寝て起きたら暗黒期!?ベルくんに会うまで死にたくねー! 作:お米大好き
次回でベル君(声だけ)とタクトが対面です!。
「シオンが居なくなった?!」
朝になり、朝食を取り終え普段着へと着替えた俺の元にやってきたアミッドさんが、衝撃的な一言を放った。
深夜、ナースの巡回時には既に姿がなく、現在ガネーシャファミリアの協力の下、都市中を捜索しているが、痕跡一つ見つかっていないらしい。容疑が晴れているとは言え闇派閥の団員に監視1人つけないとはざるとしか言いようがない。
「……ッ!まさか…」
タクトの頭の中に最悪の想像がよぎるが、直ぐに首を横に振る。
──いや、そんな筈はない。
(流石にあいつもそこまで馬鹿じゃない……)
しかし、現実は無情なもの。タクトの嫌な予感はすぐに的中してしまう。
「…これを」
アミッドが一枚の紙をタクトに手渡す。そこには、《主神様を説得してきます》と、 その一文だけが書かれていた。
文面を見た瞬間、タクトは全身から血の気が引いていく感覚を覚えた。
──どうしてこうなった。
──どうして俺は昨日、あいつを止めなかった…。
──予想できたはずだ、考えられたはずだ。
──違う、混乱していた…あの時の俺は情緒が不安定で……。
(いや…それは言い訳だ……。考えられた、考えるだけの余裕があったのにも関わらず、結局俺は何もしなかった)
直接会った事はない、それでもタクトはタナトスの事をシオンよりも理解しているつもりだ。
"あれ"は人の死を望んでいる、それに今の時代は暗黒期、古代よりはマシとは言え、死は身近にある時代。邪神の説得など不可能。
説得の失敗はシオンの死を意味をする。つまり
(もう間に合わない……手遅れだ…)
冷静な者であれば誰しもがその答えに辿り着く。
己の失態を悔やみ後悔しても遅いとはわかっている。それでも──。
「何処へ行くつもりだ…?」
──タクトの身体は動いていた。
「……ッ」
タクトの耳に聞き慣れた声が入る。しかしその声は優しいものではなく、怒りを感じさせる冷たいものだった。
「何処へ行こうとしているのかと、私は聞いているんだ」
「……輝夜さん」
背後を振り返ると、輝夜が腕を組みながら立っていた。その表情は冷たく、まるで感情を感じさせない。
「何処って……何処へも行きはしませn──「ならばその扉から手を離せ」」
タクトが言葉を紡ぐ前に輝夜が言葉を挟む。
「……ッ」
もう間に合わない、そう理解していながらも、無意識にドアノブへと手をかけていたタクトの姿を見かね、輝夜が諦めろと口にした。
「あの少年の事なら既に手遅れだ…それが分からぬ程お前は愚かではあるまい…」
輝夜の言葉に、タクトは一度扉から手を離し、それを確認した輝夜は話を続ける。
「小僧、貴様が心配すべきは他人ではなく自分の命であろう。先ずは自分の身の安全を考えろ」
『もしも捜索先で闇派閥に出会ってしまえば死ぬのはお前だ』、輝夜の言葉をそう受け取ったタクトは、何も言い返せなかった。
「……少し頭を冷やしてきます…」
そう小さく呟くと、タクトは病室を後にした。
「よかったのですか…?」
病室に残された輝夜に、アミッドが問いかける。
タクトの心情を察したのだろう、怪我人を外に出すなど普段の彼女からは考えられない行動だった。
「構わん、現状で無茶をするほど小僧は自身の命を軽視していない。仮に無謀な真似をすれば、その時こそ私達が止める。それよりアミッド、お前が何も言わないのは意外だったぞ」
輝夜はアミッドに視線を向けると、彼女は苦笑いを浮かべ
「心の傷は簡単には治りません。整理する時間、それが今彼に必要な薬です…」
その言葉に、輝夜は小さくため息をつくと
───全く次から次へと……本当に
「本来なら200ヴァリスなんだが今なら180ヴァリスだぜ!!」
「今日は何処まで潜んだ?」
「えぇ、ほんとにぃ!?あそこの旦那さんが?」
「よう、そこの兄ちゃん!うちの商品見たいか…おっと行っちまった」
先程までいた病室とは比べ物にならないくらい活気に満ちた街を歩くタクトの足取りは重かった。
(……まだ死んだと決まった訳じゃない。その可能性が高いだけ…だ…)
