ありふれた魔術師が世界最強になるのは間違っていない   作:ミーラー

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第29話 神代の歴史

 

 

魔法陣が淡く輝き、部屋を神秘的な光で満たす。

 

俺達の眼前に立つ青年は、よく見れば後ろの骸と同じローブを着ている。やはりこの男は……

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」

 

この迷宮を作った創造者はオスカー・オルクスと言うらしい。そういえば、ここはオルクス大迷宮という名前だったな。反逆者の名前が堂々と迷宮の名前になってるんだけど……今の時代の人達は知らないのだろうか?

 

「ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない」

 

うん…俺の疑問には答えられないらしい。残念。

 

「だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを」

 

そうして始まったオスカーの話は、俺達が聖教教会で教わった歴史や、ユエに聞かされた反逆者の話とは異なり、ユエの叔父であるあの男の語ったものと同じ。いや、正確にはそれを更に詳しくした感じだ。

 

狂った神とその子孫達の戦いの物語。

 

神代の少し後の時代、世界は争いで満たされていたらしい。人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。争う理由は様々で、領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々あるが、その一番は〝神敵〟だから。今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族、国がそれぞれに神を祭っていた。その神からの神託で人々は争い続けていたのだという。

 

まぁ俺達の世界にも、宗教は存在する。だが、人間と魔人、亜人がそれぞれ別の神を信じてたって。みんな神様信じないといけない病気でもかかってたの?俺からしたら、誰かしら必ず神を盲信しているその状態がそもそも違和感しかない。それに神様どんだけいんだよ…ってそれは俺達の世界も一緒か…ギリシャ神話とか、オリュンポスだけで十二神もいるもんな……あれ?俺達の世界のが多いんじゃね?知らんけど。

 

そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れた。それが当時、〝解放者〟と呼ばれた集団だそうだ。

 

彼らには共通する繋があった。それは全員が神代から続く神々の直系の子孫であったということ。そのためか〝解放者〟のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたのだという。〝解放者〟のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てていることに耐えられなくなり、志を同じくするものを集めたらしい。

 

彼等は、〝神域〟と呼ばれる神々がいると言われている場所を突き止め〝解放者〟のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った七人を中心に、彼等は神々に戦いを挑んだ。

 

しかし、その目論見は戦う前に破綻してしまった。なぜなら、神は人々を巧みに操り、〝解放者〟達を世界に破滅をもたらそうとする神敵であると認識させ、人々自身に相手をさせた。その過程にも紆余曲折はあったらしいが、結局、守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした〝反逆者〟のレッテルを貼られ〝解放者〟達は討たれていった。

 

どうやら神はかなり頭が切れるらしい。狡猾で、悪趣味。上等な詐欺師って所か……まぁ性格が最悪であることに変わりはない。ユエの身体を手に入れようとするくらいだしな。

 

そして、最後まで残ったのは中心の七人だけ。世界を敵に回し、彼等はもはや自分達だけでは神を討つことはできないと判断した。そして、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り、潜伏することにしたのだという。試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。

 

長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑んだ。

 

「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」

 

そう話を締めくくり、オスカーの記録映像はスっと消えた。同時に、俺の脳裏に何かが侵入してくる。痛みなどはなく、少し不快感がするくらいだ。どうやら魔法を俺の頭に刷り込んでいるようだ。そして、魔法の刷り込みが完了すると、魔法陣の光が収まった。

 

「これが神代の魔法、生成魔法か…」

「この魔法はいいですね。いろいろ作れそうです」

「確かに、モルガンやハジメとは相性抜群の魔法だな」

 

生成魔法、前にも少し説明した気がするがもう一度説明しておこう。生成魔法とは、魔法を鉱物に付加して、特殊な性質を持った鉱物を生成出来る魔法のことだ。つまり、アーティストファクトを作る為の魔法と言ってもいい。物作りを得意とする人には喉から手が出るほど欲しい技能だろう。

 

