寝て起きたら暗黒期!?ベルくんに会うまで死にたくねー!   作:お米大好き

37 / 67


完結前にリメイクする人の気持ちが最近ようやくわかった。


第十七話、最強コンビ

 

 

 

「—————」

(俺は何してんだ?こんなところで……)

 

 

 暗闇の中、タクトは目を覚ました。自分が今どこにいるのか、何故ここに居るのかも分からず、何も見えない空間で一人佇んでいた。

 

 

 

(ここはどこなんだ?)

 疑問を抱きつつ辺を見渡していると、突然目の前に映像が現れた。

 

 

 

(これは……シオン?)

 

 

 

 そこに映し出されていたのはシオンの姿だった。

 

 

 シオンは涙を流しながら何かを叫んでいる。

 

 

 

(少し背が低い?…それに誰だこの人……)

 

 

 

 そんなシオンを優しく抱きしめている修道女。そしてその背後には

 

 

 

 

(あれは……)

 

 見覚えのある人物が映っていた。

 

 

 

(……ヴァレッタ・グレーデ)

 二人の後ろで微笑んでいおり、その姿を見た途端、タクトは寒気に襲われた。

 映像をよく見ると修道女の腹部からは血が流れ出し、ヴァレッタの手には血のついた剣が握られている。

 

 

 

 更によく見れば辺り一面に子供が倒れており、皆息絶えている事が分かった。

 

 

 

(まさか———)

 

 

 

「—————」

 声が出ない。体も動かない。タクトはその状況に恐怖を覚えた。

 

 

「—————」

 そして再びシオンが泣き叫ぶ。

 その声を聞く度に、タクトの心は締め付けられるように苦しくなった。

 

 

「—————」

 そして場面が変わる。

 

 

 シオンが泣いていた。それは嬉し涙ではなく悲しみに満ちた表情で。

そしてシオンの頬を撫でる修道女は悲しげな笑顔をしていた。

 

 

 

「—————」

「—————」

 

 

 修道女が何かを呟くと、シオンは笑った。

しかしその瞳から溢れる雫は止まらない。

 

 

 

 

(なんなんだよこれ……)

 タクトは理解出来なかった。一体この光景は何なのかと。そしてそれと同時に怒りが込み上げてくる。

 

 

 

(—————ふざけんなよ)

 タクトは無意識のうちに拳を強く握りしめていた。しかしタクトの怒りなど関係なく映像は切り替わる。

 

 

 

 

そこには1人で怪物と戦うシオンの姿が映っていた。

 

 

 

 

 

(これは…そうだ…さっきまで俺たちは)

 シオンは必死に戦い続けている。だがその体は傷だらけであり、既に限界を迎えようとしていた。

 

 それでもシオンは諦めない。

 

 

 

 どんなに絶望的な状況であったとしても、シオンは絶対に諦めようとはしなかった。

 

 

 

(俺は……何をしてるんだ?)

 

 

 タクトはそんなシオンを見てそう思った。

 

 

 この空間からの出かたがわからない。自分はただ見ているだけ。ここでシオンの戦いを眺めている事しか出来ない

 

 

 

(俺は…)

 自分には何もできない。その事実はタクトにとってとても悔しいものだった。

 だが同時に、タクトは自分に対して憤りを感じていた。

 

 

 

 

(俺が……もっと強ければ……)

 気を失うことも、シオンがあそこまでボロボロにされることもなかったかもしれない。

 

 あの怪物を倒すことができたかもしれない。

 

 

 

 

 シオンの力になることが出来たかもしれない。

 

 

 

 全てはタクトが弱いことが原因だった。タクトは自分の弱さを憎んだ。自分の無力さに苛立ちを感じた。

 

 

 そしてその気持ちが心の中で膨れ上がっていく。

 

 

 

 

 すると、映像に異変が起きた。

 

 

 

(なんだ……急に見にくくなった?)

