ありふれた魔術師が世界最強になるのは間違っていない   作:ミーラー

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第16話 蹴りウサギ戦

 

 

 

俺とモルガンは、薄暗い迷宮の中を歩き、ハジメのいる拠点まで帰ってきた。

 

「ハジメ、戻ったぞ」

 

「八幡か、一体どこほっつき歩いてたん……だ?」

 

ハジメはこちらに振り向いた瞬間固まった。

まぁそうなるよなぁ〜さて、どう説明するか…

 

俺がそんなことを考えていると……

 

「はじめまして我が夫の親友、南雲ハジメ」

 

「は?いやちょっと待て!おい八幡!ちょっとこっち来い!」

 

俺はハジメに連れ去られ、モルガンから少し離れた所でハジメが当然の疑問を投げかけてきた。

 

「おい!どういう事か説明しろ!さっき我が夫とか言ってたが?まさかお前、洗脳でもされたのか?だったらアイツは敵だ!敵は殺さないといけない!」

 

「おいハジメ!ちょっと落ち着け!全然かすってもないからな?いいから落ち着け!」

 

「どこをどうしたら落ち着いていられる!数十分前にどっかに行ったお前が、何で嫁連れて戻ってくるんだよ!信用出来るか!」

 

うん……正論だわ。だが、何がなんでも信用してもらわないといけない。

 

俺はハジメに、この数十分のうちに起こったことを話した。

 

 

 

「なるほどな……何となくあの人の顔に見覚えがあると思ったが、そういう事か……」

 

「そういう事だ」

 

「はぁ〜まぁ戦力が増えたと思う事にするか…問題ないんだろ?」

 

「ああ、俺達よりとんでもなく強いからな」

 

俺達が二人で倒しに行っても、一瞬で瞬殺だろう。まぁやらないけど。ハジメもそれを理解しているのか、もう暴走する気配は無い。とりあえず俺達は、モルガンの所に戻ることにした。

 

「えっと……はじめまして……とりあえず、アンタの事はどう呼べばいい?それと話し方は?」

 

どうやらハジメは、モルガンの放つカリスマにあてられているようだ。今のハジメに対して効果があるカリスマとかヤバイな。

 

「モルガンと呼ぶ事を許します。話し方も普段通りでいいでしょう。アナタは我が夫の親友なのですから」

 

「分かった。俺達の状況は八幡から聞いてるのか?」

 

「ええ、聞いた訳ではありませんが、全て把握しています」

 

「なら、俺達の目的についても?」

 

「まず、この迷宮を攻略し脱出する事。そして最終的な目的は、元の世界に帰ること」

 

「そこまで把握してるって事は、俺達の目的に協力してくれるってことで、いいんだな?」

 

「ええ、勿論。夫の行くところに妻が行くのは当然でしょう」

 

何か我が夫って人の前で言われるのむず痒いな……まぁ嬉しいんだが。

 

「何かめちゃくちゃ調子狂うな……」

 

「そりゃ女王の前だからな」

 

「お前何ともないのかよ」

 

「そりゃもちろん」

 

「はぁ〜そういや夫だもんな……」

 

と、軽く雑談しながら、俺達はさっそく目的のために行動を開始した。

 

俺達の次のターゲットはあの蹴りウサギだ。

ヤツを乗り越えなければ、爪熊攻略など夢のまた夢だ。とは言っても、モルガンがいるので心配はしていない。

 

そうして俺達は蹴りウサギ打倒を目標に、迷宮を探索していた。それから数分後に目的のターゲットを発見した。

 

どうやら奴は、今食事をしているらしい。

俺達は岩陰に隠れ、俺は解析を発動させた。

 

===============================

蹴りウサギ レベル 68

 

筋力:2960

体力:2500

耐性:2430

敏捷:2600

魔力:2000

魔耐:1800

 

状態:食事中

 

技能:魔力操作・天歩[+空力][+縮地]

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やはり、この奈落の魔物はとんでもないな……

まだ二尾狼しか見たことなかったが、アイツもとんでもないステータスしてたし……

 

それと、この技能は?

 

===============================

天歩

蹴りウサギの持つ固有技能。蹴りウサギの機敏な運動能力が技能化したもの。

 

[+空力]

天歩の派生技能。

空中を足場にすることが出来る。

空力を発動させ続けることで、空中戦を可能にする。

 

[+縮地]

天歩の派生技能。

足元に魔力を溜め込むことで発動する。

熟練者が使えば、目で追えない速度で移動することが可能。

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なるほど、この技能だけでもとんでもない強さだ。空力も縮地も、かなり応用の幅が広そうだし、持っていれば幅広い戦闘が可能だろう。

 

蹴りウサギの技能も分かったところで、今ヤツは食事中。この好機を逃すつもりは無い。俺はハジメと即座にアイコンタクトをとり、岩陰から顔を出しガンドを発動。

 

蹴りウサギは、俺達が動いたことで生じた音を聞き反応したが、振り向いた所には既にガンドが迫っていた。食事中というのもあり油断していた所をつかれ、呆気なくガンドを受けてしまった。

 

蹴りウサギにガンドが効いた瞬間、ハジメは自身の相棒、ドンナーを構え照準を合わせる。そして即座に纏雷を発動し、発生した雷を銃身へ注いでいく。独特の機械音が鳴り響き、赤いスパークが迸る。

 

