あの男はオーズに変身した俺を少しは警戒したが、バリアジャケットを着ていない。なぜなら、それでも俺に勝てると思っているからだ。俺に勝機があるとしたらそこしかない。それほどまでに、俺とあいつとは実力が離れている。
俺は構える。男は傍観の構えだ。チャンスは一度。失敗したら月村さんは捕まるのだろう。そうしたら、何をされるかわからない。握っている拳に力が入る。
俺は飛び出した。チーターレッグによりその速さはバッタの時とは比べ物にならない。男の横を通り過ぎる際にカマキリソードで切り付ける。
「はっ!」
「よっと」
いなされたが想定内だ。速いだけで倒せる相手だとは思っていない。速さを生かし、さらに二、三、四度通り過ぎながら切り付ける。
「流石チーター、速さは一級品だな。だが!」
五度目の連撃を与えようとしたところで、男は大剣を軽々と振りかぶる。その軌道とタイミングは俺が通り抜ける軌道とタイミングにピッタリだった。
「くっ!」
ガキンッ!と大きな音をたててカマキリソードと大剣が衝突する。だが真正面からぶつかったわけではない。俺は自分の速さを殺さないように大剣の軌道を逸らした。男の横を通り過ぎた後、俺は男から少し離れた位置で男の周りを回る。
「やっぱり格闘技のレベルが高いな。とても一般人のものじゃねえ。戦い慣れている奴の動きだ。このレベルならそれなりに名が通ってるはずなんだがな」
男が何か言っているが聞く余裕はない。俺は回りながら指に魔力を込めた。
「シュート!」
高速移動を活かした全方位からの一斉攻撃。さあ、こい。
「ほいっ」
男は大剣を振り回し、魔力弾を一振りで全て薙ぎ払った。やっぱりこいつはむちゃくちゃだ。でも・・・
「それを待っていた!」
「なっ」
薙ぎ払った魔力弾が爆発し、男が煙で包まれる。あの魔力弾の中にいくつか煙を発生させるものを混ぜていたのだ。そして視界がふさがれたら、それを解決しようするよなあ!
初めて変身した日と同じように、口角が上がる。
「我が敵を貫け」
「このっ!」
男がもう一度大剣を振り回し、煙を払う。終わりだ!
「ブレイクランス!!」
「やばっ」
男は左腕を向け、シールドを張る。大剣を振り回したから、咄嗟にシールドを選択したのだろう。だがそれが失敗だった。
藍色の光槍は、男のシールドと拮抗することなく貫き、男の左腕に直撃した。
「があっ!」
男の左腕は後ろに弾け、それにつられて男の体も後方に吹っ飛んだ。この魔法、ブレイクランスが俺の切り札だ。
作戦は簡単だ。男の隙を突き、ブレイクランスを直撃させる。この魔法の威力は凄まじい。木に当てたらそのまま貫通したからな。男の腕が吹き飛ばなかったのは非殺傷設定というものを使ったからだ。これは魔法による人体へのダメージなくし、魔力と精神にのみダメージを与えるというもの。ブレイクランスの威力を考えるなら、あの男はもう立ち上がれないはずだ。
「・・・勝ったよ、月村さん」
謎の達成感がある。俺はずっと、これを言いたかった気がする。
振り返ると、ぼーっとしてこちらを見ている月村さんの姿があった。
「月村さん?」
「・・・はっ!あ、えと、す、凄かったです!」
「えっと、ありがとう?」
なんか変な会話をしてしまったが、まあいい。とにかくこれで、一分にも満たない攻防は幕を閉じたのだ。
「痛ってえなあ」
「!?」
吹っ飛んだ男が立ち上がった。嘘だろこいつ、人間か・・・?