俺は、まぁモルガンやハジメに教えてもらいながらだったらやるかもな…ハジメのドンナー作りとか見てて、錬成師カッケーとか思ってたし。でもそう考えると、神代魔法にも相性とか適性とかあるのかもしれない。モルガンやハジメからすれば、この魔法は最高だろう。ただ、俺やユエからすれば、一応使えるけど……って感じなんじゃなかろうか……まぁ人それぞれ得意、不得意はあるし、そういうものだと割り切るしかないだろう。

 

「よし、とりあえずここの部屋での要件はこれで終了って感じか?」

「そうですね…あとオスカー・オルクスの骸が指に嵌めている指輪を回収しておきましょう」

 

モルガン曰く、どうやらオスカーの嵌めている指輪が書斎や工房の鍵らしい。俺はなるほどと納得して、早速向かうことにした。

 

まずは書斎だ。

 

俺とモルガンは書棚にかけられた封印を解き、めぼしいものを調べていく。すると、この住居の施設設計図らしきものを発見した。通常の青写真ほどしっかりしたものではないが、どこに何を作るのか、どのような構造にするのかということがメモのように綴られていた。

 

「ん?これは?」

 

俺は一つの設計図に目が止まった。詳しく見てみるとそこには、地上への脱出方法の設計図が描かれていた。それによれば、どうやら先ほどの三階にある魔法陣がそのまま地上に施した魔法陣と繋がっているらしい。オルクスの指輪を持っていないと起動しないようだ。

 

何とも便利な仕掛けだ。こんなものを独り占めしていたなど、うらやまけしからんな!皆一度は妄想したことがあるだろう。もし、ど〇でもドアがあったら…と!もちろん俺も欲しいと思っていた。何なら小学生の時にサンタさんに願ったまである。うん…貰えなかったけどね?

 

そんなまともな事を考えつつ、更に設計図を調べていると、どうやら一定期間ごとに清掃をする自律型ゴーレムが工房の小部屋の一つにあったり、天上の球体が太陽光と同じ性質を持ち作物の育成が可能などということもわかった。人の気配がないのに清潔感があったのは清掃ゴーレムのおかげだったようだ。

 

工房には、生前オスカーが作成したアーティファクトや素材類が保管されているらしい。これは盗ん……譲ってもらうべきだろう。道具は使ってなんぼである。

 

「我が夫、これを」

「うん?」

 

俺が設計図をチェックしていると他の資料を探っていたモルガンが一冊の本を持ってきた。どうやらオスカーの手記のようだ。かつての仲間、特に中心の七人との何気ない日常について書いたもののようである。

 

その内の一節に、他の六人の迷宮に関することが書かれていた。

 

「……つまり、他の迷宮も攻略すると、創設者の神代魔法が手に入るということか?」

「どうやらそのようですね」

 

手記によれば、オスカーと同様に六人の〝解放者〟達も迷宮の最深部で攻略者に神代魔法を教授する用意をしているようだ。生憎とどんな魔法かまでは書かれていないが……

 

「神代魔法の中に、我が夫の世界に帰る魔法があるかもしれません」

 

確かに、その可能性は十分にある。おそらく、エヒトが使った召喚魔法という世界を越える転移魔法は、神代魔法なのだろう。俺も召喚魔法は使えるが、世界を越えるような使い方はできない。要するに、俺の召喚魔法はエヒトの下位互換でしかないということだ。

 

そしてそうなると、新たな疑問も出てくる。エヒトもサーヴァント召喚が出来るのではないか?という事だ。もしそうなら、正直マズイ。最終的にはサーヴァントの総力戦になるだろう。それに、奴は常に俺の上位互換とすると、グランドのクラスを呼び出せる可能性もある。そうなれば無理ゲーもいいとこだ。

 

「まぁ今後の方針はハジメ達が起きてからになるだろうが、地上に出たら七大迷宮攻略を目指すことになるだろうな」

「ええ、そうでしょうね」

 

