ありふれた魔術師が世界最強になるのは間違っていない   作:ミーラー

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第20話 希望か厄災か

 

 

 

俺達の奈落攻略は続く。

 

タールザメの階層から更に五十階層は進んだ。俺達に時間の感覚は既にないので、どれくらいの日数が過ぎたのかはわからない。それでも、驚異的な速度で進んできたのは間違いない。やはりモルガンの探知が強すぎたのが印象的だ。とはいっても、この奈落はモルガンにとって天敵ともいえる場所で、めちゃくちゃ虫型の魔物が多かった。

 

その結果、いつもの落ち着いた雰囲気とは裏腹に、本来のクラスであるバーサーカーのように虫の魔物だけでなく、この奈落ごと破壊しようとする始末である。

 

例えば、迷宮全体が薄い毒霧で覆われた階層では、毒の痰を吐き出す二メートルのカエル(虹色だった)や、麻痺の鱗粉を撒き散らす蛾(見た目モ○ラだった)に襲われた。常に神水やモルガンの回復魔術の恩恵に預からなければ、ただ探索しているだけで死んでいたはずだ。

 

当然、二体とも喰った。蛾を食べるのは流石に抵抗があったが、自身を強化するためだと割り切り意を決して喰った。カエルよりちょっと美味かったことに、なんとなく悔しい思いをする俺とハジメであった。

 

また、地下迷宮なのに密林のような階層に出たこともあった。物凄く蒸し暑く鬱蒼としていて今までで一番不快な場所だった。この階層の魔物は巨大なムカデと樹だ。

 

密林を歩いていると、突然、巨大なムカデが木の上から降ってきたときは、俺達全員の全身に鳥肌が立った。余りにも気持ち悪かったのである。

 

しかも、このムカデ、体の節ごとに分離して襲ってきたのだ。一匹いれば三十匹はいると思えという黒い台所のGのような魔物だ。

 

それを見た瞬間モルガンは完全に狂化した。

理性を捨てたモルガンの戦闘力は凄まじく、分裂して襲ってきたムカデを、何も無い空間に槍を突き刺しただけで十体は殺し、その槍を逃れたムカデも宝具の連発で文字通り跡形もなく消し飛ばした。もし、芋虫型の魔物とか出てきたら、今度こそ奈落は消し飛ぶだろう。

 

ちなみに、樹の魔物はRPGで言うところのトレントに酷似していた。木の根を地中に潜らせ突いてきたり、ツルを鞭のようにしならせて襲ってきたり。しかし、このトレントモドキの最大の特徴はそんな些細な攻撃ではない。この魔物、ピンチになると頭部をわっさわっさと振り赤い果物を投げつけてくるのだ。これには全く攻撃力はなく、俺とハジメは試しに食べてみたのだが、直後、数十分以上硬直した。毒の類ではない。めちゃくちゃ美味かったのだ。甘く瑞々しいその赤い果物は、例えるならスイカだった。リンゴではない。

その後は、モルガンにも食べて貰ったのだが、モルガンも久しぶりの食事にご満悦のようで、かなり上機嫌になった。

 

それと同時に、この階層が不快な環境であることなど頭から吹き飛び、俺達の眼は完全に狩人のそれとなり、トレントモドキを狩り尽くす勢いで襲いかかった。ようやく満足して迷宮攻略を再開した時には、既にトレントモドキはほぼ全滅していた。

 

そんな感じで階層を突き進み、気がつけば五十層。未だ終わりが見える気配はない。ちなみに、現在の俺達のステータスはこうである。

 

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:49

天職:錬成師

筋力:880

体力:970

耐性:860

敏捷:1040

魔力:760

魔耐:760

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・言語理解

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比企谷ハチマン 17歳 男 レベル:49

天職:魔術師、召喚士

筋力:1080

体力:1220

耐性:1060

敏捷:1140

魔力:2000

魔耐:1210

技能:魔術[+火属性][+水属性][+虚数属性]・召喚魔法・召喚陣作成・召喚詠唱補助・魔術礼装スキル作成・魔力操作[+部分強化][+効率上昇] [+魔力圧縮][+遠隔操作]・魔法回路・高速魔力回復・鑑定[+解析][+並列思考][+思考加速][+演算]・胃酸強化・遠見・纏雷・天歩[+空力][+縮地] [+豪脚]・風爪・夜目・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・令呪・言語理解[+速読][+瞬間記憶]

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俺達が五十層に足を踏み入れた時、モルガンが反応した。

 

「何やら不思議な空間がありますね…そしてこれは……人?」

 

「何かいたのか?」

 

「ええ…吸血鬼の反応があります」

 

どうやらこんな所に人がいるらしい。人というか吸血鬼のようだが……まぁ五十層といえば、RPGでいう中ボスとかが出てきそうな感じだ。もしかしてその吸血鬼がこの階層のボスなのか?

