空に軌跡を、ターフに別れを 作:競馬ビギナー
―――コントレイルさんは秋の天皇賞、誰か勝つと思いますか?
…えぇ~私にそれ聞いちゃいますか?私、結構トラウマなんですよ秋天が。
大阪杯負けてから宝塚記念に出れなくて、私すっごい叩かれちゃったじゃないですか?
あれで秋天は見返してやろう!って万全の状態に仕上げて、エフフォーリアちゃんに負けちゃいましたからね~……
―――え、あっ!?すみません…そんなつもりじゃ…!
ふふっ、大丈夫ですよ。もう終わった事ですから。
走る私達も応援する人達も、熱くなるのはレース結果が出る瞬間まで。
誰かが勝てば他のウマ娘達は夢破れ、勝利者は更に高みへと昇らなければならない。
それが走る為に生まれてきた私達のレース……
……なーんて!それを理解したのは大分後の事なんですけどね。
―――コントレイルさん……
………あ、ごめんなさい!秋天ですか…?うーん、そうですねえ……
シャフリヤールちゃんは東京なら確かに強い脚を持っているけど、海外から戻ってきたばっかりで色々と不安があるかもですよね?
今年の皐月賞ウマ娘ジオグリフちゃんと、皐月賞・ダービー2着続きのイクイノックスちゃん…でしたっけ?すみません、私は面識がないのでどんな娘なのかは分かりませんけど…
二人ともダービーの後に怪我したかもって聞いたけれど、どうなんでしょうね?出走するって事は治ってるとは思いますけど、怪我から復帰した後って本調子を出すのが大変なんですよ。
逆の質問なんですが、記者さんは…ジャックドールちゃん?
…あぁ!8月にパンサちゃんに勝った子ですよね、知ってます知ってます。
あの時のパンサちゃんの悔しがる様子はすごかったですねえ…
あの子も有力候補なんですか?…成程、確かにこの戦績なら勝っても不思議じゃありませんし…
…私は…そうですね。
誰が何と言おうと勝ってほしい、勝つと信じてるのは一人だけですよ。
パンサラッサなら、誰が相手だろうとやる事は決まってる。
世界に届いたあの子の逃げ足ならきっと……
コントレイルはトレーナーの福元と担当契約を交わした。
トゥインクルシリーズジュニア期から好スタートを切ると息巻いていた彼女は、
「………まさか捻挫していたとはな」
「す、すみません…カッコつけておきながら」
トレーナー室で椅子に座ったコントレイルの耳が申し訳なさそうにぺたんと凹む。
ジャージの下を捲り赤く腫れた彼女の足首に、福元は慣れた手つきでテーピングを施す。
なるべく手が足に触れないよう、吐息が肌に当たらないよう細心の注意を払って。
「医師が言うには症状はそこまで酷くないそうだ。怪我を治してから本格的な状態で臨むとしたら……そうだな………11月に行われるGⅢ【東京スポーツ杯ジュニアステークス】はどうだ?」
「オープン戦ではなく、いきなり重賞戦ですか……」
「…他に年明けからオープン戦、重賞と進んでクラシックに挑むローテも組んではいるが…」
彼が提案したそれを聞いて、コントレイルはピクッとウマ耳を反応させる。
それは彼女が憧れるディープインパクトのトゥインクルシリーズ時代のローテだからだ。
彼女が走ったオープン戦【若駒ステークス】は英雄伝説が始まったレースとも言われている。
最後方からのレース展開を4コーナーまで維持して、直線コースに入った瞬間に加速。先頭から10バ身差を縮めて最終的には5バ身差の圧勝。
関係者は彼女のクラシック三冠は確実と言い、彼女はその言葉通りクラシック三冠を獲った。
皇帝・シンボリルドルフ以来、現れなかった無敗の三冠ウマ娘という肩書で……
福元トレーナーからの提案はどちらもコントレイルにとって魅力的なものだ。
尊敬する彼女と同じ足跡を辿れば、衝撃を継ぐ存在へと近づくなら後者だろう。
だが……
「……いえ、前者でいきましょう。トレーナー、私はいずれあの人を越えます。ここで日和って、あの人と同じ土俵に立つのでは意味がありません」
英雄を越えるなら皐月賞までに
言葉に出せば、それが如何に傲慢な目標であるかレース関係者なら馬鹿でも分かる。
だが、それくらいしなければ英雄は超えられないのだ。
椅子に座ったまま凛とした声で問いに答えたコントレイルの瞳を福元トレーナーはじっと見た。
艶やかな青鹿毛に隠れてしまいがちだが、彼女の瞳はとても綺麗な色をしている。
水晶玉のように吸い込まれそうな彼女の瞳に映る彼が首を縦に振った。
「……そうか。それなら次走は東スポ杯で決まりだな。…東スポ杯の結果に関わらず、その次のレースは年末に行われるジュニアGⅠ【ホープフルステークス】にしようと思っている」
