ありふれた魔術師が世界最強になるのは間違っていない 作:ミーラー
最近の話は全然モルガンが出てこなかったので、今回からモルガンマシマシでいきます!
俺達は五十層からさらに階層を進め、現在、次の階層に続く階段の途中で止まっていた。原因は、次の階層が明らかに異常な成長をした雑草で生い茂っていたからだ。全ての草が、ザッと見ただけでも百六十センチメートル以上ある。他にも十メートルを超える木々が鬱蒼と茂っており、空気はどこか湿っぽい。しかし、以前通った熱帯林の階層と違ってそれほど暑くはないのが救いだろう。
「邪魔だな…焼き払いながら行くか?」
火属性魔術を使えば、前方だけ焼き払いながら進むことは可能だ。この階層の全てがこの状態なのかは分からないが、魔力の問題は無いので、この階層を突破するまで使い続けることは出来る。
「それはやめておいた方がいいんじゃないか?」
「ん…被害が甚大……」
確かにハジメやユエの言う通り、火属性魔術を使ってこの階層が火の海にならない保証は無い。あまり使わない方がいいだろう。
「仕方ない…ユエはオレが背負って行くしかないか…」
雑草は百六十センチメートル以上ある。このまま進めば身長的に俺達の肩付近、ユエは全身が覆われるだろう。
ハジメがユエを背負い、さて行こうかと思った時、俺の袖が引っ張られたのを感じた。振り向いてみると、モルガンが袖をチョンチョンと引っ張っていた。何だその可愛い仕草は……
「どうした?モルガン?」
「わ、我が夫…私も背負いなさい…」
「え?」
「ですから…私もユエのように背負いなさいと言っているのです……出来ますよね?」
モルガンはほんのり頬を赤くしながら、そんな事を言ってくる。確かに、このまま進むとモルガンでもギリギリ頭が出るかどうかといったところだ。場所によっては隠れてしまう所もあるかもしれない。
「わ、分かった」
俺はそう言って、おんぶの体勢を作る。そこにモルガンが覆い被さるように乗ってきたことで、モルガンの重みを感じる。だからといって重いというわけではないので誤解しないで欲しい。というか、俺は奈落で何をやっているのだろうか…これ結構恥ずかしいな……
「よし、気を取り直して行くか」
俺は警戒しながら先陣を切って歩き出す。もしかすれば、草むらから魔物が飛び出し襲ってくるかもしれない。一応、気配感知や魔力感知は発動しているが、サメの魔物のように感知系の魔法に反応しない魔物がいるかもしれない。
と、思って警戒しながら進んでいたのだが、とくに何事も無く、俺達は普通に進むことが出来た。
だが、さすがに違和感がある。これまでの階層では、階層に入ればすぐに魔物が襲って来ていた。
だが、この階層は全く魔物の気配がしない。
「モルガンの探知には何か引っかかるか?」
「ええ、このまま進んだ先に、かなりの数の魔物が固まっているようです」
どうやらこの先にいるらしい。だが、この奈落で群れを成しているのは珍しい。基本的に、単体でとんでもない強さ。というのがこの奈落の魔物のイメージだった。
「数は分かるか?」
「ええ、およそ二百ほどです」
ん?聞き間違いだろうか?
「モルガン…今二百って言った?」
「ええ、言いました」
どうやら本当に二百の魔物が群れを成しているらしい。今までの経験から行くと、群れを成す魔物はだいたい、虫型の魔物が多かったのだが、モルガンに嫌がる素振りが無い以上、虫型の魔物では無いだろう。
「ちなみに、魔物の形状とか分かるか?」
「我が夫達の世界で言う、ティラノサウルスという恐竜に似ていますね」
ん?単体で最強レベルの名前なんだけど?そんな奴らが群れてんの?
