ACT1. 猫と豹の試験決闘
冬の寒さもすっかりなくなり、春の暖かな陽気が街を包む昼の駅前、会社員、学生、子供、家族連れといった人々で街が賑わっていた。そんななか、青年は叫び声を上げながら駅までの道を全力疾走しながら駆けていた。
「あぁ~!!なんで何時もは朝から騒いで人の安眠を邪魔する癖に今日だけは起こさないんだよ!!フィーユ!」
青年はなおも駅までの道を走りながら、誰かに抗議の声を上げた。しかし、青年について歩く人物はなく、周囲の人々は疑問に思って首を傾けつつ、青年を見送っていった。すると、どこからか明るいお転婆な声音で青年に声がかかった。
「そんなこと言ってもソーマが悪いんだぞ!アタシが近くにいると煩くて寝れないー!とか言って、アタシを鞄の奥深―くにしまってたんしゃないか!」
その言葉に青年、宿木 創真は顔を苦しそうに歪めながら腰のホルダーにしまっていたケースを取り出し、その中から一枚のカードを取り出し、視線をそのカードに向けて反論した。
「し、しかたねぇーだろ!昨日、人生で初めて飛行機乗ってこんな都会に来たんだぞ、お前と違って疲れたんだよ!」
「………そんなこといって、ホテルでアタシよりテンション上げてはしゃいでたのはソーマだったぞ!」
「う、うるせぇ~!」
創真が取り出したカードには「樹海の乙女フィーユ」と書かれており、彼女はそのカードの中で若干呆れつつ、ソーマと話している。短剣と弓矢を携え、独特な黄緑色の衣装に身を包み、愛らしい顔立ちをしていた。そんな彼女を見て、真っ先に気になるのはやはり頭と臀部にある猫のような耳と変幻自在に動いている尻尾だろう。そう、創真が先ほどまで話していた相手は人間ではなく、「Zillions of enemy X(数えきれない正体不明の敵)」通称:Z/Xと呼ばれるカードゲームに登場する、ライカンスロープの少女であった。
そんなこんなで、創真とフィーユが言い合いをしているうちに創真は駅の改札に着いた。しかし、
「ジリリリリィィィィィィィィ!!!」と、電車の発車を知らせるベルが、無情にも創真に告げてきた。
「うげぇ!あの電車に乗り遅れたら試験に間に合わねぇ!」
「急ぐんだぞ!ソーマ!」
創真は最後の力を振り絞り、ホームまでの会談を駆け下り、何とか、電車が発車する前に車内に飛び込んだ。
「やったぞ!ソーマ!これで試験に間に合うぞ!」
「…はぁ…はぁ…はぁ。もう無理、もう一生俺は走んねぇからな…」
創真は限界まで上がった息を整えつつ愚痴っていた。整え終わると顔を上げ、電車の窓から外を眺めて、笑みを作りつつ、
「…まぁ、やっとこれで始められそうだ。フィーユ、試験では頼むぜ」
「アタシに任しとけ!どんなゼクスだろうとアタシがブッ飛ばしてやるぞ!」
「おう!期待してるぜ」
「な、なんだよこれぇ…」
「あはは、あはは、あは…」
創真とフィーユが試験会場の大きなドームに着くと、乾いた笑い声が互いの口から漏れ出してきた。
人!人!人!人!人!
