寝て起きたら暗黒期!?ベルくんに会うまで死にたくねー!   作:お米大好き

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ダンまちドラマCD予約したぁ。9月かぁ。



第六話、交渉

 

 

 

 

 

 

 

[アストレアファミリアホーム]

 

 

 

 

 

 

 先ほど、ラウルが伝えてきた内容は、ガネーシャファミリアとともに闇派閥(イヴィルス)に狙われる工場を守れという任務だった。

 

 

 

 指令を引き受けた後、俺たちは一度本拠地に戻り、戦闘の準備をすることにした。しかし…

 

 

 

 

「まだ万全とは言えないでしょ?。本当に参加するつもり?」

 

 

 

 

 全団員が一室に集合した時。アリーゼが真剣な口調でそう尋ねた。

 

 

 

 

「………ああ」

 

 

 

 

 お互いの顔は真剣そのもので、普段の明るい雰囲気は微塵も感じられなかった。

 

 

 

 

「今回のような事態は、これからも何度でも起こり得る可能性があるわ。だから焦る必要はないと思うわ」

 

 

 

 

 真剣な表情のまま話すアリーゼと、そんな彼女を静かに見つめるタクト。しばらくの間、沈黙がその場を支配していたが、やがてタクトが小さく息を吐いて言った。

 

 

 

 

「……俺がそうしたいんだ。だから病院に戻らず着いてきた」

 

 

 

 

 アリーゼは心配そうな表情を浮かべながら、タクトの言葉に対して疑問を抱いていた。

 

 

 

 

「どうしてそこまでして参加したいのかしら?普段の貴方なら、まず間違いなく参加しないと思うのだけど」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 黙り込むタクトだったが、やがて静かに答える。

 

 

 

 

──(原作改変)の為」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

──(死者)を少しでも──(減らし)たい」

 

 

 

 

 

 アリーゼは驚きと困惑が入り混じった表情でタクトを見つめる。彼女はタクトの言葉の意味を理解しようと努めたが、なかなか言葉にできなかった。

 

 

 

 

「少しでも…変わりたい?」

 

 

 

 

「……俺が───(やらかした)から──(大抗争)──(早まっ)た」

 

 

 

 

「えっと、聞き取れないのは貴方の持つスキルのせいかしら?」

 

 

 

 

 アリーゼが尋ねると、タクトは無言で頷く。その表情はどこか悲しげだった。暫くの間、静寂が続いた後、彼女はゆっくりと口を開くとこう言った。

 

 

 

「んー……タクト。今回の件、私とアストレア様だけが知ってる貴方の"秘密"と関係しているの?」

 

 

 

 

 アリーゼの質問に、タクトはピクリと眉を動かす。その反応を見て確信を得たのか、彼女は更に言葉を続ける。

 

 

 

 

「……そう。"先を知る"から、貴方は参加したい、と?」

 

 

 

 

「……ああ」

 

 

 

 タクトが答えると、アリーゼは深刻な表情を浮かべた。そしてしばらく考えた後、彼女は最後の質問を投げかける。

 

 

 

「最後に聞かせて。行動する理由は私達の為?それとも貴方の為?」

 

 

 

 アリーゼの質問に、タクトは迷うことなく答えた。

 

 

 

 

──自分の為だ、と。

 

 

 

 

「そう、なら良かったわ。もしも私達の為だったら無理やりにでも病院へ戻そうと考えていたから!」

 

 

 

 

 アリーゼはそう言って、ニッコリと笑いながらタクトの肩を叩く。そんな様子を団員達は呆然と見ていたが、やがてネーゼが言った。

 

 

 

「団長そろそろ準備したほうが……」

 

 

 

 

 ネーゼの言葉にアリーゼは、ハッとした表情で頷く。そして急いで準備をするよう団員達に伝えると、彼女もまた戦場へ向かう準備を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

 

 自室に立つタクトは、鏡に映る自分の表情を見つめながら、胸の内に渦巻く思いを吐露する。

 

 

 

 

 

 

「俺じゃどうしようもない……」

 

 

 

 

 

 

 大抗争が迫り、心臓の鼓動が早まり、不安で吐き気がする。そんな自分に対して、鏡に映る自分は情けない表情で微笑んでいた。

 

 

 

 

 

「ホームまでの帰り道、あれからいろいろと考えた」

 

 

 

 

 

 

 どうすればいいのか、どんな行動を取るべきなのか。しかし、まともな答えは見つからなかった。

 

 

 

 

 

 自分の行動が最善かどうかさえ分からない。そして、一番怖いのは、自分の行動によって引き起こされる変化だ。

 

 

 

 

『大抗争の開始日、アーディから離れるな』

 

 

 

 

 以前、未来から来た自分はそう言っていた。つまり、失敗したということだ。

 

 

 

 

「シオンも見つからない……」

 

 

 

 

 鏡に映る自分に向かって、タクトは思いを巡らせる。

 

 

 

 

──お前ならもっと上手く行動できたんじゃないか?

