ありふれた魔術師が世界最強になるのは間違っていない   作:ミーラー

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ヒロインに雫とレミア追加します。
投票してくれた方ありがとうございます!
サーヴァントの影に隠れないかだけが心配ですが、頑張って書きます。



第21話 ユエ

 

 

 

「我が夫…今何か見ましたか?」

 

俺の視界は黒く染まり、直後、モルガンの胸の柔らかさと温もりを感じる。俺はモルガンに抱き寄せられたようだ。凄く嬉しい展開のはずなのに全く笑えない。どういうことだろうか?とにかくこの窮地を脱する方法を探さねば……

 

俺は思考加速と並列思考をフルで使い。この悪魔のような質問の最適解を導き出す。

 

「我が夫…今何か見ましたか?」

このワンフレーズにここまでの圧力を感じるものだろうか?さすがモルガンと言いたいところだが、そんな事を言ってられる状況じゃない。扉を開けただけでこんな事になるとは思わなかった。ハジメがパンドラの箱とか言っていたが、まさにその通りだ。だがこの奈落においての厄災なら魔物とかが来ると予測するだろう。こんな厄災の顕現の仕方聞いてないんですけど……

 

今までの俺ならここでキョドりつつ適当に誤魔化して逃れようとしていただろう。だが今の俺は違う!今までの失敗から学び、この状況を逃れるための答えを導き出せるはずだ。

 

まずモルガンに嘘は通じない。どころか心の中までも読まれる始末である。つまり、今の俺の考えている事も読んでいるだろう。この情報だけで答えは出ているようなものだ。ここまでの思考時間は0.01秒。フッ簡単な問題だ。

 

俺の解はもちろん

 

「はい…見ました」

 

正直に言う。である。

 

うん…これは仕方ない事だ。心を読まれてる時点で詰んでいるのだ。この状況を脱することなど正直に話す以外に他にない。あとはモルガンに全てを委ねるべし。

 

「正直でよろしいですよ。我が夫。ですが、彼女に服を着せるまでこのままでいるように」

 

「はい」

 

全く生きた心地がしなかったが、モルガンが優しくて助かった。やはり正直に生きるべきだと俺は心に刻み直し、モルガンの胸の中で心地よさを感じながらハジメと謎の少女の会話に耳を傾けた。

 

「お前は何でこんな所にいるんだ?」

 

「わたし…は……裏切られたから……」

 

裏切られた…か、俺達と似たような境遇だな。

 

「……それが本当だとして、お前はどうして封印されたんだ?」

 

「私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」

 

かなり掠れた声だ。それだけでも、この少女が長い年月封印されていたのがわかる。それに裏切られ方は最悪だ。おじ様ということは、この少女にとってかなり身近な人物だったはずだ。信頼もしていただろう。そうでなければ、国のために尽くしてきた少女が王という立場を簡単に譲るはずがない。

 

話を聴いている時、モルガンの抱き締める強さが増したのを感じた。モルガンはブリテン島のために様々な厄災を払い、民を守り、愛した島を守護し続けた。だが結果は裏切りに終わった。裏切りに対して思う事があって当然だ。

それを察した俺はモルガンの背中に手を回し、そっと抱きしめた。

 

「まぁあれだ…モルガンが手を伸ばした時、必ず俺がその手を掴む。ここにはモルガンが心配していることは何も無い。だから安心してくれ」

 

うん…俺めちゃくちゃ恥ずかしい事言ってるよね?まぁ本当の気持ちだし、別にいいか……

 

「我が夫…」

 

俺とモルガンが二人の空間を作りだす。

その間にも時は進み、ハジメと少女の会話も進んでいく。

 

「お前、どっかの国の王族だったのか?」

 

「……(コクコク)」

 

「殺せないってなんだ?」

 

「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

 

「……そ、そいつは凄まじいな。……すごい力ってそれか?」

 

「これもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」

 

「なるほどな〜」

 

「……たすけて……」

 

「……」

 

