ありふれた魔術師が世界最強になるのは間違っていない 作:ミーラー
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!
いつも通り暇つぶし程度にどうぞ!
俺はヘラクレスのことを考えていた結果、ハンバーグを焦がしてしまうという悔しい思いをした。はずだったのだが、他の料理を盛り付けしていたらいつのまにやらどうでもよくなっていた。ハンバーグの恨みは軽かったのだ。
モルガン達も手伝ってくれたことで、料理の盛り付け、配膳がすぐに完了した。
長方形の机に対して、左奥からハジメ、ユエの順で席に着く。俺はハジメの対面の席に着き、モルガン、バーヴァンシーの順で座っていく。
全員が食事する体勢が整ったところで、合掌し、同じ言葉を発する。
「「「「「いただきます」」」」」
俺は目の前の黒い物体を箸で掴む。事情を知らない人からすれば、これがハンバーグとは思わないだろう。
神水が近くにあることを確認した後、俺は意を決してハンバーグを口に運ぶ。噛むとザクッ!と気持ちのいい音が鳴るが、口の中に広がるのは焦げの苦味だけ。しかも、遅れて溢れてくるのは極上の肉汁ではなく、素材独特の不味さ。
目の前のハジメも凄い顔をしている。とんでもない不味さだ。
「「ぐぅ!? がぁああっ!!」」
ハンバーグが喉を通った直後、体に強烈な痛みが走る。魔物の肉を食べた後、体が急速に変化する時に起こる痛みだ。痛みが起こるということは強くなっている証拠。俺は用意してあった神水を少しずつ飲み耐える。
それから五分ほどして、ようやく痛みが引いた。
「ふぅー。相変わらずキツいな…」
「ああ、初めて魔物を食べた時レベルだったな…」
ハジメの言葉に俺は同意する。正直ここまでとは思っていなかった。それだけヒュドラは他の魔物とは別格ってことだろう。
「大丈夫ですか?」
「おい大丈夫かよ」
モルガンが寄り添うように俺の肩に手を置き、顔を覗き込んで聞いてくる。バーヴァンシーはコップに神水を追加してくれる。本当に何があったんだこの娘は…ありがとう。
「ああ、もう大丈夫だ」
やっぱり皆で集まる食事中にヒュドラの肉は食べない方がいいかもな…気持ちのいい食事のはずが、重い空気になってしまった。今後は三時のオヤツにしよう。
俺はハンバーグにかぶりつき、一気に口に放り込む。辛いことはサッサと終わらせてしまうに限る。口の中に残る苦味をすべて神水で流し、また襲ってくる痛みに耐える。
それを何度か繰り返すと襲ってくる痛みは次第に薄れていき、何とか普通に食べるようになった。
「そういやハジメ。そっちの進捗はどうなんだ?」
「ああ、シュラーゲンならもうほとんど完成してる。もうちょい改良したら終了ってとこだな」
俺の質問になんでもないかのように答えるハジメ。流石だ。一度作ったことがあるとはいえ、ヒュドラに木っ端微塵にされて一週間もせずに完成間近とはな…
「八幡も、何か叫んでたよな?ヘラクレスだっけ?──カブトムシでもいたのか?」
あ〜ヘラクレスオオカブトかー。懐かしいな。俺も子供の頃は図鑑広げて調べてたな。男子が経験することランキングなんてものがあれば、間違いなくTOP10には入っていることだろう。
だが俺が言っているのはそっちではない。
「ギリシャ神話の大英雄ですね?」
「そうだ。そっちのヘラクレスだ」
モルガンと俺の言葉にハジメは「あ〜確かにゲームとかでよく出てくるよなー」と納得していた。
「八幡はヘラクレスを召喚しようと思っているのですね?」
「ああ。召喚できれば、とんでもない戦力になるのは間違いない。大迷宮攻略にも貢献してくれるだろう」
「なるほど、ヒュドラの外皮を触媒にすれば召喚できるかもしれませんね」
俺は頷いた後、ハジメとユエに視線を向ける。
「話のついでに言うが、召喚してもいいか?」
「オレは別に構わないぞ?戦力になってくれるならな」
「ハジメがそう言うなら、私も構わない」
「後、今後も召喚したいヤツがいるなら、いちいちオレの許可をとる必要はないぞ?八幡達の好きにしてくれ」
「いいのか?」
「だってそれ八幡の能力だろ?自分の能力に制限をかける必要なんてないと思うし…まぁ旅することを考えると、多すぎるといろいろ問題が発生するだろうが、その辺は信頼してるし。実際、今オレ達に許可を取りに来てるワケだしな」
ハジメの言葉に、ユエもコクコクと頷いている。何この人達?めっちゃいいヤツやん。普通に惚れるレベル。
「ごちそうさん」
そう言って立ち上がったハジメは、食器を持ってキッチンに向かって行った。おそらく、またすぐに工房に籠るのだろう。いったい一日に何時間作業していることやら…
「八幡、このスープとても美味ですよ」
「そうか?それはよかった。おかわりもあったはずだから、好きなだけ食べてくれ」
「ではお言葉に甘えて」
「待ってお母様、私もおかわり行く!」
「私も…」
おっと?野菜スープが凄いことになっている。モルガンを皮切りに、バーヴァンシーとユエもおかわりに旅立って行った。余ったら晩御飯にしようとか思ってたけど、余らないかもな…まぁそうなったらまた作ればいいんだけど──
