バイクを走らせ、敵を蹴散らし、ようやく目的地である土手に着いた。そこには情報通り、川の中に一体のヤミーがいた。川と言っても、かなり浅く、膝にも届いていなかった。
『二足歩行する大型の亀・・・というより、リクガメですかね。恐らく重量生物のヤミーです』
「亀って重量生物なの?」
コアメダルの種類には、灰色のメダルにサイとゴリラとゾウがあるらしい。でも亀、亀か・・・。
あのヤミーはいかにも重量生物って感じがしてわかるんだけど、亀に重量生物ってイメージ持ったことないから違和感が凄い。
『ほら、海外には大型の亀がいますし、それこそ他の世界には亀に似た怪物もいますから。誤差ですよ誤差』
誤差というのには無理があるような気がするが、そんなことを気にしている場合ではなかった。こうしている間にも、他の場所では小型ヤミーが暴れているのだ。ヤミーを倒すことに最も向いている俺がこのヤミーを急いで倒さなければならない。そしてすぐにでも小型ヤミーをせん滅しなくてはならないのだ。俺はバイクから降りて、レイジングスピリッツを魔法の杖にする。
「それじゃ行くぞ、リツ」
『・・・待ってください』
「どうした急に?」
レイジングスピリッツが待ったをかけた。出鼻をくじかれた形になるが、レイジングスピリッツの言葉を待つことにする。なぜならレイジングスピリッツは基本的に無駄なことはしないからだ。
『やっぱり、おかしくないですか?』
「時間がない、端的に言ってくれ」
『ヤミーは宿主の欲望を満たすために行動するか、グリードに命じられて行動します。なのになぜ、こんな何もない川で棒立ちをしているんでしょう?』
「あら、気づいちゃったかしら?」
俺でもレイジングスピリッツでもない第三者の声を聞き取った瞬間、俺は跳躍し、空中で身を翻しながら杖となったレイジングスピリッツを構える。そして俺のいた場所の後ろであり、声の発生源であろうそれに標準を合わせる。最近背後がお留守だな俺。
『アクセルシューター』
「シュート!!」
レイジングスピリッツが即座に展開した4つのスフィア。俺は落下が始まる前に発射し目標に直撃させた。それにより爆風でバイクが軽く吹っ飛んでしまう。鴻上さんに後で謝っておこう。
「!」
『プロテクション』
俺は殺気を感じ取り、足元にシールドを展開。それを踏み場にして川の方へと跳躍した。その直後、煙から高速で飛び出た何かによって、踏み場にしたシールドは粉々になった。そして何かが飛び出てきた煙の穴からは、薄青いシールド越しに怪物の青い目が見えた。
『ヤミーがこちらに気づいて着地を狙ってきます!』
間一髪で躱して川に向けて落下している最中にヤミーと目が合う。嫌な予感がする。
『ブレイクランス』
落下しながらもブレイクランスを6つ展開。動き出す前にヤミーに向けて発射した。だが、亀のヤミーは頭と手足を甲羅に収納し、その場で回転して攻撃を全て弾き飛ばした。
「は?」
あまりの出来事に一瞬思考が止まってしまった。その隙を狙うかのように、ヤミーは回転しながらこちらに飛んできた。そう、飛んでいるのである。
「なっ!」
『プロテクション』
俺の意志とは別にレイジングスピリッツがシールドを展開しヤミーの特攻を伏せぐ。だが即座にシールドを打ち破った。
「ぐっ!」
咄嗟に両腕でガードするも、大きく吹っ飛ばされて川に顔からダイブすることになった。
『大丈夫ですかマスター!』
「ぷふぁっ!ああ。おかげ直撃せずに済んだ。ありがとう」
すぐに川から顔を上げ、レイジングスピリッツに礼を言う。
「余所見はいけないわ」
立ち上がろうとするところを見逃してくれるはずもなく、人型の怪物は何かを飛ばしてきた。俺は勢いをつけて川のそこを強く押して跳ぶことで回避する。
「あらあら、逃げ回るのが得意なのね」
着地しようやく体勢を整えることができた。土手の上を見上げる。そこには、何処かシャチを連想させるような頭部、タコの吸盤のような何かがついた足に、青いマントを羽織ったグリード。メズールがいた。
「名前は確か、メズールか」
「あら?私のことはもう知っているのね。嬉しいわ」
土手をゆっくり下ってくる。
「水を操るのが得意だとか。なら、さっきの攻撃は水か?」
