしまう催眠術を使っており、雷門は苦戦を強いられていた。
だが、その催眠術の仕組みに気付いた円堂は大声を出し、チームの皆の意識を取り戻す事で、尾刈斗の催眠術を破る事に成功していた。
あとは、ゴールキーパーの技を突破しなくてはならない。
「染岡!あのゴールキーパーの手を見るな!!あれも催眠術の一種だ!」
そう大声で染岡に伝えているのは彼と同じフォワードの豪炎寺修也。
色々とあったものの、雷門中サッカー部に入部したばかりの天才ストライカー。
彼が、染岡が平静さを失っていた原因だったのだが___
ただ攻め込むだけじゃなく相手の動きをしっかり観察した上で動く。悔しいがやっぱりコイツ、豪炎寺はすげえ。
「ドラゴンクラッシュ!」
青い龍がボールへ喰らいつこうと軌道を描いていく。
染岡は完成させた必殺技のシュートを、あえて上に打ち込んだ。
「トルネード!!」
染岡のシュートに豪炎寺の必殺技ファイアトルネードが重なり、青い龍は炎をまとい赤く灼熱の色に変わる。
「な…なんだと?」
その急な動きに、尾刈斗のゴールキーパー、鉈は反応出来なかった。
ピイイィーーーと、雷門の得点を知らせるホイッスルが鳴ると同時に、試合終了のホイッスルも鳴り響く。
「やったぁ!勝ったぞ!!フットボールフロンティア地区予選、出場決定だぁーーーっ!」
円堂が嬉しさのあまり叫ぶ。
尾刈斗中との練習試合は無事、雷門中の勝利で終わった。
「総帥。ボク達はいつになったら試合に出ても良いのでしょうか?」
若干緊張を隠せていないアフロディが目の前にいる人物に問いかける。
「そう慌てるな。次のフットボールフロンティアではお前達の出番がある可能性が非常に高い。」
その人物は丸い遮光性のサングラスを掛けており表情が読めない。面長で痩せた体型に黒い服をまとっており、どこか剣呑な雰囲気を醸し出していた。
彼こそ、この超次元サッカーの世界に欠かせない敵。影山零治。
今は帝国学園やその他の事で多忙な為、世宇子にはあまり顔を出せず、たまにこうしてキャプテンのアフロディから近況報告を聞いていた。
この影山にとって世宇子イレブンは復讐の為の道具であり作品の一つ。いざという時の切り札として今は、その時の為に彼らを世間から隠していた。
「例の物の完成は近い。今はその時を待つのだ。…後は任せたぞ、アフロディ。」
影山は不穏な薄い笑みを浮かべながら静かにそう告げ去って行った。
ヘラ
3年生。ミッドフィルダー。
ディバインアローを使う時、アドニスが見てくるので声を掛けた。
嫉妬深いとも言われているが実は面倒見が良い。
デメテル
2年生。フォワード。
古代ギリシャ式兜を被っている。
熱血でフレンドリー。
影山
ご存知全ての元凶。今は帝国やその他色々で多忙な為あまり世宇子に顔は出していない。彼らに飲ませる例の薬を開発中。