「次の階層への階段はどの方向なんだ?」
ハジメがモルガンに尋ねる。だが、だいたいこういう場合は相場が決まっている。
「このまま、ティラノサウルスの場所を横断する他ないですね」
ですよね……
「それに階段の近くには、この辺りでは大きな魔力反応が一つありますね」
どうやら、しっかり階段近くには強力な魔物が陣取っているらしい。
「とにかく…行ってみるしかなさそうだな」
「…ん」
俺達は周り生い茂る雑草を焼き払いながら、ティラノサウルスが群れている場所へと足を進め、ティラノサウルスを視認できる距離に来たのだが、なぜか全てのティラノサウルスの頭に、一輪の可憐な花を生やしていた。
「…ちょっとかわいい」
「…流行りなのか?」
ユエが思わずほっこりしながら呟けば、ハジメはシリアスブレイカーな魔物にジト目を向け、有り得ない推測を呟く。
「探知で調べた所、全てに同じ反応がありました。どうやらこの階層全ての魔物に付いているようです」
つまり?この階層全ての魔物は同じ群れということか?この階層に何体魔物がいるか知らないが、ここだけで二百の魔物、階層全体ともなれば数千といるかもしれない。一斉に襲われた場合、果たしてどうなる事やら……
とにかく戦ってみない事には分からない。解析で一応敵の力量を把握することは出来るのだが、それが全てとは限らない。
俺は最近、常にエヒトと戦う時のイメージをしている。本当に目に見える物だけが全てなのかどうか。解析眼を疑うわけじゃない。この技能には何度も、いや、ずっと助けられている。だが、神ならその情報を覆すことくらい容易くしてくるだろう。戦闘中に目で見える物だけで判断する人間は少ないだろう。咄嗟に、本能的に、感覚で、というように人間は五感以外の第六感で判断することも少なくない。そういう意味も込めて、俺は実践にかなり力を入れている。
とは言ったものの……
「〝緋槍〟」
ユエの手元に現れた炎は渦を巻いて円錐状の槍の形をとり、一直線にティラノの口内目掛けて飛翔し、あっさり突き刺さって、そのまま貫通。周囲の肉を容赦なく溶かして一瞬で絶命させた。地響きを立てながら横倒しになるティラノ。
ユエが加わった事で、俺とハジメは最近やる事が無くなってきている。モルガンは基本静観してくれているが、ユエはもっとハジメの役に立つと言って、ばんばん魔物を瞬殺していく。さっきまで二百体いたティラノも、もうほとんどいない状況だ。
俺は倒されたティラノから落ちた花を解析した。
すると、この花はエセアルラウネと言う魔物から生まれた花らしい。そして最大の特徴は、この花から排出される粘液は、触れた対象の皮膚から侵入し寄生する。そして寄生された対象は、身体の自由を奪われ、エセアルラウネが操作できる傀儡となるらしい。
俺が敵の正体に気づいた直後、とんでもない数の魔物が近づいて来ているのに気づいた。最初の二百体が全滅しかけたタイミングで追加戦力を投入。間違いなくこの階層全てが、エセアルラウネのテリトリーになっている。
追加戦力については…どうするか……一応殲滅出来る手段はある。モルガンの宝具を展開すれば一発だろうし、敵が集中していれば、ハジメのシュラーゲンでもいけるだろう。周りの被害を考えないのであれば、俺の火属性魔術でどうにかなる。さて…どうしたものか……
「我が夫。少し回り道をしましょう。道は私が案内しますので」
モルガンがそう言ってくるので、何か考えがあるのだろうと了解の意を示し、ハジメ達にエセアルラウネの事などを伝えて、モルガンの指示通りに移動した。
モルガンの考えは分からないが、八幡的には無駄に戦闘の数をこなしても、特にメリットは無いからだと結論付けた。やはり質は大事だからな。
俺達が移動していると、まるでそれを分かっているかのように、周囲の魔物の反応が俺達を追うように方向転換し始めた。俺とハジメはモルガンの指示に従いとにかく走る。
俺達は、追ってくる魔物との接触をうまく躱しながら、次の階層への階段までの距離を着実に短くしていく。しかし、俺達のゴールの近くには一つ大きな魔力反応があるらしい。まず間違いなく、そこにエセアルラウネがいるのだろう。
そうだと仮定した場合、俺達が階段に近づけば近づくほど、エセアルラウネとの距離は近くなる。そうなれば、エセアルラウネは自分の身を守るために、使役している魔物を俺達に差し向けるか、守りを固めるはずだ。
つまり何が言いたいのかと言うと、俺達が階段に近づけば近づくほど、敵との接触は避けられないという事だ。俺の見立てでは、そろそろ気配感知に魔物が引っかかってくるはずだ。
っと…早速引っかかったな…数は………ざっと四百ってとこかな?……これは本当に大丈夫なんだろうか?