「GⅠ……そうですね。そこから皐月賞に直行するくらいの勢いでやりましょう」
こうして無敗の三冠ウマ娘を目指すコントレイルと、福元トレーナーのトゥインクルシリーズジュニア期は二戦目に東スポ杯、三戦目にホープフルステークスという目標で始まった。
二人が動き出すのと同じように、他のトレーナーとウマ娘達もそれぞれの道を進み始めるのだった……
*
「――――――フッ!!」
《3番サリオス、直線で先頭に並びかけて外から上がっていった!更に外持ち出して6番のクラヴァシュドールも上がってくる!内8番アブソルティスモは三番手か!?》
「「む、むりぃ~……!」」
10月5日、東京レース場で行われる
左回り芝1600の直線は東京レース場お馴染みの長い坂がウマ娘達を待ち受けている。
先頭を走っていた二人が下がっていくのを躱して三番手から四番手で様子を窺っていた圧倒的1番人気の3番サリオスは4コーナーを回った直後、不敵な笑みを浮かべて一気に上がっていった。
同タイミングで仕掛けたクラヴァシュドールはサリオスを視界の横に捉えて、後方で力を溜めていた自分なら確実に消耗した筈のサリオスを追い抜けると勝ちを確信したが――――――
「なっ――――――!?」
「オレの、勝ちだぁぁぁ!」
《サリオスが前に出た、サリオスだ、サリオスだ!1バ身離れて、今―――》
サリオスは坂で衰えるどころか、クラヴァシュドールの全力を越える加速で前に出た。
目を見開き、奥歯をギリッと噛み締めて追い縋ろうとするが―――
《3番サリオス先頭でゴールイン!!人気に応えて、3番サリオスの勝利です!!》
――――――ワアアアァァァ――――――!!!
歓声が木霊する東京レース場、汗を浮かべたウマ娘達を正面から降り注ぐ日差しが照らす。
栗毛の尻尾を揺らしてサリオスは満足げに拳をぎゅっと握り締め、一人青空を仰ぐ。
既にその目は後ろで悔しそうにしている同世代のウマ娘達など映っていなかった。
「手応え十分!皐月賞……いや、三冠はオレが頂く……!」
この時サリオスが叩きだしたタイム1分32秒7はジュニア期の東京1600レコードタイムだった。
彼女の勝ちっぷりを見た関係者の一人はこう言った「来年のダービーは決まったかな」と……
神話に登場する戦いの踊りを発明した者と同じ名を冠する彼女こそ、優駿の頂点に相応しい。
*
サリオスの勝利から一週間後、京都レース場で行われた芝2000右回りの未勝利戦にて。
こちらは打って変わって雨が降る中、不良バ場での12人出走の開催となった。
「うおおおぉぉぉぉ!!どりゃああぁぁぁ!!」
《4コーナーカーブを回って、直線コースへと向かっていく先頭8番パンサラッサ》
好スタートを切った鹿毛のウマ娘パンサラッサは二番手で暫く大人しくしていたが…
4コーナー手前で仕掛けて先頭を走る1番フローラルピースを外から抜いて先頭に立つ。
雨の中、走り難い淀の芝に他のウマ娘達が足を取られる中――――――
「わーっはっはっは!!エンジン全開でいくぞぉ!」
(く、っそ…あいつ…なんでこの不良バ場で―――!)
(こっちは溜めた脚を伸ばすのも一苦労だってのに…!?)
(なんで
余裕の走りでパンサラッサはリードを広げて残り400の地点を通過。
彼女と後続の差は4バ身、5バ身とゴールが近づくにつれ開いていき……
残り150で既に10バ身近くのリードを持ったまま、先頭でゴール板を駆け抜けた。
《これは決まった。パンサラッサ、パンサラッサ圧勝でゴールイン!!》
雨の中見に来る観客も少ない中、泥に塗れた体操服でパンサラッサは笑顔を浮かべる。
本当なら勝った後に笑い声を上げようと彼女は思っていたのだが―――
「ぜ、ぜぇ…ひゅ~…ひゅ~…」
流石に2000mを走り切った後でそんな余裕は残っていないようだった。
彼女のトレーナーは観客席の最前列で傘を差し、苦笑してその様子を見守っていた。
「み、見たか…私の力…を~!…この、調子で…ホープフルも私が頂く…ぞぉ~」
かつて地球にあった海の名を冠する彼女は、やがて世界に羽ばたく。
今はまだ彼女も、彼女のトレーナーも、そして彼女のライバル達も、それを知らない。
*
「……あうぅ~……ま、負けちゃったぁ」
パンサラッサが勝利した翌日の重バ場の京都レース場にて青鹿毛のウマ娘が落ち込んでいた。
たった今行われたデビュー戦で3着に敗れたディープボンドは俯いて足を止める。
「…これじゃあ、コンちゃんと同じ舞台にいけないよぉ…」
「ハーッハッハッハッ!落ち込むことはないさディープボンドくん!」
落ち込んでいる彼女の後ろから高らかに笑い声をあげて登場したのは伝説のウマ娘。
トゥインクルシリーズで未だ破られない記録、
