寝て起きたら暗黒期!?ベルくんに会うまで死にたくねー! 作:お米大好き
口調がいまいち安定しない。
書いていないだけでダンジョンの入り口にシオンくんがいた可能性…。
「おはようございます!」
朝6時
タクトは元気よくホームにいるメンバーに挨拶をした。
「おはようございますユウギさん。今日は早いですね」
「はい!昨日は早く寝たのでバッチリです!」
タクトの言葉にリューは苦笑いした。
「……ところでユウギさん、そんなに装備をしてどこへ行くつもりです
か?まさかとは思いますが……」
「え?やだなぁ、散歩に決まってるじゃないですかぁ。もしかしてダンジョンに行こうとしてるとか疑っちゃったます?」
タクトはニコニコしながら答える。
「……刀を持って散歩ですか?」
「あぁこれ?護身用ですよ。こんな世の中ですし…ね?」
タクトは笑顔のまま答えた。
「……ならその背負っている魔石をたくさん貯めれそうなバックは何ですか?それも護身の為?」
「……もしかしたら背後から刺されるかもしれないので…護身用でふ…」
苦しい言い訳にタクトの顔は引き攣り。表情には焦りが見え始めた。
「……タクト、お前何やってんだ?」
そんなタクトに声をかけたのは、偶然同じタイミングで起きてきたライラだった。
「え?いや、ちょっと……散歩を」
「へぇ……随分な大荷物だな」
「あ、いや……まあ……うん」
タクトは冷や汗を流しながら、なんとか誤魔化そうと必死になる。
「……おい、リオン」
「…?」
「このバカが何かやらかす前に止めとけ」
「……了解しました」
リオンはため息混じりに返事をする。
「えっと、リューさん?」
タクトはリオンに助けを求めるが、リオンは無視する。
「ユウギさん」
「は、はい」
「ユウギさんが何をしようと私は構いませんが、あまり危険な事はしないでください」
「は、はい……」
「それと、もし本当にダンジョンに行くのであれば、私達に相談してからにして下さい」
「は、はい……」
タクトは項垂れるように頭を下げた。
「それと、これは忠告なのですが……先日の件で反省しているのでしたら、もう少し言動には気をつけた方がいい」
「は、はい……」
「では、お気をつけて」
「ありがとうございます……」
そう言うと、リューはタクトの横を通り過ぎ何処かへ行ってしまった。
1人残されたタクトは、その場に膝をつき落ち込む。
(すごい行きづらくなった…。でもダンジョンに行かねえと強くならねぇし。大抗争までどれくらいあるかもわかんねぇし、1ヶ月?それとも一年?もしかすると半年後か?)
その光景を影から見ていたライラは笑いを堪えるのに必死だった。
(くっそぉ!!こうなったら素直にもう一度頼んでみるしかない!)そう決心すると立ち上がり、タクトは広間へと向かった。
広間に着き、中を覗くとリュー、輝夜、ライラを除く全員が揃っていた。タクトは深呼吸をし、意を決して扉を開く。
そして、勢いよく頭を下げた。
その行動に一同は突然の事に戸惑いながらも全員がタクトへと視線を移した。
タクトは顔を上げる事なく、そのまま口を開いた。
「どうしても強くなりたいんです!ダンジョンに行かせてください!」
タクトの真剣な声色に全員は黙り込んだ。
頭を深く下げたまま、返答を待つ。
そして、最初に言葉を発したのはアリーゼだ。その言葉は、意外なものだった。
それは──────
「いいわよ?別に」
タクトは予想外の言葉に驚き、思わず顔を上げた。
そこには、微笑むアリーゼの姿があった。
その言葉に他の団員たちも反応を示す。
「今丁度その事について話していたんだぞタクト」
「LV.2になったのにずっとダンジョン禁止っていうのもな…」
「もうそろそろいいんじゃないかって話し合ってたところよ?」
イスカさん、アスタさん、マリューさんが順番にそう言った。
(よかったぁ……)
タクトは安堵のため息をつく。
「じぁーちょっと行ってきま──」
「待ちなさい」
早速ダンジョンへと行こうとしたタクトを、アリーゼが呼び止める。
タクトは不思議に思い首を傾げ、そんなタクトにアリーゼは笑顔で告げた。
「ダンジョンへ行くのは許可するわ、その代わりパーティを組みなさい」
タクトは目を見開き、固まってしまう。
そんな様子に、ノインとマリューが補足するように説明をし始めた。
「最近ダンジョンで闇派閥に襲われるって被害が数件出ているみたい、そんな中1人で行かせるわけにも行かないし」
「タクトちゃんもLV.2になったんだからパーティの動きを練習した方が良いと思うの」
2人の言い分を聞き、タクトは納得した。
確かに、今までソロ(シオン付き)で動いてきたタクトにとってまともなパーティでの戦闘経験は皆無だ。
「それに、貴方もいつまでもソロで探索なんてしてられないでしょ?」
「うぐっ……」
「だから、私達が指導をしてあげるから、しっかりついて来なさい?」
「……わかりました」
タクトは渋々承諾した。
「じゃあ決まりね!、メンバーはイスカにノイン、そしてマリューで決定よ!」
(え?俺の意見は?)