 

 シオン達の姿を映していた画面が徐々に薄れていき、ついには見えなくなってしまった。

 

 

 

 タクトが困惑している中、奥の空間から光が見え始めた。

 

 

 

(———っ!光が……)

 タクトが目を細めながら光の先を見つめると、そこから声が聞こえてきた。

 

 

 

 

『俺達だって負ける気はねえよ!!』

 

 

 

 

 聞き慣れた声だった。その言葉を聞いた瞬間、タクトは全てを察した。

 

 

 

 

 タクトはゆっくりと光に向かって歩き出す。

 

 

 

 光に近づくにつれてはっきりと声が聞こえるようになってきた。

 

 

 

 タクトは光に手を伸ばし、そのまま掴み取ると、眩い光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(———ここは……そうか…)

 

 

 タクトは目を覚ました。周りを見ると視線の少し先にボロ雑巾のような姿になった男がいた。

 

 

 

 

(シオン……)

 タクトは起き上がり、動き出す。

 

 

 

 

 

(待たせたな……)

 タクトは自分が何故ここにいるのかを理解し、剣を構えて走り出した。

 

 

 

(シオン……お前の言う通りだ)

 タクトは思う。自分達は負けるわけにはいかないと。

 

 そして必ず勝つのだと。

 

 

 

 

 タクトはシオンの前に立った。

 

 

 

「おい……さっきはよくも殴り飛ばしてくれやがったな…」

 

 

 

 

 そう言ってタクトは怪物と向かい合う。シオンはタクトを見て、そして言葉を聞いて目を見開いた。

 

 

 

 

 タクトはそんなシオンに向けて言い放つ。

 

 

 

「待たせて悪かったな……相棒(シオン)…」

 

 

 

 

 今までとは違う確かな意志を持って。

 

 

 

 

 その言葉を聞いたシオンは笑みを浮かべながら立ち上がり、タクトの隣に立と言った。

 

 

 

 

「タクト……もう戦えないと思ってたぞ!!」

 

 

 

 

 シオンの言葉を聞き、タクトは口角を上げる。そして、剣を構えると同時に声に出す。

 

 

 

 

「【雷の鎧(アルマ・トール)】」

 

 

 

 

 

 その声に反応するようにタクトの体が青白く発光し体に雷を纏う。

その輝きはまるで希望のように力強く輝いていた。

 

 

 

 シオンはその姿に驚きながらも、ニヤリと笑い二人は背中合わせになり、怪物に向かい合った。

 

 

 

 

 そしてタクトは隣にいるシオンに言った。

 

 

 

「いくぜ……相棒(シオン)

 

 

 その言葉を待っていたかのようにシオンは返事をする。

 

 

「おう!行こうぜ相棒(タクト)!!」

 

 

 

 

 そして二人は同時に駆け出し、戦闘を再開した。

 

 

 

 

 タクトは怪物に斬りかかる。気絶前のタクトとは比べ物にならないほどの速さで距離を詰めていく。

 

 

 

 そのスピードに怪物は少し対応が遅れる。タクトはその隙を見逃さず、そのまま怪物の首元を狙い、刀を振る。

 

 

 

(———こいつ、少し弱くなっている?)

 しかし、怪物はタクトの攻撃に反応し、首元の皮膚を切り裂く。

 

 

 

(ちっ……浅いか)

 

 

 タクトは舌打ちをしながら後ろに下がる。

 

 シオンは怪物の後ろに回り込み、背中を狙って剣を突き刺す。だが怪物はシオンの動きにも反応し、突きを回避した。

 

 

 

(やっぱり……俺でも戦えるくらいこいつは弱くなってる)

 

 

 

 ダメージを受けすぎたせいだろうか怪物の再生速度は落ちており、未だ胸のに空いた穴をゆっくりと再生している。

 

 

 

 しかし二人も致命傷こそ受けていないものの、既にかなりの傷を負っている。 

 

 

 

 まだ怪物の方が強い事は変わりなかった。

 

 

 シオンはタクトの体を心配して視線を向ける。

 タクトはその視線に気づき『大丈夫だ』と親指を立てて合図を送る。

 

 

 

 それを見たシオンは小さく微笑むと、再び目の前の敵に集中する。

 

 

 

「ヴヴヴゥゥ」

 

 

 

 だがその時、怪物は一瞬にしてタクトの背後に回っていた。

(速い!?)

 

 

 

 タクトは咄嵯に後ろを振り向きながら怪物の攻撃を刀を盾に防御する。

 しかし、怪物の一撃はとても重く、タクトはそのまま吹き飛ばされてしまった。

 だがタクトはすぐに体勢を整え、攻撃に備える。

 

 

 

(っ…速すぎる……でも、ギリギリ目で追う事ができる)

 

 

 タクトは冷や汗を流しながらも、冷静に状況を判断する。

 先程の攻防から考えると、今の自分ならこの化け物に勝てる可能性がある。

 

 

 

 タクトはそう確信していた。が

 

 

 

(———いや、違う)

 タクトは自分の考えを否定するように首を横に振る。

 

 

 

(俺が弱いから……こんな奴に苦戦しているんだ)

 それは自分の無力さを痛感したタクトだからこそ辿り着いた答えだった。

 