 

「もしかしてその吸血鬼がこの階層のボスなのか?」

 

「いえ……どうやらそう簡単な問題じゃなさそうです」

 

「とにかく行ってみるしかないんじゃないか?」

 

ハジメがそう言い、それもそうだと頷いた俺達は、モルガンの案内でその空間までやって来た。

 

脇道の突き当りにある空けた場所には高さ三メートルの装飾された荘厳な両開きの扉が有り、その扉の脇には二対の一つ目巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれるように鎮座していたのだ。

 

「これは確かに不思議な空間だ」

 

「気になるのはあの扉だな」

 

 俺達は期待と嫌な予感を両方同時に感じていた。あの扉を開けば確実になんらかの厄災と相対することになる。だが、しかし、同時に終わりの見えない迷宮攻略に新たな風が吹くような気もしていた。

 

「さながらパンドラの箱だな。……さて、どんな希望が入っているんだろうな?」

 

「希望だけならいつでも歓迎なんだがな」

 

俺とハジメは自分の今持てる武技と武器、そして技能。それらを一つ一つ確認し、コンディションを万全に整えていく。そして俺はモルガンに視線を向ける。モルガンも一つ頷くのを確認し、俺達は扉の前に移動した。

扉の中央には、二つの窪みがある魔法陣が描かれていた。

 

「? わかんねぇな。結構勉強したつもりだが……こんな式見たことねぇぞ」

 

「なら解析で」

 

俺は扉を解析すると、鍵が必要という情報が脳に流れてくる。その鍵の位置を知るためさらに解析すると、扉の窪みから光の線が現れた。線を目で追うと、扉の脇にいる二対の一つ目巨人の彫刻

の胸辺りで止まった。つまり……

 

「どうやら、この二対の巨人が鍵を持っているらしい」

 

「ん?つまりこの彫刻って……」

 

「ええ……間違いなく動くでしょう」

 

そう言った瞬間

 

――オォォオオオオオオ!!

 

 突然、野太い雄叫びが部屋全体に響き渡ったのだ。

 

俺達は一瞬で距離をとり、戦闘態勢に入る。

雄叫びが響く中、遂に声の正体が動き出した。

 

「まぁ、ベタと言えばベタだな」

 

苦笑いしながら呟くハジメ。扉の両側に彫られていた二体の一つ目巨人が周囲の壁をバラバラと砕きつつ現れた。いつの間にか壁と同化していた灰色の肌は暗緑色に変色している。

 

一つ目巨人の容貌はまるっきりファンタジー常連のサイクロプスだ。手にはどこから出したのか四メートルはありそうな大剣を持っている。未だ埋まっている半身を強引に抜き出し無粋な侵入者を排除しようと俺達の方に視線を向けた。

 

その瞬間、

 

ドパンッ! シュンッ!

 

凄まじい発砲音と共に、電磁加速されたタウル鉱石の弾丸が右のサイクロプスのたった一つの目に突き刺さり、そのまま脳をグチャグチャにかき混ぜた挙句、後頭部を爆ぜさせて貫通し、後ろの壁を粉砕した。

 

もう一つの風を切る音と共に、紅く輝く一本の線が左のサイクロプスの首元を通り過ぎ、一瞬の時間差で首が根元からズレ落ちた。その断面からは煙が発生し、黒く焦げたような痕が残っていた。

 

この技は火属性魔術を魔力圧縮で極限まで圧縮し、遠隔操作で距離を調節した事で完成した。超高熱のレーザーである。伸縮自在かつ高火力で使い勝手がいいのでずっと使っている。魔力操作の鍛錬にもなるので最高だ。使える人がいたら是非やってみて欲しい。

 

「悪いが、空気を読んで待っていてやれるほど出来た敵役じゃあないんだ」

 

「お前達はここで、何を護ってたんだ?」

 

この扉を守るガーディアンとして封印か何かされていたのだろう。こんな奈落の底の更に底のような場所に訪れる者など皆無と言っていいはずだ。

 

ようやく来た役目を果たすとき。もしかしたら彼ら(?)の胸中は歓喜で満たされていたのかもしれない。満を持しての登場だったのに相手を見るまでもなく大事な一つ目ごと頭を吹き飛ばされ、瞬きする間もなく首を切断された。だが、この哀れなガーディアン達を慰める者はここにはいない。

 

「まぁ、いいか。肉は後で取るとして……」

 

「コイツらの鍵を……おっ!あった」

 

 俺達は〝風爪〟でサイクロプスを切り裂き体内から魔石を取り出した。血濡れを気にするでもなく二つの拳大の魔石を扉まで持って行き、それを窪みに合わせてみる。

 

すると魔石はピッタリとはまり、直後、魔石から赤黒い魔力光が迸り魔法陣に魔力が注ぎ込まれていく。そして、パキャンという何かが割れるような音が響き、光が収まった。同時に部屋全体に魔力が行き渡っているのか周囲の壁が発光し、この部屋全体に行き渡る。

 

俺達は警戒しながら、そっと扉を開いた。

 

扉の奥は光一つなく真っ暗で、大きな空間が広がっていた。〝夜目〟と手前の部屋の明りに照らされて少しずつ全容がわかってくる。

 

中は、聖教教会の大神殿で見た大理石のように艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。そして部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、つるりとした光沢を放っている。

 

その立方体を注視していた俺達は、何か光るものが立方体の前面の中央辺りから生えているのに気がついた。

 

「……だれ?」

 

 かすれた、女の子の声がした。どうやらモルガンの言っていた通り人がいたようだ。差し込んだ光がその正体を暴く。

 

長い金髪と紅い瞳そして上半身は…はだ

 

次の瞬間俺の視界は黒く染まった。

 

「我が夫…今何か見ましたか?」

 

 

あっ……これヤバいやつだ………………

 

 

 

 

 





とりあえずヒロインに妖精騎士は出したい
特にバーヴァンシーとかメリュジーヌとかバーゲストとか……


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