ありふれた魔術師が世界最強になるのは間違っていない   作:ミーラー

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第30話 考察と召喚

 

 

俺達が隠れ家に来てから三日が経った。つまり俺達が隠れ家に来て今日で四日目ということだ。昨日の時点でハジメとユエも復活し、今後の方針も話し合った。結果はひとまずここに留まり、その後、七大迷宮を攻略して行くことに決まった。

 

そして現在、ハジメとユエは早速オスカーの工房に籠り始め、俺とモルガンは書斎で本を読んでいる。速読のおかげで、一冊読むのに数分とかからないこともあり、かなり情報収集は捗っている。

 

「ただ、一番欲しい情報がないんだよなぁ〜」

 

少しでもエヒトの情報は欲しいところなんだが……ほとんど残されてないな…まぁ戦う前に撤退を余儀なくされたみたいだし、無くて当然か。

 

俺は三分程で読み終わった辞書のような本を本棚に戻す。そして、椅子に座って本を読んでいるモルガンに、俺が今一番気になっている事を聞いた。

 

「なぁモルガン」

「何ですか?我が夫」

「エヒトはサーヴァント召喚の秘術を知っていると思うか?」

 

俺の疑問に、モルガンは少し考える素振りを見せる。しかしそれも一瞬で、すぐに答えた。

 

「おそらく、まだ知らないでしょう」

「まだ…か」

「ええ、遅かれ早かれ気づかれるのは確実です」

 

そうか…でも、何で今は知らないと思ったんだろうか?もしかすれば、もうバレている可能性もあるだろう。

 

「私が召喚される際に、召喚された痕跡などを隠蔽しておきましたので」

 

うん……いつの間にそんな事していたのだろうか?まぁモルガンだし仕方ないか……うん仕方ない。でもなるほどな…隠蔽はしているが、所詮は隠しているだけ、痕跡を完璧に消したわけじゃない。つまりバレる可能性は十分にあるというわけか。

 

「それと、これは私の推測ですが、神エヒトはサーヴァントを召喚出来ないかもしれません」

「え…そうなの?」

「我が夫も知っての通り、サーヴァントの召喚には魔法陣と詠唱、そして膨大な魔力が必要です」

 

これは俺も知っている情報だ。実際身をもって経験したしな……

 

「エヒトが神とするなら、魔力の問題はおそらく無いでしょう。しかし、魔法陣と詠唱が分からなければサーヴァントの召喚は出来ません」

 

確かにそうだ。聖杯戦争の場合は、七騎のサーヴァントを召喚する事が第一の目的だから、七人のマスターが上手く揃わない場合、適当な人物がマスターに選ばれるし、魔法陣や詠唱が無くても聖杯が勝手にサーヴァントを召喚してくれる。

 

ただ、現在の状況は全く異なる。聖杯戦争をしているわけじゃないし、まず聖杯とかいう便利道具はこの世界に存在していない。つまりサーヴァント召喚にはさっきモルガンが言っていた三つの要素が必須というわけだ。

 

「更に付け加えるなら、我が夫が召喚するサーヴァントは我が夫の世界に名を残した者達であって、この世界の者達ではありません。つまり、この世界との縁など極僅かでしょう」

 

ですが、とモルガンは続ける。

 

「もちろん例外もあります」

「例外?」

「ええ、この世界には魔法という未知の力が存在しています。神エヒトの扱う魔法がどれほどのものかは分かりませんが、神代の魔法使いである以上、私の言った四つの条件を度外視した形で召喚できる可能性もあります」

 

なるほどな…さっき極僅かという言い回しをしたのは、俺達がこの世界に召喚されたことが原因だろう。俺達が召喚されたことによって、この世界と俺達の世界は縁で繋がった。それをエヒトが辿る可能性もあるってわけか……

 

それに、モルガンが隠蔽している痕跡を見つけられるかもしれない……ん?つまりサーヴァント召喚とかポンポンしたらエヒトにバレる可能性が上がるってことなんじゃね?