 

 

 

 

──お前なら今からでも最善の行動が取れるんじゃないのか?

 

 

 

 

 自問自答するために、鏡に映る自身に問いかける。

 

 

 

 

 しかし、答える者は誰もいない。ただ虚しさだけが残る。

 

 

 

 

「失敗したくない。失いたくない。お前もそうだろ……?」

 

 

 

 

 

 鏡の中に映る姿に語りかけながら、自然と手を固く握りしめる。

 

 

 

 

「ザルド、それにエレボスにまで目をつけられた…。俺1人じゃ絶対に失敗する。だから──」

 

 

 

 

 握る手に更なる力が込められる。そして、鏡に映る自分を見つめながら覚悟を決めた表情を浮かべ、固く言葉を絞り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取引しよう」

 

 

 

 

 

 

 その一言が口から零れると同時に、鏡に映る俺は不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

 

 

[魔石工場]

 

 

 

 

 

「ねえ、タクト。さっきから気になってたんだけど。……その足元に浮かんでる茶色い板なに?」

 

 

 

 

 ノインの一言と共に、周りの視線が俺へと集中する。そんな中タクトはゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「ん?備えだよ。万が一があった時に、ね」

 

 

 

 

「魔法?それともマジックアイテム?こんなの見た事ないわぁ」

 

 

 

 

「マジックアイテムだと思ってくれ。マリューさん」

 

 

 

 

 板をじっと凝視するマリューに、タクトは答えた。

 

 

 

 

 そんなタクト達とは対照的に、周囲ではサポーター達がシャクティ指示のもと、戦いの準備を進めていた。各方面に連絡を入れて、いつ襲撃されても対応できるように防衛ラインを構築されていく。

 

 

 

 

「流石はガネーシャファミリア。サポーターもそこそこ優秀だな」

 

 

 

「そこそこ?…ユウギさん、新人の貴方がその評価するのは少しおかしいと思いますよ」

 

 

 

 

 無遠慮な感想を述べるタクトにリューがそう言った。

 

 

 

「これから戦争が始まるんだ。なのに一部のサポーターは襲撃を警戒すらしていない。自分は完全に裏方であり、どうせ誰かが代わりに戦ってくれる。少なくともLV.1の奴らはそう思ってる」

 

 

 

 

 タクトの言葉に対し、リューは口を紡いだまま何も言わずに聞いていた。そんな態度に首を傾げながらも、タクトはそのまま続けてこう言った。

 

 

 

 

「しかしそれは間違っているんだ」

 

 

 

 

「間違い…ですか?」

 

 

 

 

 リューの言葉に、タクトはゆっくりと頷いた。そして周囲を見回しながら口を開いた。

 

 

 

 

「リューさんがもし危機に陥ったとき、誰かを助ける余裕はあるのか?」

 

 

 

 タクトの問いにリューは一瞬瞼を閉じ、はっきりとした口調で答えた。

 

 

 

 

「……助けます。その瞬間にできることを全力でやり遂げれば助けることはけっして──「無理だよ」

 

 

 

 

 

 リューの言葉に、今度はタクトが明確な答えを返した。思っていた言葉とは違っていたためか、リューも一瞬口ごもってしまった。無言で立ち尽くす彼女に対し、タクトは言った。

 

 

 

 

「無理なんだ。できないんだ、そんな状況下で『助ける』なんて選択肢はない。選べるのは『見捨てる』か『諦める』の二者択一だ。」

 

 

 

 

「ッ…そんな事はない!! 私が、私たちが救う!助けられる!」

 

 

 

 

 思わず声を荒げたリューに対し、タクトは言い聞かせるように続けた。

 

 

 

 

 

「リューさんがどう思おうが、この事実を、この世界は受け入れている。冒険者であろうとサポーターであろうと、戦場に立つ以上、自分の命をかける覚悟を持たなければ生き残れない。」

 

 

 

 

 その言葉にリューは動揺した。まるで、自分よりも未熟な少年に心を読まれたような気がした。

 

 

 

 

 

 

「でも、もし本当にそれが出来ると思うなら、今俺に断言してみせてください。リューさん」

 

 

 

 

 タクトの真っ直ぐな視線に向かって、リューは黙り込んでしまった。タクトは優しく微笑みながら彼女を諭すように言った。

 

 

