ありふれた魔術師が世界最強になるのは間違っていない   作:ミーラー

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なぁ八幡、作者の端末でガチャ引いてくれん?(切実)


第28話 反逆者の住処

 

 

俺は、体全体が何か温かで柔らかな物に包まれているのを感じた。随分と懐かしい感触だ。

 

(俺は確か……迷宮にいたはず…ここは……)

 

まだ覚醒しきらない意識のまま、俺は今までに起こった事を少しずつ思い出し始める。そして、俺の頬をツンツンと突いてくる感覚に気づき、意識がだんだん覚醒していく。

 

「目覚めましたか?我が夫」

 

透き通った優しい声が聞こえ、俺は目を開ける。久しく見なかった暖かな光が目に入り、少し眩しく感じる。そして俺の視線の先には、光に照らされた銀髪が綺麗に輝き、その銀髪の間からじっとこちらを見つめている青い瞳があった。

 

「ああ、おはよう…でいいのか?」

「ええ、おはようございます。体調に問題はないですか?」

「ああ、問題ない」

 

俺はそう言って、なぜか目の前で添い寝しているモルガンに挨拶をして体を起こす。懐かしかったこの感触はやはりベッドだったようだ。純白のシーツに豪奢な天蓋付きの高級感溢れるベッドである。場所は、吹き抜けのテラスのような場所で一段高い石畳の上にいるようだ。爽やかな風が入り込んできていて、とても心地が良い。

 

俺の感覚ではさっきまで奈落で死闘を繰り広げていたはずなんだが……

 

俺は、おそらく全て知っているであろうモルガンに尋ねる。

 

「モルガン、あれから何があったんだ?あとここどこ?」

「ええ、全て聞かせましょう」

 

モルガン曰く、あの後、ぶっ倒れた俺とハジメに寄り添っていたモルガンとユエだったが、突然、扉が独りでに開いたのだそうだ。新手か?と警戒したものの、探知を使っても特に反応はなかったようで、警戒を怠らず、その扉の中に俺達を連れて入ったようだ。

 

そして、踏み込んだ扉の先には、

 

「ここ、反逆者の住処があった。というわけです」

 

なるほど…どうやら俺達はついに、ゴールに辿り着いたようだ。

 

「ハジメとユエは無事なのか?」

「ええ、二人とも無事ですよ」

 

二人の無事を聞いた俺は、安堵のため息をつく。俺達だけ無事だったとか笑えないからな。

 

「ところで、なぜモルガンは隣で寝ていたんだ?」

「さぁ?なぜでしょうか」

 

そう言ったモルガンは妖艶に微笑んだ。いろいろと聞きたいことがあるが、おそらく教えてはくれないだろうと思った俺は、話題を変えることにした。

 

「ちなみに、俺はどれくらい寝ていたんだ?」

「だいたい一日くらいでしょうか」

 

思った以上に早い回復だ。こういうのは、時間がかかったりするものと記憶していたが、まぁ早いに越したことはない。とりあえず、ハジメ達の様子を見に行くことにしよう。

 

「我が夫、今はやめておいた方がいいでしょう」

「ん?なんでだ?」

「ハジメもユエも、今はぐっすり休んでいます。今はしっかり休ませておいた方がいいでしょう」

 

確かに…俺もぐっすり眠っている人の邪魔はしたくないしな。それに、この住処についていろいろと知りたい事もある。先にそっちを終わらせて、後でハジメ達に説明するのもありだろう。

 

俺とモルガンは、とりあえずハジメ達が起きてくるまで、この住処の探索をする事にした。モルガンも、昨日は俺を付きっきりで見てくれていたそうで、まだ詳しく探索したわけではないそうだ。

俺はモルガンに土下座してお礼を言った。

 

ベッドルームから出た俺は、周囲の光景に圧倒され呆然とした。

 

まず、目に入ったのは太陽だ。もちろんここは地下迷宮であり本物ではない。頭上には円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が浮いていたのである。僅かに温かみを感じる上、蛍光灯のような無機質さを感じないため、思わず〝太陽〟と称したのである。

 

「夜になると月になりますよ」

「マジかよ……」

 

次に、注目するのは耳に心地良い水の音。扉の奥のこの部屋はちょっとした球場くらいの大きさがあるのだが、その部屋の奥の壁は一面が滝になっていた。天井近くの壁から大量の水が流れ落ち、川に合流して奥の洞窟へと流れ込んでいく。滝の傍特有のマイナスイオン溢れる清涼な風が心地いい。よく見れば魚も泳いでいるようだ。もしかすると地上の川から魚も一緒に流れ込んでいるのかもしれない。

 

川から少し離れたところには大きな畑もあった。今は何も植えられていないようだが……その周囲に広がっているのは、もしかしなくても家畜小屋である。動物の気配はしないが、水、魚、肉、野菜と素があれば、ここだけでなんでも自炊できそうだ。緑も豊かで、あちこちに様々な種類の樹が生えている。