「え?私?」
「私?」
「私?」
「「「「「「え?」」」」」」
アリーゼ以外のこの場にいる全員が疑問の声をあげた。
───────────
「いやぁ、にしても意外だったなぁ」
「…何がですか?」
「てっきりパーティを組むのは団長達だって思ってたからさー」
イスカの言葉に、タクトは苦笑いを浮かべた。
「そう思うのも仕方ないわぁ。タクトちゃん普段主力の4人としか話さないんだもの」
「あ、いや…そんなつもりは……」
「わかっているわ。でも、これからはもっと周りとコミュニケーションを取っていかないとダメよぉ」
「はい……マリューさん…」
タクトは項垂れるように返事をした。
(何この空気…帰りたい……)
現在、タクト達はダンジョンへと向かっている。その道中普段あまり話さない3人との会話にかなり緊張していた。
「ねぇタクト」
「なんでしょうか、ノインさん」
「敬語辞めない?」
「はい……はい?」
「ほら、私達年近いじゃない?それなのにタクトだけ敬語で話すのはおかしいと思わない?」
「えっと……」
(別におかしくないかと)
「あーそれ私も前から思ってた」
「私もぉ」
ノインさんの発言にイスカさんとマリュさんが同意を示した。
「えっと、でも……」
「でも?」
「ノインさん達多分年上だし…先輩ですし?」
タクトはおずおずと答える。
すると、ノインとマリューは笑い始めた。
突然笑い出した2人にタクトは困惑していると、イスカが口を開く、
その表情はどこか嬉しそうな、
まるで、弟を見る姉のような優しい笑みだった。
「後輩だって言うんならもう少し私らを頼りにしな。アストレアファミリアの眷属はあの4人だけじゃないぞ」
「そうよ。困った時はお互い様。遠慮しないで頼ってくれていいのよぉ」
「そうそう。それに、タクトは私たちの大切な仲間なんだから」
「そうだぜ。お前はもう家族だ。なら頼れ頼れ」
3人の言葉に、タクトは胸の奥が熱くなるのを感じた。
「あ、ありがとうございます!」
タクトは頭を下げながら礼を言う。
「よし!そうと決まれば早速ダンジョンに行くか!」
「はい!」
「今日は頑張るわよ!」
「おう!」
「うん」
「はいっ!」
こうして、タクト達のダンジョン攻略が始まった。
のだが。
「ねえ、おかしくない?」
ノインが不満げな声でそう言った。
「おかしいな…」
「おかしいわぁ……」
イスカとマリューもそれに続いく。
そられは、今の状況に対しての感想。
今、タクト達が居る場所は15階層、ダンジョンの中層だ。
上層とはモンスターの出現頻度も強さも違う本来ならば、LV.2の冒険者がパーティを組みやってくる場所。
それなのに
「うっしゃぁぁぁあ!!」
タクトがまた一体でモンスターを灰へと還す。
「ヴヴモォ──」
「ふはははは!!」
またもう一体、牛頭の怪物が断末魔をあげ、その命を散らせた。
「もっと、もっと魔石と経験値を寄越せぇ!」
興奮した様子で叫ぶその姿は、まさにバーサーカー。
「何であの子中層で無双してるの?LV.2になったばかりよね?」
「LV.2になったばかりとは思えない動きだ…」
「強さだけなら私たちより上かもぉ」
「いや、それは流石にないと思うけど……」
「いや、ありえるかもしれねぇな」
「え?」
イスカの否定にノインは驚く。
「タクトの奴まだ魔法を使ってないぞ」
「あ……」
「確かに……」
ノインもマリューも納得する。
「くぅ…折角頼れる先輩として格好つけようと思ったのに……」
ノインは悔しさから歯噛みをする。
だが、それも仕方がない。
何故なら、タクトはたった1人で既に10体のミノタウロスを倒しているのだ。
しかも、その殆どが一撃で葬り去られている。
仲間に頼らないのではない。頼る必要がまだないのだ。
「どうする?このままじゃ、パーティの連携も──」
イスカが言いかけた時だった。
バリンッ!!