「正解。私の主な攻撃は水を使ったものよ。でも、人間じゃ見てからじゃ遅いくらいの速さなのに、あなたよく躱せたわね?」
「培ってきた勘というやつだ」
これは半分本当で半分嘘だ。勘を培ってきたことなんてない。タカヘッドによって視力が高くなった。それによって些細な動きが見えて、後は嫌な予感がしたら動いていただけだ。正直かなりギリギリだ。
「そう。でもその勘、いつまで続くかしらね?」
こちらを見下しているメズールは、愉快そうに近づいてくる。先程まで足を止めていた亀のヤミーも歩き始めた。
(マスター、ここは脱出を。少し時間を稼いで下さい)
(却下。ここでこいつらを逃がしたら被害が拡大する)
レイジングスピリッツの提案を即座に切る。レイジングスピリッツの判断は正しい。あいつらの様子からして俺は嵌められたのだろう。小型ヤミーが町を襲っている間、他は手がいっぱいになる。そんな中通常のヤミーがいれば、ヤミーを1人で倒せる俺があてがわれる。それを狙っての2対1。グリード達からすれば、自分たちを倒せる可能性が一番高い俺を狙うよなそりゃ。
メズールの攻撃は厄介だし、ヤミーの方はブレイクランスを弾かれた。いくら中途半端な威力のものとはいえ、全弾弾くか普通? 1体だけでも手が余るのに、なんだこのハードモード。・・・それでも。
「やるしかない!リツ!!」
『ああもう!無茶な選択ばっかりして! カリバーフォーム』
レイジングスピリッツから何かを装填する音がして弾薬のようなものが飛び出ると、レイジングスピリッツは魔法の杖から剣へと姿を変えた。その見た目はメダジャリバーに似ており、違いは柄の部分にレイジングスピリッツの本体である緑に偽装した石が付いていることと、メダルを装填する場所が無くなった代わりに、何かマガジンのようなものを装填できるようになっていた。
「形が変わった・・・面白い武器ね」
メズールは面白いものをみたと愉快そうだ。
カリバーフォーム。レイジングスピリッツが先週、メダジャリバーを使って自身を改造した新形態。そしてセルメダルを装填する代わりに、セルメダル1枚分のエネルギーと俺(から毎日寝た後に勝手に吸収して貯めていた)魔力を圧縮して込めたカートリッジという弾薬状のもの装填するカートリッジシステム。バルさんや翔が使っていた魔力を一時的に爆発的に上昇させるものがこれだ。これを使ってあの2体の装甲をぶち抜く。
本当はラトラーターコンボを使いたいところだが、あれを使うと後がない。俺はここで勝つだけでなく、外の戦いにも参加しないといけない。体力は残しつつ、速やかに目の前の敵を倒す。俺は左手のトラクローを展開して構える。
「準備はいいようね。それじゃあ・・・行くわよ!」
『左右から魔力反応多数!待ち伏せ!?』
直後、土手の向こう側から30程の小型の魚ヤミーが現れた。
「カートリッジ!!」
一本のカートリッジを消費し、小型ヤミーの群体に向けて斬撃を飛ばす。それがヤミーに当たることは無かったが、魔力で作られたその斬撃は爆発した。
『アクセルシューター』
「シュート!」
ピンクの光体が小型ヤミーをセルメダルへと変えていく。その魔法の使い手は白の
バリアジャケットに身を包んだ高町なのはだった。
「この辺りのヤミーはこれで全部かな?」
『はい。次は別の局員が被害を抑えている場所に案内します』
「お願い」
新型カートリッジを搭載しているレイジングハートを持つなのはは、1人で町を駆けまわっていた。
ドクター真木が開発した対ヤミー武装カートリッジシステム『セルメダルバーストチャージカートリッジシステム』、通称『SBC』。本来魔力を圧縮して込めるカートリッジに、魔力の代わりにセルメダル5枚分のエネルギーを込めることに成功したものだ。使用することで一時的に魔力の代わりにセルメダルのエネルギーを代用することが可能になり、通常通り魔法を使ってもヤミーにダメージを与えることが可能になった。
だがSBCを使用するためには、デバイスがセルメダルのエネルギーを計算して魔法を行使できるよう調整する他、デバイスのフレームがセルメダルのエネルギーに耐えられるように強化しなければならない。