現実逃避、あり得ないと分かっていながらも考えてしまう希望的観測。
『ありがとう、流石は僕の相棒だ』
シオンの残した最後の言葉が脳裏に浮かぶ。タクトの瞳から涙がこぼれ落ちる。それは悔しさの表れか、後悔の現れか。
「……ッ!クソッ!」
(何が相棒だ……。結局俺はあいつの悩みに気づけなかった…)
──シオンを死地に向かわせたのは俺だ。
その考えが頭から離れず、整理が付かない。足取りは更に重くなり、遂には歩みを止めてしまった。
「……俺の…せい──ッ」
後悔の念に駆られるタクト。そんな彼の肩に誰かの手が置かれた。
「よぉ、兄ちゃん肩ぶつけといて謝罪の一つもないのかぁ?」
振り返るとガラの悪い冒険者が1人、ニヤついた表情でタクトを見下していた。
「……」
タクトは黙ったまま、相手を見る。その男は身長190センチはあろうかという巨漢で、全身を覆う筋肉質な肉体、頭髪は剃られスキンヘッド。そして口元には立派な髭を蓄えている。
「……すみませんでした」
タクトは素直に頭を下げる。しかし、それが気に食わなかったのか、男の顔つきが変わった。
「おいおい、誠意が足りねぇんじゃねえのかぁ?まさか高レベルの冒険者様にぶつかっといて謝って終わりなわけねーだろぅがぁ!!!」
男の怒声が周囲に響き渡る。周りの人間は見て見ぬふり、関わりたくないのだろう。それも当然である。冒険者同士の争いは、一般民には手に負えない問題なのだから。
「……金はありません。今は急いでいるので……失礼します」
それだけ言い残しその場を離れようとすタクトの腕を男が掴む。
「てめぇ舐めてんのか?。こちとらLV.2の冒険者様だぞ…雑魚が調子乗ってんのじゃねぇぞコラァ!!」
男の罵声が周囲の人間に恐怖を与える。しかしタクトは一切怯むことなく、この時だけは冷静に相手を観察していた。
(ランクアップしたてで有頂天になっているだけの馬鹿……無名で片腕のない俺を格下と───「なんとか言ったらどうだオラァ!!」─うぐっ)
突如として腹部に衝撃が走る。タクトが前見ると、男が拳を振り抜いていた。
「ッ、ゲホッ、ゴホォッ…ッ」
腹を押さえ、咳き込むタクト。その様子を確認した男は、満足げな表情を浮かべその光景を楽しんでいた。
(どうしてだ……どうしてこんな事になった……)
それはこの状況への対応か、それともシオンの失踪に対するものか、現在のタクトには判断がつかないほど、心が乱れていた。
普段のタクトであれば、このような状況下でも少しは冷静にいられただろう。
しかしそれは、2日前に目を覚ますと同時に、いや、正確にはLV.2へのランクアップを果たした瞬間から、彼の心は不安定に揺れ始めていた。
『……アーディさんを手伝いたいです……でも俺は死にたくは……ありません』
LV.1の時、まだタクトは死にたくないと思いながらも、アーディを助けるために勇敢に立ち向かい、
かつてのタクトは自らの命を危険にさらしながらも、他人の命を優先する強さを持っていた。
しかし、LV.2になり日が経つにつれ、そんなタクトの精神は次第に侵食されていく。
『さっきから好き放題言いやがって!反省はしてるさ!同じ事があったら2度としないと誓えるッ!』
徐々に、少しずつ、混ざり合い、融合し、歪み始める。
『邪魔な奴らは全部殺せばいいんだ』
タクトが力を増すにつれ、【器】はますます"彼に"接近し、侵食は進み続けた。ステータスを向上させるほどに、その影響はますます強くなり、深く刻まれていく。
『……着いちまったか』
『ここで逃げたとしても誰も責めたりしない』
『俺にはどうしようもないんだ…』
精神が蝕まれ、心が弱くなり、不安や恐怖、迷いが、生まれやすくなったタクトの心を、シオンの残した最後の言葉が
『ありがとう、流石は僕の相棒だ』
その一言が、追い込み、思考を止め、行動に移せなくしていた。
(そうだ……全部俺のせいだ……俺が弱いから……俺が情けないから……)
《そうだお前の責任だ》と、タクトの心に声が響いた。《お前の弱さ故に、何一つ守れないのだ》と。
それは、誰の言葉でもない、自分自身の声。しかし、その言葉はタクトの心に深く突き刺さり蝕む。
──本当にそうなのだろうか?
