ありふれた魔術師が世界最強になるのは間違っていない   作:ミーラー

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第13話 最強の兆し

 

 

 

迷宮のとある場所に二尾狼の群れがいた。

 

 二尾狼は四~六頭くらいの群れで移動する習性がある。単体ではこの階層の魔物の中で最弱であるため群れの連携でそれを補っているのだ。この群れも例に漏れず四頭の群れを形成していた。

 

 周囲を警戒しながら岩壁に隠れつつ移動し絶好の狩場を探す。二尾狼の基本的な狩りの仕方は待ち伏せであるからだ。

 

 しばらく彷徨いていた二尾狼達だったが、納得のいく狩場が見つかったのか其々四隅の岩陰に潜んだ。後は獲物が来るのを待つだけだ。その内の一頭が岩と壁の間に体を滑り込ませジッと気配を殺す。これからやって来るだろう獲物に舌舐りしていると、ふと違和感を覚えた。

 

 二尾狼の生存の要が連携であることから、彼らは独自の繋がりを持っている。明確に意思疎通できるようなものではないが、仲間がどこにいて何をしようとしているのかなんとなくわかるのだ。

 

 その感覚がおかしい。自分達は四頭の群れのはずなのに三頭分の気配しか感じない。反対側の壁際で待機していたはずの一頭が忽然と消えてしまったのだ。

 

どういうことだと不審を抱き、伏せていた体を起こそうと力を入れた瞬間、今度は仲間の悲鳴が聞こえた。

 

混乱するまま、急いで反対側の壁に行き、辺りを確認するがそこには何もなかった。残った二頭が困惑しながらも消えた二頭が潜んでいた場所に鼻を近づけフンフンと嗅ぎ出す。

 

 その瞬間、地面がいきなりグニャアと凹み、同時に壁が二頭を覆うようにせり出した。

 

 咄嗟に飛び退こうとするがその時には沈んだ足元が元に戻っており固定されてしまった。もっとも、これくらいなら、二尾狼であれば簡単に粉砕して脱出できる。今まで遭遇したことのない異常事態に混乱していなければ、そもそも捕まることもなかっただろう。

 

 しかし、襲撃者にとってはその混乱も一瞬の硬直も想定したこと。二頭を捕らえるには十分な隙だった。

 

「グルゥア!?」

 

 悲鳴を上げながら壁に呑まれる二頭。そして後には何も残らなかった。

 

四頭の二尾狼を捕らえたのはもちろんハジメであった。反撃の決意をした日から飢餓感も幻肢痛もねじ伏せて、神水を飲みながら生きながらえ、魔力が尽きないのをいいことに錬成の鍛錬をひたすら繰り返した。

 

 より早く、より正確に、より広範囲を。今のまま外に出てもあっさり死ぬのがオチである。神結晶のある部屋を拠点に鍛錬を積み、少しでも武器を磨かなければならない。その武器は当然、錬成だ。

 

八幡は元々、チートなクラスメイトと同様にステータスにおいては、かなりチートだった。さらに神水の効果により、凝り固まっていた魔術回路が活性化した。

 

その結果、ここの魔物でも普通に攻撃を通すことなら出来るようになっていた。しかも、魔力量と圧縮率次第では、ここの魔物でも一瞬で消滅させることができる。これはとてつもない事だ。ここの魔物の強さは地上の魔物とは比べ物にならない。

 

俺達は神水を小さく加工した石の容器に詰め、ハジメの錬成を利用しながら迷宮を進み、標的を探した。

 

 そうして見つけたのが四頭の二尾狼だ。

 

 しばらく二尾狼の群れを尾行した。もちろん何度もバレそうになったが、その度に錬成で壁の中に逃げ込みどうにか追跡することができた。そして、四頭が獲物を待ち伏せるために離れた瞬間を狙って壁の中から錬成し、引きずり込んだのである。

 