銃身の先端が赤く光った瞬間、爆裂音と共に一筋の赤い光が、蹴りウサギの頭に突き刺さった。少し遅れて、蹴りウサギの頭は木っ端微塵に爆散した。

 

「罠も必要かと思って用意しておいたが、杞憂だったみたいだな」

 

「用意しておいて損は無いから別にいいだろ」

 

それにしても、ハジメのドンナーヤバイな……

オーバーキルもいいとこだ。蹴りウサギの首から上がないんだが……

 

こうして、俺達を見下した蹴りウサギ戦は呆気なく終了した。

 

「お疲れ様でした。我が夫。親友というだけあって、いい連携ですね」

 

そう言いながらモルガンがこちらにやって来た。

モルガンにはなるべく静観するようにお願いしていた。あの爪熊を殺すまでは、自分達の力で何とか出来るようにしたいという思いが強かったからだ。

 

「悪いな、静観しててくれなんてお願いして」

 

「よいのです。我が夫の成長に必要な事だと理解しています」

 

相変わらず凄まじい妻力を発揮しているモルガンに、八幡は感謝の思いしか湧かない。やはりモルガンには頭が上がらないな。と呑気に考えていると、ハジメが話しかけてきた。

 

「八幡、とりあえず飯にするぞ」

 

「了解だ」

 

俺はハジメに返事を返すと、ハジメは蹴りウサギの死体を持って、拠点へと歩き出した。そして俺はモルガンに話しかける。

 

「モルガン、俺達は飯にするがモルガンはどうする?」

 

モルガンも一応受肉して肉体を持っている。食事は必要だろう。とはいえ、ここには食べる物が魔物の肉だけしかない。モルガンにあの激痛を味合わせる訳にはいかない…

 

あれ?これって結構まずくね?

 

「我が夫の疑問と考えは分かります。ですが心配無用です。そのあたりは魔術でどうとでもなります。最悪の場合は聖杯を使えば解決です」

 

フランシス・ドレイクがやっていた聖杯の使い方だ。なるほど、確かにそれなら大丈夫だな。というか、聖杯いくつ持っているのだろうか……

 

「それと、この迷宮を私の魔術工房にしたいですね」

 

「なるほど…」

 

モルガンの作る魔術工房……

誰も突破できる気がしないな……

もしここの迷宮を攻略しに来た人がいたら、ご愁傷さまとしか言いようがない。

 

「とりあえず、この迷宮が何階層で構成されているのか調べます」

 

そう言ってモルガンは周囲の探知を開始した。

そして数秒した後、固まった。

 

「ん?どうかしたか?」

 

「我が夫…この迷宮の破壊の許可を…下さい」

 

「へ?」

 

どういう事だ?全く意味が分からない。モルガンが探知を始めてから数秒しか経っていない。そして固まったかと思ったら、この迷宮の破壊を許可して欲しいとの事。

 

「三十階層までは調べたのですが…それ以上は…調べられません……」

 

モルガンが調べられない……

口調からして、モルガンですら分からない何かがあった。という事は無いだろう。となると、モルガンが調べたくない、見たく無い物。という事になる。

 

つまりモルガンの苦手なもの………

 

「もしかして、虫型の魔物とかいた?」

 

「流石は我が夫…その通りです」

 

うん…それなら納得した。

モルガンの唯一と言ってもいい弱点が虫だからな〜

 

でも急に虫が出てきた時の驚いたモルガンとかちょっと見てみたい気が……

 

「我が夫。そのような事を考えるのですね」

 

モルガンがジト目で俺を見る。

 

「あっ……」

 

忘れてた………ヤバい!どうする?嫌われる?

せっかく出会えたのに……こうなったら俺が出来ることは一つ。

 

「申し訳ありませんでした。もう二度と考えないので許してください」

 

土下座である。こういう時は自分の罪を認め、潔くなりましょう。出会って一時間程でお別れなど冗談じゃない。絶対にモルガンを幸せにすると誓ったのだから。

 

「顔を上げて下さい。先程のような事を考える我が夫には少し罰が必要ですね」

 

「はい」

 

反射的に頷いてしまったが、モルガンからの罰を受けて生き残れる気がしない。

 

「この迷宮にはおそらく、虫型の魔物が多く存在します。ですので、あまり私から離れないで下さい」

 

ん?それは罰なんだろうか?むしろご褒美みたいなものなのだが……

 

「南雲ハジメとの時間を大切にし過ぎて、私との時間を蔑ろにはせぬように」

 

「もしかしてモルガン、ハジメに嫉妬してる?」

 

俺はそれとなく聞いてみた。

 

「……そのような事は……ありません……」

 

薄らと頬を赤くしながら言ってきた。何だこのかわいい生き物は!モルガンってこんな感じだったか?まぁかわいいからいいんだけど……

 

「安心してくれ、少なくとも俺から離れる事は絶対に無い」

 

俺はモルガンの眼をしかっりと見つめ、ハッキリと言った。推しから離れる理由などない。

 

「そうですか…いいでしょう。今回の件は許します。ですので、先程言った通り、あまり迷宮内では私から離れないように」

 

「ああ」

 

「ふふっ、それでは私は魔術工房の作成に取り掛かりますので」

 

モルガンは少し微笑みながらそう言って、どこかへ行ってしまった。

 

俺はこの短時間でいろいろなモルガンを見れた事を嬉しく思いながら、ハジメのいる拠点に向かったのだった。

 

 

 

 


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