ありふれた魔術師が世界最強になるのは間違っていない   作:ミーラー

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第17話 宿敵

 

 

 

「むぐ、むぐ……ウサギ肉ってもマズイことに変わりねぇな……」

 

「むぐ、そうだな…むぐ」

 

何とかモルガンに許してもらった俺は現在、ハジメと一緒に拠点でモリモリとウサギ肉を食べていた。ウサギということで多少はマシな味なのではと期待した俺達だったが、所詮は魔物の肉。普通に不味かった。

 

 それでも丸一匹、ペロリと平らげる。

 

「さて、初めて蹴りウサギの肉を喰ったわけだが……ステータスは……」

 

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:12

天職:錬成師

筋力:200

体力:300

耐性:200

敏捷:400

魔力:350

魔耐:350

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・言語理解

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比企谷ハチマン 17歳 男 レベル:12

天職:魔術師、召喚士

筋力:400

体力:550

耐性:400

敏捷:500

魔力:1350

魔耐:700

技能:魔術[+火属性]・召喚魔法・召喚陣作成・召喚詠唱補助・魔術礼装スキル作成・魔力操作[+部分強化][+効率上昇] [+魔力圧縮][+遠隔操作]・魔法回路・高速魔力回復・鑑定[+解析]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・令呪・言語理解[+速読]

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 やはり魔物肉を喰うとステータスが上がるようだ。二尾狼ではもう殆ど上がらなかったことを考えると喰ったことのない魔物を喰うと大きく上昇するらしい。

 

早速、〝天歩〟を使ってみる。解析眼で使い方は分かっているので、足元が爆発するイメージで一気に踏み込む。

 

すると、体内の魔力が一瞬で足元に集まる。踏み込んだ足元がゴバッと陥没し、瞬きする間に壁が目の前に迫る。これが[+縮地]だ。

 

俺は落ち着いて、瞬時に身を捻り脚を壁に向ける。そしてもう一つの派生技能である、[+空力]を発動させる。

 

イメージは壁と自分の足の間の空中に、透明のシールドを置く感じだ。

 

俺はそのシールドを足場に、縮地のスピードを殺す。

 

その結果、何とか顔面ダイブする事は無かった。

 

ハジメはしっかりダイブしていたが……むっちゃ痛そうだ…ん?こいつ今神水飲まなかったか?

気の所為だよな……

 

神水は貴重だから扱いには気を付けないとな。

 

俺達はその後も鍛錬をし続けた。

 

目標はーー爪熊。

 

おそらく、遠距離からの銃撃と魔術で片はつくだろうが、念の為に鍛えておく。あの化け物より強い魔物がふらりと現れる可能性も否定できない。迷宮では楽観視した者から死んでいく。爪熊を倒したら、この階層からの脱出口も探さなければならない。

 

まだまだ油断は出来ないと気合いを入れ直した。

 

 

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 〝天歩〟を完全にマスターした俺達は〝縮地〟で地面や壁、時には〝空力〟で足場を作って高速移動を繰り返し宿敵たる爪熊を探していた。

 

 本来なら脱出口を探すことを優先すべきなのだろうが、特にハジメはどうしても爪熊を殺りたかった。一度は砕かれた心、それをなした化け物を目の前にして自分がきちんと戦えるのか試さない訳にはいかない。

 

「グルゥア!」

 

 途中、二尾狼の群れと遭遇し一頭がハジメに飛びかかる。ハジメは冷静に、その場で跳躍し宙返りをしながら錬成した針金で右足の太ももに固定したドンナーを抜き発砲する。

 

ドパンッ!

 

 燃焼粉の乾いた破裂音が響き、〝纏雷〟で電磁加速された弾丸が狙い違わず最初の一頭の頭部を粉砕した。

 

俺の方には三頭同時に接近してきた。俺は距離をとりつつ、魔術で火球を生み出し牽制を行う。二尾狼達はそれらをかわし、俺との距離を詰めてくる。

 

そして、三頭の内の二頭が左右に展開する。俺を囲んで捕らえようとしているのだろう。俺はそれを敢えて見逃し、自分の周りを囲わせる。

 

二尾狼達は囲んだ瞬間、一斉に喰らいついてきた。俺は自分の身体を中心に、周りに炎の渦を発生させる。小規模の炎の竜巻だ。

 

一気に飛びついてきた二尾狼達は、足元から出てきた攻撃に反応できず、炎の渦に呑まれていった。

 

俺が試していたのは魔力の遠隔操作だ。火の魔術を使ってすぐに、魔力操作で炎の形状を変化させたのだ。

 