「さぁて、生きてっかな? まぁ、俺の錬成に直接の殺傷力はほとんどないからな。石の棘を突き出したくらいじゃ威力も速度も足りなくてここの魔物は死にそうにないし」

 

「また俺が焼こうか?」

 

「絶対やめろよ!前せっかくオレが捕まえたってのに、全部消し炭にしたじゃねーか!」

 

少し前に、二尾狼の群れをハジメは捕まえたのだが、どうやって殺すか考えたところ、俺の魔術で、いい感じに焼こうと考えた。

 

結果は、威力調整をミスって全て消し炭になってしまった。そう、これがさっき言っていたここの魔物でも、一瞬で消滅させることができると確信した瞬間だった。

 

ここに来てからの初めて食事が出来るかもと期待していた分、俺達の損失感は結構なものだったが、まぁ必要な犠牲だろうと割り切った。

 

ギラギラと輝く瞳で足元の小さな穴を覗くハジメ。その奥には、まさに〝壁の中〟といった有様の二尾狼達が、完全に周囲を石で固められ僅かにも身動きできず、焦燥を滲ませながら低い唸り声を上げていた。

 

「窒息でもしてくれりゃあいいが……俺が待てないなぁ」

 

「確かに…俺も飢餓感で死にそうだ」

 

 ニヤリと笑うハジメの目は完全に捕食者の目だった。

 

 ハジメは、右腕を壁に押し当てると錬成の魔法を行使する。岩を切り出し、集中して明確なイメージのもと、少しずつ加工していく。すると、螺旋状の細い槍のようなものが出来上がった。更に、加工した部品を取り付ける。槍の手元にはハンドルのようなものが取り付けられた。

 

「さ~て、掘削、掘削!」

 

地面の下に捕らわれている二尾狼達に向かってハジメはその槍を突き立てた。硬い毛皮と皮膚の感触がして槍の先端を弾く。

 

「やっぱり刺さんないよな。だが、想定済みだ」

 

「あ〜やっぱ固いか…」

 

 なぜナイフや剣にしなかったのか。それは、魔物は強くなればなるほど硬いというのが基本だからだ。もちろん種族特性で例外はいくらでもあるのだが、自分の無能を補うため座学に重点を置いて勉強していたハジメは、この階層の魔物なら普通のナイフや剣は通じないだろうと考えたのだ。

俺はハジメに教えて貰った。

 

 故に、ハジメは槍についているハンドルをぐるぐる回した。それに合わせて先端の螺旋が回転を始める。そう、これは魔物の硬い皮膚を突き破るために考えたドリルなのである。

 

 上から体重を掛けつつ右手でハンドルを必死に回す。すると、少しずつ先端が二尾狼の皮膚にめり込み始めた。

 

「グルァアアー!?」

 

「痛てぇか? 謝罪はしねぇぞ? オレが生きる為だ。お前らも俺を喰うだろう? お互い様さ」

 

何かハジメがヤバいこと言ってるが…俺は気にせず、魔術の鍛錬を始める。とにかく、威力の調整は出来るようにならないとな。

 

「よし、取り敢えず飯確保」

 

「やっと手に入ったな……」

 

嬉しそうに嗤いながら、残り三頭にも止めを刺していく。そして、全ての二尾狼を殺し終えたハジメは錬成で二尾狼達の死骸を取り出し、片手に不自由しながら毛皮を剥がしていく。

 

そして、飢餓感に突き動かされるように喰らい始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇の中、緑光石の明かりがぼんやりと辺りを照らす。

 

その明りが僅かな影を映し出した。その影は、一頭の獣を前にして蹲り何かを必死に咀嚼している。

 

「あが、ぐぅう、まじぃなクソッ!」

 

「まぁ食わなきゃ死ぬから食うしかないんだが……」

 

悪態を吐きながら二尾狼の肉を喰らっているのは俺とハジメだ。

 

