空に軌跡を、ターフに別れを   作:競馬ビギナー

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 2019年秋から冬にかけて、トゥインクルシリーズが本格的に始動するジュニア期のウマ娘。
しかし彼女らの大半が世間一般のウマ娘レースのファンから注目されるのは来年から。
中には早々にメイクデビューを果たして頭角を現す異質な存在もいるが、それはほんの一握り。

 ジュニア期のGⅠが開催される年末までの間も、人々を感動させるドラマが幾つもあった。
これはそんなドラマの内のほんの僅かな場面に過ぎない。
後の九冠ウマ娘とティアラ路線で激闘を繰り広げ、一年半の苦難の末に返り咲いた2歳(ジュニア)女王。
日本ウマ娘レース史上7人目となる同一年春秋マイル制覇を成し遂げたマイルの新王。

 二人は適性距離が違う為、同じレースで戦った事がない。
中距離であればスタミナ差で前者が勝つし、マイルであればスピードとパワーで後者が勝つ。
この二人は学園内でも特に仲が良い訳ではなかった。
だがこの二人はトゥインクルシリーズに挑戦して早々、学園内である人物達に目を付けられた。

 最速の機能美、彼女の影を踏むことすら誰も叶わない。
現在は日本から遠く離れたアメリカの地で活躍中のウマ娘サイレンススズカ。
現役全盛期の時代、唯一彼女の影を踏んだウマ娘がいた。

 其のウマ娘の名前はステイゴールド。
学園内の非公式ウマ娘チーム「黄金旅程」を取り仕切る不良ウマ娘だ。
黄金旅程は固定のチームトレーナーを置かず、チーム戦が行われる時にだけ必要に応じてチームの頭を張っているステイゴールドが関係各所から拉致…もとい協力を取り付けて来る。

 所属するメンバーにはチームスピカのゴールドシップ、リギルのオルフェーヴルの他にトレセン学園屈指の問題児として知られるグランプリウマ娘ドリームジャーニー、ナカヤマフェスタ、フェノーメノとかなりの実力者が揃っていた。

 ちなみに普通はウマ娘が複数のチームに所属することなどありえない。
だが所詮は非公式チームなので別のチームから引っ張ろうが問題はないというのがステゴの主張である。学園側としても問題児を一纏めにすれば監視がしやすいだろうという意見から、チームの存在を表向きは否定しつつも裏では認めていた。

 そしてこのチーム黄金旅程なのだが、なんとファンの数がリギルに並ぶほど多いのであった。
大半はトゥインクルシリーズ時代からステゴを応援していたファンだが、それに加えて三冠ウマ娘のオルフェ、ゴルシの二人もファンの数が多く「愛さずにはいられない」がチームの総評である。

 また平地で走る彼女らに加えて、人気の薄い障害競走で長きにわたり玉座に君臨するウマ娘。
皇帝シンボリルドルフと対を為す障害競走における絶対の王者オジュウチョウサン。
彼女も黄金旅程に所属していることが、支持するファンの層を更に厚くしていた。

―――閑話休題。
ステイゴールドは2歳女王とマイルの新王にも勧誘をかけていたのである。
当然訳の分からない彼女の勧誘を二人は断ったのだが、ステゴは不敵に笑って二人に告げた。

「お前らもよぉ、どうせ走るなら銀メダリストより金メダリスト目指してぇだろ?」

 その言葉の意味を最初に聞いた時は理解出来ず、ただひたすらに困惑するばかりだった。
片方は強過ぎるライバルを前にして金から銀に格下げされた苦渋の日々を送り、片方は早々に金色の輝きに魅せられて――――――両者は栄光を掴み取った後で気づくのだ。
現役時代に最強のシルバーコレクターと呼ばれた彼女(ステゴ)が発した言葉の重みを。



【2019年冬のレース編】ジュニア女王の復活

 

 

 

《第44回エリザベス女王杯を制するのはどのウマ娘か?1番人気は今年のオークスウマ娘ラヴズオンリーユー。2番人気はこの娘。秋華賞ウマ娘クロノジェネシス。勢いに乗る後輩二人を迎え撃つのは3番人気ラッキーライラック。一年半振りのジュニア女王復活はあるのか!》

 

(歓声、拍手、喝采―――私にそれが向けられたのはティアラ路線前哨戦までだ)

 

 2番ゲートの中、栗毛の尻尾を振りながら静かに目を伏せたラッキーライラック。

記憶の海に流れるのはジュニア女王の称号の後、手元に残った銀メダルと銅メダルが一枚。

それは三つのティアラの内、惜しくも一着になれなかった彼女に送れらた残念賞である。

 

 彼女の前に立ち塞がったのはアーモンドアイという巨大な壁だ。

トリプルティアラ、ジャパンカップレコード勝ち、ドバイターフ、天皇賞秋。

彼女はたった一年で最強の座に上り詰め、一方でラッキーライラックは負け続けた。

何度挫けそうになったのか、今年の中山と府中で再び銀メダルと銅メダルを獲っていなかったら、きっとラッキーライラックはこの舞台に立つことなく引退していただろう。

 