二人の目の前に飛び込んできたのはただそれだけだった。人の海、ドーム入り口から創真が居る最後尾まで海が続いている。優に500人を超えるであろう人の海に、創真は「こんなの試験受けるってレベルじゃねぇーぞ!」と叫びたくなったが、そんな元気すら湧いてこなかった。、テンションを下げつつ、創真もこの海に並ばないといけないと悟り、諦めて、列に並ぼうとすると…
「きゃあ!?」
と、海から悲鳴と同時に飛び出てくる影を見つけた。小さく可憐・華奢という言葉が似合う少女だった。淡い色をした髪を後ろで二つに結っている、青色のカチューシャがチャームポイントだろうか、全体的にいいとこの儚げなお嬢さん、といった印象を与える少女だった。
「おい、大丈夫か?あんた?」
そう、創真が手を差し伸べながら倒れている少女に問いかけると、「は、はい…ありがとうございます…」と、恥ずかしそうに顔を俯けながら、少女は、かぼそい声で創真の手を取り、お礼を言ってきた。
「あんたもアカデミアの試験受けに来たんだよな?噂には聞いてたけど、まさかこんな受験者がいるなんてな、驚いたぜ。こいつは並ぶだけでもうんざりしちまうな。」
「…毎年、500人から600人くらい受験者がいるみたいです…その中でも合格者は100~200人ですから…皆さんピリピリしていて…」
「そんな強張って試験挑んでもいい結果は生まれないと思うけどな」
「いつも焦ってミスするソーマが言うと説得力があるぞ!」
「うるせぇ!ほっとけ!」
そんないつもどおりの二人を見て少女は若干驚いた顔で「あ、あのぉ…」とおずおずと創真に喋りかけてきた。
「ん?どうかしたか?」
「…今の声…もしかして、パートナーゼクス…ですか?…」
「あぁ、そうだぜ、ほれ、こいつだ」
と、創真はフィーユのカードを取り出し、少女に見せた。
「フィーユだぞ!ソーマのパートナーをしているぞ!」
少女は「…よろしく」と微笑みながら挨拶すると同時に、肩に下げていたバックからデッキケースを取り出し、中から「ソードスナイパー リゲル」と書かれたカードを取り出して語りかけた。
「…リゲル…起きて…」
「どうかしましたアズミ?もう試験の時間ですか?」
「…違うよ…この二人に助けてもらったから…リゲルも挨拶して…」
「そうでしたか、初めまして、リゲルです。アズミを助けていただきありがとうございました。」
と、片手に大砲、バトルスーツに身を包んだ金髪の女性、リゲルはカードの中で創真とフィーユにお辞儀をした。
「フィーユだぞ!よろしくだぞ!」
「宿木創真だ、よろしくな。そっか、え~っと…「…菜(原 彩澄…です。」あぁ、菜原もパートナーゼクス持ってたんだな、持っている奴に初めて会ったぜ。」
「…私もです…」
「ま、お互いアカデミアで会えるよう頑張ろうぜ、そんときは、俺とバトルしてくれよな。」
「…はい…またお会いしましょう…」
そう互いに決意し、話しているうちに、海は引き、ドームの入り口が二人を待ち構えていた。
≪受験番号500番から525番の受験生の方、試験を始めます。至急、デュエルピットにお越しください。≫
控室で待っていると、やっと俺の受験番号がアナウンスされた。
「よし!筆記試験はダメダメだったからな、ここで巻き返す!張り切っていくぞフィーユ!」
「いっくぞぉ~!!」
俺がデュエルピットに着くと、黒髪のメガネをかけた女性がいた。女性は、俺の姿を見つけたらしく、すぐに声をかけてきた。
「受験番号517番、宿木創真君ですね。私は君の試験管としてバトルする黒川です。デュエルアカデミアは実力主義の学校です。だから言っちゃうけど、君は筆記試験の結果では、ギリギリだったから、このバトルにかかっているといってもいいわ、頑張ってね、といっても手加減はしないからそのつもりで。」
「はい!よろしくおねがいします!」
「いい返事ね、じゃあ、バトルフィールドについてくれる、実技試験を始めましょう。」
そういうと、黒川が立っていた、後ろの空いたスペースの地面から金属性の機械が次々と出てきて瞬時にファイトテーブルが向かい合うようにできていた。俺はテーブルにつき、デッキスペースに自信のデッキを置いた、すると、機械によって瞬く間に俺のデッキはシャッフルされた。
「では、デッキからプレイヤーカードとスタートカードをおいて、デッキから4枚、初期手札として引いてね。知ってるとは思うけどゲームが始まる前に一回だけ引き直せるわ。」