硬い筋ばかりの肉を、血を滴らせながら噛み千切り必死に飲み込んでいく。およそ二週間振りの食事だ。いきなり肉を放り込まれた胃が驚き、キリキリと痛みをもって抗議する。だが、二人はそんなもの知ったことかと次から次へと飲み込んでいった。

 

どれくらいそうやって喰らっていたのか、神水を飲料代わりにするという聖教教会の関係者が知ったら卒倒するような贅沢をしながら腹が膨れ始めた頃、二人の体に異変が起こり始めた。

 

「「あ? ――ッ!? アガァ!!!」」

 

突如全身を激しい痛みが襲った。まるで体の内側から何かに侵食されているようなおぞましい感覚。その痛みは、時間が経てば経つほど激しくなる。

 

「「ぐぅあああっ。な、何がっ――ぐぅううっ!」」

 

 耐え難い痛み。自分を侵食していく何か。二人は地面をのたうち回る。今まで経験してきた痛みが、まるでおままごとレベルに思える程の激しい痛みだ。

 

 二人は震える手で懐から石製の試験管型容器を取り出すと、端を噛み砕き中身を飲み干す。直ちに神水が効果を発揮し痛みが引いていくが、しばらくすると再び激痛が襲う。

 

「「ひぃぐがぁぁ!! なんで……なおらなぁ、あがぁぁ!」」

 

 二人の体が痛みに合わせて脈動を始めた。ドクンッ、ドクンッと体全体が脈打つ。至る所からミシッ、メキッという音さえ聞こえてきた

 

しかし次の瞬間には、体内の神水が効果をあらわし体の異常を修復していく。修復が終わると再び激痛。そして修復。

 

 神水の効果で気絶もできない。絶大な治癒能力がアダとなった形だ。

 

 二人は絶叫を上げ地面をのたうち回り、頭を何度も壁に打ち付けながら終わりの見えない地獄を味わい続けた。いっそ殺してくれと誰ともなしに願ったが当然叶えられるわけもなくひたすら耐えるしかない。

 

 すると、二人の体に変化が現れ始めた。

 

 まず髪から色が抜け落ちてゆく。許容量を超えた痛みのせいか、それとも別の原因か、日本人特有の黒髪がどんどん白くなってゆく。

 

 次いで、筋肉や骨格が徐々に太くなり、体の内側に薄らと赤黒い線が幾本か浮き出始める。

 

超回復という現象がある。筋トレなどにより断裂した筋肉が修復されるとき僅かに肥大して治るという現象だ。骨なども同じく折れたりすると修復時に強度を増すらしい。今、二人の体に起こっている異常事態も同じである。

 

 魔物の肉は人間にとって猛毒だ。魔石という特殊な体内器官を持ち、魔力を直接体に巡らせ驚異的な身体能力を発揮する魔物。体内を巡り変質した魔力は肉や骨にも浸透して頑丈にする。

 

 この変質した魔力が詠唱も魔法陣も必要としない固有魔法を生み出しているとも考えられているが詳しくは分かっていない。

 

 とにかく、この変質した魔力が人間にとって致命的なのだ。人間の体内を侵食し、内側から細胞を破壊していくのである。

 

過去、魔物の肉を喰った者は例外なく体をボロボロに砕けさせて死亡したとのことだ。実は、ハジメもこの知識はあったのだが、飢餓感がすっかりその知識を脳の奥に押し込めてしまっていた。

ちなみに俺は全く知らなかった……

 

 俺達もただ魔物の肉を喰っただけなら体が崩壊して死ぬだけだっただろう。

 

 しかし、それを許さない秘薬があった。神水だ。

 

 壊れた端からすぐに修復していく。その結果、肉体が凄まじい速度で強靭になっていく。

 

 壊して、治して、壊して、治す。

 

 脈打ちながら肉体が変化していく。

 

 その様は、あたかも転生のよう。脆弱な人の身を捨て化生へと生まれ変わる生誕の儀式。二人の絶叫は産声だ。

 

