「アドニス、だいぶ形になってきたんじゃないか?上達が早いな。」
必殺技ディバインアローの練習をしているアドニスを、ヘラが褒める。
連続蹴りをしてボールを浮かせられるようにはなり、あとはそのままシュートを決められれば完成だった。
通常なら、一日でここまでは出来ない。物覚えが良い年齢という事もあるが、それ程までに彼女は練習に打ち込んでいたのだった。
早く必殺技を使えるようになりたいという一心で。
「うんうん、すごいよ!もうここまで出来るなんてさ……良かったら俺のリフレクトバスターも………」
「そろそろやめた方がいいかも!アフロディ、戻って来るよ!!」
デメテルの言葉を遮り、そう伝えてきてくれたのはヘパイスだった。
「やばっ、じゃ、俺達はこれで!」
「この調子で頑張れよ、アドニス。」
アドニスは二人に深々と頭を下げ、礼を言った。
それを見たヘラとデメテルはニコリと笑いながら自分達の練習へと戻っていった。
「皆、集まってくれ!」
どこかから戻って来たアフロディは一旦、部員達を一箇所に集合させ何かを話し込む。
その内容をアドニスは聞き取る事は出来なかった。
本当、これでは除け者だ。
でも必殺技のコツは教えて貰えたし、これで一人でも練習を続けられそうだ。
しかし、どうして先輩達は自分に必殺技を教えてくれたのだろう。自分達の練習で忙しいのに。
こうして練習を見て頂いた事は絶対に無駄にしない。
アドニスは改めて、心の中で先輩方に感謝をする。
ふと、肩をぽんぽんと叩かれる。
いつの間にかアフロディがすぐ隣にいたのだった。
「アドニス。何回呼んでも全然気づいてくれないなんて…何を考えていたんだい?」
その表情はにっこりとしているが若干の圧を感じる。
「い、いえ!ごめんなさい。」
「まあいいや。ストレッチを手伝ってくれるかい?」
「はい。」
アドニスはそのままアフロディの後に付いて行った。
その二人の様子を遠くから見ているヘラとデメテル。
「やっぱりあの子、すごく筋が良かったよね。」
デメテルが、先程のアドニスの練習の動きを褒める。
「ああ。なぜアイツがあの子をマネージャーのままにしているのか、どうせくだらない事が原因だろう。」
ヘラが呆れたような口調でデメテルに言う。
そこに、へパイスも加わってきた。
「でも、アフロディの気持ちも分かるよ。危険な目に遭わせちゃうかもって、どうしても思うもん。」
「そうかもしれないが…この前のアイツとの勝負を見て思ったが、あの子はサッカーがやりたいんだ。アイツの身勝手な都合に付き合わされるべきじゃない。それに、さっきの練習の打ち込み具合を見て改めて分かったよ。あの感じはフォワードに向いてると俺は思う。」
「そうだよね。でも…」
「あの子はここ世宇子にいるべきじゃないかもしれないな。俺達はもう少しで…」
先程の集合の時にアフロディが言った内容。
__例の物は間もなく完成する。これでボク達は神にも等しい存在となる。
この世宇子に、これから訪れるであろう事。
それは喜ぶべき事なのか、それとも憂うべき事なのか。自分達はどうなってしまうのか、それはまだ分からない。
アドニス。あの子にはもっと良い場所がないのか。
ここでアフロディの都合に付き合ってしまっては時間と能力の無駄だ。それだけではない。
世宇子はこれから、危険な場所となってゆくだろう。
もっと彼女自身の力を必要としてくれる場所があれば良いのだが。
ヘラは密かにそう考えていた。
それから何日か経ち…円堂達雷門中はフットボールフロンティア地区予選に参加していた。
第一回戦の千羽山中は無限の壁と言う絶対防御の必殺技を駆使し、無失点を誇って来たチーム。
雷門は、その鉄壁の守りを見事に破り勝利。