「はい!」と答え、俺はプレイヤーカード「緑の戦士S・K」とスタートカードのゼクスを置き、デッキから4枚を引いた。
創真 手札:4 名称 コスト/パワー 色
フィーユはいつも元気だぞっ!4/イベント 緑
農耕鳥人ウェアラーク 3/5000 緑
戦闘屍鬼アサルトコープス 6/8500 黒
のんびり屋のルリジッサ 4/5000 緑
《よし、まずまずの手札だな、出だしはこれでいい。》
「俺は手札交換、しません!この手札でいきます!」
「そう、私もこの手札でいいわ。それじゃあ、次に、デッキの上から君の命となるカード、ライフを4枚、ライフエリアに置いて、それから、あなたの力の源となるリソースをデッキから2枚置いて、これでバトルの準備が整うわ。」
俺は黒川の指示通り場をセットし、黒川のほうに顔を向け、合図を待った。
「準備できたみたいね…じゃあ、はじめましょうか!」
「はい!」そう言って俺は裏向きに置いたスタートカードとプレイヤーカードに手をつけ叫ぶ、Z/Xにおける戦いの宣誓を、デッキの仲間たちと自分に火をつけるための言葉を。
「「ゼクス!アクティベートイグニッション!!」」
そして、目の前で光が爆発し、俺の運命を決める戦場が世界に具現した。室内に設置された、最新のソリッドヴィジョンシステムを用意手作り出された世界は、決してヴァーチャルなどではなく現実(リアル)であった。俺の周りに広がるのは草木が茂る大地、俺の何十倍もの太さの大樹・蔓が辺り一面に伸びている緑の世界。植物が異常発達し、すべてを飲み込み、独自の生態系が築かれた世界。生命の王国であった。
対する前方、黒川先生の世界は…こちらとは対照的に、どす黒い空、腐蝕した建物、命が消え去り死んだ地面。生を笑い、屍を慈しみ、死者が蔓延る世界。不死者の国が具現されていた。
《バトルフィールドは使用するプレイヤーカードによってシステムが決定するんだよな。つまり、先生のデッキは黒を使用したデッキか、黒の特徴は何と言っても破壊効果、警戒しないとすぐにフィールドをがら空きにされる。》
そして、気づくと俺の隣には、一人の少年がいた。手には木製のヌンチャクに似ている武器、三節棍を携え、緑がかった金髪でおでこからは一本の木が、一角獣のように生えていた。
スタート:変幻の三節棍 山吹 (ヘンゲンノサンセツコン ヤマブキ) 3/4500 緑
(常)スタートカード(このカードをプレイヤースクエアに置いてゲームを開始できる。)
(起)〈《緑1》チャージにあるこのカードをトラッシュに置く。〉スクエアにあるゼクスを1枚選び、ターン終了時まで、パワーを+2000する。
黒川先生の隣にも、俺と同じようにゼクスが一体佇んでいた、四つの黒き翼を背から伸ばし、全身は拘束具で封じられている摩人、黒のディアボロス「復讐の魔人ウルティオー」だ。トラッシュからゼクスを回収するスキルを持っているため、黒のデッキではスタンダードなスタートゼクスといえる。
警戒しつつ俺は先生に問いかけた。
「先行・後攻はどう決めるんですか?」
「今回の試験では、受験者に決定権があるわ、お好きに選んでくれて構わないわ。」
それを聞いて俺は現在の手札、リソースを確認しつつ、
「じゃあ、後攻でおねがいします!」
「わかったわ、じゃあ私の先攻で開始するわ、第1ターンだからリブートフェイズとドローフェイズはスキップするわね」
Z/Xではドローフェイズでカードを2枚引くことができる。しかし、先攻第1ターンのみ、カードをドローすることはできない。そのため、先行のプレイヤーは手札的に厳しくなる場合が多い。
しかし、その分、先に相手を攻撃できるというアドバンテージもある。
「リソースフェイズ!イグニッションはできないから、このままメインフェイズに突入するわ!」
リソースフェイズ、このフェイズでは、ゼクスをこの戦場に維持させる力、リソースを手札からカードを1ターンに一枚、リソースエリアに置くことができる。先生はカードを一枚リソースに加え、これで先生のリソースは3枚となった。
そしてメインフェイズ、その名の通りこのゲームで一番重要なフェイズだ。Z/Xではこのメインフェイズでゼクスの召喚、戦場を左右するイベントのプレイ、相手への攻撃をプレイヤーの好きな順番で行うことができる。そのため、どのタイミングでどの行為をするか考えながらするのが重要になってくる。