 

 

「ははっ、少し意地悪でしたね…。でもリューさん、もしこの先その理不尽な二択を迫られたら、"助ける"を選ぶといい」

 

 

 

 

──そうすれば、たった一度の奇跡が起こるかもしれませんよ。

 

 

 

 

 

 タクトの呟きは無音となって、すぐに消えていった。立ち尽くすリューを置いて先へ進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

 

「意外だな、タクト。お前がリオンにあんなこと言うなんて。それにアタシの予想じゃ絶対にリオンがキレると思ってたのによ」

 

 

 

 

「盗み聞きとは、ライラさんもいい趣味してやがりますね」

 

 

 

 

「おうおう、褒めたって何も出ねぇぞ?」

 

 

 

 

「それは残念。それで、何か用か?」

 

 

 

 

「あー……まぁなんだ、お前なんかあったのか?それとも変なもんでも食ったか?」

 

 

 

 

 ライラはそう言いながらタクトの顔や身体をマジマジと見つめる。そんな少女の行動に溜息を漏らし、改めて質問の答えを口にした

 

 

 

 

「別に、何も。ただリューさんがあまりにも真面目過ぎて心配になっただけさ」

 

 

 

 

「ふーん、そうか?。まぁお前がそう言うなら、そうなんだろうけどな」

 

 

 

 

 タクトの言葉をライラは簡単に受け入れたが、その視線はまるで言葉を信じていないことを訴えているようだった。暫くの間沈黙が続いたが、『あ』と思い出したかのように呟きニコッと笑い彼女は言った。

 

 

 

「そーいや輝夜に呼ばれてたんだった、あとアーディがお前のこと探してたぞ?」

 

 

 

「ん、わかった。ちょっと行ってくる」

 

 

 

 

 と、返事をしてからタクトはアーディを探し始めた。辺りをきょろきょろと見回しながら探すこと数分、ようやくお目当ての人物を見つけることができた。彼女はサポーター達の中心で明るく笑いながら活動を手伝っていた。

 

 

 

 

「アーディさん」

 

 

 

「あ、タクト君」

 

 

 

 そんな彼女に声をかけると、彼女はすぐさまこちらへ駆け寄ってきた。

 

 

 

 

「体の調子はどう?」

 

 

 

 ニコニコと微笑みながら尋ねるアーディに対し、タクトは視線を逸らしながら答えた。

 

 

 

 

「問題ありません」

 

 

 

 

「そっか、良かった。でもまだ無理はしちゃダメだよ?危なくなったら周りを頼るんだよ……ね?」

 

 

 

 

 

 小首を傾げながら心配そうにこちらを見つめてくるアーディに対し、タクトはもう心配ないことを伝えようと言葉を選んで話す。しかしそんな思いとは裏腹に、上手い言い方を思いつくことが出来なかった彼は誤魔化すような言い方しかできなかった。

 

 

 

「はい、頑張ります」

 

 

 

 そしてそれを聞いたアーディは苦笑いしながら言う。

 

 

 

 

「んー……なんか答えがちょっとズレてる気がするけど……まぁいいよね」

 

 

 

 アーディの言葉に、タクトは話題を変えるべく彼女に向かって尋ねた。

 

 

 

「それで、探してたって聞いたんですけど自分に何か用ですか?」

 

 

 

 

 その問いに対し、彼女は少しだけ迷ったような素振りを見せた後、こう言った。

 

 

 

「えっとね……相談があるんだけど……」

 

 

 

 そんなアーディの困った表情にタクトはニッコリと笑っいながら返す。

 

 

 

「相談?もちろんいいですよ、自分にできることがあれば何でも協力しますよ」

 

 

 

 しばらくの間、静寂が続き、アーディは覚悟を決めたような表情で顔を上げ、口を開いた。

 

 

 

 

「1週間後、お休みをもらえてさ。よかったらなんだけど──「デートしてください」おぅ!?」

 

 

 

 

 その言葉を最後まで聞くことなく、タクトは即答した。

 

 

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、アーディはポカンとした表情を浮かべるが次第にアーディの顔に驚きと喜びが入り混じり、彼女は頬を赤らめながらそっぽを向いた。

 

 

 

 

 

「…も…もちろん」

 

 

 

 

「それじゃ、俺はもう一つ用事があるので、アーディさんもこれから頑張ってくださいね」

 

 

 

 

 そう言ってからタクトはその場から去っていった。

 

 

 

 

 そんな背中を後ろから見ていた彼女は小声で呟く。

 

 

 

「……今日のタクト君、なんだか積極的だったなぁ」

 

 

 

 