さて、モルガンといい感じになって帰ってきたのだが今どういう状況だろうか……

今もモルガンに抱きしめられているので、目は見えない。つまり、音や魔力感知などの技能で状況を認識する必要があるのだが……

 

俺はとりあえず魔力感知と気配感知でどういう状況が探ることにした。すると、ハジメが少女を捕らえている立方体に手を置いているのが分かった。そしてハジメの手に魔力が集まっていく。

 

ハジメは錬成を使うのだろう。ハジメの手から、放電するように魔力が迸り始めた直後、ハジメの体内から魔力がもの凄いスピードで減っていく。

 

「ぐっ、抵抗が強い! ……だが、今のオレなら!」

 

ハジメは減っていく魔力など気にせず更に魔力を注ぎ込んでいるようだ。このまま行くと魔力がハジメの制御を離れ暴走する可能性がある。

俺は念の為、令呪を使うことにした。

 

「令呪一角を使用。南雲ハジメの魔力へ」

 

説明し忘れていたが、魔法回路によって生み出された魔力、詳しくは自分の体内に収まりきらない魔力は、全て令呪の魔力に変換している。

今では令呪一角でも三角分くらいある。

 

「ッ!これなら余裕だ!」

 

一瞬でとてつもない量の魔力を得たハジメは、どんどん魔力を放出していく。そして今まで何の変化も無かった立方体は一瞬で融解したように溶け始め、少女の枷を解いていく。

そうして、ついに少女の救出に成功したようだ。

 

ハジメが爪熊の毛皮で作った外套を少女に着せたことでようやく解放された。ちょっと残念感はあるが、ここはまだ奈落。油断は禁物だ。

 

少女がハジメの手を掴み、震える声で小さく、しかしはっきりと告げる。

 

「……ありがとう」

 

少女はハジメの手をずっとニギニギしている。

それをハジメは握り返すと少女が尋ねた。

 

「……名前、なに?」

 

「ハジメだ。南雲ハジメ。お前は?」

 

少女は「ハジメ、ハジメ」と、さも大事なものを内に刻み込むように繰り返し呟いた。そして、問われた名前を答えようとして、思い直したようにハジメにお願いをした。

 

「……名前、付けて」

 

「は? 付けるってなんだ。まさか忘れたとか?」

 

 長い間幽閉されていたのならあり得ると聞いてみるハジメだったが、少女はふるふると首を振る。

 

「もう、前の名前はいらない。……ハジメの付けた名前がいい」

 

「……はぁ、そうは言ってもなぁ」

 

 おそらく、俺達が、変心した俺達になったのと同じような理由だろう。前の自分を捨てて新しい自分と価値観で生きる。俺達は痛みと恐怖、飢餓感の中で半ば強制的に変わったが、この少女は自分の意志で変わりたいらしい。その一歩が新しい名前なのだろう。

 

少女は期待するような目でハジメを見ている。ハジメはカリカリと頬を掻くと、少し考える素振りを見せて、仕方ないというように彼女の新しい名前を告げた。

 

「〝ユエ〟なんてどうだ? ネーミングセンスないから気に入らないなら別のを考えるが……」

 

「ユエ? ……ユエ……ユエ……」

 

「ああ、ユエって言うのはな、俺の故郷で〝月〟を表すんだよ。最初、この部屋に入ったとき、お前のその金色の髪とか紅い眼が夜に浮かぶ月みたいに見えたんでな……どうだ?」

 

思いのほかきちんとした理由があることに驚いたのか、少女がパチパチと瞬きする。そして、相変わらず無表情ではあるが、どことなく嬉しそうに瞳を輝かせた。

 

「……んっ。今日からユエ。ありがとう」

 

そのまま少女はハジメに飛びついた。

そしてユエは俺達に視線を向けた。

 

「ハジメ…この人達は?」

 

「ああ、こいつらはオレの仲間だ」

 

「俺は比企谷八幡だ。好きなように呼んでくれ」

 

するとユエは何度か八幡と呟いていたが、少しして……

 

「ん…少し呼びづらい……」

 

「あ〜確かに最初は呼びづらいかもな。まぁ慣れれば普通だぞ?」

 

「ハジメ…八幡にも名前つけてあげよう」

 

うん…どゆこと?ユエへの名付けから始まり、いつの間にか俺への名付け議論が始まった。というかハジメのヤツ最初は呼びづらいと思ってたのかよ……泣いていい?

