ありふれた魔術師が世界最強になるのは間違っていない 作:ミーラー
ハジメとユエが戻ってから俺達は、あの封印部屋を拠点にしてサソリモドキや、サイクロプスの肉を食べたり、いろいろな作業をしながら、今後の方針について話し合っていた。
俺達の第一の目的は故郷に帰ること。
だが、その前にエヒトを倒す事が決定した。
そして俺は今後の事について少し考えていた。
元々は神の事など、どうでも良かったのだが、ユエが狙われる可能性がある以上無視はできない。おそらく、ユエが地上に出れば遅かれ早かれ狙ってくるだろう。
それを防ぐためには、やはり強くなる必要がある。神殺しなど容易い事ではないだろうが、可能性はある。
やはり希望はサーヴァント召喚だ。人理の英霊の中には神に対する特攻を持っていたり、実際に神様殺っちゃってる英霊など、神殺しのエキスパート達が数多に存在する。彼等を召喚することが出来れば、エヒトを倒せる可能性が高まる。
だが、召喚出来ればの話だ。一応俺は、サーヴァント召喚を出来る魔力は存在する。言ってくれたらいつでもいけるくらいには十分にある。ただ、特定のサーヴァントを召喚する術は無い。
一応、特定のサーヴァントを召喚する計画は元々あって進めていた。そう、ハジメを奈落の闇に呑まれる前に救おう計画だ。ん?もっといい名前は無かったのかって?思いつかなかったんだよ!
ハジメを救うには、必ず英霊の助力が必要だと思っていたのだが、思いがけないユエの登場によって、この計画の進行速度は緩めるつもりだった。だが、神エヒトを殺す時、神殺しの英霊がそばにいてくれればこれ程頼もしいことはないだろう。
だからこそ、特定のサーヴァント召喚は今後必須と言ってもいい。ん?英霊を呼び出せる魔力あるなら、バンバン呼び出せばいいじゃんって?
バカ野郎!そんな事して、召喚した相手が俺の制御出来ないような人ならどうする!
例えば、こんな所でAUOとか呼び出してみろ!
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「おい雑種、この我をこんな所に呼び出してどういうつもりだ?」
「えっと、とりあえず呼んでみたら王様が……」
「貴様!そんな理由でこの我に足を運ばせたのか?その不敬は万死に値する!」
「え!?ちょと待っ」
「喰らえ!エヌマ・エリシュ!!!」
「うわ〜やられた〜」
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こんな感じになるだろう。
うん…ちょっとツッコミどころはあるだろうが、間違いない。
とにかく、これで特定のサーヴァント召喚が必須なことは分かって頂けただろうか?だからこそ、俺はこの五十階層まで来て、モルガンしかサーヴァント召喚していないのだ。
まぁ正直、俺がモルガンを呼べたのは奇跡としか言いようがない。クラスをバーサーカーに絞る一節が無ければ、まず召喚出来なかっただろう。特定のサーヴァントを召喚するには、その英霊に縁のある触媒が必要不可欠だ。
その触媒をどうやって用意するのか。それが今俺の詰まっている問題だ。この問題を解決出来なければ、特定のサーヴァント召喚は不可能だ。だが逆に言えば、この問題さえ解決出来れば望んだサーヴァントを呼ぶことが可能になる。なんとして成功させたいところだ。
ちなみに、今俺が目をつけて鍛錬しているのは、召喚魔法だ。この魔法はその名の通り、イメージした物体を召喚することが出来る。召喚出来るかどうかは、使用者の練度によって変わるらしいので、とにかくずっと鍛錬している。最近はハジメがドンナーの弾を撃ち切った時に、弾の補充を目的に召喚魔法を使って鍛錬したりしている。これがなかなか難しかったりする。
と、これが現在の俺が考えていた事だ。あともう少しって所まで来ているのだが、その一歩が詰まらない感じだ。
「大丈夫ですか?我が夫?」
「八幡?食わないのか?」
「ん…エイト大丈夫?」
「!?ああ、大丈夫だ。今から食べる」
おっと、いかんいかん考えるのに集中し過ぎてしまっていたようだ。どうやら俺が考えている間に、今はユエの事について話し合っているようだ。
今思えばユエとは出会って間も無く、いろいろな事があったが、ほとんど初対面と言っても過言ではない。もっとお互いの事について知る必要がある。まぁ親睦会のようなものだろう。
「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上なわけか?」
「……マナー違反」
ユエが非難を込めたジト目でハジメを見る。女性に年齢の話はどの世界でもタブーのようだ。
「吸血鬼って、皆そんなに長生きするのか?」
「……私が特別。〝再生〟で歳もとらない……」