 やがて、脈動が収まり二人はぐったりと倒れ込んだ。その頭髪は真っ白に染まっており、服の下には今は見えないが赤黒い線が数本ほど走っている。まるで蹴りウサギや二尾狼、そして爪熊のようである。

 

 俺達は、何度か手を握ったり開いたりしながら自分が生きていること、きちんと自分の意思で手が動くことを確かめるとゆっくり起き上がった。

 

「……そういや、魔物って喰っちゃダメだったか……アホかオレは……まぁ、喰わずにはいられなかっただろうけど……」

 

「おい……俺知らなかったんだが?」

 

「まじ?」

 

「まじだ…」

 

「まっ、生きてたんだし別にいいだろ」

 

「はぁ〜」

 

 疲れ果てた表情で、自嘲気味に笑うハジメとため息をつく八幡。

 

 途方もない痛みに精神は疲れているものの、身体の痛みは全く無い。ベストコンディションといってもいいのではないだろうか。

 

「というか八幡、お前変わりすぎだろ」

「いや、お前も相当変わってるぞ」

 

今のハジメの見た目は完全に厨二キャラと言っていい見た目をしている。白髪に紅い目とかそのままだろう。

 

ハジメは自分の姿を確認するためか、錬成の鍛錬で作ったガラス板のようなものを取りだしていた。

 

「何じゃこりゃ…何か魔物みてぇだな……」

 

そう言って、自分の姿を確認したハジメはそのガラス板を俺に渡してきたので、俺はそのガラス板を覗き見た。そこには、白髪というより銀髪のイケメン、ではなくしっかりと腐った目をした俺がいた。

 

今までの俺を銀髪にした感じだろうか?いやでもちょっと腐った目の色が違う気がするな…紫っぽくなってるな。

 

というか、神水ってあらゆる傷や病を治す力があるんだったよな?でもそれだと、俺のこの腐り目は欠損部位レベルの重症ってことになっちゃうんだけど……まぁ今更だし別に良いんだが…

 

俺はとりあえず顔から離れ、身体の方に視線を向けた。腕や腹を見ると明らかに筋肉が発達している。実は身長も伸びている。それはハジメもだ。以前のハジメの身長は百六十五センチだったのだが、現在は更に十センチ以上高くなっている。

 

「オレ達の体どうなったんだ? なんか妙な感覚があるし……」

 

「確かに……何か力が漲ってるくる感じがする…」

 

 体の変化だけでなく俺達は体内にも違和感を覚えていた。温かいような冷たいような、どちらとも言える奇妙な感覚。意識を集中してみると腕に薄らと赤黒い線が浮かび上がった。

 

「うわぁ、き、気持ち悪いな。なんか魔物にでもなった気分だ。……洒落になんねぇな。そうだ、ステータスプレートは……」

 

「もう頭がついていけないんだが……」

 

すっかり存在を忘れていたステータスプレートを探してポケットを探る。どうやら失くしていなかったようだ。現在の俺達のステータスを確認する。体の異常について何か分かるかもしれない。

 

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:8

天職:錬成師

筋力:100

体力:300

耐性:100

敏捷:200

魔力:300

魔耐:300

技能:錬成・魔力操作・胃酸強化・纏雷・言語理解

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比企谷ハチマン 17歳 男 レベル:8

天職:魔術師、召喚士

筋力:300

体力:500

耐性:300

敏捷:300

魔力:800

魔耐:500

技能:魔術・召喚魔法・召喚陣作成・召喚詠唱補助・魔術礼装スキル作成・魔力操作・魔法回路・高速魔力回復・鑑定・胃酸強化・纏雷・令呪・言語理解

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「「……なんでやねん」」

 

驚愕のあまり思わず関西弁でツッコミを入れるハジメと八幡。ステータスが軒並み急増しており、技能も三つ増えている。しかもレベルが未だ8にしかなっていない。レベルはその人の到達度を表していることから考えると、どうやら二人の成長限界も上がったようだ。