 

俺は、俺への名付けとか難航するんじゃね?とか思っていたが、モルガンによって一瞬で終わらせられた。

 

「エイトと呼ぶといいでしょう」

 

「エイト?」

 

「あ〜八幡の八でエイトってことか…」

 

ユエが首を傾げるが、ハジメが直ぐに補足する。そして二人は顔を見合わせ、「それでいいんじゃね?」と言い合い、俺の名付けは終了した。

 

俺はモルガンが、なぜその名前を使ったのか分かっていた。なぜかって?エイトと言う名前は俺のFGOで使っていたプレイヤーネームだからだ。ゲームの名前を決める時、自分の本名を使うのをチキった俺は、適当に八幡の八からエイトと名付けた。それをここで持ってきたのだろう。

 

まぁ確かに、好きに呼べと言ったけど、もはや原型をとどめてないのはどうかと思う。まぁ俺も特に思いつかなかったからプレイヤーネームもエイトにしたんだけどね?

 

そうして、今日から俺はユエにエイトと呼ばれるようになった。

 

「ん…エイト。いい名前…ありがとう」

 

「礼には及びません。夫の名前を考えるなど妻なら朝飯前です」

 

ユエが礼を言うと、モルガンは少し胸を張りながら答えた。

 

「綺麗な人…名前…なに?」

 

「私の名はモルガン。ユエ、貴女にはモルガンと呼ぶことを許します。それから、少し私の所まで来なさい」

 

モルガンはそう言って、ユエを近くまで来させると、モルガンはユエをそっと抱きしめた。

 

「ッ!?」

 

突然の事に戸惑いを隠せないユエ。その事を分かっているモルガンは、子をあやすように優しく背中を何度もさすりながら言った。

 

「ユエ、長い間一人でよく耐えました。辛かったでしょう?寂しかったでしょう?苦しかったでしょう?我慢している分、ここで全て吐き出しなさい。貴女は本当によく頑張りました」

 

「うぅ…っ……んっ……つら…かった……さみしかった……っ……」

 

静かにすすり泣く声が聞こえてくる。ユエが受けた心の傷は、俺達には分からない。だが、想像することは出来る。吸血鬼は数百年前に滅んだとされている。その時から封印されているとしたら、一体どれほどの時をここで過ごしてきたのだろうか?長い年月を生きていても、おそらくユエの精神はまだ成熟していない。心は子供のままなのだろう。そんな状態で信頼していた人に裏切られ、ここに封印された。普通は発狂するなりして精神が壊れてしまうだろう。だが、目の前の少女、ユエはしっかりとした感情を持っている。それだけでも凄いことだ。

 

それに、ユエに言葉をかけたのがモルガンだったのも良かったのだろう。俺達がモルガンのようにしても、ここまで本音を吐き出させることは出来ない。単純に生きた年月と、裏切りで受けた傷の重みが違う。それに比例して、発する言葉の重みも違ってくる。俺達も裏切られたと言っても、二人の受けた傷に比べれば大した事はない。

 

それにしても、この光景を見ているとまんま親子だな〜

 

そう思った瞬間、八幡の脳裏にある少女の姿が過ぎった。

 

モルガンに抱きしめられる吸血鬼…か。…まるで運命がそうさせたかのような巡り合わせだな…

 

俺が報われて欲しいと思っているのはモルガンだけじゃない。彼女にも、自分の喜びを、幸せを見つけて欲しいと思っている。あの結末を知っている者として、今のままにする気など毛頭ない。それがきっと、彼女達の幸せに繋がるはずだからな。

 

俺は必ず彼女を召喚しようと決意するのだった。

 

 

 

 





書いてて思ったけど、モルガンの母感が凄い!

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