「抹殺機械ヴォイドを中央エリア真ん中にプレイ!変幻の三節棍 山吹に攻撃するわ!」
戦場の中央に現れたのは浮かぶ球状の兵器、人間を殺戮するために製造された冷酷なる機械、青のキラーマシーン「抹殺機械ヴォイド」だ。
ヴォイドのパワーは5000、一方、山吹のパワーは4500、ヴォイドの放つレーザーによって山吹はなすすべなく倒れてしまった。
「くっ!?山吹が!」
「これで私はターンを終了するわ、宿木君、君のターンよ。」
なるほど…先生のデッキは青と黒で構成されているのか…青の特徴は手札補充と戦場のゼクスのバウンス…守りを抉じ開けて倒すって戦法か…
「俺のターン!リブートフェイズ!ドローフェイズ!そしてリソースフェイズ!」
俺は新たにデッキからカードを二枚引いた。
リトルガーディアン 3/イベント 緑
隠密鳥人ウェアクロウ 4/6000 緑
よし、まずまずだ、今後の展開では使えるだろう、
俺は手札を確認し、リソースにカードを1枚置いて宣誓した。
「俺は今、リソースに置いた「隠密鳥人ウェアクロウ」のスキルを発動!このカードがリソースに置かれたとき、「戦闘屍鬼アサルトコープス」があるならば、チャージにあるコスト3の変幻の三節棍 山吹をリソースにスリープで置きます!」
Z/Xでは、破壊されたゼクスは特定の条件下以外ではチャージゾーンに留まる。チャージには4枚まで置くことができる。例外を除いてそれ以上になるとチャージから4枚以内になるよう墓場:トラッシュに置く。
「流石は緑デッキね、1ターン目からリソースブーストをするなんて。」
そう、俺が使う緑の特徴はリソースを増やすリソースブーストとパワー上昇スキルだ。仲間を助け、仲間のために力を高める緑のデッキが俺は大好きだった。
「イグニッションフェイズをとばしてメインフェイズ!自軍エリアプレイヤースクエアに農耕鳥人ウェアラークをプレイ!抹殺機械ヴォイドに攻撃!」
さっきヴォイドによってがら空きにされた俺の横に光がさす、その中から現れたのは、手持ち籠に瑞々しく新鮮な野菜を敷き詰めた、薄紫のシャツを着た少女、ウェアラークだ。
およそ戦場で戦うにはそぐわない少女に見えるが、一目でその少女もただの人間ではないとわかる。視線は彼女の背中、艶やかな翼にたどり着く、少女の種族はライカンスロープ。
新たな生命が誕生を繰り返す緑の世界において、世界に適応するために動物のバイオ遺伝子を体内に取り込み、野生の力に目覚めた新たな人類だ。
俺のパートナー、フィーユも猫の因子を持つライカンスロープであり、ウェアラークも体内に鳥類:雲雀の因子を宿している。可愛いかおをしていても、俺たち人間の数十倍の力をふるえる。
そんなラークが前方に浮かぶ敵、ヴォイドへ飛翔し、空から攻撃した、ヴォイドは黒煙を巻き上げながら、その巨大な体を地面へと墜落させ、瞬く間に爆裂させた。
ラークはこちらに戻ってくるなり疲れたのか、座り込んでしまった。俺は戻ってきたラークに小声で「…ありがとう…」と言うと、ラークは疲れた顔ではあるが微笑んでくれた。
Z/Xでは反撃という概念がない、パワー5000のヴォイドも同じくパワー5000のラークに攻撃されれば、動けず一方的に攻撃を受けるしかない、それを防ぐには、スキルを使って応戦するか、戦場を変化させるイベントを起こすしかない。
「俺はこれでターンを終了させます。
「じゃあ、私のターン!リブートフェイズ!」
先生はそう言うと、さきほどヴォイドを召喚する際、横向き:スリープにしたリソース3枚を縦向き:リブートにした。これにより先生はこのターンまたリソースを使用することができるようにした。
「ドローフェイズ!リソースフェイズ!」
前のターン同様、先生は戦いの準備を進める。これでリソースは4、俺と並んだ、コスト4からはシンプルにパワーが高いゼクス、スキルを持つゼクスが登場し始める。油断大敵だ。
「イグニッションフェイズ!きみが前のターン、私のヴォイドを倒してくれたから、今、私のチャージには1枚置かれているは、あとは何をするかわかってるわよね?」
当然だ、このゲーム、Z/Xだけが持つ特別な行為がある。
それをするためのフェイズがイグニッションフェイズだ。