「ますますわからねえ。今の魔法、見た目の割にその内容は複雑だ。俺の腕が動かなくなるほどの威力だ。そのくせ非殺傷設定をデバイス無しで並行してやがる」
「お前、痛覚がないのか」
痛みで気絶するだろ普通。
「一応あるが、他の人間と比べれば感じにくい体質なんだよ。とにかく、今の魔法はとても素人が使えるような代物じゃねえ。なのにお前は、魔導士としてはその程度のお前が使えたのがわからねえ」
男が近寄ってくる。どうする?月村さんを抱えて逃げるか?そんなことができるような相手なら最初からやってるだろうが。
「なあ、お前。一体誰から魔法を教わった?それ程までに歪な成長をしているのに、師が気が付かないはずがねえ」
「・・・お前に話すことは、何もない」
少し気になったが、俺がこいつに返す言葉は同じだ。
「まあ、いいか。ここからは手加減はしねえ。クリスタルソウル、セットアップ」
その一言で男の姿は変わった。先程のラフな格好と違い、警察の戦闘服のような格好になった。
「それじゃあ、行くぞ」
男が大地を蹴った瞬間、地面が凹むような音が鳴ったと同時に俺の眼前に大剣が迫っていた。
「があっ!」
「きゃあっ!」
咄嗟にカマキリソードで防いだが俺は後ろに吹っ飛び、月村さんの横を通り過ぎてそのまま壁を破って外に出た。クソいてえ。
「気分はどうだ?」
「・・・最悪だよ」
俺によって開けられた穴から男も出てくる。口は軽いが目がやばい。隙もねえ。ここで俺はあることに気が付く。
「これは・・・」
「結界だ。実は最初から張っておいたんだ。吸血鬼の嬢ちゃんを助けに来るのは同じ人外らしいからな。そいつらからも情報をとって狩りたかったんだとよ。そんで部外者が入ってこれないように張っといたんだ」
なるほど、道理で管理局が来ないわけだ。
「そしてこれは俺を倒さなきゃ消えねえ」
「本当に最悪だな」
もう一度構える。
「クリスタルソウル」
『ファイアエンチャント』
男の大剣が炎を纏う。だが今の俺には、攻めるしか方法がない。俺は大地を蹴った。
「であああ!!」
「甘え!」
加速した勢いを使い高速で切りかかるが、あっさり返され俺は空に弾き飛ばされた。
「くっ、我が敵を・・・」
「遅え!」
「があっ!」
空中で詠唱が終わる前に、跳躍した男に叩き落とされる。防御がギリギリ間に合ったが、衝撃を全く流せなかった。というか、さっきからあいつの攻撃が熱い。火傷しそうだ。さっきよりも明らかにパワーが違う。
「これで終わりだ」
男の大剣から何か音がしたと思ったら、弾薬らしきものが3つ降ってきた。
『スターパニッシャー』
「やば、ぐっ!」
男から先程までとは比べ物にならないほどの魔力を感じる。その場から離れようとしたが、痛みで動けなかった。
「ら、ラウンドシールド!!」
「スターパニッシャー!!」
俺はシールドを空中にいる男に向けて三枚展開する。だが、その内二枚はあっさりと破られる。
「ぐ、がああああああああ!!」
必死の思いで、残り一枚を維持する。耐えている間、色んな記憶が頭を過った。
『俺、高志って言うんだ。君の名前を教えて!』
『聖君って、意外と甘えん坊さんなんやなあ』
『また、一緒に遊ぼう!と、友達だから!』
『悠、また無理したのか?たく、気をつけろよ?』
『聖、アンタも手伝いなさい!』
『それじゃあ、また明日』
『聖君もこの本、よっ読んでみる?』
ああ、どれも懐かしい。シールドにひびが入る。
『ゆうくん、明日も遊ぼうね』
あれ、今の娘は誰だっけ?
パリッ。嫌な音が聞こえる。
「聖君!!」
最後に聞こえたのは、月村さんの悲痛な叫び声だった。
「お前はよくやったよ、坊主」
男はすずかが悠に泣きついている姿を眺めている。バックルからはタカとカマキリのメダルが外れており、変身が解けていた。
「聖君!聖君!!」
「吸血鬼の嬢ちゃん、離れな。別に死んじゃいねえ。まあ、連れ帰ったらほぼ間違いなく殺されるだろうがな」
男はすずかを悠から引き離そうとする。
「離して!」
「そうはいかねえ。というか、嬢ちゃんもそこでまだ寝てるやつらに引き渡すのが、本来の俺の仕事だ」
男により、すずかが離れた瞬間、変化は起きた。
「a・・・」
「!!」
男はすずかの腕を掴み、悠から離れる。それは反射的な行動だった。あの場所にいたら殺されるという強いイメージを感じたのだ。
「a・・・aaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!」
悠は声を上げながら立ち上がる。いや。飛び起き、地面から浮いていた。彼の目は焦点が合っていない。そして先ほどまでの傷が塞がっていく。
「なんだ、この馬鹿魔力は・・・」
「聖君・・・?」
やがてそのなにかは、男に焦点を合わせた。
「貴様か。この小僧を倒したのは」
「・・・おい、まさかアンタは!」
なにかに対して男は問う。
「無礼者。だが、褒美に名乗ってやる。私の名h「ブレイクランス!!ごえええええ!!」」
「は?」「え?」
何が起きたのか。なにかが名乗ろうとした瞬間、なにかが自分で詠唱し、自分の腹に向かって攻撃したのだ。
「おええ。滅茶苦茶いてえ・・・」
「聖、君・・・?」
すずかは動揺しながらもなにか、悠に問う。
「あ、うん。一応そう」
「・・・坊主、今なにをした」
「何って、邪魔だったから取り敢えずぶっ飛ばした」
悠がそう言うと、悠の胸が光り、黄色いメダルが飛び出す。それを悠は掴んだ。
「まさか!」
男が動こうとする。
「フラッシュ!」
「くそっ!」
悠は光を発生させ男の視界を潰した。悠はバックルにトラ、そして新たに手にしたライオンのコアメダルをセットし、オースキャナーを手に取り叫んだ。
「変身!!」
その場に三度、コインがぶつかる音が響いた。
《ライオン!トラ!チーター!ラタラタ~ラトラーター!》
彼が本気を出して戦うことができれば、もう誰にも負けることはない。なぜなら、彼は勝利するために生まれてきたのだから。
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