現在SBCに対応できるデバイスは、ヴィータが所有するグラーフアイゼンとなのはが所有するレイジングハートの2機。汎用的な射撃魔法を得意とするミッドチルダ式の魔法を扱うデバイスを代表してレイジングハートが、近距離線に特化したベルカ式を扱うデバイスを代表してグラーフアイゼンが前日に実験していたのだ。実験は見事に成功し、後日には主戦力となる魔導士を優先的に実装する予定だ。
『アクセルフィン』
カートリッジを一本使用し、ピンクの光翼を足首に展開して飛び立つ。
ヤミーが出現してからは、SBCを使用しなければ飛翔魔法が使えなくなっていた。SBCを使用しても、なのは本来の高速飛行もできなくなっていて、移動に時間が掛かっていた。
魔法を阻害するフィールドを展開する兵器『AMF』の使用が疑われたが飛翔魔法以外は問題なく使用できているため原因はまだわかっていない。
魔導士の足である飛翔魔法が使えない以上、被害が拡大する。その穴を塞ぐため、なのはは人一倍戦っていた。
そして、強風と共に彼女の下に何かが降ってきた。
「赤い、羽根?」
「お前、何で飛べてるんだ?」
見上げると、鷹のような頭部、コンドルの爪の脚部。そして何より、最も目につく赤く大きな翼を生やした怪物が現れた。
「いつの間に・・・」
グリードを察知する手段を管理局は手にしていない。魔力を使った時か目視でのみ発見できる。なのはがここまで距離を詰められたのは遠くから超高速で移動してきたからだ。
「ここら辺は範囲内のはずだ。それで飛べてるってことは・・・お前、メダルを使ってるな。殺すか」
赤い怪物は結論を出すと、即座に攻撃を決定する。なのはに手を向けると、魔力を感じた。
『プロテクション』
なのはは咄嗟に左手を突き出し、シールドを展開した。直後、なのはを炎の濁流が襲う。
「くううっ・・・」
炎が彼女を焦がすことはないが、堅牢なシールドを僅かにだが押し込む程の威力はあった。
やがて炎が止まり、なのはが怪物を見やると、表情筋がないのか表情はわからないが多少驚いているように感じた。
「今のを完全に防ぐか。イカれた硬さだな」
「・・・アンクさん、ですよね?」
自身が知る外見と合致したことで名前を確認する。鴻上コーポレーションに渡された情報には高速で飛翔し、炎を扱うことが記されていた。
「私たちはあなた達を倒す手段をもう持っています。投降してください。ちゃんとお話、聞きますから」
なのはは赤い怪物、アンクに投降するよう促す。彼女としては戦わずに済むのに越したことは無い。
「んなことするわけねえだろ、馬鹿かお前。俺達の目的は完全復活だ。手段を選ぶつもりも、ましてやモルモットになるつもりもねえ」
「モルモットって・・・そんなことは!」
「あるだろ?お前の後ろの組織がどの程度の規模かは知らないが、その装備からして今の時代の文明とはかけ離れている。そんな異常な組織にノコノコ着いていったら、俺達みたいな珍しい奴は拘束されてよくて飼い犬、最悪実験体だ。」
そういうと、アンクは羽根を大きく羽ばたかせ、なのはに殴りかかる。それは暗になのはと話すつもりがないという意思表示であった。
『プロテクション』
それを再びシールドで受け止めるが、アンクは左手の指をシールドにかけると、シールドを引きちぎるかのように破壊した。
だがなのはもやられっぱなしではない。即座に杖であるレイジングハートを魔力で硬さを強化し、もう一度振りかぶってきたアンクの右腕に叩きつけた。腕を弾かれたアンクは舌打ちをすると、後方に下がった。
「見た目に反して、そこそこ肉弾戦もいける口か」
アンクが今相手をしているのはただの少女ではない。数々の修羅場をくぐってきた魔導士だ。なのははレイジングハートを構える。
「私が勝ったら、私の話、ちゃんと聞いてもらいますから!」
そうして、白い悪魔は羽撃いた。
前回の補足
ヴィータも空は飛べたが不測の事態に備えてザフィーラと行動を共にするために、空を飛ばすにザフィーラの背中に乗って移動していた。
AMF:「魔法少女リリカルなのは StrikerS」に登場する魔法を無効化するAAAクラスのフィールド系魔法防御。魔導士にとっての天敵。StrikerSではこれを展開できるガジェットドローンというロボットが主な敵なのだが、今作では登場予定はない。
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