 

 

 だから、次は間違えない。

 

 

 もっと強くなる。

 

 

 

 その為には……まずはこの場を切り抜けなければならない。

 タクトはもう一度、自分に言い聞かせるように呟いた。

 

 

 

「———俺は負けるわけにはいかないんだよ」

 

 

 タクトは剣を強く握りしめながら、怪物に向かって走り出す。

 シオンもその言葉に応える様に剣を構えて走り出す。

 

 

 タクトの速さはシオンよりも速く、そして鋭かった。

 今までで一番の速度で怪物の懐に入り込むと、そのまま剣を横薙ぎに振り払う。

 

 

 怪物は反応できず、まともに攻撃を受けてしまう。タクトの剣は怪物の体を深く切りつけていた。

 

 

 

(よし……これなら!!)

 タクトはそう思いながら怪物から離れる。すると次の瞬間、怪物は腕を大きく振った。

 

 

 

 

「———なっ」

 

 

 タクトは突然の事に驚きながらも、なんとか回避に成功する。

 

 

 そして怪物は地面に手をつくと、タクトの足元から槍のような矢が生えてきた。

 

 

 

タクトは間一髪避ける事ができた。

 

 

 

(危ねぇ……まさか地面からも生やす事が出来るなんて……)

 タクトは冷や汗を流す。今まで戦ったモンスターの中で、一番厄介な相手だと感じた。

 

 

 だがタクトはここで退くわけにはいかない。

 

 

 

(時間をかけたらこっちが先にばてちまう…一気に決めるしかねえ)

 

 

「【雷の鎧(アルマ・トール)】」

 

 タクトは再び雷を身に纏う。

(魔石を壊しても下半身は動き続けた)

 

 

 

「【千鳥】」

 

 タクトは右足へと更に雷を纏う。

(なら下半身にも魔石があるんじゃねえか…)

 

 

 

 二つも魔石を持つモンスターなど聞いた事がない。それでも可能性があるなら試すだけ。

 

 

 タクトは右足に雷を集中させ、怪物に向けて飛び、蹴り出した。

 

 

 その速さはまるで稲妻のように、一瞬で怪物の目の前に現れ、タクトはそのまま怪物の胴体の少し下へ、渾身の一撃を放つ。

 

 

「ヴモォォ———」

 

 

 

「———【雷の槍(ランケア・トニトゥルス)】!!」

 

 

 

 

 その攻撃は確実に怪物を捉えていた。

 

 

 そしてそのままタクトの攻撃は命中し、怪物の下半身を存在していた魔石ごと蹴り砕いた。タクトはその反動で吹き飛ばされ、地面を転がった。

 

 

 

「ぐっ———」

 

 

 

 

 タクトは全身に痛みを感じながら、ゆっくりと立ち上がる。

 怪物もボロボロの足で立ち、苦しそうな声を上げている。

 

 

 

 

(やったのか?)

 しかし、怪物の胸の傷口は完全に塞がり、再生を終えようとしていた。

 

 

 

 

(くそ……胸の魔石が再生しやがった……)

 

 

 タクトは落胆しながら、怪物を睨みつける。

 

 

 

「ヴヴヴゥ」

 

 

 

さ怪物が笑ったような気がした。そしてゆっくりとタクトの方へと歩み出す。

 

 

 

(ちくしょう…もう魔力切れでマインドダウン寸前だ)

「ヴゥゥ……」

 

 

 

 タクトは歯噛みする。怪物はタクトの元へとたどり着くと、拳を振り上げる。

 

 

 

(くそ……動け俺の体…!!)

 だがその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———俺を忘れてるぜ?」

 

 

 

 

 

 怪物が振り返ると、そこには剣を構えたシオンの姿があった。

 

 

 

 シオンは剣を真っ直ぐ怪物の胸へ突き刺すと、そのまま剣を横に振り払い胸の魔石を切り裂いた。

 

 

 

 

「ヴゥゥゥ———」

 怪物は断末魔を上げる。そして、完全に動かなくなった。

 

 

 

 

「……シオン…」

 

 タクトは目の前で怪物を倒したシオンを見て、小さく呟いた。

 

 

「……タクト」

 

 

 シオンは剣を構えるのをやめて、タクトの元へと向かう。

 

 

「……助かったよ……ありがとう」

 タクトは力なく笑いかける。

 

 

 

「……気にすんな!、俺もさっきタクトが来てくれなかったらヤバかったし!」

 

 

 

 

「ああ、お互い様だな」

 

タクトとシオンは互いに笑う。そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁシオン、あとどれくらい動ける?…」

