オーズがなのはの場所へ到着する、少し前。
町中を突き進む怪物とそれを追いかける2人の魔導士の姿があった。
「メズールー!!」
『ディバインシューター』
『フォトンランサー』
「シュート!」
「ファイア!」
それはガメルと翔とフェイトだった。
彼らは先程まで、飛翔魔法を使えなくなった原因と見られるガメル遭遇し、戦闘を開始。だが戦闘の最中、急にうろたえたかと思ったら、何処かに走りだしたのだ。
「クソ、なんで急に・・・」
「発言からして、メズールってグリードに何かあったと思うけど・・・」
2人が持っている情報だけでは答えはわからない。2人でガメルを撃破しようにも魔法の効きが悪いため決定打を与えられず、せめてSBCを持つなのはかヴィータ、バースに変身する圭かオーズが来るまで抑えようとしていたのだが、こちらの攻撃も無視して走っている。
おまけに飛翔魔法を妨害する効果も継続しているうえに、ガメルに近づく程に体が重くなるのだ。その二つが相まって、中々追いつけずにいた。
「エイミィ、この先には何がある?」
翔が全体を把握しているエイミィに尋ねる。何かガメルの足を止める方法か、目的地をしることで先回りできないか考えたためだ。
『ちょっと待ってね。・・・このまま進むと、オーズさんがヤミーと戦ってる土手に着くはず。でも、カンパニーからの情報だとヤミーが一体発見されただけらしいけど・・・』
「そういうことか、クソッ!」
「翔!」
翔はさらに加速する。足を魔力で強化し、建物の上を飛び回ることでガメルより先に土手に着こうとしていた。
「お前はあっちいけ!!」
ガメルを抜かしそうになった翔に気づくと、走りながら手を翔に向ける。すると手の先から波動のようななにかが出た。それをレアスキルによって翔が後ろに回避すると、翔がいた屋根が削り取られていた。
「またこれか、クソ!」
回避のために動きが止まったため加速が消え、またも距離を離された翔は今ある情報を整理する。
『重量生物の王 ガメル』完全体になった時の能力は重力を操る。圭からはそう聞いていた。だがガメルは既にその能力を駆使して俺達と戦った。先程のように一定方向に重力波を発生させて押し出したり、純粋に重力を倍にして押しつぶしたり、一撃でも食らえば重傷は免れない不可視の攻撃を連発してくる。攻撃を事前に回避する俺と、地上でも高速で動き、回避が得意なフェイトだった為攻撃を食らってはないが、油断ならない相手だ。
その上、ガメルの体は今まで戦ったヤミーよりも固い。SBCを持たない俺達ではセルメダル一枚も崩せなかった。バインドによる拘束も試みたが、フィジカルで破壊された。となると今できるのはグリードと戦える他の戦力と合流してそれのサポートをすること。だったんだが・・・
エイミィからもたらされた情報、ガメルの様子から考えられるのは、『水棲生物の王 メズール』とヤミーとの二対一、もしくはそれ以上の不利な戦いを悠が強いられていたこと。そして悠がメズールを追い詰めていることだ。
それだけ聞けばいいことのように聞こえる。不利な状況もひっくり返したのだと。だが俺は悠の実力を知っている。あいつは魔力が枯渇気味な自分にギリギリで勝利する程度の実力なのだ。確かにあいつにはあのレイジングスピリッツがいる。だがレイジングスピリッツはあくまで魔導士との戦いが強いのであってグリードとの戦いにおいてはその限りではない。それなのにグリードを追い詰めている?