「モルガン…これは予想通りなのか?」
「ええ、予想通りです。このまま寄生させている本体の所まで行きましょう。ですので、私を落とさずに頑張って逃げ切りなさい。我が夫であれば出来ますね?」
「……はい」
くそぉ〜、そんな甘い声で「出来ますね?」なんて囁かれたらやるしかないだろ。
「ハジメ、このままエセアルラウネの所まで行くぞ」
「そうだな、この階層全ての魔物と敵対するのは面倒だ。一気にかたをつけに行くか」
「ん」
俺達が駆け出すと、すぐにティラノ達が俺達を発見し追ってきた。後ろを振り向くと、とんでもない量のティラノが追ってきている。しかも、かなり速い。
「「だぁー、ちくしょぉおおー!」」
「……ハジメ、ファイト……」
「さぁ我が夫、もっと頑張るように」
「「お前ら気楽だな!」」
草むらが鬱陶しすぎるが、そこは空力や縮地などの技能を使ってうまく移動しながら、目的地までひたすら駆ける。
「「「「「「「「「「「「シャァアア!!」」」」」」」」」」」」
後ろからはティラノが
ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
と、地響きを立てながら迫っている。俺達を包囲しようとしてくるティラノ達は、モルガンとユエが対応してくれているので、俺とハジメは走ることに集中する。
すると、目的地である縦割れの洞窟が見えてきた。俺達は四百のティラノを引き連たまま、その縦割れに飛び込んだ。
縦割れの洞窟は大の大人が二人並べば窮屈さを感じる狭さだ。ティラノは当然通れないので、全て洞窟の前で防がれる。縦割れを抜け、ハジメが錬成で入口を塞いだ。これで、万が一ティラノ以外の魔物が来ても大丈夫だろう。
「ふぅ~、これで取り敢えず大丈夫だろう」
「……お疲れさま」
「そう思うなら、そろそろ降りてくれねぇ?」
「……むぅ……仕方ない」
「我が夫、お疲れ様でした。褒めてあげます」
「ありがとさん」
俺はモルガンを降ろし、警戒レベルを上げる。やつの持つ力は危険だ。油断すればこっちがやられるかもしれない。一応魔物を喰った事でさまざまな耐性はついているが、油断は出来ない。
俺達が部屋の中央までやってきたとき、それは起きた。
全方位から緑色のピンポン玉のようなものが無数に飛んできたのだ。俺達は一瞬で背中合わせになり、飛来する緑の球を迎撃する。
しかし、その数は優に百を超え、尚、激しく撃ち込まれている。だが、特に問題は無い。俺とモルガンは魔術で胞子を消し飛ばし、ハジメは錬成で壁を作り出し防ぎつつ、ユエが風魔法で迎撃している。
俺は敵の姿を探す。だがやはり感知系の技能に反応は無い。これは、最近開発した新しい感知魔法を試す時がきたようだ。
これは、感知系の魔法に解析を掛け合わせた複合魔法だ。今はまだ近い距離しか出来ないが、いずれはモルガンのように広い範囲で出来るようになる予定だ。
早速俺はこの魔法、〝万能感知〟(まだ万能では無い)を発動する。すると、この辺りの空間全てがサーモグラフィーを通したように見え始めた。そして奥の縦割れの暗がりに一点だけ、人の形をした反応があった。その顔を見てみると、なんとも醜悪な顔をしている。エセアルラウネはどうやら、こちらの様子を伺っているようだ。
俺はさっさと勝負を決めることにした。俺は指先に意識を集中し小さな火球を生み出しす。出来た火球を極限まで圧縮し、米粒くらいの大きさになった瞬間、万能感知の反応を頼りに奥の縦割れに向けて熱線を発射した。
発射された熱戦は、白く輝きながら狙い違わずエセアルラウネの眉間に命中した。命中した瞬間、あまりの温度に一瞬のうちに皮膚が融解し始め、エセアルラウネの頭を貫通した。
俺は念の為、エセアルラウネが生き残っているか再度、万能感知を使用し索敵するが、特に反応はなかった。
こうして、エセアルラウネ戦は一撃で終了してしまった。
俺達はエセアルラウネの肉を回収した後、すぐに下層への階段をみつけたので、早速足を踏み入れる。ハジメとユエが先に入っていき、続いて入ろうとするモルガンを俺は止めた。
「なぁモルガン」
「何でしょう?我が夫」
「あの時なんで回り道をする選択をしたんだ?」
俺は少しだけ気になる事があった。あの時は適当に無駄な戦闘は避けるべきだと結論付けたが、大量の魔物を相手にどこまで戦えるのか経験する事も出来たはずだ。モルガンにはどういう意図があったのか気になったのだ。
「……」
モルガンは少し固まった後、言った。
「我が夫の背中を…もう少し堪能したかったからです」
「え?」
俺は固まった。
え?いやちょっと待ってくれ……え?それが理由なの?もっと他に何かないの?大量の魔物に襲われた時の対処法を見出すことが出来るとか……
「戦闘になれば、我が夫の背中から降りざるをえなくなります。ですから……もう少し遠回りを……」
え?なにこの人…え?待ってカワイイ。やだ何この人ちょーカワイイ。あれ?モルガンってこんな感じだっけ?いやそれはそれでカワイイ。いや、逆にそこがカワイイのか?ま、カワイイから何でもいいか……
「我が夫…カワイイを連呼するのはやめるように。さぁ、早く行きますよ。ハジメやユエに遅れてしまいます」
そう言って、俺から素早く身を翻したモルガンは、階段をゆっくり下りていく。だが、俺は見えてしまった。モルガンは耳まで赤く染まっていることに。
はぁ〜カワイイ。
俺がそう思った瞬間、モルガンがビクッと反応した。
やべっ!?さっきも心を読まれたのに…つい心を読まれてること忘れちまうんだよな……
何度心を読まれても、全く慣れない八幡なのであった。
モルガンの可愛さ表現出来てますかね?
ちょっと不安がありますが、これからも頑張って書きます!