 

「ええ、その通りです」

「ですよね……」

 

召喚したサーヴァントが全員、召喚された痕跡を隠蔽できるかと聞かれれば答えはNOだ。モルガンが隠蔽するにしても全てを隠し切ることは難しいだろう。とはいえ、サーヴァント召喚をすれば、こちらの戦力は間違いなく上がる。正直難しいところだ……というか、これまで俺よく召喚せずに我慢できたな……これもあの王様のおかげかもしれない。感謝せねば……

 

「我が夫、サーヴァント召喚をするならどこがいいか分かっていますね?」

「ああ、ユエが封印されていた部屋だろ?」

「ええ、その通りです。その方が私も助かります」

 

あの封印部屋は、神をも欺く強力な隠蔽空間だ。そこでの召喚ならエヒトにバレる可能性を限りなく減らせるだろう。実際、ユエは三百年エヒトにバレることなく、あの部屋に封印されていた。元々隠蔽の効果のある場所の方がモルガンの隠蔽作業も楽だろうしな。

 

「よし、とりあえず俺はハジメ達の様子を見に行くが、モルガンはどうする?」

「私はもう少し調べたい事があるので後でいきます」

「了解」

 

俺はそう言って書斎の後にし、ハジメ達のいる工房へと向う。とは言っても、工房は書斎の隣の部屋なのですぐそこだ。

 

俺は一応ノックをした。ん?何でノックしたかって?そりゃ昨日の夜にハジメの叫び声が聞こえたからだ。その時俺は悟った。ハジメも大人の階段を登ったと言うことを。もしかしたら、今もイチャコラしているかもしれないからな。まぁその時はテンプレのお邪魔しましたを発動するだけだ。

 

「ハジメ、いるか?」

 

俺はそう言いながら工房の扉を開いた。すると……

 

「ハジメ…これいる?」

「ああ、そこ置いといてくれ」

「ん!」

「あとユエ、そこにある鉱石も頼む」

「任せて!」

 

普通に作業してました。うん…ちょっと期待したんだけどね?まぁ普通はこんなもんだな…というかハジメのやつ、集中力が凄いな。とんでもないスピードで鉱石が形を変えていってる。ユエもハジメの手伝いで忙しなく動いている。

 

「ハジメ…早速作り始めてるのか?」

 

パッと見た感じ、ハジメはあのヒュドラに木っ端微塵に破壊されたシュラーゲンを新しく作り直しているようだ。

 

「ん?八幡来てたのか。ああ、生成魔法を手に入れたし、この工房にも色々ヒントになるものがあったからな。イメージがすぐに湧き上がってきたから、早速試してみたくてな」

 

やっぱりハジメが元々ステータスが低かったのは、錬成という天職に極振りしていたからかもな……まず普通の人ならあの状況でドンナー作るとか無理だし、正直これからハジメがどんな風になるのか少し楽しみだ。それに、今のハジメにはユエがいるしな。昔のように闇に呑まれる心配も、もうないだろう。

 

「そうだ、ユエにも用事があったんだ」

「ん…私に?」

「ああ、ユエの髪の毛か爪を貰えないか?」

 

俺がそう言った瞬間、ハジメとユエは変なものを見る目で俺を見てきた。

 

「八幡…お前……」

「…ん……エイト変態?」

 

うん…これは俺の言い方が悪かったな。

 

「いや、ちゃんと理由があるからね?そんな目で見ないで。…んんッ!では気を取り直して、実は試したい事があってな」

「それにユエの協力が必要なのか?」

「ああ、少し訳アリなんだが…」

「ユエがいいならオレは構わないが…」

「私も別に構わない…一瞬正気を疑ったけど……」

 

ふぅ〜。今まで信頼を積み重ねてきて良かった。これがもし、ユエと会ったすぐの事だと考えると、自分でも鳥肌が立ちそうな程気持ち悪い発言だったな…

 

もし、今のをあの吸血鬼に聞かれていたら、何と言われるだろうか………少なくとも、とんでもない毒舌マシンガンをかまされた後、物理的に呪い殺されるまでありそうだ。やはり発言には常に気を配っておかないとな。

 

「今から奈落の五十階層に行くんだけど、お前達も来るか?」

「ん…あの部屋に用事?」

「ああ、ユエの言う通りあの部屋に用事だ」

「何しにそんなとこ行くんだよ」

「まぁ、仲間を増やしにってところだな」

 