と何かが割れるような音が聞こえた。
そして、それと同時に、タクトが膝をつく。
「あ…刀が……」
誰が言ったのだろうか? 恐らくタクトを除く全員だろう。
「ね、ねえタクトが膝をついたまま動かないんだけど…」
「…タクトちゃん買い換えるお金持っているのかしらぁ…?」
ノインとマリューは心配そうな声音で言う。
「武器なんていつかは壊れるんだ、元気出しな!、ほらっ立った立った!」
イスカはタクトに近づき手を貸して立ち上がらせる。
「そうよぉ、あたり気にしちゃダメよぉ」
マリューも同様に励ましの声をかけ、肩に手を置いた。
しかし、タクトは俯いたまま顔を上げようとしない。
「……ゴライアス」
「え?」
「……ゴライアス…倒したら…いくらてに入りますか…」
「え?ちょ!?」
「タクトちゃん?」
「おい!しっかりしろ!」
タクトはブツブツと呟きながら歩き出す。
その目は虚ろで、どこか危なげな雰囲気がある。
「……金が…刀が…新しい……装備が……」
「おーい、タクト戻ってこいー!」
「タクトちゃんー?」
イスカとマリューは呼びかけるが、反応がない。
「…そうだ…ミノタウロスに魔石食わせて強化種を倒せば…俺も強くなってさらに稼げるんじゃ……?」
そう言ってタクトがゆっくりと歩き出した。
「「「……」」」
イスカ、マリュー、ノインは思った。
こいつ、マジだ。と……。
「おーい!タクト、正気になれー!!」
イスカは必死になって呼び止める。
「タクトちゃ〜ん、戻ってきて〜」
マリューはタクトの頭を撫でて落ち着かせようとする。
「……」
タクトはピタッと止まった。
「タクト!」
「タクトちゃん!」
2人は安堵のため息を漏らす。
「……」
タクトは振り返ると、無言のまま3人に頭を下げる。
「よかった、戻ったか……」
「本当に焦ったわよぉ……」
「タクト大丈夫?」
「…すいません。ちょっと我を忘れていました……」
タクトは申し訳なさそうに言う。
「それで、どうする?一度戻るか?」
イスカが尋ねると、タクトは首を横に振った。
「いえ、進みましょう」
「でも、武器はどうするの?」
マリューの疑問にタクトは答える。
「予備の剣があるので問題ありません」
タクトがそう言うと、イスカ達は驚いた表情を浮かべていた。
「予備の剣?どこにそんな──」
イスカの言葉は最後まで続かなかった。
何故なら、タクトの手元に突如直剣が姿を現したからだ。
「な、なんだそれ!?」
「なにそれぇ!?」
ノインとマリューは驚きを隠せない。
「どっからだした!?」
イスカがタクトの手に握られている剣を指差しそう言った。
「前に使っていたやつです。さっき折れたやつより性能が下なので──」
「いやいやいや、そういうことじゃないから!」
「どういう原理なのそれぇ!」
3人の質問にタクトは困り果ててしまう。
「えっと……その……」
(なんて説明すればいいんだ?)