 

とんでもないステータスに唖然としながら眺めていた俺は、さらに不思議な現象を目の当たりにした。

 

「ん?」

 

「どうした?」

 

「これ見てくれ」

 

俺のステータスプレートをハジメに見せる。

 

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比企谷ハチマン 17歳 男 レベル:8

天職:魔術師、召喚士

筋力:300

体力:500

耐性:300

敏捷:300

魔力:900

魔耐:500

技能:魔術・召喚魔法・召喚陣作成・召喚詠唱補助・魔術礼装スキル作成・魔力操作・魔法回路・高速魔力回復・鑑定・胃酸強化・纏雷・令呪・言語理解

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「おいおい、どういう事だ!?魔力の数値がだんだん上がっていってるじゃねぇか!」

 

そう、俺の魔力の数値だけ、時間を重ねる毎にどんどん上がっていっているのだ。

 

だがその後、魔力値が1000になってから数値が上昇することはなかった。

 

「数値が止まったな。ん?」

 

「何かわかったか?」

 

「いや、今度は力が抜けていく感覚がしてな」

 

「さっきは力が漲ってくるって言ってなかったか?」

 

「ああ、今もその感覚はあるんだが……」

 

ここで少し整理してみよう。まずステータスの魔力値が上昇した。つまり、この力が漲ってくる感覚は魔力によるものだと分かる。

 

そして力が抜けていく感覚、これはおそらく、人の身体には、魔力を溜められる許容量があるのだろう。

 

そして俺の魔力許容量は数値で表せば1000という事だ。そしてそれ以上溜められない魔力は、体外に放出している。といった所か。

 

しかし、まだ疑問が残っている。そもそも、この湧き上がる魔力はどこから来たのか。という疑問だ。

 

「ん〜わかんねぇなぁ〜オレも確かに身体はだいぶ軽くなったが、魔力が湧き上がってくる感覚なんかないぞ……実際、オレのステータスは上がってないしな」

 

「だとすると……魔術回路の方に何かあるかもしれない」

 

「確か…自分の生命力を代償に…魔力を生み出す器官…だったよな?」

 

「ああ、そっちに何か異常があるかもしれない」

 

俺はそう言って、自分の身体の中にある魔術回路を探った。

 

「なんじゃこりゃ!?」

 

「どっか悪かったのか?」

 

「いや……何と言うか……すごい事になってた…」

 

「ん?どういうことだ?」

 

俺の魔術回路は元々あった回路を基盤に、四方八方に枝分かれするように分かれ、身体中に行き渡っていた。

 

しかもずっと起動しっぱなしで、魔力を生み出し続けている。だがここで疑問が湧く。

 

ならなぜ俺の生命力は減っていないのか。という疑問だ。実際、俺のステータスの体力が全く減っていない。

 

基本的に魔術というのは、"無"から"有"を生み出すことは出来ない。全てが等価交換で成り立っている。魔術回路もそうだ。生命力を代償にした分だけ魔力を生み出す。

 

そこから導き出される答えは……

 

これはもはや……魔術回路ではないということだ。

この回路は完全に、"無"から"有"を生み出している。

 

二人はまだ気付いていないが、これが八幡の技能欄に新たに追加された魔法回路という技能だ。

 

魔術回路も八幡達の身体と同様に、魔物の変質した魔力に晒され続け、崩壊しかけた魔術回路を神水が回復させ続け、身体の成長と共に魔術回路も成長した結果だ。

 

「つまり…今までは生命力を代償に魔力を生み出していたが、今は代償なしで魔力を生み出し続けてるって事か?」

 

「そういう事だな」

 

「このチートやろうがぁぁぁあああ!!!」

 