俺がそう言うと、ハジメは少し悩んだ後にユエに視線を向けた。ユエもハジメの視線を感じたのかハジメの方を向くと軽く頷いた。すると「休憩がてらに見に行くか」と言って、ハジメ達もついてくることになった。

 

俺から言いたいことはただ一つ、いつの間に以心伝心が使えるようになったんだ?念話でも使ってるの?一応、俺とモルガンも似たようなことをしているが、あれはモルガンが心を読んでいるだけで、俺が読んでいるわけではない。まぁ俺も本気を出せばモルガンの考えも分かる……はずだ。

 

俺は目の前で繰り広げれたハジメとユエの進展ぶりに戦慄しながらも、気にしないようにして、書斎にいるモルガンを迎えに行った。

 

迎えに行ったモルガンは読書にのめり込んでいた。読書の邪魔をするのは悪いと思いつつも俺はモルガンに声をかけた。

 

「モルガン、今から早速五十階層に行こうと思うんだけど、モルガンも「さぁ早く行きましょう。我が夫」そ…そうか」

 

今の反応を見るに、随分と待たせてしまっていたようだ。まぁ奈落を攻略するまでお預けにしていたから無理もないか……モルガンには本当に申し訳ないと思ったが、そこまで我慢するくらいなら言ってくれても良かったんだけど……ん?それなら俺がモルガンの心を読めって?はい…その通りです…すみませんでした。

 

モルガンが高速で作った水鏡を使って、俺達は一瞬で五十階層に転移した。それに驚いたハジメが、これがあれば地上に出られたんじゃないかと聞いてきたので、俺は少し冷や汗をかきながら、うん、そだね。と答えておいた。多分気づかれてない。きっと大丈夫だ。

 

「ん!見えてきたな」

 

俺は目的の場所が見えてきたのをいい事に話を切り替える。今俺達は、ユエが封印されていた部屋の扉の前にいる。今回はもちろん、あの二人のガーディアンは居ないのですんなり入る。

 

俺は数週間前に一度来たこの場所が、かなり懐かしくなっている事を感じつつ、周囲を少し見渡した後、早速作業に取り掛かる。

 

魔法陣を描き、そこにユエから貰った髪の毛を置き、モルガンも自分から髪の毛を抜くとそこに置いた。俺は魔力が十分である事を確認すると、一度モルガンに視線を送る。すると、モルガンも少し微笑みながら視線を送り返してくる。その視線にはやはり嬉しさが見え隠れしていた。

 

それを見た瞬間、エヒトの事など頭から吹き飛んだ。モルガンとはさっき、サーヴァント召喚は慎重にみたいな話をしていたが、もうそんなものは関係ない。

 

俺の中にあるのは、二人が幸せそうに笑う。そんな光景だけだ。

 

「よし…始めるか」

 

俺はそう言って詠唱を始める。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公」

 

詠唱を始めると、モルガンを召喚した時のように魔力を吸い取られるが、一度経験してしまえばどうということは無い。

 

「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。」

 

魔力が魔法陣に流れ、輝き始める。

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。

繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却するーーーー告げる」

 

もう一度二人で、いや………

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」

 

俺達と始めよう。

 

「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ誓いを此処に」

 

もう二度と…失敗しないように。

 

「我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

この奇跡を…無駄にしないために。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

最後の詠唱を終えると召喚陣が眩く輝き、部屋の色を塗りつぶす。

 

あまりの光量に俺達は目を覆う。

 

暫くして、輝きが収まり始めると、召喚陣の中央に、一人の女の子が佇んでいるのが見えた。

 

 

深紅の長髪に切れ長の瞳、尖った耳と黒い髪留め。

 

深紅のドレスに身を包み、同じく深紅のヒールを履いている。

 

妖精国に置いて妖精騎士トリスタンの称号を与えられた、モルガンの義娘にして、女王の後継者。

 

 

「赤いカカトのバーヴァン・シー。召喚に応じ参上したわ。お母様。あと…ク・サ・リ・メ♡」

 

 

 

 





ちょっとリアルが忙しくなりそうなので、更新遅くなると思いますが、なるべく早く更新できるように頑張ります。

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