タクトは少し考えた後、思いついたことを口にすることにした。
「これはスキルで手に入れたものはスキルに仕舞える?って感じです」
「「「……」」」
タクトの答えに、イスカ達は何も言わなかった。
いや、何も言えないのだ。
「スキルって……いや、ダメだ。私達じゃ理解が追いつかない……」
「そ、そうねぇ……」
イスカは額に手を当て、マリューは苦笑いを浮かべる。
「まあ、深く考えない方がいいですよ、俺もあんまり理解してないですし」
「「「……」」」
ノイン、マリュー、イスカはタクトの返答を聞いて、考えることを止めた。
それは、諦めたというのもある。だが、それ以上にタクトの態度から察したというのもあった。
これ以上聞いても無駄だと。
「さ、さあ!先に進むわよ!」
「そうね!行きましょう!」
「お、おう!」
「はいっ!」
(どうせデイリーから出た刀だ、またでるだろ…)
タクトはそう思いながら、ダンジョンの奥へと進んでいく。
───────────
「後ろ!くるよタクト!」
「はい!任せて下さい!」
ノインの指示にタクトは振り返り剣を構える。
「ヴモォオオオ!!」
直後タクトの後ろまで迫ってきていたミノタウロスが雄叫びをあげながら、斧を振り下ろす。、
「ふっ!」
タクトはそれを紙一重で避けると、ミノタウロスの懐に潜り込み、そのまま胸に剣を突き刺すとミノタウロスは断末魔をあげることなく灰となった。
「よしっ!」
「タクト、次は私と連携でやってみるぞ」
「わかりました」
タクトとイスカは背中合わせになり、お互いの死角をカバーするように構えている。
「行くぞっ!」
「はい!」
2人は同時に駆け出す。
そして、2人の間にいるアルミラージを一体ずつ確実に仕留めていく。
「はぁああ!」
「せい!」
タクトとイスカの攻撃により、10を超えるアルミラージはあっという間に灰へと還った。
「ふう、こんなもんか」
「そうですね」
2人は息を吐くと、お互いに向き合う。
「やるじゃないかタクト!、本当にソロで潜っていたか疑いたくなるくらいだ」
「あ、あははは……はは…」
タクトは笑って誤魔化すが、内心冷や汗ダラダラだった。というのも、実はタクトはソロで潜っているわけではない。
「そんなことより私の出番がないわぁ…悲しい……」
「まあ、ヒーラーだから仕方ないって……」
マリューは杖を握りしめ、悔しそうな表情を浮かべていた。
マリューは回復魔法を得意とする。その役割は戦闘中ではなく、後方からの支援がメインである。
その為、タクトとイスカ、それにノイン戦闘を見ていて、自分の出る幕がないと感じていた。
「でも、タクトちゃんのあの動き凄いわよねぇ……ミノタウロスの動きにちゃんと反応できていたわぁ……」
「確かにな、いくらLV.2といっても駆け出しの反応できる動きじゃないよな」
イスカとマリューはタクトの戦闘を思い出してそう言う。
「多分新しく覚えた【感知】って発展アビリティのおかげかと。感が良くなったというか…感じやすくなったというか」
タクトは頭を掻きながら言う。
「感じやすい?どういうことだ?」
イスカの疑問にタクトは答える。
「例えば、敵がどこを狙って攻撃してくるのかなんとなくわかるんですよ。あとは、視線とかですかね」
「へぇ〜、なかなか便利ね」
「すごいな」
ノインとイスカは素直に褒める。
「はは、そうですね」
「さあ、先に進みましょう、今はゴライアスの復活まであと3日はあるはずだしどうせなら18階層まで行きましょ」
「そうだな」
タクト達は再びダンジョンの奥へと進む。
[16階層]
「まさか本当にここまで来れるとはな」
「最後まで出番がなかったわぁ」
「ここが17階層へと降りる道、覚えておいて、タクト」
地図を出し現在地を教えるノイン。しかしタクトはそれに見向きもせずただひたすら17階層へと降りる道を見つめていた。
「……」
「タクト……?どうかしたの…?気分が悪いなら──」
「───だめだ」
ノインの言葉を遮るように、タクトがそう口にした。
「…どうしたのぉ?タクトちゃ──」
タクトの表情を見てマリューは途中で言葉を止めた。それは今まで見たことのないような険しい表情だった。
まるで、恐怖を抑えているかのように。
マリューにはタクトが何を恐れているのかわからなかった。
「……
タクトから出てきた言葉に、ノイン達3人は驚愕の表情を浮かべる。
だがそれも当然だろう。
帰ると言うならまだわかる。だが、タクトの口から出たのは逃げるという言葉だ。
何故タクトはそのような事を口にしているのか、それが理解できなかった。
「タクト、どうしてだ……?」
意図がわからず、イスカはそう尋ねる。
「……視線を感じるんです」
タクトはそう答え、17階層へと降りる道を見つめる。
タクト達が今立っている場所は少し開けていて見通しが良い。
そして周りにモンスターはいない。
ただ静寂に包まれた空間に4人の呼吸音だけが響いている。
「タクト、何に見られてるんだ?」
「……この下にいるのは人間じゃない…」
「どういう意味よそれ……」
タクトの返答にノインは困惑する。
(ずっと視線を感じる……嫌な予感が、頭痛が止まらない…っ!)