まぁ炎の渦を出す魔術式をあらかじめ作っておけばいいだけなのだが、魔力操作の技能はかなり応用の幅があるので、極められるなら極めたいところだ。

 

そして、ハジメの方も戦闘が終わりすぐに移動を開始する。

 

 しばらくそうやって出会う蹴りウサギや二尾狼を瞬殺していると、ようやく宿敵の姿を発見した。

 

 爪熊は現在食事中のようだ。蹴りウサギと思しき魔物を咀嚼している。その姿を確認するとハジメはニヤリと不敵に笑い、悠然と歩き出した。

 

 爪熊はこの階層における最強種だ。主と言ってもいい。二尾狼と蹴りウサギは数多く生息するも爪熊だけはこの一頭しかいない。故に、爪熊はこの階層では最強であり無敵。

 

 それを理解している他の魔物は爪熊と遭遇しないよう細心の注意を払うし、遭遇したら一目散に逃走を選ぶ。抵抗すらしない。まして、自ら向かって行くなどあり得ないことだ。

 

 しかし、現在、そのあり得ないことが目の前で起こっていた。

 

「よぉ、爪熊。久しぶりだな。俺の腕は美味かったか?」

 

「忘れたとは言わさねぇぞ」

 

爪熊はその鋭い眼光を細める。目の前の生き物共はなんだ? なぜ、己を前にして背を見せない? なぜ恐怖に身を竦ませ、その瞳に絶望を映さないのだ? 

 

 かつて遭遇したことのない事態に、流石の爪熊も若干困惑する。

 

「リベンジマッチだ。まずは、俺が獲物ではなく敵だと理解させてやるよ」

 

 そう言って、ハジメはドンナーを抜き銃口を真っ直ぐに爪熊へ向けた。

 

 ハジメは構えながら己の心に問かける。「怖いか?」と。答えは否だ。絶望に目の前が暗くなることも、恐怖に腰を抜かしガタガタ震えることもない。あるのはただ、純粋な生存への渇望と敵への殺意。

 

 ハジメの口元が自然と吊り上がり獰猛な笑みを作る。

 

「殺して喰ってやる」

 

 その宣言と同時にハジメはドンナーを発砲する。ドパンッ! と炸裂音を響かせながら毎秒三・二キロメートルの超速でタウル鉱石の弾丸が爪熊に迫る。

 

「グゥウ!?」

 

 爪熊は咄嗟に崩れ落ちるように地面に身を投げ出し回避した。

 

 弾丸を視認して避けたのではなく、発砲よりほんの僅かに回避行動の方が早かったことから、おそらくハジメの殺気に反応した結果だろう。流石は階層最強の主である。二メートル以上ある巨躯に似合わない反応速度だ。

 

 だが、完全に避け切れたわけではなく肩の一部が抉れて白い毛皮を鮮血で汚している。

 

爪熊の瞳に怒りが宿る。どうやらハジメを〝敵〟として認識したらしい。

 

「ガァアア!!」

 

 咆哮を上げながら物凄い速度で突進する。二メートルの巨躯と広げた太く長い豪腕が地響きを立てながら迫る姿は途轍もない迫力だ。

 

「ハハ! そうだ! 俺は敵だ! ただ狩られるだけの獲物じゃねぇぞ!」

 

俺は今回、基本的にサポートに徹する。この戦いは、ハジメの心が前に進むために必要な儀式だ。

 

だからこそ、ここぞという時の強化や、本当にヤバい時の対処をするくらいだ。

 

こちらに向かって来ない限り、攻撃するつもりは無い。

 

その間にも戦況は変わっていく。ハジメが爪熊の攻撃を躱し、バックステップをとりながら爪熊の足元に〝閃光手榴弾〟を落とす。

 

爪熊がその物体を視認した時、カッと強烈な光を放った。

 

当然、そんな兵器など知らない爪熊はその閃光を見てしまい、一時的に視力を失った。初めての出来事にパニックに陥り、両腕を振り回しながら咆哮を上げもがく。

 

その隙を見逃さず、ハジメはドンナーを発砲する。電磁加速された絶大な威力の弾丸が暴れまわる爪熊の左肩に命中し、根元から吹き飛ばした。

 

「グルゥアアアアア!!!」

 

 その生涯でただの一度も感じたことのない激烈な痛みに凄まじい悲鳴を上げる爪熊。その肩からはおびただしい量の血が噴水のように噴き出している。吹き飛ばされた左腕がくるくると空中を躍り、やがて力尽きたようにドサッと地面に落ちた。

 

「こりゃあ偶然にしてはでき過ぎだな」

 

そう言うハジメの言葉から、爪熊から左腕を奪ったのは偶然らしい。

 