 日の丸とユニオンジャックに見守られるこの大舞台に最強の壁はない。

だが代わりに自分が一つも取れなかった冠を分け合った後輩二人が立ちはだかった。

負け続けの彼女と比べて、二人に人気が集まるのは当然の事だ。

彼女自身もそれは自分が不甲斐ないからだと割り切っている。

 

 二人だけじゃない。他のウマ娘達も、このGⅠという舞台に立つ時点で相応の実力者だ。

油断大敵、一瞬でも判断を誤って反応が遅れれば……勝ちはまた遠ざかる。

 

(――――――それだけは、絶対に嫌だ)

 

 18人のウマ娘がゲート内に収まり、刹那の静寂が場内を支配した。

隣の1番ゲートに収まったブライトムーン先輩が、忙しなく体を揺すった。

ラッキーライラックは反射的に目を向けて軽くのけ反って――――――

 

ガコン!

 

《スタートしました!!14番ゴージャスランチ若干遅れたか!?》

 

 好スタートを切って、ラッキーライラックは5番手か6番手辺りで内に進路を確保する。

左側の視界、彼女の目に映ったのは黒鹿毛を靡かせたウマ娘。

先頭を走る6番クロコスミアに対し、外から11番ラヴズオンリーユーが先行争いに加わった。

両者の間、一バ身後ろから追走する10番栗毛のフロンテアクイーン。

17番サラキアが外からフロンテアクイーンに並びかける。

 

 ラッキーライラックの位置取りは8番クロノジェネシスの後ろ。

恐らくは彼女の辺りまでが先行集団と見るべきだろう。

13番サトノガーネットが並びかけ、16番スカーレットカラーが外から前の方に加速していく。

 

(トレーナーと考えていた作戦より、少し後ろ……上げる……?)

 

 ラチ沿いを走っているお陰で、視覚情報が減っているのは良い傾向だった。

冷静に思考を回し、ペースを上げるべきか前の集団を見る。

 

 結局ハナを切ったのはクロコスミアだった。

1,2コーナー中間で2バ身差をつけてゆったりと走っている。

11番のラヴズオンリーユーはこれ以上無理に追い縋っても体力を無駄に消耗するだけだと判断したのか、ペースを落として二番手に甘んじた。

更に2バ身差開いて10番フロンテアクイーン、17番サラキア、そして―――

 

《ここで12番センテリュオが外から三番手に上がっていった!》

 

―――ラッキーライラックが気にしていなかった12番のウマ娘が追い上げていく。

また2バ身開いてクロノジェネシス、スカーレットカラーが追走。

ラッキーライラックの位置は二人から1バ身半離れた中団。

まだ第2コーナーを回って向こう正面に入ったばかりだ。

 

(―――作戦変更、無理をせずに脚を溜めなきゃ)

 

 前で有力候補が位置取りを決めてペースを作っている。

この段階で上がっていくウマ娘達は他の動揺を誘っているのだろう。

誘いに乗せてしまえば、次のコーナーに入った時、自分のペースで差を広げられる。

後は直線コースで粘って勝つ……といった感じの作戦か?

 

 彼女らの誘いに有力候補が一人でも乗れば他もなし崩しに動かざるを得ない。

だがGⅠの大舞台で、分かり易い挑発に乗せられる間抜けはそういなかった。

ラッキーライラックから後ろの集団も、どうやら脚を溜める方に賭けたようだ。

 

《1000mを通過、タイムは62秒8。ゆったりとしています》

 

(後ろと前が動き出すのは………此処から……っ!)

 

 3コーナーの入り口でラッキーライラックは改めて前の集団を観察する。

クロコスミアが後続との差を更に広げようと加速していく。

3,4コーナー中間で7~8バ身差、これがクロコスミアに出来る最後の悪足掻きだろう。

後ろから差し迫ってくる有力候補が、自分の影を踏むより先にゴール板を駆け抜ける。

逃げの典型的な作戦だが、ほんの少し仕掛けどころが早かったのだろう。

 

 もしクロコスミアの逃げを見て、有力候補が今度こそ動いたなら……

流石のラッキーライラックも冷静さを欠いて仕掛けていたかもしれない。

ラヴズオンリーユーも、クロノジェネシスも、まだ動かなかった。

 

 4コーナーも終わりかというタイミングで、フロンテアクイーンとサラキアが動く。

コーナー加速でラヴズオンリーユーとの差を徐々に詰めてきた。

四番手にセンテリュオが来て直線コースに入った。

一番外に持ち出したスカーレットカラーを遠目に見て―――

 

《さあ直線コースの攻防、後続のウマ娘達が差を詰めて来るぞ!》

 

(そして……私が動くのは、今っ!!)