イグニッションフェイズでは自分のチャージをトラッシュに置くことで、デッキから一枚めくり、そのカードに特定のマーク「イグニッションアイコン」があれば、コストを支払わずプレイすることができる。逆境を跳ね除ける奇跡を起こすことが可能ということだ。
だが、アイコンがなければトラッシュ送りになるため、実行するタイミングが重要になってくる。
先生はチャージのヴォイドをトラッシュに送り、発動キーを叫んだ。
「イグニッション!オーバードライブ!「レーザーサイス アヴィオール」を中央エリア真ん中にプレイ!」
イグニッションによって現れたのは、機械的なフォルムをした大鎌を担いだツインテールの少女であった。
アヴィオールは、序盤で相手にするには辛いゼクスだ、できれば出てほしくなかったがしかたない。
「メインフェイズ!アヴィオールでウェアラークを攻撃!」
アヴィオールがラークめがけて突撃してくる。
上段に構えられた大鎌が、ラークを切り裂こうと振り下ろされるが、ラークは持っていた野菜籠で身を守った。
アヴィオールのパワーは3000。ラークは5000だから破壊されないが、攻撃を受けたラークを見ると、どこか様子がおかしい。
体を震わせ、前方のアヴィオールの鎌を見た瞬間、後ろに後ずさり、ついには飛び立ち、俺の手札に戻ってきてしまった。
これがアヴィオールのスキル。
アヴィオールが相手ゼクスを攻撃して、そのゼクスのパワーが5000以下ならば相手の手札に戻してしまう。
【レーザーサイス アヴィオール】 3/3000 青
(自)このカードが相手のパワー5000以下のゼクスにダメージを与えた時、そのゼクスを手札に戻す。
アヴィオールから攻撃を受けたラークは、パワー5000。アヴィオールのスキルの効果範囲に入ってしまうため、俺の手札に戻されたんだ。
「まだまだ、これで終わりじゃないわ!私はコスト4払い、敵軍エリア右に四足の勝利者ズィーガーを召喚!がら空きになったプレイヤースクエアに攻撃、ライフを頂くわ!」
俺から見て左横、黒い瘴気の霧が立ち上り、噴出する。その霧から出てきたのは4足魔獣、俺の身長を優に超える体長をしており、その咢からは魔剣のような鈍い輝きを持つ大牙が見えている。
黒の種族であるプレデターの一体、悪魔によって、他者の生命を喰らい、奪うためだけに生み出された魔獣。「四足の勝利者ズィーガー 」であった。
ズィーガーは鋭い爪を俺に向けて振り下ろそうとしている。
人をまるで薄い紙を引き裂くような、造作もないといった態度で、生命を屠る凶器を弄ぶ。
当然、俺の体はそれによって破壊されるだろう。
俺はとっさに恐怖で目をつむるが、爪と俺の間で攻撃を受け止めたものがあった。
俺の四枚のライフのうちの一枚だ。そのカードによってズィーガーは退けられた。
「これで一枚…きみのライフはあと3枚で、それがなくなれば君の負け。さぁ、砕かれたライフを確認して頂戴。」
俺は先生に促され砕かれたライフを確認した。
ライフはただの盾じゃない。イグニッション同様、俺に逆転する力を与えてくれる。
「破壊されたライフはイベント「月影葬送牙」だ!イグニションアイコンを持ってるカードがライフから出たとき、コストを支払わずプレイできる!おれは四足の勝利者ズィーガーを対象に発動!ズィーガーを破壊!」
月影葬送牙は、自分のリソースに黒のカードがあるとき、自分と味方のプレイヤースクエア以外のノーマルスクエアにいるゼクスを破壊できるイベントだ。
皮肉にもズィーガーは、自分自身の影から生まれたズィーガーの爪によって引き裂かれた。
「…。これで私はターンを終了するわ。」
強い。流石は天下のデュエルアカデミアの入学試験。開始2ターン目からライフを削られるなんて…。これがデュエルアカデミアの実力。
「そっかぁ…アカデミアにはこれ以上の実力をもったプレイヤーがわんさかいるのか…」
俺は小声でそうぼやくと、先生から声がかかった。
「どうしたの?まさか、もう、諦めちゃった?」
「全然!むしろ面白くなってきたぜ!」
そう言い返すと先生は俺を見ながら、微笑んで。
「そう、ならデュエルを再開しましょう
「はい!おねがいします!」
そうして俺は、気合を入れ直し、勝利のために、仲間のために先生に挑みなおす。
誤字・脱字、ルールミスなどありましたら感想にお願いします。
7/11/修正
先行のドローフェイズミス修正
アヴィオールの効果ミス修正