空に軌跡を、ターフに別れを   作:競馬ビギナー

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 衝動的に書きたくなったから書いた。
競馬歴は今年のジャパンカップでようやく1年目、勝率はやや低め。
昔の競走馬も好きだけど、やっぱり自分は初めて勝たせてくれた彼が好きです。

 好きだから、やや過激な表現で曇らせる―――IFとかは多分ない。
それは彼のいなくなった後、激闘を繰り広げた馬達のドラマを否定することになりますから。


プロローグは北の大地から

 

 走る事を辞めたウマ娘の多くは、家族の待つ故郷へ帰る。

日本のウマ娘の多くは生まれ故郷である北の大地…北海道へと戻るのだ。

 

 空港のロビーの一角で、一人の男が携帯画面とにらめっこしていた。

画面に表示されているのは男の居る場所…北海道の空港からある牧場までの道のり。

途中までは電車やバスが通っていて道も分かるのだが、一番近い停車駅(停留所)でも歩いて15分以上掛かるところにその牧場はあるらしい。

 

 らしい…というのも、その牧場は世間一般にあまり知られていない場所だからだ。

彼がその牧場を知ったのは、仕事で書くことになった()()()()()の記事の取材がきっかけ。

一年ほど前に現役を引退し、トレセン学園から雲隠れして足取りの掴めなかった彼女。

 

 関係者からは一切情報を得られず、ただ一人…同業者の中でも屈指の変人として知られる女記者からヒントとして得られたのが牧場の名前と場所だった。

情報を得るのに手痛い出費をしたが…仕事を達成すれば帳消しになる。

 

「……いくか」

 

 長袖を捲って腕時計を確認する男。

時刻は午前10時、目的地に着いてから取材の許可を得るまで中々に苦労するだろう。

そう考えた彼は余裕をもって動くことに決めた。

 

 空港近くの駅から目的地付近まで電車の中で身体を揺らされながら、男は思案した。

 

 どうして彼女はターフを去ったのだろう?

現役時代、脚部に不安を抱えていたことは過去に他社の記事で書いてあった。

だが大きな怪我などせずにシニア期を終えた後はドリームシリーズ入りも確実である。

それほどの評価を受けていながら、彼女はシニア期の秋を最後に引退した。

 

 以前、彼女と同じ時期に走っていたトレセン学園のウマ娘達にそれとなく聞いてみた。

多くの者が口を閉ざす中、彼女とクラシック路線で激闘を繰り広げた者達は皆こう答えた。

 

「あいつは期待に応えられなかった。奴らはそれが気に入らなかった…ただそれだけだ」

 

 奴ら…というのはレースを見に来る観客のことだろう。

期待に応えられなかったから…それだけの理由で彼女はターフを去ったというのか?

男は更に詳しい話を聞こうとしたが、ウマ娘達のトレーナーに無理やり中断させられた。

 

 今思えばあの時、彼らが止めてくれたのは正解だったのだろう。

自分を無理やり練習場から引き離そうとする彼らの背後で、取材したウマ娘達は怒って(キレて)いた。

その怒りの様相たるや、言葉選びを間違えれば男がただでは済まないと思ったほどだ。

 

 実際、取材中にウマ娘を怒らせて記者が怪我をする事例は珍しくない。

命に係わるほどの怪我を負わされた話はここ最近聞かないが、過去には死亡事例もあったという。

 

 それからは狙いをウマ娘達から、指導者であるトレーナー達に変えた。

だが彼女達よりもトレーナー達の口は固く閉ざされており、中には「どうしてそんな事を、今更聞くのか?」と怒り交じりの涙目で聞き返して来る者までいる。

 

 男はより深く、彼女のことを調べ……そして胸糞悪い事実を知った。

当時、担当していたトレーナーと彼女に向けられた批難批判、嘲笑罵倒の類。

それが理由かは分からないが、彼女を担当していたトレーナーも既に学園を去っている。

その件について学園の理事長を尋ねたが、すげなくあしらわれてしまった。

 

 彼女がURA史上8人目の三冠バ、伝説となった皇帝シンボリルドルフ、衝撃の英雄ディープインパクトに次ぐ3人目の無敗の三冠バだったことが関係しているのは明らかだった。

前者の多くは第一線を退いて、今は後継者の育成に力を注いでいる。

後者の2人はまだ現役としてドリームシリーズを走っていた。

 

 後継者…ふと男の脳裏にある二流雑誌に書かれていた文面が過ぎった。

彼女はデビュー当時、ディープインパクトの後継者と言われていた。

それが事実か、今となっては確かめる術はないが…事実だとするなら…

 

(それこそが、この記事の主題になるんだろうな…)

 

 

 

 電車に揺られること1時間半、そこから今度は乗客の少ないバスに揺られて30分。

遂に男は目的の牧場が近くにあると書かれた看板のある停留所に降り立った。

ずっと座りっぱなしで考え事をしていた彼の体の節々からポキポキと良い音が鳴る。

 

(アポイントメント無しの取材だからなぁ…怒られるんだろうなぁ…)

 

 先方が取材を拒否したらどうしよう…と男は新人記者みたいな不安を抱えていた。

この仕事を続けて何年か経っている中堅の彼だが、今でも新人時代の気持ちは持っている。

むしろそれくらいの気持ちでいないと、変に高飛車になった記者は碌な目に遭わない。

 

 男は一般車両用道路とウマ娘専用レーンが並んでいる田舎道の端を歩く。

舗装されたアスファルトの経年劣化による凸凹が激しく、彼は時々何もないところで躓く。

 

 そんなこんなしている内に、目的の牧場らしき建物が見えてきた。

並ぶ柵の向こう側で、牛や羊が牧草を食べたり寝転んだりと自由な生活を送っている。

彼は何気なく動物たちに視線を送り…ふと視界の端に映るウマ娘に気づいた。

 

「………!!」

 

 使い古されてボロボロではあるが、間違いなく彼女が来ているのはトレセン学園のジャージ。

袖を捲って放牧地の中を仕事道具片手に駆け回る彼女の姿は、男が幾度となく見て来た記念写真と比べて幾らか顔立ちが凛々しく成長しており、背丈もそこそこ伸びていた。

 

 艶やかな青鹿毛に混じる前髪の真っ白な流星は、ひと昔前の受話器を彷彿とさせる。

男が歩く足を止めて彼女に見惚れていると、放牧地の動物たちが何匹か寄ってきた。

餌をくれると勘違いした動物たちが鳴いて…彼女は男の方へ振り返った。

 

「ぁ……」

 

「――――――??」

 

 遠く離れたところから彼を見つめ、彼女はぼけっとした表情で首を傾げる。

そのおっとりした仕草は現役時代に彼女を取材した者達の印象と変わっていない。

ゴクリと喉を鳴らし、男は彼女に聞こえる声の大きさで話しかけた。

 

「………コントレイルさん………でしょうか?」

 

「――――――えっと…はい…それは私の名前で間違いないと思います」

 

 男が取材しに来たウマ娘の名前はコントレイル。

鬱屈とした時代に現れ、ヒトの願い(呪い)に苦しめられた…一人の少女である。

 




 同期の馬達の性格がまだはっきりと掴めてない……
(なんとなくサリオスは熱血系好敵手、アリストテレスは分析系クール眼鏡キャラ、パンサラッサは純粋無垢なアホの子のイメージが…ディープボンドはおっとり系か?)
明日の秋華賞、デアリングタクトに続く牝馬三冠は生まれるのかな。
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