 

 ラストの直線コースで、ラッキーライラックは()()沿()()へと進路を取って加速する。

馬場状態が決して良くはない内沿いに生じる僅かな隙間。

彼女は敢えてそこを狙って踏み込んだ。

蹄鉄の裏に感じる芝と土の凸凹に不快感はあれど、走り辛さを感じながらも―――

 

(前へ、前へ!!前へ、前へ、前ぇぇぇっ!!!!)

 

《一番外からスカーレットカラー、最内からラッキーライラック最内を突いた!》

 

「っあああぁぁぁぁ!!まだだぁぁぁっ!」

 

―――視界の先、先頭を走っていたクロコスミアの揺れる黒鹿毛の尻尾が近くに感じた。

僅かに耳を絞り、前方のゴール板目掛けて一心不乱に粘っている。

 

「くっ…!?伸びが…足りないっ……!」

 

 あと2バ身の差を、二番手追走していたラヴズオンリーユーは捉えきれなかった。

恐らくはスタート直後で前に行き過ぎた結果、末脚が不発に終わったのだろう。

苦悶の表情を浮かべる彼女は視界の右端に、紫丁香花を模した勝負服を映す。

 

(勝つ……勝ちたい……勝つんだ…!私はっ――――――)

 

《先頭クロコスミア!ラヴズオンリーユー、センテリュオ、大外からスカーレットカラー!!――――――内からラッキーライラックだっ!

 

 実況が、観客が、後続のウマ娘達が、ようやく彼女の存在に気づいた。

何時の間に?どうしてその位置から、これまで一年半も勝てなかった貴女が?

困惑、動揺、興奮、焦燥―――全てが彼女にとってプラスに働いた瞬間である。

ラヴズオンリーユーを抜き去って、遂に先頭のクロコスミアに並びかけた。

 

《2歳女王が蘇る!2歳女王が蘇る!!ラッキーライラックだ!》

 

 残り10mでクロコスミアを抜き去り、後続の末脚よりも切れる脚を使う。

1バ身と4分の1の差をつけて、彼女はゴール板を駆け抜けた。

 

(負け続きのレースとは、これでオサラバだ!!)

 

《ラッキーライラックっ!復活ぅっ!!ラッキーライラック復活!!一年八か月の長いトンネル今抜けたぁっ!!》

 

「はぁ…はぁ…はぁ…っ!」

 

 ゆったりと速度を落としていきながら、垂れていた首を起こして左を向いた。

久しぶりに感じた観客からの賞賛と拍手の声に、ラッキーライラックは体を震わせる。

そして彼女が左手で握り拳を作り、観客席に向かって突き出すと、場内が大きく沸いた。

 

 そんな彼女の様子を観客席から見守る栗毛のウマ娘がいた。

普段はその気性の荒さをレース以外で抑える為に着用している愛用のマスクを、人差し指でそっと摘まんで顎の方へ下ろすとフッと笑みを浮かべて傍らの男性に話しかける。

 

「復活の背中を押したのが、アンタってのも妙な縁だな?」

「……あぁ。久しぶりに日本へ来たが……来て良かったよオルフェーヴル」

 

 栗毛のウマ娘…オルフェーヴルは得意げに笑って男の脇腹を小突いた。

男の来ているスーツの襟に光るのはトレーナーバッジ。

日本トレセン学園のではなく、彼のそれはフランスのトレセン学園のものである。

 

 一応言っておくが、彼はオルフェーヴルの担当トレーナーではない。

彼女が所属するのはリギルであり、担当は東條ハナということになっていた。

二人の出会いは、オルフェーヴルが二着に敗れた際のフランスの凱旋門賞で現地に同行できなかったハナの代わりに、彼が短期契約を結んだことに始まる。

 

「フフン。アタシと獲れなかったロンシャンの悔しさが、少しは紛れたか?」

「まさか?あれとこれは別さ。それに―――キミはまだ走っている。走っている内は、また何度でも挑みに来るがいいさ。今度は仮初の相棒ではなく、君を迎え撃つ者として…待っているよ」

「言われなくてもそうするさ。――――――首洗って待ってろ」

 

 去り際に獰猛な肉食獣を彷彿とさせる目つきで男を笑いながら睨みつけ、オルフェーヴルは群衆の中へと消えていった。

彼は暫くラッキーライラックと敗れたウマ娘達が互いの健闘を称え合う様子を見ていたが、やがてフッと満足したように笑ってオルフェーヴルと同じように、彼女とは違う方へと姿を消した。

 




 肘打ち騎乗停止おじさんオッスオッス!
オルフェがリギル所属となった事で消去法で聖剣、スイーピー、ドリジャの問題児三人を纏め上げるチームトレーナーになってしまう人がいるとかいないとか…
そして二年後、彼のチームにはとんでもねえ期待の新人が入ることに……

 今週末のJC、誰もが終わったと言う中で私は頑なにデアリングタクトの復活を叫び続けています。一方で黄金の旅路が続いて欲しいという願いもあり、ヴェルトライゼンデが此処で勝てば、2020世代はまた一歩先に進めるのかなって……
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