 アーディの心情には気づかず、タクトはアリーゼの元へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

「さて、武器の手入れも終わったし……後は……ッ!?」

 

 

 

 

 アリーゼはそこまで言いかけた瞬間、突然顔を顰め、胸に手を当てた。周囲を警戒しながら探すように目を動かす。そんな彼女の様子を見ていた輝夜が心配そうに尋ねる。

 

 

 

「どうしました?団長。体調でも悪いのですか?」

 

 

 

 

「乙女の感がピッピーッと反応したわ!……これは、ピンチかもしれないわね……」

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 アリーゼの言葉の意味を理解できず、戸惑う輝夜。

 

 

 

「輝夜もいつかわかるようになるわ!!」

 

 

 

 

「はぁ……わかりたくもありませんねぇ」

 

 

 

 

 アリーゼの言葉に対し、輝夜はどこか冷めた口調で言葉を返すとその話はそこで終わった。その後は何事もなかったかのよう、話を変えた。

 

 

 

 

「団長…小僧を参加させて本当に良かったのですか?」

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

「隻腕になったといえど、レアスキルにレア魔法持ち。純粋な強さだけでいえば、私よりも上。…ですが、今の小僧は万全ではありません。それに今日の様子では、まるで……何かを恐れているように見えましたが」

 

 

 

 しかしアリーゼは何の反応も返さなかった。その態度に、輝夜が痺れを切らし『貴方らしくない』そう口を開こうとしたその時だった。

 

 

 

 

「輝夜、貴方の言いたいことはわかるわ。普段の私なら絶対に参加させない。ただ──」

 

 

 

 

 アリーゼはそこで言葉を区切り、何かを振り払うように首を横に振ると言葉を続けた。

 

 

 

「雰囲気が似てたのよ、いや、同じだったって言ったほうがいいかしら」

 

 

 

 

「同じ?団長、それはどういう意味で?」

 

 

 

 

 輝夜はアリーゼの言葉に疑問を抱く。しかし、そんな問いに対する答えは返ってくる事は無かった。その代わりと言わんばかりに彼女が口にしたのは、先程とは打って変わって明るい声で紡がれた言葉だった。

 

 

 

「──まあ、どうだって良いじゃない!それにほらっ、もしなにかやらかしでもしたら輝夜に鍛え直して叱ってもらえば良いし!」

 

 

 

 

「団長……面倒事を押し付けるのは辞めてください」

 

 

 

 

「ふふ、冗談よ♪」

 

 

 

 

「貴方って人は本当に……ハァ」

 

 

 

 

 輝夜は大きく溜息を吐きながら、この話はここで終わりだと悟り話題を変えた。その後二人の会話は少しだけ続き、次第に陽も落ち始めた頃──

 

 

 

 

「アリーゼ…って輝夜さんも一緒か」

 

 

 

 

 不意に背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り向くとそこにはタクトがゆっくりと2人のもとへ足を運んでいた。そして彼はアリーゼと輝夜に近付くと、頭を軽く下げ。

 

 

 

「突然で悪いんだが、団長に頼みがあるんだ」

 

 

 

 

「!……あら、何かしら?」

 

 

 

 

 流石に突拍子のないタクトの発言に意表をつかれたのか、はたまた単純に珍しいこともあるものだと思ったのか……少し間を置いてから彼女は笑顔で言葉を投げかけた。

 

 

 

 

 そんな言葉にタクトは背筋を正すと重い口を開く様に話し始める。

 

 

 

 

 

闇派閥(イヴィルス)との戦闘が起こった場合、俺の単独行動を認めてほしいんだ」

 

 

 

 

 

 タクトの言った言葉にアリーゼは一瞬固まった。しかしそれもつかの間、すぐに表情を戻し言葉を放った。

 

 

 

 

「へぇ……面白いこと言うわね?。ダメよ、絶対に許可しないわ」

 

 

 

 アリーゼの目は鋭く相手を見つめ、タクトの言葉に一切の妥協を許さない威圧感を放っていた。しかし、タクトは怯むことなく言葉を続けた。

 

 

 

 

「それは何故?」

 

 

 

 

「逆にどうして1人で行動しようだなんて思うのかしら?」

 

 

 

 

 

「それは、単独で行動した方が効率的だからだ。そして何より……」

 

 

 

 

 タクトは一度言葉を区切るとアリーゼを見つめた。彼女の真剣な眼差しに見つめ返すと、こう言い切った。

 

 

 

 

 

「…俺は……もう団員じゃないから」

 

 

 

 

「へぇ、なるほどねぇ。そういうことなら仕方ないわね、それなら──」

 

 

 

 