エミヤも召喚したいサーヴァントリストに入れておくとしよう。
やはり頼れるオカンは必要である。
◇◆◇◆◇◆◇◆
空の明るさがなくなり、人工太陽が完全に月に変化した頃。俺は隠れ家の庭園。床が芝生となっている場所で胡座をかきながら、もはや日課となってしまった魔力操作の鍛錬に勤しんでいた。
「……」
俺の周りには紫色の魔力が漂っている。魔力そのものを視認できるということはそれだけ魔力濃度が高いということだ。自分でもかなり形になってきたと思うが、今の俺でもモルガンやバーヴァンシーより弱い。
俺がサーヴァントより強くなる日は来るのだろうか……まぁボチボチ追いつけばいいか。今は集中しろ。
深呼吸。息を吐く動作と共に余計な思考、雑念も押し流す。頭がクリアになったところで、漂っていた魔力を右手の人差し指一点に集めてみる。
俺の命令に従い、周囲の魔力が指先に集まり一つの球体になった。そこからさっきと同じ要領で、中指、薬指、小指、親指。右手の指先全てに綺麗な球体を魔力で編んでいく。だが十秒ほど形を維持したところで、すべての球体が少しづつ乱れ始め形を崩していく。
これが今の俺の限界。並列思考というものを使えば完璧にできるだろうが、自力ではまだまだこんなものだ。目標はさっきと同じことを左手にも行うこと。つまり合計十個の球体を作ること。まぁコツコツやってけば何とかなるだろ。きっと。たぶん。
さて、次は魔術の鍛錬に入るとしよう。
俺は火の魔術で右手に火球を、左手に水球を発生させる。最初は別属性の魔術を並行して使うことなど出来なかったわけだが、今では特に意識しなくても出来るくらいには成長した。
俺はそこから数をどんどん増やしていく。火球と水球の両方が五十になるように調整したところでそれを維持する。
ん?さっきの魔力操作よりこっちの方が難しそうだって?まぁ見た目だけはな…実際はこっちの方が簡単だ。この数の火球と水球を生み出すのに必要な魔力は、さっきの人差し指に集めた魔力だけで生み出せるからって理由だ。
やったことはないが、さっき右手すべての指先に作った球体の魔力で、火球や水球を生み出せば単純計算で五百は生み出せるということだ。
今度一度やってみるとしよう。まぁそう単純な話ではないだろうし、制御できずに暴発する未来しか見えないが……。
「ん?」
そこで俺の気配感知に誰かが近づいてくる反応があった。疑問に思って振り返ったそこには、
「!やっぱ気づくのかよ…せっかく驚かしてやろうと思ってたのに」
バーヴァンシーがいた。
「何してんの?」
「お風呂から出てきたらアンタがいたから、様子を見に来たのよ」
確かによく見ると髪がいつもより艶やかな気が……。それに今着ている服はいつもの赤いドレスではなく、赤いネグリジェ姿。あの伝説の第二再臨よりはマシだが十分すぎるほどの露出がある。まさに目のやり場に困る状況だ。
「何ジロジロ見てんの?」
「あ、いや…悪い」
くそ、俺としたことが無意識のうちにバーヴァンシーに目線が吸い寄せられてしまった。俺の命運もここまでか──。
「ま、別にいいけど」
あ、いいんだ。
バーヴァンシーはそう言って近づいてくると俺の隣に座ってきた。いやちょっと、何隣に座ってるんです?しかもそんな格好で近づかないでくれます?いい匂いするから。そういう何気ない行動が女性経験の少ない男子達に「あれ?これ俺のこと好きなんじゃね?」という思いを抱かせ、その思いを勇気に変えた勇者達が「勘違いさせちゃってごめん」の一言にどれだけ散っていったことか。
というか、やはり今朝からバーヴァンシーの様子がおかしい気がするのは俺の気のせいか?何か優しくなってない?いや、俺としては嬉しくていいことなんだが……。
「バーヴァンシーは俺を嫌っているんじゃないのか?」
あっ、なに馬鹿正直に聞いてんだ俺は!
「はぁ?嫌ってるなら声掛けたりしないだろ普通。それに嫌う理由なんてないし」
「いや、昨日結構酷いこと言ったと思うんだが」
「あーそういうことね。そのことなら別に気にしてないわよ。むしろ感謝してるわ。アンタのおかげでお母様ともいっぱい話せるようになったしね」
「!そうか、分かった。なら俺も気にしないことにする」
そう言うと、バーヴァンシーは少し笑って「それでいいのよ」とバーヴァンシーらしく少し上から言ってきた。
話していて思ったけど、やっぱりコイツ全部本音で話してるよな……変に取り繕ってる感じしないし、キャストリアがバーヴァンシーを正直者だと言ったのが俺でも分かる。
「オマエ、結構変わったよな?」
「まぁな。というか何で知ってるんだ?」
「私が召喚された時、オマエの情報はだいたい与えられてるから」
「なるほど、だから俺が本当のマスターじゃないってことも分かったんだな?」
「そういうこと」
俺に召喚されたサーヴァントは俺の情報をある程度理解した状態で召喚されるということか。「お前は本当のマスターじゃない!」とか言って俺殺されたりしないよな?清姫とか呼んだ日にはマジ燃やされるんじゃね?