「――――あっ!貴女は……て、てててテイエムオペラオーさん!?」
「そう、ボクだ!!―――さっきのレースを見ていたよディープボンドくん。結果は3着だったが、ボクはキミの走りに可能性を見出した!」
「か、可能性…ですか?」
偉大な先輩ウマ娘の登場に、ディープボンドはオロオロしている。
よく見ると離れたところで学園最強のチームと名高いリギルのメンバーが立っていた。
チームトレーナーの東條ハナがやれやれといった様子で見守る中、話は続く。
「そう可能性だよ!!キミが真の実力に目覚めたのなら、来年のクラシックはキミが勝つ!」
「わ、私が…?ど、どうしてそんな事を――――――」
「キミからは運命的な何かを強く感じるからさ!それ以外の理由が必要かい?」
「……わ、私は……」
「……どうやらまだ迷いがあるようだね。いいとも!!気が向いたらボクに声をかけてくれ。……あ、それともう一つ……未勝利戦を勝ちたいのなら、バ場状態の良い日を狙うといい」
そう言い残したテイエムオペラオーは、また「ハーッハッハッ!」と笑いながら去っていった。
しばらく呆然とその場に立ち尽くしていたディープボンドはレース場を振り返る。
(確かに今日のバ場は…走り辛かった…)
この後、彼女はある若い男のトレーナーに声を掛けられ担当契約を結んだ。
オペラオーの言う通り、トレーナーと相談した結果。天候の回復した翌月の未勝利戦を彼女は後続に3バ身差つけて勝利した。
遠くない未来、彼女は深い絆で結ばれた親友とターフで争うことになる。
*
そして……コントレイルが出走を回避した萩ステークスにも期待の新星が現れていた。
7人で行われた萩ステークスはゆったりとしたペースで行われている。
1番人気に推された黒鹿毛のウマ娘4番ヴェルトライゼンデは僅かに目を細めて状況を確認する。
(…ちっ、団子かよ…しゃらくせぇ…!)
《直線コースに入って5番セツメンノトビウオが先頭に躍り出るが、外から4番ヴェルトライゼンデ、7番シリアスフールが並びかけてくる!内を掬って1番エカテリンブルク!》
実況と観客の声が走っている間も彼女達の耳には届いている。
中には集中し過ぎて聞こえないものもいるが、ヴェルトライゼンデにはしっかり届いていた。
真ん中で溜めていた力を解放して良い位置に付いたが、彼女の左右で二人粘っている。
《バ場の真ん中での攻防を、内からエカテリンブルク抜けるか!?間からヴェルトライゼンデ、外シリアスフール!もうひと伸びですヴェルトライゼンデ!》
(…んなこたぁ…アタシが一番、よく分かってンだ…よ!!)
「「くっ――――――!?」」
「おぉ、らああぁ……!!」
《中4番ヴェルトライゼンデ、リード体半分!二番手はシリアスフール、エカテリンブルク!―――ヴェルトライゼンデ、ゴールイン!!》
「はぁ、はぁ…はぁ…」
内を通っていたエカテリンブルクは直線でかなり足を酷使したのか、青褪めた表情でバ場の外へとスピードを落としながらヨロヨロ歩いていく。
一方でヴェルトライゼンデ、並びかけたシリアスフールは落ち着いてペースダウンに入っていた。
両者に違いがあるとすれば、負けたシリアスフールは悔しそうな表情を浮かべている。
ヴェルトライゼンデは体操服の襟を掴んで口回りの汗を拭う。
しまっていたシャツから腹が露出して通り抜ける秋風が心地よく吹き抜けた。
「……もう少し、派手に勝てりゃ良かったんだがな……」
その言葉は誰に聞かれる事もなく、風に巻き上げられた芝と共に空の彼方へ消えていく。
彼女は夢を追う者。黄金色に輝く世界を練り歩く旅人たらんとする大勢のうちの一人である。
彼女自身にその自覚はないが、いずれその戦績が彼女の在り方を教えてくれるだろう。
バビット「俺を忘れるとはいい度胸だなコントレイル!」
アリストテレス「だってバビットさん菊花賞しか出番ないじゃないですかヤダー」
キセキ「ハーッハッハッ!オペラオーさんに出番を奪われてしまったが、彼との繋がりなら私も負けていないよ!え?JC1回目は鞍上が違う?………」
これでもまだコントレイルのストーリー的にはメインキャラが半分くらい未登場という……
プボくんとオペラオーは言うまでもなく鬼鞭で知られるイケメン鞍上因子。
こうなったらキンヘお嬢も何処かで出すしかねえよなぁ?
ピクシーナイト「………」
ワグネリアン「………」
ところでコントレイルが王道の曇らせストーリーやってる裏で牝バの先輩が怖い顔のトレーナーさんと世界獲ってトレーナーさんが失っていた感情を取り戻す話があるんですよ。
ラヴズオンリーユーって言うんですけど(ソダシ、アモアイ含めてウマ娘実装はよ)