(俺が弱いから、俺が不甲斐ないから、俺が情けないから、俺のせいで、俺のせいで、俺のせいで……)
タクトは自らの内なる闇に引きずり込まれるようにして沈んでいく。その闇は底なしの沼のように深く、重く、終わりの見えない苦悶の中に彼を包み込んでいく。
(……もう、どうでもいい)
タクトは抵抗を諦め、身を委ねる。今この現状が、全て自分の責任なら、自分にできることは何もない。全て忘れ、この暗闇の中で生きる方が楽なのかもしれないとタクトは思った。
《そうだ、それでいい……後は俺が引き継ぐ》
何も感じない闇の中でそう最後に声がした。
────────
静けさが漂う街中で、
「さて…」
と
周囲は以前に満ち溢れていた活気を失い、タクトたちの様子を静かに見守っている。その中で、男が不機嫌そうな表情を浮かべていた。
「チッ!まだ立場が分かってねぇみてえ…だ……な…?」
自身の力に酔っていた巨漢は言葉を失い、場の空気が一変したことに気づく。周囲にいた市民たちも、その明白な変化を理解せざるを得ない。
その変化の根源は、
「ぁぁ……ぁ…」
息苦しさが立ち込める中、巨漢は自らの立場の脆さを痛感しつつ、
「…なんだ…よ、その黒い…紋様…は…!」
巨漢は喉の奥から漏れるような声でタクトに問いかけた。恐怖が彼を支配していたが、それが自らの死の引き金となることを本能が警告している。
しかし、"タクトは"その問いに答えることはなかった。いや、答えることが出来なかった。
──なぜなら、"タクトは"自身の内なる暴れ狂う存在に全てを委ねていたから。
「まだ体が重い…完全に主導権は握れていない…か…」
と、
鈍重な感覚が彼を包み込み、未熟さと苦悩が彼の体を覆っていく。だが、その鋼の意志は揺るぎない。
「は、はぁ?何言っ──ッ!?」
「ちょっと黙れ」
巨漢が言葉を言い終える前に、タクトは彼の首を掴み、地面へと捩じ伏せた。
ドゴンッ!!と、地面にヒビが入る程の衝撃が巨漢を襲う。
「グゥッ……カハッ……」
巨漢が苦しそうにタクトの足を摑む。しかし、その握力は抵抗と呼ぶにはあまりにも弱々しかった。
(腕が動かない…俺の精神も侵食され始めた……?。いや、違う…抵抗しているのか?)
(どちらにせよ、時間がない……少しでも多く経験値を貯めねぇとな…)
「ゴホォッ、ゴホォッ…俺が悪かった…もう…許してくれ……」
と、巨漢は呼吸を乱しながら謝罪の言葉を口にした。しかし、
その瞳には、まるで人を人として見ていないかのような冷酷さが宿っている。
「"モンスター"」
そんな
「…恨むんなら、力の無い自分を恨め」
「【雷雲よ来たれ】」
と、唱えた。
「ま、待って…くださ…い、俺が悪かった、です…!!」
と、巨漢は必死に懇願する。しかし、その願いが届くことはなかった。
「な、なんでもします…金も、女も、好きなもの用意します……だから、命だけはッ!!」
「【迅雷は閃きにて破滅をもらす】」
「いやだ…いやだ死にたくない!死にたくない!」
巨漢が涙を流しながら、何度も命乞いを繰り返す。しかし、
それは、その声が
「【其の進路に哀れな骸を──「やめとけタクト、そいつはこの場で使っていい
(ッ…このタイミングで……。くそっ、
それと同時に、
[1時間と少し]
「……悪かった」
タクトは頭を深く下げながら、謝罪の言葉を口にした。彼の前に立っていたのは、さっきの巨漢ではなく、1人の少女だった。
「いいって気にすんな、一応お前は被害者なんだからよ」
少女は優しく微笑みながらそう言った。その言葉にタクトは安堵の息をつく。騒ぎを聞きつけてやってきた憲兵に巨漢を引き渡し、事情聴取を受けた後、タクトは解放された。その際、憲兵がタクトの右腕にある黒い紋様を見て驚いていたが、何も語らなかった。
「それより驚いたぜ?輝夜に頼まれて探しに出てみれば、まさか街中で魔法をぶっ放そうとする馬鹿がいるなんてな」
少女が呆れた口調でそう言うと、タクトは悔しそうな表情を浮かべながら再び頭を下げた。