 

反逆者の住処と言うだけに、ここの全ては反逆者が作ったのだろう。擬似的な太陽を作るくらいだし、ここに住んでいた反逆者は、とんでもない技術者なのかもしれない。

 

ある程度見て回った俺は、川や畑とは逆方向、ベッドルームに隣接した建築物の方へ歩を勧めた。建築したというより岩壁をそのまま加工して住居にした感じだ。

 

「少し調べましたが、鍵がかけられた部屋が多くありました」

「そうなのか?モルガンなら普通に開けて入れそうなものだが……」

「ええ、もちろん開けられますよ。していないだけです」

 

ですよね……俺を見ててくれてたって言ってたし、俺が目覚めるまでの暇つぶしに、軽く探ってくれたのだろう。そう考えると、俺が足を引っ張ってる感がすごいな……早く強くならねば。

 

石造りの住居は全体的に白く石灰のような手触りだ。全体的に清潔感があり、エントランスには、温かみのある光球が天井から突き出す台座の先端に灯っていた。どうやら三階建てらしく、上まで吹き抜けになっている。

 

取り敢えず一階から見て回る。暖炉や柔らかな絨毯、ソファのあるリビングらしき場所、台所、トイレを発見した。どれも長年放置されていたような気配はない。人の気配は感じないのだが……言ってみれば旅行から帰った時の家の様と言えばわかるだろうか。しばらく人が使っていなかったんだなとわかる、あの空気だ。まるで、人は住んでいないが管理維持だけはしているみたいな……

 

更に奥へ行くと再び外に出た。そこには大きな円状の穴があり、その淵にはライオンぽい動物の彫刻が口を開いた状態で鎮座している。彫刻の隣には魔法陣が刻まれている。試しに魔力を注いでみると、ライオンモドキの口から勢いよく温水が飛び出した。どこの世界でも水を吐くのはライオンというのがお約束らしい。

 

「おぉ〜風呂だ。これはいいな。本当にいつぶりの風呂だか」

 

思わず頬が緩んでしまう。最初の頃は余裕もなく体の汚れなど気にしていなかったが、余裕ができると全身のカユミが気になり、魔術や魔法で水を生み出し、体を拭いてやり過ごしていた。

 

しかし、やはり日本人にとって風呂とは、一日の疲れを吹き飛ばし、安寧の一時を過ごせる重要スポットだ。早く堪能したいと思った俺は悪くない。風呂がないこの奈落が悪い。

 

「一緒に入りますか?我が夫?」

「…はい?…いや…それは…何と言うか……」

「…冗談ですよ」

 

いや、それ冗談じゃ済まされない発言だからね?本当に気をつけてもらいたい……そんな事したら、ゆっくり堪能するなど不可能になっちゃうだろ。

 

モルガンは俺を揶揄うのが楽しいのか、いつも通り微笑んでいるが、少しいつもと違う気がするのは気のせいだろうか?

 

その後、俺達は風呂場を後にし、二階で書斎や工房らしき部屋を発見した。しかし、書棚も工房の中の扉も封印がされているらしく開けることはできなかった。最悪モルガンに開けてもらうしかなさそうだ。

 

俺達は三階の奥の部屋に向かった。三階は一部屋しかないようだ。奥の扉を開けると、そこには直径七、八メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。いっそ一つの芸術といってもいいほど見事な幾何学模様だ。

 

しかし、それよりも注目すべきなのは、その魔法陣の向こう側、豪奢な椅子に座った人影である。人影は骸だった。既に白骨化しており黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っている。薄汚れた印象はなく、お化け屋敷などにあるそういうオブジェと言われれば納得してしまいそうだ。

 

その骸は椅子にもたれかかりながら俯いている。その姿勢のまま朽ちて白骨化したのだろう。魔法陣しかないこの部屋で骸は何を思っていたのか。寝室やリビングではなく、この場所を選んで果てた意図はなんなのか……

 

「怪しいな…」

 

俺は思わず呟き、モルガンも何やら考え込んでいる。おそらく反逆者と言われる者達の一人なのだろうが、苦しんだ様子もなく座ったまま果てたその姿は、まるで誰かを待っているようだ。

 

「地上への道。書斎や工房の秘密。なぜこんな所に住処を作ったのか。そして、神エヒトの事。この部屋で知れる可能性は十分にあるでしょう」

 

「ああ、とりあえず行くか」

 

俺はそう言って、モルガンと共に魔法陣へ向けて踏み出した。魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。

 

あまりのまぶしさに目を閉じる。直後、何かが頭の中に侵入し、まるで走馬灯のように奈落に落ちてからのことが駆け巡った。

 

やがて光が収まり、目を開けた俺の目の前には、黒衣の青年が立っていた。

 

 


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