その次の御影専農中学は、データ洗脳されていたサッカー部員達との戦いだった。戦いを通じ、彼らを洗脳から解き放ちデータには頼らない熱い心を取り戻させ、無事雷門中の勝利。
この調子で次々と地区予選を突破していた。
「円堂さん達、すごいですね!」
「ああ、ようやくここまで来たぜ!!」
いつの間にやら雷門中に馴染んでいるアドニス。
彼女は何とか暇を見つけては、雷門中にお邪魔して一緒に基礎トレーニングや練習をさせて貰っていた。
既に円堂や染岡、木野とは知り合いだった為、雷門イレブンに溶け込むのはそう時間が掛からず、皆はアドニスを歓迎してくれた。
その中でも、マネージャーで同じ年である音無春奈とは特に仲が良くなった。
「花が増えてこのサッカー部も華やかになってきたでやんすねぇ~」
「アドニスさんにもプレイヤーになって欲しいッスね。」
栗松と壁山が和やかにそう口にする。アドニスは雷門中に転入した訳ではないのだが。
「そういえばアドニスちゃんは…どこの学校の子なの?」
「え…ええと……」
そう春奈に聞かれ、どうしようと迷うアドニス。世宇子中だと言っても分からないだろう。
「無名な学校だから、言っても分からないと思う…な。」
そう返しながら、前にアフロディに質問した事を思い出す。
フットボールフロンティアに、世宇子は参加しないのだろうかと思い、彼に聞いた事があったのだった。
「あの、キャプテン…。」
「何だい?アドニス。」
「少しお聞きしたいのですが、世宇子はフットボールフロンティアには参加はしないのでしょうか?」
その質問を聞いた後、少しアフロディの表情が曇った気がしたが、すぐにいつもの余裕そうな顔に変わった。
「ふふ。どこから聞いてきたのかな。ボク達はそんなものには参加しないよ。」
「え?」
「だって、神と人間が競い合っても勝敗は見えている。そうだろう?アドニス。」
「…………。」
自信に満ちた表情で、その長い金髪を優雅にかき上げながらそう返され言葉が詰まる。
出場しない事に残念な気持ちを持つと同時に、変な違和感が込み上げてくる。
もしかして神とは自分達の事を言っているのだろうか。
確かにキャプテン含め世宇子の部員は強い。それは今まで見てきたし、この間の勝負でそれは確信しているつもりだ。
しかし、アドニスにはどうも彼らが神だとは思えなかった。
これは無意識にも、前世の神話の世界の事を覚えているのだろうか。
神と言うのは、もっと___
雷門中に入学していれば良かった。
私も雷門中の皆とフットボールフロンティアに出て、一緒に戦えたらよかったのに。
思い切り、戦ってみたかった。
___その頃、世宇子中では、影山によって11名の部員達だけが集められていた。
彼らは影山を迎え、沈黙のまま彼の前に跪いていた。
「諸君。例の物が完成した。」
影山が静かな…だが威圧感がある口調で、集まった世宇子イレブンに告げる。
どこからか現れた研究員らしき男達により、世宇子イレブンの前に人数分の取っ手の付いたグラスに注がれた液体が運び出される。それは一見すると何の変哲も無い、ただの透明な飲み物。
それを見た世宇子イレブンに、より一層緊張が走る。
「その名も神のアクアだ。お前達の力を最大限に引き立てる物。お前達は神にも等しい存在になるのだ。」
そして、私の復讐を果たす道具となる___。
キャプテンのアフロディを初め、それぞれグラスを手に取り、一拍置いた後に中の液体を飲み干す。
その瞬間、身体が痺れるような熱い感覚と共に、全ての力が漲ってくるのを感じる。
最初こそ抵抗を感じる者もいたのだが、飲み干した途端、心も身体もこの神のアクアに取り憑かれてしまった。
それを見た影山は、サングラスを光らせ誰にも気が付かない程度にほくそ笑む。
※ 地区予選第一回戦は千羽山中ではなく野生中ですが、都合の為順番を変えています。