ユエが言うに十二歳の時、魔力の直接操作や〝自動再生〟の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないらしい。普通の吸血鬼族も血を吸うことで他の種族より長く生きるらしいが、それでも二百年くらいが限度なのだそうだ。
ちなみに、人間族の平均寿命は七十歳、魔人族は百二十歳、亜人族は種族によるらしい。エルフの中には何百年も生きている者がいるとか。
ユエは先祖返りで力に目覚めてから僅か数年で当時最強の一角に数えられていたそうで、十七歳の時に吸血鬼族の王位に就いたという。
他にも、ユエの力についても話を聞いた。それによると、ユエは全属性に適性があるらしい。本当に「なんだ、そのチートは……」とハジメは呟いていた。ユエ曰く、接近戦は苦手らしく、一人だと身体強化で逃げ回りながら魔法を連射するくらいが関の山なのだそうだ。もっとも、その魔法が強力無比なのだから大したハンデになっていないのだが……
ちなみに、無詠唱で魔法を発動できるそうだが、癖で魔法名だけは呟いてしまうらしい。魔法を補完するイメージを明確にするためになんらかの言動を加える者は少なくないので、この辺はユエも例に漏れないようだ。
〝自動再生〟については、一種の固有魔法に分類できるらしく、魔力が残存している間は、一瞬で塵にでもされない限り死なないそうだ。逆に言えば、魔力が枯渇した状態で受けた傷は治らないということ。つまり、あの時、長年の封印で魔力が枯渇していたユエは、サソリモドキの攻撃を受けていればあっさり死んでいたということだ。
この説明で、やっぱりユエの叔父さんであるあの男は、ユエを殺す気は無かったのだと確信した。
ユエを本当に殺したかったのであれば、自動再生が発動しなくなるまで、つまり魔力を使い切るまで攻撃し続ければいいだけだ。そうすればユエを殺す事は可能だった。それをせず奈落に封印した理由は、さっきあの男が説明した通りだろう。
「それで……肝心の話だが、ユエはここがどの辺りか分かるか? 他に地上への脱出の道とか」
「……わからない。でも……」
ユエにもここが迷宮のどの辺なのかはわからないらしい。申し訳なさそうにしながら、何か知っていることがあるのか話を続ける。
「……この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」
「反逆者?」
聞き慣れない上に、なんとも不穏な響きに思わず食事や作業を中断してユエに視線を転じる俺達。ハジメの作業をジッと見ていたユエも合わせて視線を上げると、コクリと頷き続きを話し出した。
「反逆者……神代に神に挑んだ神の眷属のこと。……世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」
ユエ曰く、神代に、神に反逆し世界を滅ぼそうと画策した七人の眷属がいたそうだ。しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。
その果てというのが、現在の七大迷宮といわれているらしい。この【オルクス大迷宮】もその一つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているのだとか。
だが、真の敵は神という情報を得ている俺達にとって、ユエの言った情報は神による情報操作の可能性が高い。そうなると、反逆者達は真の敵である神を倒そうとした人達のことなのだろうか?まだ情報が少なくて何とも言えないが、この奈落を攻略すれば分かるのかもしれない。
エヒト攻略のために、エヒトの情報は少しでも欲しい。この奈落にあるといいのだが……
「……そこなら、地上への道があるかも……」
「なるほど。奈落の底からえっちらおっちら迷宮を上がってくるとは思えない。神代の魔法使いなら転移系の魔法で地上とのルートを作っていてもおかしくないってことか」
なるほど、それは確かにありえそうな話だ。まぁモルガンの魔術で地上に出れるのだが。そういえばハジメに言ってなかったな……
「……ハジメ達、どうしてここにいる?」
当然の疑問だろう。ここは奈落の底。正真正銘の魔境だ。魔物以外の生き物がいていい場所ではない。他にも、なぜ魔力を直接操れるのか。なぜ固有魔法らしき魔法を複数扱えるのか。なぜ魔物の肉を食って平気なのか。そもそも俺達は人間なのか。ハジメが使っている武器は一体なんなのか。などなど次々と質問していた。
ポツリポツリと、しかし途切れることなく続く質問に律儀に答えていくハジメ。やはりユエの存在はハジメにとってかなりいい変化を与えてくれたようだ。あのハジメが甘々状態だ。俺もじっくり、召喚魔法の鍛錬が出来るというものだ。