それからしばらく探したが、正確な迷宮の場所を示すような資料は発見できなかった。現在、確認されている【グリューエン大砂漠の大火山】【ハルツィナ樹海】、目星をつけられている【ライセン大峡谷】【シュネー雪原の氷雪洞窟】辺りから調べていくことになりそうだ。

 

しばらくして書斎あさりに満足した俺達は、工房へと移動した。

 

工房には小部屋が幾つもあり、その全てをオルクスの指輪で開くことができた。中には、様々な鉱石や見たこともない作業道具、理論書などが所狭しと保管されており、錬成師にとっては楽園かと見紛うほどだろう。ハジメが見たらどんな反応をするのか気になるところだ。

 

俺は工房を見渡しながら考える。

 

ハジメ達が回復して、すぐに地上に出るのが最善なのだろうか?いや、すぐに出ても出来ることは少ない。もし脱出したところにエヒトの手の者が待ち伏せていたら?モルガンがいるとはいえ、俺達は間違いなく足でまといになるだろう。対エヒト戦を想定して行動するなら、こちら側の陣営の強化は必須事項だ。それにここには学べる事も多い。拠点としては最高だ。ならばおのずと答えは出て来る。

 

俺は方針を新たにし、モルガンにその事を伝えようと口を開こうとしたが…

 

「我が夫の考えている事は分かります。私もそれに賛成です。詳しい事はユエ達が起きてからにしましょう」

 

そうだった…モルガンは俺の思考が読めるんだったな…まぁ話は早いからいい……のか?

 

なんだかんだ普通にしているが、改めて考えると、思考を読まれるとか怖すぎじゃね?とか今更すぎる疑問を抱く八幡であった。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

おまけ

 

 

その日の晩、天井の太陽が月に変わり淡い光を放つようになって少し経った頃。俺は風呂をじっくり堪能し、さっぱりした状態で、この住処に来た時に寝ていたベッドに倒れ込み大の字になりながら寛いでいた。

 

迷宮攻略もモルガンがいた事でかなり楽だったが、それでもずっと警戒しながら行動していたので、疲れは溜まっている。そして久しぶりの、のんびりとした感覚を味わっていた。

 

迷宮を攻略した者へのご褒美、束の間の休息というやつだ。俺はこのまま、ベッドの心地良さに包まれながら、眠りにつこうと考えていた。

 

しかし、

 

「我が夫、入っても良いですか?」

 

ん?モルガン?こんな時間にどうしたんだ?ん?…そういえば寝る場所とか決まってなかったな…ベッドってここしか無いんだろか?もう一つはハジメ達が使っているだろうし…まぁ最悪俺が床で寝れば良いだけだ。

 

「ああ、入っていいぞ」

「失礼しますよ我が夫」

「どうぞどう……ぞ?」

 

入ってきたモルガンの姿を見た瞬間、俺の思考は停止した。

 

「どうしたのです?我が夫」

「モ、モルガンさん!?その格好は…いったい…」

 

モルガンは所々に綺麗な宝石をあしらった純白のネグリジェに身を包んだだけの状態。しかも、肌の露出の激しいもので、生地が薄く、かなり際どい。

 

「夜。寝室に夫婦が揃っていてする事など一つでしょう」

「まて!そんな事して、ハジメ達が起きたら…」

「隠蔽の魔術を使っているのでバレませんよ」

 

逃げようとした俺をモルガンはベッドに押し倒す。しかも、周りへの対策も万全という用意周到ぶりを発揮してくる。モルガンとの距離がだんだんと縮まり、お風呂上がりのなのか、モルガンの女性特有の香りが鼻腔をくすぐる。これはヤバすぎる!

 

「さぁ我が夫、始めましょうか」

「ちょ、まて、あっ、アッーーーーー!」

 

その夜、隠れ家に一人の男の叫び声が響くのだった。

 

 

 

 





今回は八幡の心情を所々に加えてみました。
八幡ってこんな感じですよね?知らんけど。

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