ハジメは地面に落ちた爪熊の腕の所まで移動し、その肉を喰らった。

 

「あぐ、むぐ、相変わらずマズイ肉だ。……なのにどうして他の肉より美味く感じるんだろうな?」

 

 そんなことを言いながら、こちらを警戒しつつ蹲る爪熊を睥睨するハジメ。

 

そのまま食事を続けると、ハジメの身体に異変が起こり始めた。初めて魔物の肉を喰らった時のように、激しい痛みと脈動が始まったのだ。

 

「ッ!?」

 

 急いで神水を服用するハジメ。あの時ほど激烈な痛みではないが、立っていられず片膝を突き激しい痛みに顔を歪める。どうやら、爪熊が二尾狼や蹴りウサギとは別格であるために取り込む力が大きく痛みが発生したらしい。

 

俺は冷静に状況を判断し、無敵や回避、ガッツでもなく、ハジメの攻撃力を上げる全体強化を使う。

 

ハジメの状況を見た爪熊はこれをチャンスと判断し、ハジメに突進していく。

 

ハジメの口元がニヤーと裂けた。

 

 同時に、右手をスッと地面に押し付けた。そして、その手に雷を纏う。最大出力で放たれた〝纏雷〟は地面の液体を伝い、その場所に踏み込んだ爪熊を容赦なく襲った。

 

俺達の持つ固有魔法はその全てが本家には及ばない、だが全体強化の効果もあり、今の纏雷の威力は本家と同レベルの威力だったはずだ。

 

そして地面の液体とは、爪熊の血液のことだ。噴水の如く撒き散らされた血の海。ハジメは拾った爪熊の左腕から溢れでる血を、乱暴に掲げることで撒き散らし、自分の場所と血溜りを繋いだのである。

 

ハジメは最初から罠に嵌めるつもりだったのだ。わざわざ目の前で腕を喰ったのも怒りを煽り真っ直ぐ突進させるためである。どうやら、痛みに襲われたの予想外らしいが、結果オーライだ。

 

「ルグゥウウウ」

 

 低い唸り声を上げながら爪熊が自らの血溜りに地響きを立てながら倒れた。その眼光は未だ鋭く殺意に満ちていてハジメを睨んでいる。

 

 ハジメは真っ直ぐその瞳を睨み返し、痛みに耐えながらゆっくり立ち上がった。そして、ホルスターに仕舞っていたドンナーを抜きながら歩み寄り、爪熊の頭部に銃口を押し当てた。

 

「オレの糧になれ」

 

 その言葉と共に引き金を引く。撃ち出された弾丸は主の意志を忠実に実行し、爪熊の頭部を粉砕した。

 

 迷宮内に銃声が木霊する。

 

 爪熊は最期までハジメから眼を逸らさなかった。ハジメもまた眼を逸らさなかった。

 

ハジメはスッと目を閉じると、改めて己の心と向き合う。そして、この先もこうやって生きると決意する。戦いは好きじゃない。苦痛は避けたい。腹いっぱい飯を食いたい。

 

 そして……生きたい。

 

 理不尽を粉砕し、敵対する者には容赦なく、全ては生き残るために。

 

 そうやって生きて……

 

 そして……

 

 故郷に帰りたい。

 

 そう、心の深奥が訴える。

 

「そうだ……帰りたいんだ……オレは。他はどうでもいい。オレは、オレやり方で帰る。望みを叶える。邪魔するものは誰であろうと、どんな存在だろうと……」

 

 目を開いたハジメは口元を釣り上げながら不敵に笑う。

 

「 殺してやる 」

 

その言葉を聞いた時、俺の中にある予感が生まれた。

 

このまま行けば、ハジメは恐らく奈落の闇に呑まれる。

 

生まれた予感は徐々に広がっていき、確信に近づいていく。

 

俺は考えを巡らせる。

 

奈落がどんな構造で出来ているのか分からないが、モルガンが三十階層と言っていた事から、少なくとも五十階層、多くて百階層と過程する。

 

となるとタイムリミットは、早くて五十階層、引き伸ばせて、百階層いかないくらいだろう。

 

俺にはタイムリミットを引き伸ばすことしか出来ない。ハジメをハジメのままにし続ける事は出来ない。

 

俺にとってのモルガンのような、ハジメを繋ぎ止める特別な鎖が必要だ。

 

この奈落を攻略するまでに見つけ出さなければならない。

 

だが、もし鎖が見つからず、

 

ハジメが奈落の闇に呑まれたその時は……俺が

 

 

 

ハジメを殺すことになるだろう。

 

 

 

それこそが、ハジメの親友として出来る最後の抵抗だ。

 

 

 







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