ユエには、俺達が仲間と共にこの世界に召喚されたことから始まり、無能と呼ばれていたこと、ベヒモスとの戦いでクラスメイトに裏切られ奈落に落ちたこと、魔物を喰って変化したこと、爪熊との戦いと願い、神水のこと、故郷の兵器にヒントを得て現代兵器モドキの開発を思いついたこと、モルガンとの出会いなどをツラツラと話していると、いつの間にかユエの方からグスッと鼻を啜るような音が聞こえ出した。
ユエを見ると、ハラハラと涙をこぼしている。ハジメは手を伸ばし、流れ落ちるユエの涙を拭きながら尋ねた。
「いきなりどうした?」
「……ぐす……ハジメ達……つらい……私もつらい……」
どうやら、俺達のために泣いているらしい。ハジメは少し驚いた様子で、表情を苦笑いに変えてユエの頭を撫でる。
「気にするなよ。もうクラスメイトのことは割りかしどうでもいいんだ。そんな些事にこだわっても仕方無いしな。ここから出て復讐しに行って、それでどうすんだって話だよ。そんなことより、生き残る術を磨くこと、故郷に帰る方法を探すこと、それに全力を注がねぇとな」
スンスンと鼻を鳴らしながら、撫でられるのが気持ちいいのか猫のように目を細めていたユエが、故郷に帰るというハジメの言葉にピクリと反応する。
「……帰るの?」
「うん? 元の世界にか? そりゃあ帰るさ。帰りたいよ。……色々変わっちまったけど……故郷に……家に帰りたい……」
「ああ、そのためにここまで来たってのが大きからな」
「……そう」
ユエは沈んだ表情で顔を俯かせる。そして、ポツリと呟いた。
「……私にはもう、帰る場所……ない……」
「あ~、なんならユエも来るか?」
俺もモルガンも、うんうんと頷く。
「え?」
「いや、だからさ、俺達の故郷にだよ。まぁ、普通の人間しかいない世界だし、戸籍やらなんやら人外には色々窮屈な世界かもしれないけど……今や俺も似たようなもんだしな。どうとでもなると思うし……あくまでユエが望むなら、だけど?」
しばらく呆然としていたユエだが、理解が追いついたのか、おずおずと「いいの?」と遠慮がちに尋ねる。しかし、その瞳には隠しようもない期待の色が宿っていた。
「ああ、ユエの叔父さんにも確約するって言ったしな。約束は守る」
「ええ、こんな所でユエを置いていくなど言おうものなら、私が南雲ハジメを矯正します」
モルガンが実力行使に出ると言い出した瞬間、ハジメはブルリと肩を震わせた。
だが、ユエの方は正反対で、今までの無表情が嘘のように、ふわりと花が咲いたように微笑んだ。その笑顔に見蕩れたのか、モルガンに感じた恐怖を忘れてハジメは慌てて首を振っていた。ハジメのやつ、わかりやすいな。
それはさておき、さっきから気になっている事がある。
「ハジメ、それ何だ?」
ハジメが錬成で銃を作っているというのは分かるのだが、明らかにドンナーを作っているようには見えない。今見ただけでも、軽く一メートルを超えた長さを持っている。ハジメの周りにあるパーツも組み合わせた場合、全長で一・五メートル程になるのではないだろうか?
「これはな……対物ライフル:レールガンバージョンだ。要するに、俺の銃は見せたろ? あれの強力版だよ。弾丸も特製だ」
ハジメはユエにも分かるように説明した。ユエからすれば、まずドンナーの事からさっぱりだろう。この世界に兵器など無いのだから当然だ。
その後も、ユエに分かるようにツラツラと説明しながら、ハジメは対物ライフル:シュラーゲンを完成させたのだった。
「さて、俺もメシにするかな…ユエも食うか?」
「それは…まずいんじゃないか?」
「って、そうだったな……いや、吸血鬼なら大丈夫なのか?」
果たして大丈夫なんだろうか?これは魔物の肉だ。試しに一口って訳にもいかないからな……
そう俺達が考え込んでいたのだが、ユエは「食事はいらない」と首を振った。
「まぁ、三百年も封印されて生きてるんだから食わなくても大丈夫だろうが……飢餓感とか感じたりしないのか?」
「感じる。……でも、もう大丈夫」
「大丈夫? 何か食ったのか?」
腹は空くがもう満たされているというユエに怪訝そうな眼差しを向ける俺達。ユエは真っ直ぐにハジメを指差した。
「ハジメの血」
「ああ、俺の血。ってことは、吸血鬼は血が飲めれば特に食事は不要ってことか?」
「……食事でも栄養はとれる。……でも血の方が効率的」
吸血鬼は血さえあれば平気らしい。ハジメから吸血したので、今は満たされているようだ。なるほど、確かに吸血鬼と言えばそうだよな。どうやらモルガンは分かっていたらしい。流石吸血鬼の母親だ。
その後、何やらハジメとユエがイチャイチャしだしたので、俺とモルガンはその場を離れ、魔術の特訓を開始した。
断じてイチャイチャなどしていない………………………