「俺の情報を与えられてるなら、変わった理由も知ってるんじゃねーの?何で聞いてきた?」
「もちろん知ってるけど……。アンタ特殊な変わり方したでしょ?だから、大丈夫なのかなって」
え、何?この娘もしかして俺のこと心配してくれてる?しかも、またそういう勘違いを発生させるようなことするのやめてくれます?落ち着け、ここは動揺してる感じを出さずに対応しよう。
「何だ、心配してくれるのか?」
「っ!……そうよ!悪い!」
「いや、ありがとう」
「別に……礼なんていいわよ」
バーヴァンシーがそっぽ向いてしまった。しかも耳が赤い。コイツ世の男子を勘違いさせるために生まれてきたんじゃね?
俺は目を合わせてくれないバーヴァンシーから視線を外し、夜も深まってきた空を見る。光る月を中心に、そのまわりを星が輝く。
俺が綺麗だなぁ〜なんて思いながら眺めていると、
「ここにいましたか」
俺の背後から声がした。
俺は声のした方に振り向くと、バーヴァンシーと色違いの黒のネグリジェに身を包んだモルガンがいた。
「モルガン、風呂上がりか?」
「ええ、先ほど上がりました」
そう言ってモルガンは近づいてくると、俺の隣に座ってくる。つまり俺は、現在モルガンとバーヴァンシーに挟まれている形だ。なんか朝もあった気がするな……。
「バーヴァンシーはここにいたのですね?少し予想外です」
「ごめんなさい、お母様」
「謝ることはありません。八幡と過ごすのは心地よいですからね。ただ、私が来るまで独占していたのですから、今度は私の番ですよ」
そう言ったモルガンは俺の肩に頭を乗せてもたれかかってくる。それと同時に俺の理性が音を立てて削られていくのが分かる。
「私は襲ってくれても構いませんよ?」
こんな追撃もしてくる始末だ。耐えろ!俺の理性!
俺はバーヴァンシーに助けを求めるべく視線を向けるが、バーヴァンシーは顔を真っ赤にして「お母様、大胆」と呟いている。こりゃダメだ。
「バーヴァンシーともこれくらいはしたのでしょう?」
「いや、何もしてないぞ。本当になにも」
「む、そうだったのですか?てっきり進展しているものと思っていましたが……」
モルガンは少し考え込む様子を見せると、またもや爆弾を投下していく。
「でしたら、バーヴァンシーも八幡に頭を預けてみてはどうですか?気持ちいいですよ」
モルガンさん…自分の娘に何言ってるんです?だがこれは俺の勝ちだ。バーヴァンシーが俺にそんなことするわけないだろうしな。
俺は期待の眼差しでバーヴァンシーの方に振り向く。だが、いつの間に移動したのかもう俺の肩に頭を置いていた。
な・ん・で?
「やはりバーヴァンシーもしたかったのですね。さぁ我が夫。大人しく私達の枕になりなさい」
だれか……たすけて。
と願っては見たものの、助けてくれる者など現れるはずもなく俺は二人の枕にされてしまった。この時点で俺の理性が限界だったのは言うまでもない。
だがこれで終わるモルガンではなく、二人が満足して目を覚ましたと思った矢先に「今日は三人で寝ましょう」と言い出した。バーヴァンシーもなぜかノリノリだった。
俺は抵抗など出来ず、しっかりと寝室に連れていかれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
八幡がモルガンとバーヴァンシーに寝室へ連れて行かれた頃。
月明かりがほとんど差し込まないほどの深い森。
その中で、蠢く何かがあった。
“何か”それを言葉で表すとするなら、
”闇”
これが的確だろう。
その闇がまるで生き物のように脈動している。闇は大きくなったり小さくなったりと自由自在に変形し、己が活動するのに最適な形を模索する。そして徐々に脈動も無くなり、それは完全な形となった。
その姿はまさしく人型。
人型には次第に髪の毛が生え、肌の色も黒から肌色へと変わっていく。
その人は地面に寝そべっていて、まるで冬眠しているかのようだ。
それが今
積年の負の感情と共に
─────────目を覚ました
さて、何やら変なヤツが登場してきましたね。
はたして何者なのk…え?もう分かった?
──まぁそんなことは置いといて、次回は要望の多かったあのサーヴァントを出したいと思います。本編にもチラッと名前出てましたけど、キャスターのあの方です。全く上手く書ける自信がないですが、まぁ勉強して頑張ります。
みなさん、いつもありがとうございます。