「ライラ……本当に悪かった。迷惑をかけた」
タクトの謝罪に対し、ライラは小さくため息をつきながら彼の腕を掴み、路地裏へと引っ張っていった。突然の出来事にタクトは驚きながらも、何も言わずに彼女に従い、二人は人気のない場所にたどり着くと、ようやく手を離してくれた。
「で?なんであんな事になっちまったんだ?」
と、ライラがタクトへと問いかける。
「わからねぇ……精神的に追い詰められて、突然俺の意識が乗っ取られた、いや、正確には共有してたって感じだ…」
タクトがそう答えると、ライラは興味深そうに、へぇ、と呟いた。
「それにさっきの事は全部覚えてる…。あの感覚は……忘れたくても忘れられねぇ……」
タクトは身震いしながら、先ほどの記憶を呼び覚ます。巨漢に言い放った言葉、周囲の反応、そして自分がしようとした事を思い出し、その恐ろしさを実感する。
「ライラがもしあのタイミングで声をかけてくれなかったら、俺は間違いなく、殺していた」
タクトは悔しそうに、歯を食いしばる。そして自分が味わった苦しみをライラに吐露した。
あの巨漢が絡んできてからの出来事、自分がその行為を止めようとした時、感じた感覚。全てをライラに話した。
それを聞き終えた後、ライラは呆れた様子でタクトの頭を小突いた。
ペシッ!と乾いた音が路地裏に響く。突然の事に、タクトは驚いた表情で頭を抑え、ライラを見つめる。すると
「あんま1人で抱え込むなよ、タクト、お前1人でどうにかできる事なんて限られてんだ、頼る事を忘れんなよ」
と、ライラは言った。その言葉にはどこか優しさが含まれており、タクトの心に染み渡った。
そして、真剣な表情を浮かべたライラは再び口を開いた。
「まずはありがとなタクト…。伝えるのが遅くて悪かったな、あの時お前が助けに来なけりゃ
タクトは首を横に振ると、ライラは優しく微笑み そして───
「ちょっとしゃがめ」
と、タクトに命令した。不思議に思いながらも言われた通り、姿勢を低くすると───。
ぎゅっ、とライラがタクトの顔を抱きしめた。
突然の事に硬直するタクト。柔らかい感触と女の子特有の甘い(香水?)香りに頭が少しクラクラとする。
「お、お前が喜びそうなお礼…をを考えてたら、ア、アストレア様が来てな? こうすればお前が絶対喜ぶって言うからや、やっ…てやったぞ、!……どう…だ?」
恥ずかしさのあまりか、後半声が小さくなり聞き取りづらかったが、タクトにはしっかりと聞こえていた。
(……アストレア様ぁ?……)
「と、とりあえずこのまま話を続けるぞ…」
そう言って彼女はさらに強くタクトを抱きしめると、耳元で囁いた。
「人はいつか死ぬ、それが今日かもしれねぇし、明日かもしれねぇ」
その言葉にタクトは黙って聞き入る。
───シオンの事を言っているのか? と、タクトは思った。しかし、それは口にしない。今はただ、
「こんな時代だ、いつどこで誰が死のうがおかしくねぇ……だからよ……慣れろとは言わねぇが、覚悟だけはしとけ……じゃなきゃ、いざという時に動けなくなる…」
ライラはタクトをゆっくりと解放すると、今度は彼の頬を両手で掴み強引に自分の方へ向ける。タクトは驚きつつも、されるがままである。
「…シオンとはあの日会ったばっかだけどよ……アイツの性格は分かる。仲間の為に自分を犠牲にできる優しい奴だ」
──そう、あいつは自分よりも誰かを想える優しい奴だ、でも俺はそんな、いい奴を死地へと向かわせてしまった。
────俺のせいで。
その事実が重く心にのしかかっている。タクトの表情を見て、ライラは何かを察したのだろう。タクトを真っ直ぐ見つめ、はっきりと言い放った。
「お前のせいじゃねぇ」
その言葉を聞いた瞬間、タクトの目からは涙が流れ落ちた。
「自分を責めるな。シオンは絶対に後悔なんかしちゃいねーし、お前が悲しむ事も望んでねぇはずだ。それにあいつならこう言うはずだぜ──」