絶対無茶をしている。それしか考えられない。他人の為なら自分を顧みない、デバイスの方も止めるよりそれを支える方だしマジで止まらない。なのはとレイジングハートかよ勘弁しろよ心配するこっちの気持ちにもなれこんちくしょう。
最後らへんの愚痴を、首を振って頭から追いやって今自分ができることを考える。
現状ガメルの足を止めることは不可能。なら、ガメルの妨害を全て躱し、ガメルより先にオーズの、悠の下へ辿り着いて救出する他ない。
(フェイト、俺は先行してガメルより先にオーズの下へ向かう。そのサポートを頼む)
(待って、多分オーズさんが勝ってるんだよね?どうしてそんなに急ぐ必要が・・・)
(嫌な予感がするんだ。頼む)
本当は確信しているし理由もあるのだが、それを言うわけにはいかない。だからここはフェイトの自分への信頼にかけるしかなかった。
(わかった。できる限り気を引けばいいんだね)
(頼む)
フェイトの説得に成功し、足に魔力を籠めて再び飛び出した。今度は建物の上ではなく真っすぐ。これ以上町への被害を出してはいけないと判断したためだ。
『フォトンランサー』
「ファイア!」
フェイトは走りながら六つのスフィアを展開。そこから繰り出された魔力弾がガメルにではなく、ガメルの足元の地面を削った。それにより、ガメルが何度かこけそうになる。
「お前ら、じゃま!」
またも自分に追いつきそうになっている俺に気づき、ガメルは自分の額にセルメダルを入れた。
「一体何を・・・」
するとガメルの背中から現れ、俺に飛び掛かったのは、太く銀に輝く二本の腕が特徴のゴリラヤミーであった。
「うがあああああ!!!」
「ちぃぃぃ!」
上から振り下ろされた拳を飛びのいて躱すと、拳は地面を砕いた。
「翔!」
「平気だ。それよりあの野郎、よりにもよってヤミーを残していきやがった!!」
駆け寄るフェイトに自分の無事を伝えるとともに最悪の置き土産をくらったことを重く見る。
ガメルと違ってこいつを振り切るのは可能。だがその場合町の被害が拡大する恐れがある。自分もしくはフェイトがこのヤミーの相手をして、もう片方がガメルを追う?だめだ、1人ではガメルに追いつけない。なら選択肢は1つ。
「速攻でヤミーを倒す!足止めするからとどめは任せた!」
「了解!」
ゴリラヤミーに向かって駆けだす。するとゴリラヤミーは両手の指をこちらに向け、指先から魔力弾が連射される。だがその前に翔はシールドを展開していた。
「アマテラス!」
『ブレイドフォーム』
カートリッジを一本使用した音と共にシールドが破られた。それと同時に翔は高く飛び上がる。その手には、刃が魔力で構成された片手剣に変形したアマテラスがあった。
『フラッシュソード』
「だああああ!!」
地面に垂直なシールドを展開し、それを踏み台にして光のごとき速さでゴリラヤミーの胸を切り、火花が散った。だが後ろによろける程度で倒れはしない。お返しと言わんばかりに拳が繰り出されるがそれも回避し切る、切る、切る。何もさせず、ただひたすらに切り刻む。ただ何度切ってもよろけはするが倒せない。攻撃が効いていないわけではないが時間が掛かることはわかる。
(準備は?)
(いつでも!)
返事を聞き、合図と共に翔はその場から飛びのいた。
『ザンバーフォーム』
「はあっ!」
ソニックフォームとなりフェイトの愛機バルディッシュが光の刃を持つ大剣を振り下ろした。だが、ゴリラヤミーもただではやられない。振り下ろされた魔力の刃を両手で掴み、耐えて見せた。
『サンライトフォール』
それでも結果は変わらない。その隙だらけの胴体を翔が眩い光を纏った斬撃によって切り裂いたからだ。
斜めと縦に切り裂かれたゴリラヤミーは爆散し、その場には一枚のセルメダルだけが残った。
「思ったよりあっさり・・・?」
今まで戦ったヤミー達と比べ強さは兎も角、耐久力が圧倒的に低いことに違和感を覚える。
「フェイト、走るぞ!」
手ごたえのなさに戸惑って立ち止まっていたフェイトを翔が呼ぶ。翔が今にも走り出しそうなので、フェイトも急いで駆けだした。