タクトは自分の心臓が激しく鼓動していることを感じている。
「タクトちゃん、落ち着いて。ゆっくり深呼吸しましょぅ」
マリューはそう言ってタクトの手を握る。
タクトはマリューに言われた通り、ゆっくりと大きく息を吸って吐く。
「ふぅ……はぁ…ふぅ…」
「そうよぉ、ゆっくりと…深呼吸」
徐々に心音を落ち着かせもう一度だけ、
17階層へと続く道を見つめると。
「あ"あ"ぁあああ!!」
タクトは絶叫と共に魔法を発動し17階層へと続く道を破壊し始めた。
「タクト!?おい!タクト!」
「ちょっとタクトちゃん!?」
「タクト!待つんだ!」
3人が声を掛けるがタクトの破壊は止まらない。
何度も、何度も魔法を使い壁を破壊する。
そして遂には17階層への道が完全に崩れ落ちた。
「なんでこんな事を……」
「タクト、どうしてしまったんだ……」
「タクトちゃん……?」
タクトの行動の意味がわからないノイン達は戸惑いを隠せないでいた。
そんな中タクトはノインとマリューの手を引き走り出した。
「な、なに!?タクト!」
「タクトちゃん!急にどうしたのよぉ!?」
「イスカさん走ってください!!」
2人を連れて、走るタクト。
質問を投げかけられるが、答える余裕などない。
(あの場所にいたら殺される!)
先程から頭の中でガンガンと警鐘が鳴るのだ。
『走れ』『振り返るな』
そんな言葉が繰り返し脳裏に浮かぶ。
走った。
ひたすら無我夢中で。
ただ後ろを振り返ることもなく。
1分1秒でも早くこの場所から離れるために。
どれくらい走っただろうか、気がつくとタクトは立ち止まり辺りを見渡す。
そこには先ほどまでの光景はなく、タクトが立っていたのは迷宮の入口前だった。タクトの視界に映るのは見慣れた景色、ダンジョンの外。
「……」
外の空気を吸いようやくタクトは落ち着きを取り戻した。
だが、その顔色は青白く、大量の汗を流していた。
タクトは、その場に倒れ込んだ。
「……はあ……っ……はあ……はあ」
身体が重い。指一本すら動かすのも辛い。
(なんだったんだ、あれは)
「……はぁ」
タクトは深いため息をついた後、起き上がり後方へと声をかけた。
「…大丈夫ですか…?」
「えぇ……なんとかね」
「…私はまだ足が震えてるわぁ…」
「もう、走れないぞ……」
タクトの呼びかけに応じた3人は、口々にそう答えた。
「タクト、何がなんだかわからないが教えてくれ。何を見た?」
「……17階層への道を覗いた時に見たんです。人の様な何かを」
タクトの言葉を聞き3人は目を丸くした。
「……人の様なって…」
「……モンスター?」
「…多分モンスターだと思います」
「ミノタウロスみたいな感じなのか?」
「違います」
タクトの言葉にノイン達は頭を傾げる。
「どんな姿だったのかしらぁ?」
「…上半身は俺達と大差ない人型でした…下半身は少ししか見えなかったですが、黒く大きく人間のそれではなかったです…」
タクトは俯きながらそう答えた。
「それは……確かにモンスターっぽいな」
イスカはタクトの話を聞いてそう呟く。
ノインもマリューも同じ考えらしくイスカの意見に肯定を示した。
「でも良く見えたねタクト、あの通路出口まで結構距離あったと思うけど」
「……」
イスカにそう言われてタクトは押し黙る。
「……どうしたの?……まさか、トラウマにでもなっ───」
「
3人の言葉を遮るようにしてタクトはポツリとそう言った。
その言葉に3人の背筋が凍りつく。
タクトは続けた。
「……最初は視線だけだったんです……ですが俺が通路を覗くのをやめ深呼吸していた時……段々と近づいてきたんです……そして俺が再び通路を除いた時目が合って──」
タクトの言葉に全員がゴクリと唾を飲み込む。
「───
タクトは、絞り出すようにして、そう告げた。
「……嘘……でしょ?」
「いえ本当です。目が合った瞬間、ニタリと、笑っていたんです」
タクトの言葉に3人は絶句する。
「もしも登ってきていたら…」
「確実に殺されてたかと…」
「「「……」」」
3人はその可能性を考え、ゾッとした。
もしタクトの言っていることが事実だとしたら、今ここに立っている事すら奇跡なのだから。
「と、とにかく、今日は帰ろうか…」
「賛成だな……」
「そうねぇ……」
タクトの言葉を最後に4人は帰路へと着いた。
今のうちにステータスを上げておかないとね……。