──『じゃあなタクト、俺の分まで頑張って生きろよ』
そう言い残して、笑顔で去って行くシオンの姿がタクトの脳裏に浮かぶ。
その光景を思い浮かべただけで、胸は張り裂けそうになる。タクトが泣く姿を見て、ライラは満足げに笑うと、タクトの頭を乱暴に撫でた。
───そうだ、あいつならきっとそう言うに違いない。
──今はそう、思う事にする。
ライラはタクトが落ち着くまで、ずっと傍に寄り添っていた。
───────────
「落ちついたか?」
泣き止んだタクトの顔を覗き込むように、心配そうな表情をするライラの顔が目の前にあった。思わずドキッとしたタクトだったが、それを悟られないよう、冷静さを装いながら返事をした。
「ああ、もう大丈夫だ」
「そっか、そりゃ良かった」
ライラは安心した表情を浮かべると、
「よかったよかった、あのまま赤ん坊みたいに泣き喚かれたらどうしようかと思ったぜ」
冗談っぽく笑いながらそう言ったライラに、タクトは真面目な顔で答える。
「本当にありがとうライラ。お前のおかげで少し吹っ切れた」
「お、おう?」
タクトの態度に少し照れ臭くなったのか、ライラは視線を逸らす。
「それじゃ、抱きしめてくれた事、輝夜さんかアリーゼどちらに伝えて欲しくない?」
タクトが意地悪そうにそう聞くと、ライラは顔を真っ赤にして叫んだ。
「ど、どっちも嫌に決まってんだろうが!!」
「分かった、輝夜さんに伝えておく」
「待てコラ! 輝夜には絶対伝えるんじゃねぇ!馬鹿にされるだけだ!」
「じゃあ、リューさんに伝える」
「それもダメだ!! つーかなんだよ、なんでそんなに嬉しそうな顔してやがんだ!?」
「い、いや別に……?」
タクトは誤魔化す様に咳払いをすると、話題を変えた。
「それより、ガネーシャファミリアが何処を捜索してるか?」
「悪りぃが知らねえ、そもそも今回の事もさっき輝夜からか聞いたばっかりだ。…探すつもりか?」
「一応…流石にダイダロス通りとかは行かねえけど、街中を探すくらいはしてみるつもり」
「ふぅん、まぁ頑張れよ」
「……手伝ってくれてもいいんですよ?」
タクトが少し拗ねたような口調で言うと、ライラは大きなため息を吐いた。
「ったく、しゃーねぇな……面倒だが
「それに?」
ライラは一瞬躊躇った様子だったが、意を決したかのように口を開く
と、こう言った。
───借りを返し切るまではが
それはとても小さな声だったが、タクトの耳には確かに届いた。ライラの言葉にタクトは思わず苦笑する。
(ほんと、お人好しだな……いや面倒見がいいと言うべきか)
そんな事を思いながら、タクトは言った。
──ありがとう、全部返されるまでには自立してみせるよ。
そんなタクトの言葉を聞き、ライラは満足そうに微笑むと、路地裏から表通りに出る為に歩き出した。
(シオン、頼むから生きていてくれ…よ……?)
タクトもその後を追うようにして歩もうとした時、タクトのアビリティ(感知)が反応を示した。
(見られて……ッ!)
タクトは反射的に振り向くと、小汚いローブに身を包んだ人物が背後に立っていた。フードで顔を隠しており顔は見えなかったが、その人物から感じる強烈なプレッシャーは間違いなく強者の持つそれだった。
(この距離まで近づかれて感知が反応しなかった……? )
気配を感じ取れなかった事に焦りながらも、即座に意識を臨戦態勢へと切り替える。しかし、目の前の人物は気にも止めず、その場から動かずに話しかけてくる。
「……ふむ、一眼見た時は餌たりえると思えたのだがな…ここを離れて鈍ったか…」
「…いきなり何言って──」
そこまで言いかけてタクトは気づく、こいつの声を聞いた事があると。
それはこの世界に来る前、何度も耳にしていた声、その声の主はタクトの知る物語の中で最凶の存在であり、現状オラリオの頂点に君臨する男。
その名は──。
「ザル…ド……?」
ある程度シナリオは決めて道中はライブ状態。
頭ん中ごっちゃごちゃになってきた。