『2人とも気を付けて!結界が動いてる!』
しばらく走り、ガメルが先に結界に入ったという情報を聞いて更に焦っていた翔だったが、すぐにまた新しい通信が入った。
『術者は結界の中にいると思うんだけど、どういう原理なの・・・?』
信じがたい情報だったが、翔は知っている。意味不明な結界魔法を行使する友人を。
「その結界はどこに向かってる!」
『向かってる方向は他のグリードの場所。マップに表示したけど、解析がまだ終わってないからまだ結界の中には・・・』
「そんなことをしている時間はない!結界の中に入る許可をくれ!」
「・・・わかった。結界の中に入れたとしても、中はどうなっているかわからないから慎重に行動して」
「了解!」
そう言って通信を切り、方向を変えて飛翔魔法を行使する。翔の予想通りガメルがいなくなったことにより、問題なく飛翔魔法を行使することができた。
「エイミィさん、翔に着いて行っていいですか?今日の翔、何だかおかしくて・・・」
『うん、お願い。私も何だか、嫌な予感がするんだ』
エイミィの許可を貰い、フェイトも飛翔魔法を行使して空へと高く飛んで行った。
幻影魔法で姿を隠しながら自分が出せる最高速度で空を駆ける。途中でカートリッジも消費して更に加速した。
「無事なんだろうな・・・」
こっちの心配を無視して無茶ばかりするのは本当にやめてほしい。何かあってからでは遅いのだ。
もう嫌なんだよ。自分の近くで誰かが傷つくのは。
あの日、近くにいたはずなのに俺はなのはを守れなかった。その結果、彼女は飛べなくなった。あの日の事は今も夢に見る。だから悠は遠くに置くことで傷つかないようにしたんだ。でもそれも上手くいかなくて、だからもう一度、傍で守ることにしたんだ。
やめてくれよもう。無茶しないでくれ。心配させないでくれ。俺の目の前で、傷つかないでくれ。次にあんな事があったらもう、立ち直れる気がしないんだ。
そうして俺は様子を見ることに怯えながらも、結界の中へと足を踏み入れた。
結界にの中心には、ウイニングロードを展開しながらバイクのような何かにまたがり、全身をチェーンバインドによってそのバイクのようなものに固定しつつ爆走する金ぴかのオーズがいた。
「・・・」
『マスター、戻ってきてください!』
「・・・はっ!」
あまりの光景に動きが止まってしまった。アマテラスの声で意識が戻り、慌ててオーズ、もとい悠の下へと飛翔する。
「ゆ・・・オーズ!」
通信を切り、フェイトも振り切ってるので悠の名前で呼んでも問題ないが念のため。俺の声に気づいたのかバイクのようなものを緩やかなスピードにしたが、なぜかこちらを振り向かない。
(翔、どうしてここに?)
言葉ではなく、念話で話し始めた。取り敢えず悠の目の前まで飛んでから話す。
「お前の所にグリードが来た、はずなんだが・・・」
辺りを見回してもグリードは何処にもいない。ここにいるのは俺とこの珍妙な姿をしている悠だけだった。
(あのゴツイの?あいつなら俺が相手してたグリードを連れてすぐどっかにいったよ)
それはつまり、あと一歩で倒せていたはずのメズールをガメルの乱入によって取り逃がしてしまった、ということなのだろう。
「あいつの相手をしていたのは俺なんだ。俺がお前の手助けをする立場なのに迷惑をかけた。本当にすまない」
頭を下げて謝罪する。俺の実力不足で悠を危険な目に合わせてしまっただけでなく、足すら引っ張った。こんなことはあってはいけないのに・・・
(気にしないでいいよ。それより翔が無事そうでよかった)
「・・・そうか」
自分が情けない。今は魔法を扱いオーズに変身して戦ってはいるが、ついこの前まではただの一般人だ。
それに比べ、多くの実戦を積んだ自分は1人でヤミーを満足に倒せず、あろうことか足を引っ張っている。力不足だからと戦わせるのを止めさせようとしていたなどと、聞いてあきれる。
(ところでさ、俺今から他のグリードの所に行こうと思ってるんだけどさ。翔も一緒に来る?)
