「■■くーん!あそぼー!」
くすんでいて顔がよく見えないが、小さな女の子が手を振りながら誰かの名前を呼んでいる。
「うん!■■■!」
女の子に元気よく返す男の子の顔も、くすんでいてよく見えない。2人は走り回って遊んでいる。表情はわからない。
でも、2人は笑顔なのだろう。だってこんなにも楽しそう・・・違う。あんなにも、幸せだったんだ。それだけは間違いない。
目覚ましの音が頭に響いている。寝ぼけた頭で時計を見ると、針を見るといつも通り6時30分を示していた。
「ん・・・朝か・・・」
何か夢を見ていた気がするが、気のせいだろう。
着替えず部屋から出て洗面所で歯を磨く。その後、1人分の朝食を作ってニュースをつけた。因みに朝はパン派だ。
ニュースでは様々な話題を取り上げている。最近流行りのファッションだとか、鴻上ファウンデーションが新事業に手を伸ばしているだとか。
取り敢えず目的の天気予報を確認し、残り一口のトーストを口に放り込む。そして学生服に着替えて家を出る。
「行ってきます」
戸締りをして俺は学校に向かった。これが、『聖 悠』の一日の始まりだ。
家から30分ほど歩いた場所に、俺が通っている私立聖祥大付属中学校はある。この学校はエレベーター式で、小学校から高校まで通える。私立だけあってお金がかかるのに、しっかり通わせてくれている両親には感謝だ。
俺が教室に入るといつも通り、俺の隣の席に座っている紫髪の少女、月村すずかがいた。
「おはよう月村さん。今日も早いね」
「おはよう聖君。聖君だってそうだよ」
時間は7時50分。人がほとんどいないこの時間はいつも2人で会話をしている。話題は昨日のテレビどうだったなど、簡単なものだ。
月村さんは五大天使と呼ばれている学園のアイドルなのだが、小学校の頃から俺に話しかけてくれた。俺はあまり人と関わろうとしなかったのだが、ずっと気にしてくれた。そのお陰で朝は退屈しなかったし、2人で話す機会は多かった。
「まあ、暇だしな。いつも早く登校しちゃうんだよ」
「それは圭君達に会うのが毎日楽しみで早く来ちゃうってこと?」
「違う、全然違う」
全力で否定する。ちゃんと否定しないと月村さんの中での俺が、遠足が楽しみな小学生になりかねない。
「ふふ、そういうことにしておくね」
聞く耳がなかった。どうしたものかと悩んでいると、教室のドアが開いた。
「おはよう悠、すずか!今日もいい天気だな!」
テンション高めに入ってきたのは、俺の親友の圭だ。
『最上 圭』銀色の髪、右目は赤く、左目は青いオッドアイの上容姿端麗と、外見は文句のつけようがない正真正銘のイケメンだ。そのうえ成績優秀で運動神経も抜群だ。完璧だ、外見は。
「おはよう圭君。今日も元気そうだね」
「ふ、当然だ。朝から嫁の顔を見ればこうもなるさ」
「私は君のお嫁さんじゃないからね」
これだ。こいつは五大天使、つまり学園の5人の美女たちを全員嫁発言している。だから男子生徒全員を敵に回しているのだが、全く意に介していない。
「全く、照れるなよ」
「アリサちゃんに嫌われるよ?」
「・・・はっはっは。ア、アリサが俺を嫌うわけがないじゃないか。そういうことは言ってはいけないぞ?」
そしてこれである。実際こいつが好きなのはアリサ・バニングスという五大天使の一人である。本人はばれてないと思っているらしいが、クラスメイトは全員、本命はバニングスさん一人だと知っている。
「圭、もういい加減そのキャラやめなよ、見てるこっちが恥ずかしい。悠とすずかさんおはよう」
「高志うるさい!」
圭の後ろから出てきたのは高志だった。『山田 高志』俺の友達だ。こいつがいたおかげで俺の小学校生活は楽しくなった。高志には感謝しかない。
「アンタ達、教室の前で何やってんのよ」
「ア、アリサ!」
現れたのはアリサ・バニングス。五大天使の1人で、金髪のロングの美人で成績優秀、その上お嬢様とてんこ盛りだ。成績1,2を圭と争っている。周りを見ると、もう一つのドアから他のクラスメイトが入ってきていた。
「おはようアリサちゃん。ちょっと圭君がしつこかっただけだよ」
「すずか!?」
「け~い~!!あんたまたすずかにちょっかいだして!!」
「いだだだ!アリサ痛い!痛いから!」
圭がバニングスさんに耳をつねられている。いつもの光景だ。
「アリサさんおはよう!」
「おはよう」
「2人ともおはよう。ちょっと待ってて、今こいつをしばいてるところだから」
俺は肘をつきながらその光景を眺めていた。
「みんなおはよう。って、圭はまたアリサちゃんにしばかれてるん?」
途中で八神が教室に入ってきた。八神はやて、こいつも五大天使で俺の元推しだ。そう、元推しだ。
なぜ元になったのか・・・正直言いたくないので割愛させてもらう。それより、八神が来たということは・・・
「みんなおはよう。アリサちゃんと圭君は今日も仲がいいね」
「どこがよ!」
「アリサ、落ち着いて・・・」
五大天使の高町なのは、フェイト・T・ハラオウンが入室してくる。彼女たちは別のクラスだが、月村さんとバニングスさんに朝の挨拶をするため、交互に互いの教室行くのだ。そして今日はあちらがこちらの教室に来る番ということだ。
「圭、踏み台やめなよ」
「誰が踏み台だ誰が!」
圭が翔に噛みつく。『秋月 翔』こいつも俺の友達だ。みんなには王子様なんて言われているが、仲のいい奴には言葉が悪くなる。
これがいつも通りの朝。最近はこの中で何人か欠けていることもあるが、大差はない。俺の好きな光景だ。
「悠君もおはよう」
「・・・おはよう、高町さん」
俺は少し遅れて、遠慮気味にあいさつを返した。
全ての授業を終え、下校している最中だった。
「捕まえて!ひったくりよ!」
振り向くと、後ろから女性もののバックを持った男がこちらに走ってくる。
「邪魔だどけぇ!」
動きが単調で助かる。俺は男に向かって走り出し、腹に一発決めて気絶させた。倒れた男からバックを取り返し、走ってきた女性に手渡す。
「どうそ。次は気を付けてください。それから警察にちゃんと通報しといてくださいねり。それじゃあ」
「ま、待って!えと、ありがとう!」
これ以上ごたごたに巻き込まれないように俺はその場から急いで去った。これもいつもの日常だ。別にこの町の治安が悪いという意味ではない。
俺は昔から困っている人に関わることが多いのだ。複数の不良に絡まれている人を助けたこともある。まあ、俺はそういう星の下に生まれたのだろう。もう慣れた。
夕食と筋トレ、風呂を終えて眠りにつく。今度の休日は高志と出かける約束をしている。最初は圭と翔も一緒に行く予定だったのだが、急な用事が入ってしまったらしい。
それどころか2人はよく学校を早退したり休んだりしている。あの二人が何をしているのかは知らない。でも、2人ともその何かを本気で頑張っているのはわかっている。だから、2人から話してくれるまでは聞かないことにしている。
そして俺は大したものは何も置いていない、殺風景な部屋で眠りについた。