 アリーゼはタクトの言葉を聞き終えると口角を上げて微笑む。そして直後、言葉を続けた。

 

 

 

 

 

 

 「──なんて言うわけないでしょ?ふざけないでちょうだい」

 

 

 

 

 その言葉と同時に彼女の雰囲気が変わるのがわかった。それは彼女が本気で怒っている証拠である事も同時に理解できた。しかしタクトも引かない。

 

 

 

 

「ふざけてるつもりはないし、至って真面目だ」

 

 

 

 

「……本気なの?」

 

 

 

「ああ、本気だ」

 

 

 

 

 アリーゼはタクトの目をじっと見つめる。そして暫く考えた後──はぁ……と大きく溜息を吐き出すと彼女は頭を掻きながらこう言った。

 

 

 

 

「わかったわ、好きにしなさい」

 

 

 

 

「おう、ありがと。んじゃ、俺は準備があるからこれで失礼するよ」

 

 

 

 

 それだけ言うとタクトはその場から立ち去った。そんなタクトの背中を見送りながらアリーゼは呟くように輝夜に言った。

 

 

 

 

「よく堪えたわね、輝夜。真っ先にブチギレたかと思ったわ」

 

 

 

 

「……小僧の発言が余りにも軽率だったもので。かえって冷静になりました」

 

 

 

 

「そっか、輝夜らしいわね。……それより」

 

 

 

 

 そこまで言うとアリーゼは真剣な表情で口を開いた。

 

 

 

 

「明らかに様子がおかしかったわね」

 

 

 

 

「ええ、何かあったと考えるのが自然かと。それに先の発言、確実にわざと私たちを挑発していましたねぇ」

 

 

 

 

 

「どうしてかしら……」

 

 

 

 

「さて、そこまではわかりかねます」

 

 

 

 

 

「まぁいいわ。それよりも、輝夜。タクトを注視しておいてくれるかしら。くれぐれも無茶な行動をしないように、単独行動は絶対に許さないわ!」

 

 

 

「承知しました、団長」

 

 

 

 

 その言葉を聞くとアリーゼは準備があるからと言いその場を後にした。残された輝夜は顎に手を当てて思案していた。

 

 

 

 

(小僧の雰囲気……何やら言い知れぬ不安に駆られる……ああ本当に面倒だ)

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

「……さて、仕込みは上々だ。後は時を待つだけ」

 

 

 

 

「仕込み?一体何を?」

 

 

 

 

 不意に後ろから声を掛けられた。その声に振り向くとそこには。

 

 

 

 

「えっと……………セルティさん」

 

 

 

 

 

 アストレアファミリアの魔導士。眼鏡をかけた緑髪の少女、セルティ・スロアが立っていた。

 

 

 

 

「……絶対名前忘れてたよね?絶対そうだよね?」

 

 

 

 

 セルティはじとーっとした視線をタクトに向ける。そんな視線にタクトは慌てて言葉を返した。

 

 

 

 

 

「あ、いや、忘れてたってわけじゃないんだけど、ちょっと思い出すのに時間が掛かったっていうか……あはは」

 

 

 

 

「それを世間では忘れていたというんだよ?」

 

 

 

 

 セルティはタクトを睨みつけると、彼の頬をつまむ。そしてグイグイと横に引っ張ったりした後に更に続ける。

 

 

 

 

 しかし、そんな彼女の行為にタクトは何も抵抗せずにされるがままになっていた。そんな反応が返ってくると思っていなかったセルティは唖然とした様子で呟く。

 

 

 

 

「元々君とはあまり話した事は無かったけど、最近は特に距離を感じるよ」

 

 

 

 

 セルティは頬を掴んでいた手を離すと、腕を組みながら言葉を続けた。

 

 

 

 しかしタクトは何も言葉を返す事無く黙ったままで、そんな態度に少し不安を覚えたのかセルティは尋ねるように口を開いた。

 

 

 

「どうしたの?どこか調子が悪いなら一旦マリューに診てもらったほうがいいんじゃない?」

 

 

 

 セルティの質問に、タクトは答えることなくたった一言、こう口にした。

 

 

 

──本当に夢のようだ……と。

 

 

 

 

 タクトの突然の言葉に、セルティは驚いて目を見開き、不思議そうに問い返した。

 

 

 

「なぜそう思うの?」

 

 

 

 

 タクトは微笑みながら、次の言葉を返した。

 

 

 

 

──こんな日々がずっと続けば良かった、と。

 

 

 

 

 その言葉が何を意味しているのかは誰にもわからない。しかし、目の前の少年はとても幸せそうに微笑んでいた。

 

 

 

 






近々投稿が1ヶ月くらい止まるかもしれません。

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