「行くけど・・・それよりお前、何で体を縛ってるんだ。危ないぞ。後何で念話で話してるんだ?」
内心を悟られないよう、平静を装いつつ悠の格好について注意と疑問を投げかける。
(実は今声を出すのも辛いくらい体ガタガタなんだぁ)
「なんだじゃねえ帰れ馬鹿!!」
俺の時より限界突破してんじゃねえかそれ!ていうか
「おいレイジングスピリッツ、早くこの馬鹿帰らせろ!もしくは治療しろ!」
外界とは遮断されているものの、冷静さをかいて悠の中にいるであろうレイジングスピリッツの名前をガッツリ呼ぶ。
『治療はもうした。マスターの場合は疲労の究極系みたいなものだ。だから治療魔法ではどうにもならん。帰還は諸事情によりできない』
「ポンコツがよぉ・・・」
『使えないデバイスですねえ~』
『お前ら後で覚えてろよ』
ポンコツの殺気を無視し、並走していた悠の肩を掴んで止める。
「後は俺達で何とかするからお前は帰れ。な?」
(痛い。翔、マジで痛いから離して?痛い)
体がピクピクしだしたので手を離す。いやこれ戦うの無理だろ。なんでまだ戦おうとしてるのこいつ。
「そんな状態で戦えるわけないだろ?ここは任せて俺達に・・・」
ザザ・・・ザ・・・
なんとか説得しようとした時、画面が現れエイミィの顔が映された。
『翔君、結界の中はどうなっ・・・どうなってるのそれ!?』
音質は悪いが、エイミィの声がはっきりと聞こえた。悠の姿に驚いているのがわかる。
(うわすげえ結界の中に通信繋げてきたんだけどこの人化け物か?)
悠がエイミィのことを化け物呼ばわりしていてエイミィが少し可哀そうだった。まあ中に俺がいることでつなぎやすくなったからだと思うけど、それでも画面が荒れてるってどんだけこの結界通信妨害強いんだよ。エイミィ滅茶苦茶優秀なんだけどそれでこれって・・・
「えっと、もう限界らしいから帰還するそうだ」
(言ってねえ!!)
念話で訴えてくるがそれ以外は何もできていない。はは、首を振ることすらできないようだな。休めばか!
「え、でも他のグリードの下に行こうとしてたんじゃ・・・」
「帰るそうだ」
喋れないことをいいことに馬鹿を帰らせる方向にシフトする。これで大丈夫なはずだ。勝ったな。
『そ、そっか。それじゃあ、翔君はこのまま真っすぐなのはちゃん所に向かって。ちょっとまずいかもしれない』
「なのはが?SLBを持ってるはずだろう?」
『今のところは互角に戦えているんだけど、もうSLBを使い切りそうなの』
エイミィの様子から見るに、SLBが無くなる前に倒しきることは難しそうだった。そうなると、なのは以外の魔導士でグリードの動きを止めて、なのはには残りのSLBによる攻撃で倒してもらうほかないだろう。
「了解、今すぐ現場に向かう」
通信を切る。とにかく悠には帰ってもらって行こうと、もう一度声をかけることにした。
「・・・冗談じゃねえ」
「悠?」
加工されていたものの、念話ではなく確かに声が聞こえた。それ上、怒りがにじみ出ていた。
乗っているバイク?のエンジン音が鳴る。今に走り出しそうだった。
「おい待て、何度も言うがお前はかえ・・・」
「ぶち抜けええええ!!!」
「眩しっア”ッ”ツ”ッ”!!」
悠の体が黄金に輝き、俺を置いてアクセル全開で走り出した。ついでにバリアジャケットが少し焦げた。
この場に圭がいたら「ア〇セルシンク〇じゃねえか!」とか言っていただろう。
「えちょ、止まればかああああ!!!」
大声を出すもあっという間に悠は離れていき、俺は結界から弾かれた。幸いにもそれなりに高度が高いため下からは見えにくいだろう。
「翔、どうしたの!?中で一体何が・・・」
結界から弾き飛ばされ、少し焦げた俺を見たフェイトが声をかけてきたが、今はそれどころではない。
「あの野郎・・・取り敢えず燃やす」
「燃や!?」
殴るためにもまずは追いつかなければならない。俺達は再び空を駆けた。