 

「…悪いタクト…もう限界が近い…」

 

 

 

 

 

 

 

 2人はすぐに真剣な表情に変わり、理解した。

 

 

———まだ終わっていない。

 

 

 

 タクト達の視線の先、そこには先程倒したはずの怪物が立っていた。

その姿は、前足は折れ、胸には風穴が空き、血塗れの状態だった。

 そしてゆっくりと怪の体は再生していた。

 

 

 

 

 

 タクトはこの状況で怪物の正体、その答えに辿り着いた。

それは……

 

 

 

 

(…魔石はただのダミー、いや砕けば弱くはなる、その証拠に再生が遅そくなってるし、知能が低下してる、多分こいつはジャガーノートの亜種だ)

 

 

 

 

 タクトはそう確信する。

 

 

 

(なら倒す方法は二つ、短い寿命を待つか、跡形もなく消し飛ばず)

 

 

 

 

 

 

 タクトは怪物を見つめながら思考を巡らせる。

 

 

 どちらにしても残された時間は多くない。このまま行けば俺もシオン体力の限界が来る。

 

 

 

 そうなれば全滅は間違いない。なら戦うしかない。

 

 そう考えタクトがシオンの方を見ると。

 

 

 

 

「……」

 

 シオンの顔色は悪く、手が震え呼吸が荒くなっていた。

 恐らく気を失うのも時間の問題だろう。

 そう考えたタクトは覚悟を決める。

 

 

 

(……仕方ないか……)

 

 

「おいシオン、お前は下がってろ」

 

 

「えっ!?」

 

 タクトの言葉に驚いた様子を見せる。

 

 

 

「タクト!!、何言ってんだよ!!、2人で戦った方が———」

 

 

 

 

 タクトはその言葉を遮るように手を突き出し、首を左右に振る。

 

 

 その行動を見たシオンは口を閉ざす。

 

 

 

 そしてタクトは怪物に向き直り

 

 

 

———俺がこいつを倒す。

 

 

 

 タクトは心の中で決意する。

 

 

 この怪物を倒せるのは自分しかいない。自分がやるしか無いんだと……。

 

 

 

 

「シオン、お前には助けられてばかりだ」

 

 

「タクト……」

 

 

 

「だから今度は俺に任せてくれ」

 タクトは笑顔で答える。

 

 

 

 シオンは何も言わずにタクトの目を見る。

 

 

 

「大丈夫、俺にはまだ切り札がある」

 タクトは右手を握りしめ、親指を立てる。

 

 

「分かった……信じる」

 シオンは静かに微笑むと、後方へと下がった。

 

 

 

 

「ヴヴヴヴヴヴ」

 怪物は低くうなり声をあげる。

 

 

 

「さて……正直言って使いたくなかったんだがな」

 

 

 

 

 タクトはゆっくりと目を閉じ、集中を始める。

「———【千鳥】」

 

 

 チチチチ、っと音を立てタクトの右手に雷が纏われる。

 

 

「———【千鳥】」

 

 

 都合2回の魔法使用。タクトは自ら魔力切れ(マインドダウン)を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴヴヴヴヴヴ」

 目を閉じ動かないタクトを見て怪物はチャンスだと言わんばかりに、タクトに向かって走り出した。

 

 

 

 

 

「———」

 しかし、次の瞬間、怪物の動きがピタリと止まった。

 

 

 

 

「ヴゥゥゥゥゥゥ」

 

 怪物は全身を震わせながら悶え始める。

 

 

 

 

 

 必死に動こうとするが、身体の自由が効かない。ゆっくりと目を開き

その様子を見たタクトはニヤリと笑う。

 

 

 

 そしてタクトの全身にら黒い模様が浮かび上がっていた。

 

 

 

 

 その光景を目にしたシオンは驚愕の表情を浮かべる。

 

 

(……あれは……ヘルハウンドの時の…)

 

 

 

 

 シオンは思い出す。あの時、タクトは豹変し、そして暴走した事を。

シオンは息を飲み込み、タクトを見守る。

 

 

 

 

「ヴゥヴァアァアァアアア!!」

 恐怖を振り払うように雄叫びを上げる。走りタクトに向かって拳を振るった。

 

 

 

 

 

 

「———【雷切】」

 

 

 

 

「ヴゥガ!?」

 タクトの一撃によって、怪物の腕が斬り落とされた。

 

 

 

「どうした、こんなもんか?」

 タクトは挑発するように笑いかける。

 

 

 

 

 