ハジメがそう言うのも無理ないだろう。

これはつまり、八幡が生きてさえいれば永遠に魔力を生み出し続ける炉心なのだ。バカみたいな使い方をしなければ、魔力が尽きることは無い。

まさにチートだ。

 

「まったく…これだからチートってやつは…」

 

あ、これ落ち込んでるやつだ…

ハジメとは長い付き合いなのでだいたい分かる。

何か掛ける言葉はないかと思案するが、その必要がない事に気がついた。

 

「まっ…無いものをねだっても意味ないしな。オレはオレの出来ることをやるだけだ」

 

ハジメだってここに来て成長しているのだ。

確かに少し落ち込んだのは事実だが、八幡の元のステータスから、チートなのは分かっていた。

 

チート集団の中での唯一の鍛治職である自分にしか出来ないこともあるはずだと、すぐに心を入れ替えた。

 

そしていつか、八幡に追いついてやると心に決めた。

 

「よし!じゃあまず…この魔力操作ってやつから見ていくか」

 

「…おう!」

 

本当に…ハジメはすげぇよ。

もし俺がハジメの立場なら、あの一瞬で立ち直れただろうか……無理だろうな…たぶん丸一日は寝込んでいるだろう。

 

改めてハジメの凄さを実感して、俺も負けられないと心に喝を入れ、魔力操作の検証に取り掛かった。

 

お馴染みの鑑定を使おうと思ったが、ハジメがもう使いこなしていた。

 

「おっ、おっ、おぉ~?」

 

 なんとも言えない感覚につい声を上げながら試していると、集まってきた魔力がなんとそのまま右手にはめている手袋に描かれた錬成の魔法陣に宿り始めた。驚きながら錬成を試してみるハジメ。するとあっさり地面が盛り上がった。

 

「マジかよ。詠唱いらずってことか? 魔力の直接操作はできないのが原則。例外は魔物。……やっぱり魔物の肉食ったせいでその特性を手に入れちまったのか?」

 

「詠唱がいらないのはかなり助かるな」

 

今度は俺が、纏雷を試すことにした。

 

俺はバチバチと弾ける静電気をイメージする。すると右手の指先から紅い電気がバチッと弾けた。

 

「どうやら…魔物の固有魔法はイメージが大事らしい」

 

「なるほどな」

 

 その後もバチバチと放電を繰り返す。しかし、二尾狼のように飛ばすことはできなかった。おそらく〝纏雷〟とあるように体の周囲に纏うか伝わらせる程度にしかできないのだろう。電流量や電圧量の調整は要練習だ。

 

最後の〝胃酸強化〟は文字通りだろう。魔物の肉を喰って、またあの激痛に襲われるのは勘弁だ。しかし、迷宮に食物があるとは思えない。飢餓感を取るか苦痛を取るか。その究極の選択を、もしかしたらこの技能が解決してくれるのではと俺達は期待する。

 

 二尾狼から肉を剥ぎ取り〝纏雷〟で焼いていく。流石に飢餓感が癒された後で、わざわざ生食いする必要もない。強烈な悪臭がするが耐えてこんがりと焼く。

 

 そして、意を決して喰らいついた。

 

 十秒……

 

 一分……

 

 十分……

 

 何事も起こらない。

 

 俺達は次々と肉を焼いていき再び喰ってみる。しかし、特に痛みは襲って来なかった。胃酸強化の御蔭か、それとも耐性ができたのか。わからないが俺達は喜んだ。これで飯を喰う度に地獄を味わわなくて済む。

 

 腹一杯まで肉を喰った俺達、一度拠点に戻ることにした。あの爪熊に勝てる可能性ができたのだ。しばらく新たな力の習熟に励むことにしたのである。

 

 他の二尾狼から肉を切り分ける。最初に比べ幾分楽に捌くことができた。肉をある程度石で作った容器に入れると二人は慎重に神結晶のある拠点に戻っていった。

 

 

 

 

 






少し先になると思いますが、もちろんハジメくんの強化も予定してます。


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