 痛みに悶える怪物だが、すぐに体勢を整え、タクトへと殴りかかる

 

「【雷の槍(ランケア・トニトゥルス)】」

 

 

 

 

 

 タクトはそれを紙一重で避けると、怪物の拳へと蹴りを放ち、拳を打ち砕く。

 

 

 

 

「ヴゥウウァッ!?」

 怪物は悲鳴を上げながら後退る。タクトの瞳孔は完全に開ききっていた。

 

 

 

 

 シオンはその姿を見て、背筋が凍るような感覚に襲われる。

(……まるで別人だ)

 

 

 

 シオンは今のタクトを見たそう思った。

 

 

 

 

「ヴゥオォオオォオッ!!!!」

 怪物は怒り狂い、雄叫びを上げた。

 

 

 

その様子にタクトは小さくため息をつく。

 

(こいつはもうダメだな)

 

 

 

 

 もう理性は残っていない。ただの獣だ。

 

 

 

 タクトはそう判断すると、刀を怪物の腹へと突き刺した。

 

 

 

 

 怪物は苦痛の声をあげながら、タクトに噛みつこうと襲いかかる。

 

 

 タクトはそれを避けると、刀を抜き、怪物の首を切り落とした。怪物は首から血を吹き出しながらも、タクトへと掴みかかろうとする。

 

 

 

 しかし、すでにタクトの姿はなく、背後に現れていた。

 

 

 タクトはそのまま胴体を刀で切り裂く。

 

 

 

 何度も、何度も、何度も……。

 

 

 

 

 

 怪物の体は切り刻まれ、全く再生が追いついていなかった。

それでもなお、タクトは攻撃を続ける。そして

 

 

 

「———【千鳥流し】」

 

 

 

 

タクトは再び刀を突き刺し、電撃を流し込んだ。

 

 

 

「ヴッ……ヴァ……」

 怪物の体は小刻みに震え始め、次第に痙攣を起こすようになった。

そして、その数秒後。

 

 

 

 

「ヴゥゥゥゥゥゥ……ァ…………」

 内側からぐつぐつと血液が沸騰し、怪物の体に亀裂が入り始める。

 

 

 

「ヴヴヴ……ヴヴヴ……ヴヴヴ……」

 怪物は弱々しく声を出す。そしてタクトの方へ視線を向けた。

 その目は助けを求めているようだった。

 

 

 

 

 

 タクトはその様子に気づくと、動きを止め、そして静かに呟いた。

 

 

 

 

 

———安らかに眠れ……。

 

 

 

 

 

その言葉を聞き取ったのか分からないが、

 

 

 

 

 

 怪物は静かに目を閉じ、そのまま地面へと倒れ込むと、体全体にヒビが入った。

 

 

 

 

 

 そして次の瞬間、ガラスのように体が粉々になり、最後は灰となって消えた。

 

 

 

 

 その様子を見ていたシオンは呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 目の前で起きた出来事が信じられないといった表情をしている。「終わったぞ」

 

 

 

 

 タクトは振り返り、シオンに声をかけた。

 

「おわっ……た……?」

 

 

 

 シオンはまだ実感がないようだ。

 

 

 

「ああ、俺達の勝利だ」

 

 

 

 

 タクトの言葉を聞いた途端、力が抜けたようにその場に座り込んでしまった。

 

 

 

「大丈夫か?」

 

 

 

 タクトは心配そうな顔をして、手を差し伸べる。

 

 

 

「うん、なんとか」

 

 

 

 シオンは力なく微笑むと、タクトの手を取り立ち上がった。

 

 

 

 

「それにしても凄かったな」

「まぁな」

 

 

 

 

 タクト自身もここまで上手くいくとは思ってもいなかった。しかし、この勝利はタクト1人の力で得たものではない。シオンの協力があったからこそ得られた結果だ。

 

 

 

「ありがとう、シオン。お前のおかげ——」

 

 

 

 タクトは最後まで言い切る前に、バタン、と倒れて気を失った。シオンは慌てて駆け寄ると、タクトの容態を確認する。

 

 

 

 

 どうやら気絶しているだけのようで、ホッと胸を撫で下ろす。

 

 

 直後シオンも体力の限界、そして緊張が解けたことにより、その場で意識を失ってしまう。

 

 

 

 

 その後シオンは謎の怪しい神様に、タクトは1人でいるところをクエストで来たロキファミリアにダンジョンの外へと運ばれた。

 






思ってたより二章が長引いた…。
ライラをヒロインにするつもりが、次に持ち越しかな?。

このペースだと原作スタートは四章かな?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。